ヤクザのせいで結婚できない!

山吹

文字の大きさ
上 下
78 / 111

74. デジャヴとかテストとか

しおりを挟む
「そ、それ、考えないようにしてたのに……!」
「自分から組長だの獅子神蓮司だのに電話かけてるとこ見ると、監禁されてるとか無理やり言わされてるって感じでもねえしな。帰ってこないのは朱虎さんの意思なんじゃねーの」
「うぐぐっ」
「志麻センパイ庇って怪我して、目が覚めたら見知らぬところにいたわけだろ。弱ってるとこに美少女に迫られて、朱虎サンもちょっと自分の人生見つめ直しちまったのかも」
「ぎゃっ、やめて!?」
「やめろ、馬鹿者」

 あたしが耳を押さえていると、環が風間くんの頭をはたいた。

「いって!」
「志麻、君も簡単に動揺するな」

 環は肩をすくめると、あたしの目を覗き込んできた。
「朱虎さんはそう容易く女性の色香に迷うようなタイプではなかろう。……よしんば彼がその美少女に心動かされたとしても、育ての親に等しい雲竜組長に不義理を働くことはあるまい。違うか?」
「た……確かに」

 おじいちゃんが不義理を一番嫌うことを、朱虎はよく分かってる。そして朱虎はおじいちゃんのことをすごく大事に思ってるから、きっちり筋は通そうとするはずだ。

「朱虎があんな電話かけて来るなんて、やっぱりすごくおかしい……一体どうしちゃったんだろう」
「何か、よほどの事情があるのだろう。朱虎さん本人に直接聞くのが一番ではないのか」
「そうだけど、全然連絡取れないしどこにいるのかさえ分かんないし」
「ふむ」

 環がちらりと視線を流した。
 その視線を受けた風間くんが肩をすくめる。

「へいへい、朱虎サンの居場所が分かりゃいいんだろ。 環サン、調べっからパソコン貸して」
「壊すなよ」

 風間くんは環のパソコンを引き寄せて猛烈な勢いでキーボードを叩き始めた。あたしはその様子をぽかんと眺めた。

「えっと、風間くん? 朱虎の居場所を調べるって、どうやって?」
「おいおい志麻センパイ。デジャヴ感じねーの? 昨日もこの会話したっしょ」
「えっ……あ!」

 そういえば、朱虎のスマホには風間くん特製のスパイウェアが入ってるんだった!
 跳ねるように身を起こしたあたしの後ろで、環が腕を組んだ。

「朱虎さんのスマホが圏外だったり、電源が入っていなくとも分かるものなのか」
「衛星電波仕様だし、電源切れてても信号だけは出す仕組みになってっから壊れてない限りは何とかなるはず……だけど」

 風間くんの手が止まった。

「あー、スマホ、多分ぶっ壊れてんな。信号が来ねえわ」
「ええ!? やっぱり駄目!?」

 一瞬期待した分ショックが大きい。風間くんはしばらく画面を睨んでから、またキ―ボードに手を伸ばした。

「朱虎サン、自分のスマホから電話してきたってことは昨日の夜までスマホを持ってたってことだよな。ログ追ってみるわ」
「なに、ログ機能までついているのか」
「念のためな。……最後の信号は昨日の深夜か。場所は……」
「ど、どこ!?」
「ん~……海ん中」
「ええっ!?」

 あたしは慌てて画面を覗き込んだ。赤く光る点が、港からやや離れた青い区画の上で点滅している。
 目の前がさーっと暗くなった。

「ま、ま、まさか、朱虎……やっぱりマフィアに捕まってて、海に……?」
「違う、志麻。なるほどな、そういうことか……船だ」

 ぽん、と環があたしの肩を叩いた。

「ふ、船?」
「ああ。おそらく、医療設備のある規模の船舶に朱虎さんはいる」

 風間くんがパチンと指を鳴らした。

「それだ。さすが環サン」
「風間、最寄りの港に停泊している中型以上の船舶だ。調べられるか」
「トーゼン」

 タタタタタッ、と風間くんの指が再びキーボードで踊り出す。ブラウザがいくつも開いては閉じ、やがて大きな船の画像がパッと映し出された。

「これが怪しいな。船の名前は『ルッスオーゾ』。個人所有らしいぜ」
「えっ、ウソ! こんな大きな船、個人で持ってる人いるの!?」
「外国の金持ちならヨユーッしょ。所有者は……『サンドラ・ロッソ』」

