ヤクザのせいで結婚できない!

山吹

文字の大きさ
上 下
34 / 111

32. イメージとか笑顔とか

しおりを挟む
「……失礼しました。一度笑い出すと止まらなくて」
「いえ、全然……」

 獅子神さんが何とか笑いを収めるまで、結構時間がかかった。
 その間、あたしは――獅子神さんに見とれていた。
 ただでさえ美人なのに、笑うと破壊度が120%増しになるのだ。

「あのね、そんなに頑張らなくて結構です。女性の身体に傷をつけるなんてとんでもありません」
「は、はい」

 思いがけず柔らかな言い方に、なんだかどぎまぎしてしまう。
 ていうか獅子神さんって、なんだか……最初と全然イメージが違うんだけど、本当はどういう人なんだろう?

「……志麻さんはイメージと違いますね」
「えっ!?」

 獅子神さんに対して考えていたことをそっくりそのまま返されて、あたしはびっくりした。

「あたしが? そ、そうですか?」
「不破さんからは、とにかくわがままで怒りっぽいし全然謝らないと聞いていたのですが……」

 あいつ、仮にも見合い相手に何てこと言ってるんだ!?

「確かに激しい方だと思いましたよ。今日もすごい剣幕で怒ってましたね」
「うっ」
「こんな時に写真なんか撮るな、悪趣味だ! でしたっけ」

 かーっと顔が熱くなる。そうだ、女の人のスマホを破壊したんだった。あれはやりすぎだったかな……。
 いや、今思い返してもあのパシャパシャはムカつく。

「す、すみません。獅子神さんが処置してくれてるのにって思ったらカーッとして……」
「いえ、助かりました。写真を撮られるのは困るので」
「そうなんですか?」
「ええ」

 獅子神さんはベッドで眠るミカを見やった。

「あのお母さんにも、一歩も引かずに怒鳴っていましたね」
「あ、あれは……ミカが悪いなんて決めつけられたから、腹が立って」
「とんだ言いがかりでしたね。お母さんもパニックになっていたのでしょうが」
「あ……そっか、パニック。そうですよね、確かに」

 お母さんからしてみたら子供がトラックに轢かれそうになったんだっけ。

「混乱してたら仕方ないのかな……いやでも、やっぱりあの言い方は……」
「人のために怒っているんですから、我がままとは少し違う気がします」
「え、そ、そうですか」
「ちゃんと謝れますしね。謝り方も激しいですが……っふ」

 獅子神さんがまた小さく笑った。

「あ、あの!」

 跳ねた鼓動をごまかすように、あたしは声を上げた。獅子神さんが首をかしげる。

「はい?」

 どうしよう、とりあえず声を出してみたけど何言えばいいんだ?

「あの……実は、あたし」
「ええ」
「……晴後ガイアのファンなんです。映画はぶっちゃけガイアを見に行きましたごめんなさい!」

 今度こそ本格的に獅子神さんが噴き出した。

「そ、そうですか、やっぱり」

 うわ、すごい笑ってる。
 この人って、笑うとちょっと可愛い感じだな。
 でも、大人の人に可愛いって失礼だろうか。

「黙っててごめんなさい」
「いえ。でも、ハーフがダメだと言ったのは彼自身を否定したのではなく、配役に合ってなかったと言いたかったんです」
「配役……ですか?」
「ええ。晴後ガイアは見た目がどう見ても外国人ですから、戦国時代の足軽役はどうしても浮いてしまうでしょう? そういう見た目の話で……」

 浮くって、そういう意味か!

「あ……ああー、なるほど! そ、そうですよね! 確かに……」
「面白いな、志麻さんは」
「え」
 顔を上げると、意外と近くにあった獅子神さんと視線がかち合った。長いまつげの下の切れ長な目が僅かに見開かれる。
 何となく目がそらせずに、あたしは獅子神さんと見つめ合った。微妙な空気が漂う。
 な、何だこの空気。
 何だか困る。すごく困るけど、イケメンパワーがすごくて目が離せない。

「あ、あの――……」

 バン! と勢いよくドアが開いて、あたしは冗談じゃなく飛び跳ねた。
 獅子神さんがはっとしたように振り返る。

「……失礼」

 あたしたちを見た朱虎はぶっきらぼうに言った。


           〇●〇

「交通事故だって? 何やってんだよ」
「すみません、たまたま居合わせまして。不測の事態でした」
「馬鹿、そっちじゃねえ。事故現場仕切りまくってたそうじゃねえか。目立ちやがってまったく」
「申し訳ありません、つい」
「だから詰めが甘いってんだよお前は。てめェの役割忘れてんじゃねえだろな」
「まさか」
「だったら雲竜の見合い話はどうなってんだ。評判の我がままヒスお嬢だって話じゃねえか、嫌われるなんざ朝飯前だろ」
「……雲竜志麻は言われているほど我がままでもヒステリーな子でもないですよ」
「何言ってんだ、水ぶっかけられといて」
「本人から深く謝罪がありました」
「だから何だよ、俺ならバケツで水ぶっかけ返すぞ。……まさかお前」
「何ですか」
「惚れたんじゃねえだろうな?」
「……まさか、相手は女子高生ですよ。私にも立場があります」
「自覚があるようで何よりだよ。とにかく、次の取引までもう時間がねえ。とっとと終わらせろ、いいな」
「分かってます。……では、また」
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

