ヤクザのせいで結婚できない!

山吹

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28. 秘密のバイトとか大事な話とか

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「……突然のご連絡失礼します、風間さん」
『お、まさかの本人。朱虎サンから電話来るなんてビビったわ、どーしました~……ふわあ』
「昨晩は随分遅くまでお嬢の相手をしていただいたようで、ご迷惑をおかけいたしましたね」
『うはは、やっぱ把握してんだ。や~色々聞かせてもらったわ水ぶちまけ事件とか。苦労しますね~、朱虎サンも』
「おかげさまで。……ところで風間さん。ちょっと、アルバイトしませんか?」
『ぶっ、怖え! ヤクザにもちかけられるアルバイトってマジヤバそうなんすけど!?』
「割りはいいと思いますよ」
『ますますヤバげ! でも超気になるわ、どんなバイトっすか』
「今日一日、お嬢を見張って欲しいんです」
『ぶふっ、それマジで言ってんすか、ちょ、待ってくださいぶはははっ、ヤベウケる』
「大マジです。もちろん、お嬢本人には見つからないように。得意でしょう」
『まーね、得意っつか志麻センパイって注意力がミジンコだから目の前に居ても見つからねーと思うけど。つか、今日ってアレっしょ、水ぶちまけたヤクザと見合いやり直してるんでしょ』
「よくご存じで」
『その見合いを見張れってこと?』
「ええ。お嬢のことですから、また先方に失礼なことをするのではないかと心配なんですよ。ですから何か不穏な動きがあったら、すぐに自分に知らせて欲しいんです」
『え、それ俺必要なん? 朱虎サン、志麻センパイに仕掛けてるっしょGPSと盗聴器』
「目敏いですね。部室のジャマーは風間さんの仕業ですか」
『あれは円滑な部活動の運営のため部長命令で設置したんですヨ~、悪く思わないでね』
「別に構いませんよ、お嬢の居場所を把握するためのものですから」
『それ盗聴器の方は必要なくね?』
「そのジャマーを、どうやら先方も携帯なさっているようなんですよ」
『スルーかよ! って、マジで?』
「そのおかげで、こちらからはお嬢の動向も居場所も把握できません。ですので、風間さんに直接見張っていただきたい」
『まー、朱虎サンが直接見張るのは目立ちまくるもんな。分かるわ。つか、ジャマー持ち歩くってスゲー用心深いんだな、相手。獅子神蓮司って言ったっけ、どんな奴なん?』
「東雲会の若頭補佐です。組に入って僅か一年半ほどで頭角を現して今の地位に上ってきた実力者です」
『ひえー、おっかねえの』
「穏やかで理性的な方ですよ。お嬢の非礼も許してくださいましたしね」
『フーン。でも、朱虎サンはわざわざ俺に連絡してくるほど何かを気にしてんだろ。志麻センパイが失礼なことするかも……って心配だけじゃねえっしょ』
「……」
『何がヤベーの? ぶっちゃけトーク頼むわ』
「……風間さん、この世界はメンツが何より大事なんですよ」
『うん?』
「女に、しかも高校生のガキに人前で水をぶっかけられりゃ、形だけでも何らかの落とし前を取らせなきゃいけねえ。……それなのに獅子神はお嬢をあっさり許しちまった」
『懐が深いんじゃね?』
「懐が深いを通り越して腰抜けと言われますよ。下手すりゃ東雲会が雲竜組に弱みでも握られてるのかと勘繰られるほどです」
『組同士の力関係まで影響出るわけね。でもさ、もしかしてその獅子神さんが志麻センパイに一目惚れしたとか』
「あり得ません」
『即答ウケんだけど』
「何を考えているのか知りませんが、どうもきな臭い。……いけすかねえ野郎ですよ」
『なーる。マジでぶっちゃけてくれたね~、聞いといてなんだけど俺にそこまで話してくれていいわけ?』
「とぼけなさんな。あんた、全くの素人じゃねえでしょう」
『うはははは! ま、当然俺の家のことも調べてるよね~』
「で、引き受けてくださいますか」
『いーよ。つか、既に見合い場所に向かってたり』
「話が早いですね」
『志麻センパイが昨日ポロッともらしてくれちゃったからさあ』
「……。では、バイト代ですが」
『あー金はいいわ。こないだタクシー代メチャ貰ったし。そんかわり、も一個だけ俺の質問に本音で答えてくれる?』
「何でしょう」
『志麻センパイじゃ勃たないってマジなん?』


