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72. 捜索願とか、最後の挨拶とか……!?
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あたしは呆然と立ち尽くした。胸に冷たい刃でも突き入れられたような気分だ。
『どうする? 捜索願いを出すならもっと本格的に調べられるぞ。もしその気があるなら……』
刑事さんの言葉は全然耳に入ってこない。
『……おい、お嬢さん? 聞こえてるか、おい』
「すみません、ちょっと……またかけ直します」
刑事さんがまだ何か言っていたけど、あたしは構わず受話器を置いた。
頭の中が凍り付いたみたいに何も考えられない。
朱虎とお医者さんと、それからあのつんとした美少女と。
三人はあたしが去った後で、やってきたマフィアと顔を合わせたのかもしれない。
だから、どこの病院にも現れなかった。――現れることが出来なかった?
それはつまり、もう。
がくがくと足が震えて、あたしはソファにへたり込んだ。
「志麻ちゃん? どうしたの」
朱虎だけじゃない。お医者さんやあの美少女も巻き込まれたんだとしたら。
あたしが庇われたせいで、あたしが電話で呼び出したせいで。
視界がゆがむ。
叫び出しそうになった時、ぽんと肩を叩かれた。
「大丈夫? 顔が真っ青だけど……いったい誰からの電話だったの?」
「……斯波さん」
びっくりしたような顔の斯波さんを見上げた時、玄関が勢いよく開けられる音がした。
「おう、帰ったぞ!」
「あっ、オヤジ? お、お帰りなさい!」
斯波さんが慌てて玄関にすっ飛んでいくのをあたしは呆然と見送った。
あたしも行かないと。でも身体が動かない。
どうしよう。どうしたらいいんだろう。
おじいちゃんになんて言えばいい?
朱虎が……朱虎が、もう――
「斯波ァ! 朱虎の奴ァいってェどうなってやがんでェ! あの野郎、いきなり訳の分からねえ電話よこしやがって!」
滲みかけていた涙が引っ込んだ。
斯波さんの驚いたような声が聞こえる。
「えっ!? 朱虎から連絡があったんですか?」
「ああよ、俺を迎えにも来ねえ上に寝ぼけたこと抜かしてよォ」
あたしはほとんど無意識にソファから飛び上がると玄関までダッシュした。
「おう志麻! この通り、無事に帰ってきたぞ……」
「おじいちゃんっ! 今っ、なんて言った!?」
「ああ?」
怪訝そうな顔にも構わず、おじいちゃんに縋りつく。
「朱虎から電話があったって言ったよね!?」
「さっきからそう言ってんだろ」
「いつ!? いつ、朱虎から電話があったの!?」
「ついさっきだよ」
「ついさっき……!」
さっきとは違う意味で全身の力が抜けた。冷たくなっていた体に、一気に熱が流れ込む。
朱虎は生きてて、ちゃんと電話も出来るところにいるんだ。
「良かった……。ねえおじいちゃん、朱虎は今どこにいるって言ってた?」
「ああ? んなこたァ知ったことか! 志麻、お前ェも金輪際あんな奴のことなんざ口にするんじゃねえ!」
「ええっ?」
おじいちゃんの激しい口調に、あたしは面食らって瞬いた。
「どうしたのおじいちゃん? 何でそんなに怒ってるの?」
「どうしたもこうしたもあるけェ! おい斯波ァ! 朱虎の野郎の部屋のもん、一切合切捨てっちまえ!」
言いつけられた斯波さんがぎょっとしたように目を剥く。
「いやオヤジ、それはさすがに」
「馬鹿野郎、そうしろってェ本人が言ってやがったんだよ! この家にゃもう二度と戻らねえと言い切りやがってよォ!」
おじいちゃんの言葉に、ぐらりと頭が揺れるような感触がした。
朱虎が、戻ってこない?
何で?
