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番外裏話その2:うちのお嬢はマジで可愛くない
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※これは18話までの朱虎視点のお話です。
ちょっとしたオマケだと思ってください(長いけど)
読まなくても本編に全く支障はありません。
なお、朱虎に対するイメージが著しく損なわれる可能性があります。ご注意ください。
「お嬢、自分は組に連絡入れますんで」
「あ……うん」
スマホを耳に当てながら、俺は密かに深呼吸した。
本当は寸前まで、あのクソ野郎の頭をぶち抜くつもりだった。ギリギリでお嬢が叫ばなかったら確実にやっていただろう。危ないところだった。
「斯波のアニキ、お嬢は確保しました」
『良かったあ。そっちはどう? 人出はいる?』
「はい。お嬢のガラさらった奴を捕まえてるんで、出迎えよこしてください」
『分かった、何人か手配するね』
「やったのは東雲会のチンピラです」
報告すると、電話の向こうで一瞬黙り込む気配が伝わってきた。
『……ああ、そう。へえ』
ややあって聞こえてきた声はトーンが微妙に変化している。
「突っ込みますか」
『そうねえ。この前獅子神くんと話した時には、ことを荒立てたくないって言ってたけどねえ、これじゃそうも言ってられないわあ』
あ、まずい。
斯波さんの言葉がオネエになっているのはブチ切れてるサインだ。
電話越しに殺意が伝わってくる気がして、背筋が粟立った。
「……すみません。俺がお嬢から目を離したせいです」
いくら「とっとと帰れ」と言われたのがムカついたからって、見合いの様子はきっちりモニタリングしておくべきだった。
素直に帰りはしなかったが、盗聴は中断してしまっていた。おかげで、風間から連絡が来るまで異常に気が付かずにいた。
自分自身に一番腹が立って仕方ない。
『ケジメは取ったんでしょ。とにかく、早く戻ってらっしゃい』
「分かりました」
電話を切って振り向くと、お嬢は何だかボケっとしていた。頬を冷やしていた氷が溶けて、腕を伝って服を濡らしているが気付いた様子もない。
さっきものすごい気迫で啖呵を切った女と同一人物とは、とても思えなかった。
疲れが一気に出たのだろうか。
「お嬢……」
近づいた俺はぎくりとした。
びしょぬれのワンピースが肌に貼り付いている。そのせいで、下着のラインがくっきりと浮かび上がっていた。
はっきり言って、エロい……
いやいやいやいや、待て待て。エロいってなんだ俺!?
アホか、相手はあのお嬢だぞ。
「氷が溶けて服が濡れてますよ」
俺は努めて冷静にハンカチを取り出すと、胸元を念入りに拭った。万が一にでも誰かに見られないよう、ジャケットも上からかぶせておく。
「あったかい……」
自分の姿がどんなことになっているのか全く理解していないお嬢は呑気に呟いている。
このままここに居たら、組の奴らがこの姿を見ることになってしまう。
そう考えると何だか妙に焦った。さっさと車に詰め込んでしまおう。
「自分は組の奴が来るまでここを見張ります。お嬢は先に車で待っていてくれますか」
「え」
「今、鍵を……」
「やだ!」
思いがけず大きな声に驚いて振り返ると、お嬢が必死な顔でこちらを見上げていた。
「絶対、やだ。……ひとりになりたくない」
絞り出すような言葉がしたたかに俺を殴りつけた。
思わず言葉に詰まっていると、お嬢は慌てたように目を泳がせて伏せた。
「……だって朱虎が来るまで帰れないんでしょ、だからここにいても良いじゃん。こいつらが起きたって朱虎がいれば大丈夫だし、だから」
俺のジャケットを掻き合わせた手が震えている。
「――お嬢」
俺はお嬢の隣に腰を下ろした。
うつむいた顔を覗き込むと、ぎゅっと体を縮こまらせ、眉をしかめて唇をかみしめている。
小さい頃によく見た、こいつが泣くのを必死に我慢している時の顔だ。
ああ、駄目だ畜生。
