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63. 銃口とか、銃弾とか
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よろよろしながら銃を構えているマフィアとあたしの視線がバッチリぶつかる。
瞬間、頭の中をものすごい勢いでいろんな考えが走り抜けた。
え? あれ誰?
あ、朱虎が吹っ飛ばした奴だ。すごい、立ってる。思ったより丈夫だったんだな。
でもフラフラしてる。しかもこっちに銃を向けてる?
そうか、そういえばあいつって蓮司さんを襲ってきたんだっけ。
えっ、じゃあ、狙ってる先ってもしかして。
「……あっ、」
あんまり一気にいろんなことを考えすぎて、声が出なかった。
咄嗟に振り向いて蓮司さんの身体に手を伸ばした瞬間、後ろで発砲音が聞こえた。
駄目だ、全然間に合わない。
いや間に合う、手が届いた。蓮司さんがビックリした顔になってる。
待てよ、これってあたしに弾が当たるんじゃ――
背中を思いっきり突き飛ばされて、あたしは蓮司さんともつれ合うように転がった。後ろで重い銃声が続けざまに響く。
うわっ、連続して撃たれた。もうダメかも、あたし。
背中がじんと重い。あまりに酷い怪我って、すぐに痛みは来ないっていう。きっと今からものすごく痛くなって苦しくなるんだ。どうしよう、めちゃくちゃ怖い。
「志麻さんっ!」
ていうかあいつ、そんなに何度も念押して撃つ必要なくない?
何なのあのパスタ野郎、セクハラ発言はするわ、あたしみたいな女子を背中から何度も撃つわ、超腹立つ。
決めた、死んだら絶対あのマフィアのとこ化けて出る。
でも「うらめしや」って通じるのかな?
「志麻さん、大丈夫ですか!? 志麻さん!」
ほんとすみません蓮司さん、スーツ汚しちゃいそうです。高そうなのにごめんなさい。
ああ、でもどうせ死ぬなら朱虎の腕の中が良い。朱虎は何してんの? あたしのこと好きなんじゃなかったの、バカ――
……なんかいつまで経っても痛くならないな。
あたしはそろっと目を開けた。あたしの下敷きになっていた蓮司さんがホッとした顔になる。
「良かった。怪我はないようですが、どこか痛いところはありますか」
「え? 怪我がない?」
あたしはバッと起き上がってぱたぱたと自分の体を触った。どこも痛くないし怪我もしてない。弾なんか当たった気配もない。
じゃあ、さっきの背中への衝撃って?
振り返ると、朱虎がこちらに背を向けて立っていた。まっすぐに構えた銃口からは薄く煙が上がっていて、その先ではマフィアが銃を放り出して倒れていた。
これ、どういう状況?
「不破さんがとっさにあなたを突き飛ばして応戦したんです。向こうの弾は外れたようで良かった」
蓮司さんの説明でやっと理解できた。どうやら、さっきの銃声のうち数発は朱虎が撃ったものだったらしい。
マフィアは倒れたまま、ぴくりとも動かない。
「ひえっ、朱虎!? まさか、撃ち殺……」
「死んじゃいませんよ。そこまできっちり狙う暇もなかったんでね」
気だるそうにため息をついて朱虎が言う。その言葉を証明するみたいに、倒れたマフィアが体を震わせると、肩を押さえて喚き出した。
「うるせえな。頭にもう一発撃ちこんで静かにしましょうか」
「駄目だってば!」
「じゃあとっとと連れて行ってもらいましょう。――おい、ポリ。てめぇの仲間はまだ来ねえのか」
乱暴な朱虎の口調に眉をひそめながら、蓮司さんは首を振った。
「確か、今日は近くで何かのイベントをやっていたはずです。おそらく道が混んでいるんでしょう」
「何だそりゃ」
