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32. イメージとか笑顔とか
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「……失礼しました。一度笑い出すと止まらなくて」
「いえ、全然……」
獅子神さんが何とか笑いを収めるまで、結構時間がかかった。
その間、あたしは――獅子神さんに見とれていた。
ただでさえ美人なのに、笑うと破壊度が120%増しになるのだ。
「あのね、そんなに頑張らなくて結構です。女性の身体に傷をつけるなんてとんでもありません」
「は、はい」
思いがけず柔らかな言い方に、なんだかどぎまぎしてしまう。
ていうか獅子神さんって、なんだか……最初と全然イメージが違うんだけど、本当はどういう人なんだろう?
「……志麻さんはイメージと違いますね」
「えっ!?」
獅子神さんに対して考えていたことをそっくりそのまま返されて、あたしはびっくりした。
「あたしが? そ、そうですか?」
「不破さんからは、とにかくわがままで怒りっぽいし全然謝らないと聞いていたのですが……」
あいつ、仮にも見合い相手に何てこと言ってるんだ!?
「確かに激しい方だと思いましたよ。今日もすごい剣幕で怒ってましたね」
「うっ」
「こんな時に写真なんか撮るな、悪趣味だ! でしたっけ」
かーっと顔が熱くなる。そうだ、女の人のスマホを破壊したんだった。あれはやりすぎだったかな……。
いや、今思い返してもあのパシャパシャはムカつく。
「す、すみません。獅子神さんが処置してくれてるのにって思ったらカーッとして……」
「いえ、助かりました。写真を撮られるのは困るので」
「そうなんですか?」
「ええ」
獅子神さんはベッドで眠るミカを見やった。
「あのお母さんにも、一歩も引かずに怒鳴っていましたね」
「あ、あれは……ミカが悪いなんて決めつけられたから、腹が立って」
「とんだ言いがかりでしたね。お母さんもパニックになっていたのでしょうが」
「あ……そっか、パニック。そうですよね、確かに」
お母さんからしてみたら子供がトラックに轢かれそうになったんだっけ。
「混乱してたら仕方ないのかな……いやでも、やっぱりあの言い方は……」
「人のために怒っているんですから、我がままとは少し違う気がします」
「え、そ、そうですか」
「ちゃんと謝れますしね。謝り方も激しいですが……っふ」
獅子神さんがまた小さく笑った。
「あ、あの!」
跳ねた鼓動をごまかすように、あたしは声を上げた。獅子神さんが首をかしげる。
「はい?」
どうしよう、とりあえず声を出してみたけど何言えばいいんだ?
「あの……実は、あたし」
「ええ」
「……晴後ガイアのファンなんです。映画はぶっちゃけガイアを見に行きましたごめんなさい!」
今度こそ本格的に獅子神さんが噴き出した。
「そ、そうですか、やっぱり」
うわ、すごい笑ってる。
この人って、笑うとちょっと可愛い感じだな。
でも、大人の人に可愛いって失礼だろうか。
「黙っててごめんなさい」
「いえ。でも、ハーフがダメだと言ったのは彼自身を否定したのではなく、配役に合ってなかったと言いたかったんです」
「配役……ですか?」
「ええ。晴後ガイアは見た目がどう見ても外国人ですから、戦国時代の足軽役はどうしても浮いてしまうでしょう? そういう見た目の話で……」
浮くって、そういう意味か!
「あ……ああー、なるほど! そ、そうですよね! 確かに……」
「面白いな、志麻さんは」
「え」
顔を上げると、意外と近くにあった獅子神さんと視線がかち合った。長いまつげの下の切れ長な目が僅かに見開かれる。
何となく目がそらせずに、あたしは獅子神さんと見つめ合った。微妙な空気が漂う。
な、何だこの空気。
何だか困る。すごく困るけど、イケメンパワーがすごくて目が離せない。
「あ、あの――……」
バン! と勢いよくドアが開いて、あたしは冗談じゃなく飛び跳ねた。
獅子神さんがはっとしたように振り返る。
「……失礼」
あたしたちを見た朱虎はぶっきらぼうに言った。
〇●〇
「交通事故だって? 何やってんだよ」
「すみません、たまたま居合わせまして。不測の事態でした」
「馬鹿、そっちじゃねえ。事故現場仕切りまくってたそうじゃねえか。目立ちやがってまったく」
「申し訳ありません、つい」
「だから詰めが甘いってんだよお前は。てめェの役割忘れてんじゃねえだろな」
「まさか」
「だったら雲竜の見合い話はどうなってんだ。評判の我がままヒスお嬢だって話じゃねえか、嫌われるなんざ朝飯前だろ」
「……雲竜志麻は言われているほど我がままでもヒステリーな子でもないですよ」
「何言ってんだ、水ぶっかけられといて」
「本人から深く謝罪がありました」
「だから何だよ、俺ならバケツで水ぶっかけ返すぞ。……まさかお前」
「何ですか」
「惚れたんじゃねえだろうな?」
「……まさか、相手は女子高生ですよ。私にも立場があります」
「自覚があるようで何よりだよ。とにかく、次の取引までもう時間がねえ。とっとと終わらせろ、いいな」
「分かってます。……では、また」
「いえ、全然……」
獅子神さんが何とか笑いを収めるまで、結構時間がかかった。
その間、あたしは――獅子神さんに見とれていた。
ただでさえ美人なのに、笑うと破壊度が120%増しになるのだ。
「あのね、そんなに頑張らなくて結構です。女性の身体に傷をつけるなんてとんでもありません」
「は、はい」
思いがけず柔らかな言い方に、なんだかどぎまぎしてしまう。
ていうか獅子神さんって、なんだか……最初と全然イメージが違うんだけど、本当はどういう人なんだろう?