俺はこの顔が大嫌いだ。本当に見たくない。
何かを考えるより早く、俺はお嬢を抱き寄せていた。顔が見えないよう、胸にうずめる。
「自分の配慮が足りませんでした」
驚いたように震える身体は冷たくこわばっていた。
「傍にいます。もう大丈夫ですから」
宥めるように囁くと、ふっとお嬢が力を抜いた。俺の腕に柔らかな重みがかかる。
「ち……駐車場でね、環と二人でいた時に襲われたの。スタンガンで、いきなり環が倒れて、びっくりしたら、ビリッて」
お嬢は俺の胸に顔をうずめたまま、堰を切ったように吐き出した。相槌を打ちながら、頭から背中を撫でさすってやる。
「……でも環の手が震えてて、環だって怖いのに、あたしのせいで巻き込まれて、あたしの」
「お嬢のせいじゃありません」
部長が巻き込まれたことは、最もお嬢が気にしていることだろう。
「部長さんもそう仰っていたでしょう」
重ねて否定しても、お嬢はいやいやをするように小さく首を振った。
駄目だ。泣くんじゃない。
「……深呼吸してください」
俺の言葉に素直に従い、大きく息を吸って吐くのが伝わってくる。そのまま背を撫で続けていると、ジャケットを握りしめていた手がおずおずと俺の身体に回された。
ぴったりと密着した体が次第にリラックスしてくるのが分かる。しばらく経つと、ほうっと吐き出すような溜息がお嬢の口から洩れた。
どうやら、泣き出さずに済んだらしい。
それにしても、こうしていると昔に戻ったようだ。泣き虫で寂しがりのお嬢様はいくつになっても変わらないのだろうか。
いや、違うな。さっき盗聴器越しに聞いた啖呵が頭をよぎる。
思わず笑ってしまったのが伝わったのだろう、お嬢が顔を上げた。
「さっきのお嬢の啖呵、格好良かったですよ」
「えっ……聞いてたの?」
頬がパッと赤くなる。
「さすがですね」
照れたように笑ったお嬢が、ふと顔をしかめた。頬が痛むらしい。
「見せてください」
顎をつまんで確認する。赤くなって腫れてきてはいるが、そこまで酷くはなさそうだ。
あの野郎、女の顔を殴りやがって。
その辺で転がっている男に改めて怒りが再燃した。組に戻った後で、自分が何をしでかしたのかたっぷり教えてやる必要がある。
「ねえ、酷い? 目立つ?」
「大丈夫ですよ、いつも通りです」
なだめるために言ったつもりが、何故かお嬢は不機嫌そうな顔になった。
「さっき少し腫れてるって言ったよね。あたしの顔、いつも腫れてるみたいなブスってこと?」
何でそうなるんだ。
思わず笑ってしまう。どうやら、いつもの調子が戻ってきたらしい。
いや――
口を尖らせてこちらを見上げる、その目尻が赤くなって少し濡れている。
くそ、やっぱり泣いたのか。
そう思った瞬間、言うつもりのなかった言葉が滑り出ていた。
「お嬢はちゃんと可愛いですよ」
大きな瞳がびっくりしたように丸くなる。
ああ、こいつホントに素直だな。顔に全部出る。
そういうところが、昔から全然変わらない。
「ほ、ホント?」
「信じられませんか」
「……そんなことないけど」
本当だよ。
だから、もう泣くな。
そう言う代わりに、俺はお嬢の瞳を覗き込んだ。
大きな瞳に俺が映っている。ぽかんと開いた唇は、きつく噛みしめたせいで歯型がくっきりとついていた。
口紅をひいたみたいに鮮やかな赤い痕に目が吸い寄せられる。
今更ながら、ぴったりと密着した柔らかな身体がリアルに感じられた。指を滑らせて頬を撫でると、その身体がぴくりと震える。
「朱虎」
赤い唇から自分の名がこぼれると、鼓動が跳ねた。
どくどくと高鳴る心臓の音は俺のものか、それともこいつのものか、分からない。
大きな瞳の中の俺がどんどんと大きくなり、吐息がまじりあって――
「付き合ってんのか、あんたら?」
危うく声が出そうになった。
お嬢の方は「ふわっ!?」と間抜けな声を上げている。
足元に転がっている金髪の男がぽかんとこちらを見上げていた。
あれ、こんな奴いたか?
いや、待て。その前に今、俺は何をしようとしてたんだ?