「その上あの野郎、何て言ったと思う? 『今まで世話になりました。今日を限りに組から抜けさせてもらいます』と抜かしやがった!」
「なっ……」
斯波さんが唖然とする横で、あたしは大きく口を開けたまま固まっていた。
一度、二度、大きく息を吸い込んで、やっと声が出る。
「……はっ、はああああああっ!?」
『どうする? 捜索願いを出すならもっと本格的に調べられるぞ。もしその気があるなら……』
刑事さんの言葉は全然耳に入ってこない。
『……おい、お嬢さん? 聞こえてるか、おい』
「すみません、ちょっと……またかけ直します」
刑事さんがまだ何か言っていたけど、あたしは構わず受話器を置いた。
頭の中が凍り付いたみたいに何も考えられない。
朱虎とお医者さんと、それからあのつんとした美少女と。
三人はあたしが去った後で、やってきたマフィアと顔を合わせたのかもしれない。
だから、どこの病院にも現れなかった。――現れることが出来なかった?
それはつまり、もう。
がくがくと足が震えて、あたしはソファにへたり込んだ。
「志麻ちゃん? どうしたの」
朱虎だけじゃない。お医者さんやあの美少女も巻き込まれたんだとしたら。
あたしが庇われたせいで、あたしが電話で呼び出したせいで。
視界がゆがむ。
叫び出しそうになった時、ぽんと肩を叩かれた。
「大丈夫? 顔が真っ青だけど……いったい誰からの電話だったの?」
「……斯波さん」
びっくりしたような顔の斯波さんを見上げた時、玄関が勢いよく開けられる音がした。
「おう、帰ったぞ!」
「あっ、オヤジ? お、お帰りなさい!」
斯波さんが慌てて玄関にすっ飛んでいくのをあたしは呆然と見送った。
あたしも行かないと。でも身体が動かない。
どうしよう。どうしたらいいんだろう。
おじいちゃんになんて言えばいい?
朱虎が……朱虎が、もう――
「斯波ァ! 朱虎の奴ァいってェどうなってやがんでェ! あの野郎、いきなり訳の分からねえ電話よこしやがって!」
滲みかけていた涙が引っ込んだ。
斯波さんの驚いたような声が聞こえる。
「えっ!? 朱虎から連絡があったんですか?」
「ああよ、俺を迎えにも来ねえ上に寝ぼけたこと抜かしてよォ」
あたしはほとんど無意識にソファから飛び上がると玄関までダッシュした。
「おう志麻! この通り、無事に帰ってきたぞ……」
「おじいちゃんっ! 今っ、なんて言った!?」
「ああ?」
怪訝そうな顔にも構わず、おじいちゃんに縋りつく。
「朱虎から電話があったって言ったよね!?」
「さっきからそう言ってんだろ」
「いつ!? いつ、朱虎から電話があったの!?」
「ついさっきだよ」
「ついさっき……!」
さっきとは違う意味で全身の力が抜けた。冷たくなっていた体に、一気に熱が流れ込む。
朱虎は生きてて、ちゃんと電話も出来るところにいるんだ。
「良かった……。ねえおじいちゃん、朱虎は今どこにいるって言ってた?」
「ああ? んなこたァ知ったことか! 志麻、お前ェも金輪際あんな奴のことなんざ口にするんじゃねえ!」
「ええっ?」
おじいちゃんの激しい口調に、あたしは面食らって瞬いた。
「どうしたのおじいちゃん? 何でそんなに怒ってるの?」
「どうしたもこうしたもあるけェ! おい斯波ァ! 朱虎の野郎の部屋のもん、一切合切捨てっちまえ!」
言いつけられた斯波さんがぎょっとしたように目を剥く。
「いやオヤジ、それはさすがに」
「馬鹿野郎、そうしろってェ本人が言ってやがったんだよ! この家にゃもう二度と戻らねえと言い切りやがってよォ!」
おじいちゃんの言葉に、ぐらりと頭が揺れるような感触がした。
朱虎が、戻ってこない?
何で?
「その上あの野郎、何て言ったと思う? 『今まで世話になりました。今日を限りに組から抜けさせてもらいます』と抜かしやがった!」
「なっ……」
斯波さんが唖然とする横で、あたしは大きく口を開けたまま固まっていた。
一度、二度、大きく息を吸い込んで、やっと声が出る。
「……はっ、はああああああっ!?」
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