虚弱なヤクザの駆け込み寺

菅井群青
恋愛
突然ドアが開いたとおもったらヤクザが抱えられてやってきた。 「今すぐ立てるようにしろ、さもなければ──」 「脅してる場合ですか?」 ギックリ腰ばかりを繰り返すヤクザの組長と、治療の相性が良かったために気に入られ、ヤクザ御用達の鍼灸院と化してしまった院に軟禁されてしまった女の話。 ※なろう、カクヨムでも投稿

お隣さんはヤのつくご職業

古亜
恋愛
佐伯梓は、日々平穏に過ごしてきたOL。 残業から帰り夜食のカップ麺を食べていたら、突然壁に穴が空いた。 元々薄い壁だと思ってたけど、まさか人が飛んでくるなんて……ん?そもそも人が飛んでくるっておかしくない?それにお隣さんの顔、初めて見ましたがだいぶ強面でいらっしゃいますね。 ……え、ちゃんとしたもん食え? ちょ、冷蔵庫漁らないでくださいっ!! ちょっとアホな社畜OLがヤクザさんとご飯を食べるラブコメ 建築基準法と物理法則なんて知りません 登場人物や団体の名称や設定は作者が適当に生み出したものであり、現実に類似のものがあったとしても一切関係ありません。 2020/5/26 完結

働かなくていいなんて最高!貴族夫人の自由気ままな生活

ゆる
恋愛
前世では、仕事に追われる日々を送り、恋愛とは無縁のまま亡くなった私。 「今度こそ、のんびり優雅に暮らしたい!」 そう願って転生した先は、なんと貴族令嬢! そして迎えた結婚式――そこで前世の記憶が蘇る。 「ちょっと待って、前世で恋人もできなかった私が結婚!?!??」 しかも相手は名門貴族の旦那様。 「君は何もしなくていい。すべて自由に過ごせばいい」と言われ、夢の“働かなくていい貴族夫人ライフ”を満喫するつもりだったのに――。 ◆メイドの待遇改善を提案したら、旦那様が即採用! ◆夫の仕事を手伝ったら、持ち前の簿記と珠算スキルで屋敷の経理が超効率化! ◆商人たちに簿記を教えていたら、商業界で話題になりギルドの顧問に!? 「あれ? なんで私、働いてるの!?!??」 そんな中、旦那様から突然の告白―― 「実は、君を妻にしたのは政略結婚のためではない。ずっと、君を想い続けていた」 えっ、旦那様、まさかの溺愛系でした!? 「自由を与えることでそばにいてもらう」つもりだった旦那様と、 「働かない貴族夫人」になりたかったはずの私。 お互いの本当の気持ちに気づいたとき、 気づけば 最強夫婦 になっていました――! のんびり暮らすつもりが、商業界のキーパーソンになってしまった貴族夫人の、成長と溺愛の物語!

【完結】新皇帝の後宮に献上された姫は、皇帝の寵愛を望まない

ユユ
恋愛
周辺諸国19国を統べるエテルネル帝国の皇帝が崩御し、若い皇子が即位した2年前から従属国が次々と姫や公女、もしくは美女を献上している。 既に帝国の令嬢数人と従属国から18人が後宮で住んでいる。 未だ献上していなかったプロプル王国では、王女である私が仕方なく献上されることになった。 後宮の余った人気のない部屋に押し込まれ、選択を迫られた。 欲の無い王女と、女達の醜い争いに辟易した新皇帝の噛み合わない新生活が始まった。 * 作り話です * そんなに長くしない予定です

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

Sランクの年下旦那様は如何でしょうか?

キミノ
恋愛
 職場と自宅を往復するだけの枯れた生活を送っていた白石亜子(27)は、 帰宅途中に見知らぬイケメンの大谷匠に求婚される。  二日酔いで目覚めた亜子は、記憶の無いまま彼の妻になっていた。  彼は日本でもトップの大企業の御曹司で・・・。  無邪気に笑ったと思えば、大人の色気で翻弄してくる匠。戸惑いながらもお互いを知り、仲を深める日々を過ごしていた。 このまま、私は彼と生きていくんだ。 そう思っていた。 彼の心に住み付いて離れない存在を知るまでは。 「どうしようもなく好きだった人がいたんだ」  報われない想いを隠し切れない背中を見て、私はどうしたらいいの?  代わりでもいい。  それでも一緒にいられるなら。  そう思っていたけれど、そう思っていたかったけれど。  Sランクの年下旦那様に本気で愛されたいの。 ――――――――――――――― ページを捲ってみてください。 貴女の心にズンとくる重い愛を届けます。 【Sランクの男は如何でしょうか?】シリーズの匠編です。

処理中です...