水をぶっかけられたみたいに急速に頭が冷える。
違う。
俺はただ、こいつが泣きだすと面倒だから何とか宥めようとしただけだ。
あんまり顔のことを心配するから様子を確認して、別に酷いわけじゃないと安心させようと思って――
「あ、ごめん邪魔して。気になったからつい……」
うだうだしゃべっている金髪は、顔面に蹴りをぶち込んで黙らせた。
「すみません、ネズミが一匹残ってました」
「ええ!? ミカはあたしを助けてくれようとしたんだよ、一応。あーあ、完全に伸びちゃってる……」
金髪野郎を覗き込むお嬢から、俺はさり気なく体を離した。
「車に戻りますか、お嬢。自分もついて行きます」
「そうだね~……あれ、靴がない! 朱虎、あたしの靴見なかった?」
「知りませんが」
「さらわれたときに脱げたのかな……お気に入りだったのに、最悪。ねえ朱虎、車までおんぶして」
幽霊みたいに手を突き出してくるお嬢からは、さっきの雰囲気を気にしている様子は微塵もない。
まるっきりいつもの色気ゼロで我がままなお嬢だ。
「はいはい……分かりましたよ」
さっきのは気の迷いだ。疲れがたまってるところにイレギュラーなことが起こって、少しばかり感覚が狂っていただけだ。
こいつを可愛いと感じるなんて、ましてやそれ以上なんて絶対にありえない。
「お嬢、間食多すぎなんじゃないですか。重いです」
「ぎゃっ、なんてこと言うの朱虎! 重いとかサイテー!」
「蹴らないでください、地味に痛いんで」
お嬢を背負いながら、俺は改めてしっかりと心に刻んだ。
うちのお嬢は、全然、これっぽっちも、全く、可愛くなんかない。
※お読みいただきありがとうございます!
本編は引き続き、19話以降更新していきます。
ぜひ、本編の方もお楽しみください!
ちょっとしたオマケだと思ってください(長いけど)
読まなくても本編に全く支障はありません。
なお、朱虎に対するイメージが著しく損なわれる可能性があります。ご注意ください。
「お嬢、自分は組に連絡入れますんで」
「あ……うん」
スマホを耳に当てながら、俺は密かに深呼吸した。
本当は寸前まで、あのクソ野郎の頭をぶち抜くつもりだった。ギリギリでお嬢が叫ばなかったら確実にやっていただろう。危ないところだった。
「斯波のアニキ、お嬢は確保しました」
『良かったあ。そっちはどう? 人出はいる?』
「はい。お嬢のガラさらった奴を捕まえてるんで、出迎えよこしてください」
『分かった、何人か手配するね』
「やったのは東雲会のチンピラです」
報告すると、電話の向こうで一瞬黙り込む気配が伝わってきた。
『……ああ、そう。へえ』
ややあって聞こえてきた声はトーンが微妙に変化している。
「突っ込みますか」
『そうねえ。この前獅子神くんと話した時には、ことを荒立てたくないって言ってたけどねえ、これじゃそうも言ってられないわあ』
あ、まずい。
斯波さんの言葉がオネエになっているのはブチ切れてるサインだ。
電話越しに殺意が伝わってくる気がして、背筋が粟立った。
「……すみません。俺がお嬢から目を離したせいです」
いくら「とっとと帰れ」と言われたのがムカついたからって、見合いの様子はきっちりモニタリングしておくべきだった。
素直に帰りはしなかったが、盗聴は中断してしまっていた。おかげで、風間から連絡が来るまで異常に気が付かずにいた。
自分自身に一番腹が立って仕方ない。
『ケジメは取ったんでしょ。とにかく、早く戻ってらっしゃい』
「分かりました」
電話を切って振り向くと、お嬢は何だかボケっとしていた。頬を冷やしていた氷が溶けて、腕を伝って服を濡らしているが気付いた様子もない。
さっきものすごい気迫で啖呵を切った女と同一人物とは、とても思えなかった。
疲れが一気に出たのだろうか。
「お嬢……」
近づいた俺はぎくりとした。
びしょぬれのワンピースが肌に貼り付いている。そのせいで、下着のラインがくっきりと浮かび上がっていた。
はっきり言って、エロい……
いやいやいやいや、待て待て。エロいってなんだ俺!?