 赤い髪の美少女がまた頭をよぎった。

「美少女、確かサンドラって呼ばれてた! なんか雰囲気もセレブって感じだったし」
「じゃあビンゴかもな」
「ありがと、風間くん! あたし行ってくる」
「おいおい、ちょい待ち志麻センパイ!」

 風間くんは立ち上がりかけたあたしを呆れたように止めた。

「行くったって、正面突破は無理っしょ。バカ正直に朱虎サンに会わせてくれるわけねーじゃん」
「じゃあ忍び込む! こっそり窓とかから行けば……」
「船だって言ってんじゃん。外側登るつもり? スパイダーマンかよ」
「そんな……でも」
「……しゃーねーなあ」

 かりかりと頭をかいた風間くんは、ため息をついてスマホを取り出した。

「えっ、風間くんどうにかできるの?」
「いくらなんでもオレには無理でーす。けど、どうにかできそうな奴の当てはある」
「えっ、どうにかできそうな人いるの!? 誰!?」

 スマホの画面をタップしながら、風間君はなぜか顔をしかめた。

「俺の親父」
「風間君の――お父さん?」

 そういえば、風間君の家については聞いたことがなかったけど、いったいどんな人なんだろう。

「あの人いつも五分以内に返事よこすからチョイ待ちな。……んで」

 考えていると、風間君がスマホを置いてあたしたちに向き直った。
 妙にまじめな顔をしていてどきりとする。

「いい加減、ちゃんと話すわ。……俺のこと」
「え? 話すって何――」

 環がすいと手を上げ、あたしの言葉を遮った。

「聞こうか」
「サンキュ。えっと……とりあえず」

 風間君はかりかりとこめかみをかくと、いきなり机に両手をついて――頭を下げた。
「――ごめん」
「へっ!?」

 予想外の行動すぎて、思わず声が出た。環は眉一つ動かさない。

「俺が文芸部に入ったのは、志麻センパイと環サンに近づくためだったんだわ。親父に出されたテストをクリアするのに手っ取り早いと思ってさ」

 あたしはぽかんとした。
 近づく?
 お父さんのテスト?
 風間君はいったい何の話をしているんだろう。
 何かのジョークかと思ったけど、風間君はこれ以上ないくらい真剣な顔をしていて、とても突っ込んだり笑ったりする空気ではない。


「君の父親とは何者だ?」

 環が静かに聞いた。
 風間君が答えようとしたとき、机の上のスマホがブルッと震えた。
 スマホを素早く確認した風間君は、短く息を吐く。

「――俺の親父は探偵だよ。とんでもねえ腕利きのな」
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

虚弱なヤクザの駆け込み寺

菅井群青
恋愛
突然ドアが開いたとおもったらヤクザが抱えられてやってきた。 「今すぐ立てるようにしろ、さもなければ──」 「脅してる場合ですか?」 ギックリ腰ばかりを繰り返すヤクザの組長と、治療の相性が良かったために気に入られ、ヤクザ御用達の鍼灸院と化してしまった院に軟禁されてしまった女の話。 ※なろう、カクヨムでも投稿