「様子を見てきます。……と、その前に」
蓮司さんは立ち上がると、結束バンドを取り出した。バイクの下敷きになっているマフィアの傍に行って手早く拘束する。肩を押さえて呻くマフィアも同じように拘束し、さっさと銃を取り上げた。
「僕はこれから倉庫街の端まで行って警察車両を誘導してきます。志麻さんたちはその間に裏側から抜けてください」
「は、はい」
蓮司さんは近寄ってくると、あたしの耳元に顔を寄せて素早く囁いた。
「こんなことに巻き込んでしまって申し訳ありません。このお詫びはまた日を改めて」
「えっ、あの」
苛立たしげに朱虎が舌打ちする。
「あなたにも一応礼は言っておきます。犯罪者逮捕のご協力に感謝しますよ、方法はどうあれ」
「そんなものいらねえから金輪際関わって来るな。とっとと行け」
蓮司さんはあたしに向かってもう一度会釈すると、倉庫を出ていった。
「ちょっと朱虎、いくら何でも失礼すぎるんじゃないの? なんだかんだで蓮司さん、こっちが銃持ってたこととか全部目をつぶってくれるみたいだし……」
「お嬢」
声に振り向くと、朱虎がいつの間にかびっくりするくらい近くにいた。
こっちを見つめてくる瞳が妙に真剣で、思わずドキリとする。
そういえばあたし、朱虎のこと好きだって気づいたんだっけ。思い出してしまうと妙に意識してしまう。
ヤバい、いつも通り振舞わないと。いつも通りのあたしってどんなだっけ?
「え……えっと朱虎、じゃあ行こうか! そうだ、ミカは……」
不意に朱虎があたしの肩に手を回してぐいと抱き寄せた。
「ひゃっ!?」
少し荒い息が耳にかかって、肩に回った腕から朱虎の重みが伝わる。鼓動が不規則に跳ねて、一気に顔が真っ赤になるのが分かった。
「あっ、朱虎? な、な、なに」
「――すみません」
「えっ、何が……きゃあっ!?」
低く呟いた朱虎が一気に寄りかかってきた。肩にかかる重みがいきなり増して、あたしは朱虎に押し倒されるみたいな恰好で床に尻餅をついた。
「いった……ちょっと朱虎! も、もうちょっと優しく……」
思わず朱虎の身体を押し返した手がぬるりと滑った。何かぐっしょりと濡れたものを触ったみたいな感触だ。
肌がざわりと粟立った。
「……朱虎?」
わき腹を押さえた朱虎の身体が力なくごろりと転がった。シャツが濃い赤に染まっている。荒い息をつくたびに、赤い面積はじわじわと広がっていっていた。
何が起こったのか一瞬分からなかった。
何で?
どうして朱虎が倒れてるんだろう。真っ赤なこれはまさか、全部朱虎の血?
ついさっきまで、ぴんぴんしてたのに。
朱虎が低く呻いた。その声に頭を思い切り殴られて、ようやくハッと我に返ったあたしは朱虎に飛びついた。
「あっ、朱虎!? どっ、ど、どうしたの!? 何で、怪我……!」
こちらを向いたマフィアの黒々とした銃口が頭をよぎった。
低い発砲音。蓮司さんは「弾は反れたようだ」と言っていた。
違う、反れてなんかいなかった。朱虎が庇ってくれたんだ。
「……すみません。お嬢は、先に、行ってください」
朱虎は荒く息をつきながら、切れ切れに言った。喋るたびにシャツが重く濡れて、じわりと血だまりが広がっていく。
その光景にぞっと背筋が凍った。
「やだ……やだやだやだ、朱虎! やだっ、しっかりしてっ!」
「……俺は、大丈夫ですから、早く」
朱虎は荒い息をついた。顔色がどんどん青ざめていく。
「き、救急車……呼ばないと」
グラグラとめまいがする。
蓮司さんは道路が混んでいるって言ってた。
今すぐ救急車を呼んで、一体どのくらいで来てくれるんだろう?
朱虎はこんな状態なのに、間に合うんだろうか?
応急処置だけでもしないと、でも、どうしたらいい?