「……志麻さんはイメージと違いますね」
「えっ!?」
獅子神さんに対して考えていたことをそっくりそのまま返されて、あたしはびっくりした。
「あたしが? そ、そうですか?」
「不破さんからは、とにかくわがままで怒りっぽいし全然謝らないと聞いていたのですが……」
あいつ、仮にも見合い相手に何てこと言ってるんだ!?
「確かに激しい方だと思いましたよ。今日もすごい剣幕で怒ってましたね」
「うっ」
「こんな時に写真なんか撮るな、悪趣味だ! でしたっけ」
かーっと顔が熱くなる。そうだ、女の人のスマホを破壊したんだった。あれはやりすぎだったかな……。
いや、今思い返してもあのパシャパシャはムカつく。
「す、すみません。獅子神さんが処置してくれてるのにって思ったらカーッとして……」
「いえ、助かりました。写真を撮られるのは困るので」
「そうなんですか?」
「ええ」
獅子神さんはベッドで眠るミカを見やった。
「あのお母さんにも、一歩も引かずに怒鳴っていましたね」
「あ、あれは……ミカが悪いなんて決めつけられたから、腹が立って」
「とんだ言いがかりでしたね。お母さんもパニックになっていたのでしょうが」
「あ……そっか、パニック。そうですよね、確かに」
お母さんからしてみたら子供がトラックに轢かれそうになったんだっけ。
「混乱してたら仕方ないのかな……いやでも、やっぱりあの言い方は……」
「人のために怒っているんですから、我がままとは少し違う気がします」
「え、そ、そうですか」
「ちゃんと謝れますしね。謝り方も激しいですが……っふ」
獅子神さんがまた小さく笑った。
「あ、あの!」
跳ねた鼓動をごまかすように、あたしは声を上げた。獅子神さんが首をかしげる。
「はい?」
どうしよう、とりあえず声を出してみたけど何言えばいいんだ?
「あの……実は、あたし」
「ええ」
「……晴後ガイアのファンなんです。映画はぶっちゃけガイアを見に行きましたごめんなさい!」
今度こそ本格的に獅子神さんが噴き出した。
「そ、そうですか、やっぱり」
うわ、すごい笑ってる。
この人って、笑うとちょっと可愛い感じだな。
でも、大人の人に可愛いって失礼だろうか。
「黙っててごめんなさい」
「いえ。でも、ハーフがダメだと言ったのは彼自身を否定したのではなく、配役に合ってなかったと言いたかったんです」
「配役……ですか?」
「ええ。晴後ガイアは見た目がどう見ても外国人ですから、戦国時代の足軽役はどうしても浮いてしまうでしょう? そういう見た目の話で……」
浮くって、そういう意味か!
「あ……ああー、なるほど! そ、そうですよね! 確かに……」
「面白いな、志麻さんは」
「え」
顔を上げると、意外と近くにあった獅子神さんと視線がかち合った。長いまつげの下の切れ長な目が僅かに見開かれる。
何となく目がそらせずに、あたしは獅子神さんと見つめ合った。微妙な空気が漂う。
な、何だこの空気。
何だか困る。すごく困るけど、イケメンパワーがすごくて目が離せない。
「あ、あの――……」
バン! と勢いよくドアが開いて、あたしは冗談じゃなく飛び跳ねた。
獅子神さんがはっとしたように振り返る。
「……失礼」
あたしたちを見た朱虎はぶっきらぼうに言った。
〇●〇
「交通事故だって? 何やってんだよ」
「すみません、たまたま居合わせまして。不測の事態でした」
「馬鹿、そっちじゃねえ。事故現場仕切りまくってたそうじゃねえか。目立ちやがってまったく」
「申し訳ありません、つい」
「だから詰めが甘いってんだよお前は。てめェの役割忘れてんじゃねえだろな」
「まさか」
「だったら雲竜の見合い話はどうなってんだ。評判の我がままヒスお嬢だって話じゃねえか、嫌われるなんざ朝飯前だろ」
「……雲竜志麻は言われているほど我がままでもヒステリーな子でもないですよ」
「何言ってんだ、水ぶっかけられといて」
「本人から深く謝罪がありました」
「だから何だよ、俺ならバケツで水ぶっかけ返すぞ。……まさかお前」
「何ですか」
「惚れたんじゃねえだろうな?」
「……まさか、相手は女子高生ですよ。私にも立場があります」
「自覚があるようで何よりだよ。とにかく、次の取引までもう時間がねえ。とっとと終わらせろ、いいな」
「分かってます。……では、また」
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