お隣さんはヤのつくご職業

古亜
恋愛
佐伯梓は、日々平穏に過ごしてきたOL。 残業から帰り夜食のカップ麺を食べていたら、突然壁に穴が空いた。 元々薄い壁だと思ってたけど、まさか人が飛んでくるなんて……ん?そもそも人が飛んでくるっておかしくない?それにお隣さんの顔、初めて見ましたがだいぶ強面でいらっしゃいますね。 ……え、ちゃんとしたもん食え? ちょ、冷蔵庫漁らないでくださいっ!! ちょっとアホな社畜OLがヤクザさんとご飯を食べるラブコメ 建築基準法と物理法則なんて知りません 登場人物や団体の名称や設定は作者が適当に生み出したものであり、現実に類似のものがあったとしても一切関係ありません。 2020/5/26 完結

働かなくていいなんて最高!貴族夫人の自由気ままな生活

ゆる
恋愛
前世では、仕事に追われる日々を送り、恋愛とは無縁のまま亡くなった私。 「今度こそ、のんびり優雅に暮らしたい!」 そう願って転生した先は、なんと貴族令嬢! そして迎えた結婚式――そこで前世の記憶が蘇る。 「ちょっと待って、前世で恋人もできなかった私が結婚!?!??」 しかも相手は名門貴族の旦那様。 「君は何もしなくていい。すべて自由に過ごせばいい」と言われ、夢の“働かなくていい貴族夫人ライフ”を満喫するつもりだったのに――。 ◆メイドの待遇改善を提案したら、旦那様が即採用! ◆夫の仕事を手伝ったら、持ち前の簿記と珠算スキルで屋敷の経理が超効率化! ◆商人たちに簿記を教えていたら、商業界で話題になりギルドの顧問に!? 「あれ? なんで私、働いてるの!?!??」 そんな中、旦那様から突然の告白―― 「実は、君を妻にしたのは政略結婚のためではない。ずっと、君を想い続けていた」 えっ、旦那様、まさかの溺愛系でした!? 「自由を与えることでそばにいてもらう」つもりだった旦那様と、 「働かない貴族夫人」になりたかったはずの私。 お互いの本当の気持ちに気づいたとき、 気づけば 最強夫婦 になっていました――! のんびり暮らすつもりが、商業界のキーパーソンになってしまった貴族夫人の、成長と溺愛の物語!

【完結】新皇帝の後宮に献上された姫は、皇帝の寵愛を望まない

ユユ
恋愛
周辺諸国19国を統べるエテルネル帝国の皇帝が崩御し、若い皇子が即位した2年前から従属国が次々と姫や公女、もしくは美女を献上している。 既に帝国の令嬢数人と従属国から18人が後宮で住んでいる。 未だ献上していなかったプロプル王国では、王女である私が仕方なく献上されることになった。 後宮の余った人気のない部屋に押し込まれ、選択を迫られた。 欲の無い王女と、女達の醜い争いに辟易した新皇帝の噛み合わない新生活が始まった。 * 作り話です * そんなに長くしない予定です

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

Sランクの年下旦那様は如何でしょうか?

キミノ
恋愛
 職場と自宅を往復するだけの枯れた生活を送っていた白石亜子(27)は、 帰宅途中に見知らぬイケメンの大谷匠に求婚される。  二日酔いで目覚めた亜子は、記憶の無いまま彼の妻になっていた。  彼は日本でもトップの大企業の御曹司で・・・。  無邪気に笑ったと思えば、大人の色気で翻弄してくる匠。戸惑いながらもお互いを知り、仲を深める日々を過ごしていた。 このまま、私は彼と生きていくんだ。 そう思っていた。 彼の心に住み付いて離れない存在を知るまでは。 「どうしようもなく好きだった人がいたんだ」  報われない想いを隠し切れない背中を見て、私はどうしたらいいの?  代わりでもいい。  それでも一緒にいられるなら。  そう思っていたけれど、そう思っていたかったけれど。  Sランクの年下旦那様に本気で愛されたいの。 ――――――――――――――― ページを捲ってみてください。 貴女の心にズンとくる重い愛を届けます。 【Sランクの男は如何でしょうか?】シリーズの匠編です。

処理中です...