「何か……ハンカチとか、何か、とにかく何かっ」
せめて蓮司さんがいてくれたら。
でも呼びに行くのにここを離れるのが怖い。
帰って来てもし、朱虎が――
ひくっ、と喉が震えた。
「やだ、朱虎っ……やだよ、こんなのっ……」
あたしって本当にバカだ。
こんな子供みたいな泣き声あげてる場合じゃないのに。
誰か助けて。誰か。
しゃくりあげながら闇雲にポケットをあさった指に何かが触れた。
くしゃくしゃになったメモだ。広げると、電話番号とメールアドレスが綺麗な字で書いてあった。
ニヤっと笑うお医者さんの顔が稲妻みたいに閃いた。
二度目に会ったのは病院。
最初に会ったのは――この倉庫の裏にある高層ビルの、バー。
あたしはぽかんとメモを見つめて、それから慌てて辺りを見回した。
少し離れたところにあたしのスマホが転がっている。駆け寄って拾い上げると、画面は派手にひびが入っていた。
あたしはスマホを持ったまま一瞬立ち尽くした。
これ、壊れてない? ちゃんと電話出来る?
壊れてなかったとして、メモの電話番号は合ってるの?
番号が合っていたとして、ちゃんと出てくれる?
出てくれたとして、あたしを覚えてる?
覚えていてくれたとして、タイミングよく高層ビルの近くにいる?
近くにいたとして、何て説明したらいい?
「撃たれた、助けて」――そんな言葉を聞いて、駆けつけてくれるだろうか?
背後で朱虎が小さく呻いた。
あたしは唇を噛んで、スマホの電源ボタンを力いっぱい押した。
「――もしもし」
「もっ、もしもし! あたし、あの、病院とバーで会った!」
「覚えてますよ、ヤクザのお嬢さんだろ? あの時の平手打ちは強烈だったからね」
「あっ……あ、あの時はごめんなさい」
「いーえ。しかし、こんなタイミングで連絡が来るとは驚いたな。いったい……」
「今どこにいますか!?」
「え?」
「今! バーにいますか!?」
「ああ……今、ちょうどビルの前に着いたところだけど。これからバイトで」
「お願い、すぐに来て! 怪我人がいるんです! う、撃たれて」
「……ふむ。来てって、どこに?」
「ビルの裏の倉庫! すぐに来て……お願い、何でもするから朱虎を助けて!」
瞬間、頭の中をものすごい勢いでいろんな考えが走り抜けた。
え? あれ誰?
あ、朱虎が吹っ飛ばした奴だ。すごい、立ってる。思ったより丈夫だったんだな。
でもフラフラしてる。しかもこっちに銃を向けてる?
そうか、そういえばあいつって蓮司さんを襲ってきたんだっけ。
えっ、じゃあ、狙ってる先ってもしかして。
「……あっ、」
あんまり一気にいろんなことを考えすぎて、声が出なかった。
咄嗟に振り向いて蓮司さんの身体に手を伸ばした瞬間、後ろで発砲音が聞こえた。
駄目だ、全然間に合わない。
いや間に合う、手が届いた。蓮司さんがビックリした顔になってる。
待てよ、これってあたしに弾が当たるんじゃ――
背中を思いっきり突き飛ばされて、あたしは蓮司さんともつれ合うように転がった。後ろで重い銃声が続けざまに響く。
うわっ、連続して撃たれた。もうダメかも、あたし。
背中がじんと重い。あまりに酷い怪我って、すぐに痛みは来ないっていう。きっと今からものすごく痛くなって苦しくなるんだ。どうしよう、めちゃくちゃ怖い。
「志麻さんっ!」
ていうかあいつ、そんなに何度も念押して撃つ必要なくない?
何なのあのパスタ野郎、セクハラ発言はするわ、あたしみたいな女子を背中から何度も撃つわ、超腹立つ。
決めた、死んだら絶対あのマフィアのとこ化けて出る。
でも「うらめしや」って通じるのかな?