        〇●〇

「俺、あんたに謝りたかったんだ」

 あたしとミカは美術館前の公園のベンチに座っていた。広い公園では子供たちが沢山遊んでいて、ママさんたちがそれを見守りながら和気あいあいと話している。ホームビデオでも撮ってるのかハンディカメラを構えているパパさんや、のんびりと絵を描いている人なんかもいて、いかにも平和な休日って感じだ。
 あたしの手には二本目のスポーツドリンクがあった。ミカが買ってきてくれたものだ。
 見た目は金髪に鼻ピアスでいかにも悪そうな奴なんだけど、やっぱりこいつって結構いい奴だ。

「謝るって何を?」
「色々……拉致ったこととか。スタンガン痛かったろ」

 近くで談笑していたママさんたちがぎょっとした顔でこっちをチラ見して、すすっと距離を取った。

「ちょっ……不穏な単語出さないでよ! いいよもう、気にしてないし。あんた、あたし達を助けてくれようとしたじゃない」
「助けられなかったけどな、ボコられただけだし。ほんとダセェわ、俺」

 ミカは苦笑いした。いかつい外見だけど、笑うと結構可愛い顔になる。

「何日か雲竜組の近くをうろうろしてたんだ。したら、偶然あんたが歩ってるのを見かけてさ。ワリー、後、つけてきた」
「えっ、全然気が付かなかった。もっと早く声かけてくれたら良かったのに」
「いや……実は、何度か声かけたんだけど、あんた気づいてくれなかったんだよ」
「え! ……ごめん」

 そういえば何度か声が聞こえたような気もする。寝不足でボーっとしてたせいでスルーしてた。

「や、俺もなんかビビッて声小っちゃかったし。……したら、目の前であんたがフラフラし始めてぶっ倒れかけたからさ」

 熱中症は寝不足で空腹、汗をかきすぎて水分不足で長時間直射日光を浴び続けるとなりやすいらしい。完全にフルコンボだった。

「俺、実家が農家だったからよ。農作業してるとたまにぶっ倒れるから、処置とか慣れてんだ」
「そうなんだ。ありがとう、ほんとに助かった」
「別に……あ、やべ」

 頭を下げると、ミカは慌てて目をそらした。

「あ~、さっき、介抱するときに、服少し触ったんだ」
「うん、ベルトゆるめてくれたよね。すごく楽になったよ」
「いや、ベルトだけじゃなくて、胸のとこのボタンも外したんだけど」
「えっ」
「その……下着見えてる」

 見ると、シャツワンピがわりと際どいとこまで開けられていた。

「ちょっ……は、早く言ってよ!?」
「いや、ちょっとしか見てねーから! てかあんた、見かけによらず結構胸でかいな……おごっ」

 あたしの拳がわき腹にめり込み、ミカは体をくの字に折った。

「しっかり見てんじゃん! しかも見かけによらずって何気に失礼過ぎない!?」
「うぐぐ……いやごめん、ほんとごめんなさい!」

 さっきまでの感謝の気持ちが吹っ飛ぶのを感じつつ、あたしは慌てて服を直した。
 ついでに時計を見ると、もう待ち合わせ時間ギリギリだ。

「あたし、そろそろ行かないと。じゃあね、ミカ」
「あ、ちょっと……!」

 立ち上がろうとした時、突然ミカがあたしの手を掴んだ。

「あ、あのよ! あんたにもう一つ話があって」
「あたし、人と待ち合わせしてるんだけど」
「大事な話なんだ」

 やたら真剣なまなざしに、あたしは首を傾げた。

「何?」

 ミカは少しためらってから、思い切ったように口を開いた。

「あ、あのさ! 俺……雲竜組に入れてもらえねーかな?」
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