「志麻さん、大丈夫ですか!? 志麻さん!」
ほんとすみません蓮司さん、スーツ汚しちゃいそうです。高そうなのにごめんなさい。
ああ、でもどうせ死ぬなら朱虎の腕の中が良い。朱虎は何してんの? あたしのこと好きなんじゃなかったの、バカ――
……なんかいつまで経っても痛くならないな。
あたしはそろっと目を開けた。あたしの下敷きになっていた蓮司さんがホッとした顔になる。
「良かった。怪我はないようですが、どこか痛いところはありますか」
「え? 怪我がない?」
あたしはバッと起き上がってぱたぱたと自分の体を触った。どこも痛くないし怪我もしてない。弾なんか当たった気配もない。
じゃあ、さっきの背中への衝撃って?
振り返ると、朱虎がこちらに背を向けて立っていた。まっすぐに構えた銃口からは薄く煙が上がっていて、その先ではマフィアが銃を放り出して倒れていた。
これ、どういう状況?
「不破さんがとっさにあなたを突き飛ばして応戦したんです。向こうの弾は外れたようで良かった」
蓮司さんの説明でやっと理解できた。どうやら、さっきの銃声のうち数発は朱虎が撃ったものだったらしい。
マフィアは倒れたまま、ぴくりとも動かない。
「ひえっ、朱虎!? まさか、撃ち殺……」
「死んじゃいませんよ。そこまできっちり狙う暇もなかったんでね」
気だるそうにため息をついて朱虎が言う。その言葉を証明するみたいに、倒れたマフィアが体を震わせると、肩を押さえて喚き出した。
「うるせえな。頭にもう一発撃ちこんで静かにしましょうか」
「駄目だってば!」
「じゃあとっとと連れて行ってもらいましょう。――おい、ポリ。てめぇの仲間はまだ来ねえのか」
乱暴な朱虎の口調に眉をひそめながら、蓮司さんは首を振った。
「確か、今日は近くで何かのイベントをやっていたはずです。おそらく道が混んでいるんでしょう」
「何だそりゃ」
「様子を見てきます。……と、その前に」
蓮司さんは立ち上がると、結束バンドを取り出した。バイクの下敷きになっているマフィアの傍に行って手早く拘束する。肩を押さえて呻くマフィアも同じように拘束し、さっさと銃を取り上げた。
「僕はこれから倉庫街の端まで行って警察車両を誘導してきます。志麻さんたちはその間に裏側から抜けてください」
「は、はい」
蓮司さんは近寄ってくると、あたしの耳元に顔を寄せて素早く囁いた。
「こんなことに巻き込んでしまって申し訳ありません。このお詫びはまた日を改めて」
「えっ、あの」
苛立たしげに朱虎が舌打ちする。
「あなたにも一応礼は言っておきます。犯罪者逮捕のご協力に感謝しますよ、方法はどうあれ」
「そんなものいらねえから金輪際関わって来るな。とっとと行け」
蓮司さんはあたしに向かってもう一度会釈すると、倉庫を出ていった。
「ちょっと朱虎、いくら何でも失礼すぎるんじゃないの? なんだかんだで蓮司さん、こっちが銃持ってたこととか全部目をつぶってくれるみたいだし……」
「お嬢」
声に振り向くと、朱虎がいつの間にかびっくりするくらい近くにいた。
こっちを見つめてくる瞳が妙に真剣で、思わずドキリとする。
そういえばあたし、朱虎のこと好きだって気づいたんだっけ。思い出してしまうと妙に意識してしまう。
ヤバい、いつも通り振舞わないと。いつも通りのあたしってどんなだっけ?
「え……えっと朱虎、じゃあ行こうか! そうだ、ミカは……」
不意に朱虎があたしの肩に手を回してぐいと抱き寄せた。
「ひゃっ!?」
少し荒い息が耳にかかって、肩に回った腕から朱虎の重みが伝わる。鼓動が不規則に跳ねて、一気に顔が真っ赤になるのが分かった。
「あっ、朱虎? な、な、なに」
「――すみません」
「えっ、何が……きゃあっ!?」
低く呟いた朱虎が一気に寄りかかってきた。肩にかかる重みがいきなり増して、あたしは朱虎に押し倒されるみたいな恰好で床に尻餅をついた。
「いった……ちょっと朱虎! も、もうちょっと優しく……」
思わず朱虎の身体を押し返した手がぬるりと滑った。何かぐっしょりと濡れたものを触ったみたいな感触だ。
肌がざわりと粟立った。
「……朱虎?」
わき腹を押さえた朱虎の身体が力なくごろりと転がった。シャツが濃い赤に染まっている。荒い息をつくたびに、赤い面積はじわじわと広がっていっていた。
何が起こったのか一瞬分からなかった。
何で?
どうして朱虎が倒れてるんだろう。真っ赤なこれはまさか、全部朱虎の血?
ついさっきまで、ぴんぴんしてたのに。
朱虎が低く呻いた。その声に頭を思い切り殴られて、ようやくハッと我に返ったあたしは朱虎に飛びついた。
「あっ、朱虎!? どっ、ど、どうしたの!? 何で、怪我……!」
こちらを向いたマフィアの黒々とした銃口が頭をよぎった。
低い発砲音。蓮司さんは「弾は反れたようだ」と言っていた。
違う、反れてなんかいなかった。朱虎が庇ってくれたんだ。
「……すみません。お嬢は、先に、行ってください」
朱虎は荒く息をつきながら、切れ切れに言った。喋るたびにシャツが重く濡れて、じわりと血だまりが広がっていく。
その光景にぞっと背筋が凍った。
「やだ……やだやだやだ、朱虎! やだっ、しっかりしてっ!」
「……俺は、大丈夫ですから、早く」
朱虎は荒い息をついた。顔色がどんどん青ざめていく。
「き、救急車……呼ばないと」
グラグラとめまいがする。
蓮司さんは道路が混んでいるって言ってた。
今すぐ救急車を呼んで、一体どのくらいで来てくれるんだろう?
朱虎はこんな状態なのに、間に合うんだろうか?
応急処置だけでもしないと、でも、どうしたらいい?
「何か……ハンカチとか、何か、とにかく何かっ」
せめて蓮司さんがいてくれたら。
でも呼びに行くのにここを離れるのが怖い。
帰って来てもし、朱虎が――
ひくっ、と喉が震えた。
「やだ、朱虎っ……やだよ、こんなのっ……」
あたしって本当にバカだ。
こんな子供みたいな泣き声あげてる場合じゃないのに。
誰か助けて。誰か。
しゃくりあげながら闇雲にポケットをあさった指に何かが触れた。
くしゃくしゃになったメモだ。広げると、電話番号とメールアドレスが綺麗な字で書いてあった。
ニヤっと笑うお医者さんの顔が稲妻みたいに閃いた。
二度目に会ったのは病院。
最初に会ったのは――この倉庫の裏にある高層ビルの、バー。
あたしはぽかんとメモを見つめて、それから慌てて辺りを見回した。
少し離れたところにあたしのスマホが転がっている。駆け寄って拾い上げると、画面は派手にひびが入っていた。
あたしはスマホを持ったまま一瞬立ち尽くした。
これ、壊れてない? ちゃんと電話出来る?
壊れてなかったとして、メモの電話番号は合ってるの?
番号が合っていたとして、ちゃんと出てくれる?
出てくれたとして、あたしを覚えてる?
覚えていてくれたとして、タイミングよく高層ビルの近くにいる?
近くにいたとして、何て説明したらいい?
「撃たれた、助けて」――そんな言葉を聞いて、駆けつけてくれるだろうか?
背後で朱虎が小さく呻いた。
あたしは唇を噛んで、スマホの電源ボタンを力いっぱい押した。
「――もしもし」
「もっ、もしもし! あたし、あの、病院とバーで会った!」
「覚えてますよ、ヤクザのお嬢さんだろ? あの時の平手打ちは強烈だったからね」
「あっ……あ、あの時はごめんなさい」
「いーえ。しかし、こんなタイミングで連絡が来るとは驚いたな。いったい……」
「今どこにいますか!?」
「え?」
「今! バーにいますか!?」
「ああ……今、ちょうどビルの前に着いたところだけど。これからバイトで」
「お願い、すぐに来て! 怪我人がいるんです! う、撃たれて」
「……ふむ。来てって、どこに?」
「ビルの裏の倉庫! すぐに来て……お願い、何でもするから朱虎を助けて!」
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