アホか、相手はあのお嬢だぞ。
「氷が溶けて服が濡れてますよ」
俺は努めて冷静にハンカチを取り出すと、胸元を念入りに拭った。万が一にでも誰かに見られないよう、ジャケットも上からかぶせておく。
「あったかい……」
自分の姿がどんなことになっているのか全く理解していないお嬢は呑気に呟いている。
このままここに居たら、組の奴らがこの姿を見ることになってしまう。
そう考えると何だか妙に焦った。さっさと車に詰め込んでしまおう。
「自分は組の奴が来るまでここを見張ります。お嬢は先に車で待っていてくれますか」
「え」
「今、鍵を……」
「やだ!」
思いがけず大きな声に驚いて振り返ると、お嬢が必死な顔でこちらを見上げていた。
「絶対、やだ。……ひとりになりたくない」
絞り出すような言葉がしたたかに俺を殴りつけた。
思わず言葉に詰まっていると、お嬢は慌てたように目を泳がせて伏せた。
「……だって朱虎が来るまで帰れないんでしょ、だからここにいても良いじゃん。こいつらが起きたって朱虎がいれば大丈夫だし、だから」
俺のジャケットを掻き合わせた手が震えている。
「――お嬢」
俺はお嬢の隣に腰を下ろした。
うつむいた顔を覗き込むと、ぎゅっと体を縮こまらせ、眉をしかめて唇をかみしめている。
小さい頃によく見た、こいつが泣くのを必死に我慢している時の顔だ。
ああ、駄目だ畜生。
俺はこの顔が大嫌いだ。本当に見たくない。
何かを考えるより早く、俺はお嬢を抱き寄せていた。顔が見えないよう、胸にうずめる。
「自分の配慮が足りませんでした」
驚いたように震える身体は冷たくこわばっていた。
「傍にいます。もう大丈夫ですから」
宥めるように囁くと、ふっとお嬢が力を抜いた。俺の腕に柔らかな重みがかかる。
「ち……駐車場でね、環と二人でいた時に襲われたの。スタンガンで、いきなり環が倒れて、びっくりしたら、ビリッて」
お嬢は俺の胸に顔をうずめたまま、堰を切ったように吐き出した。相槌を打ちながら、頭から背中を撫でさすってやる。
「……でも環の手が震えてて、環だって怖いのに、あたしのせいで巻き込まれて、あたしの」
「お嬢のせいじゃありません」
部長が巻き込まれたことは、最もお嬢が気にしていることだろう。
「部長さんもそう仰っていたでしょう」
重ねて否定しても、お嬢はいやいやをするように小さく首を振った。
駄目だ。泣くんじゃない。
「……深呼吸してください」
俺の言葉に素直に従い、大きく息を吸って吐くのが伝わってくる。そのまま背を撫で続けていると、ジャケットを握りしめていた手がおずおずと俺の身体に回された。
ぴったりと密着した体が次第にリラックスしてくるのが分かる。しばらく経つと、ほうっと吐き出すような溜息がお嬢の口から洩れた。
どうやら、泣き出さずに済んだらしい。
それにしても、こうしていると昔に戻ったようだ。泣き虫で寂しがりのお嬢様はいくつになっても変わらないのだろうか。
いや、違うな。さっき盗聴器越しに聞いた啖呵が頭をよぎる。
思わず笑ってしまったのが伝わったのだろう、お嬢が顔を上げた。
「さっきのお嬢の啖呵、格好良かったですよ」
「えっ……聞いてたの?」
頬がパッと赤くなる。
「さすがですね」
照れたように笑ったお嬢が、ふと顔をしかめた。頬が痛むらしい。
「見せてください」
顎をつまんで確認する。赤くなって腫れてきてはいるが、そこまで酷くはなさそうだ。
あの野郎、女の顔を殴りやがって。
その辺で転がっている男に改めて怒りが再燃した。組に戻った後で、自分が何をしでかしたのかたっぷり教えてやる必要がある。
「ねえ、酷い? 目立つ?」
「大丈夫ですよ、いつも通りです」
なだめるために言ったつもりが、何故かお嬢は不機嫌そうな顔になった。
「さっき少し腫れてるって言ったよね。あたしの顔、いつも腫れてるみたいなブスってこと?」
何でそうなるんだ。
思わず笑ってしまう。どうやら、いつもの調子が戻ってきたらしい。
いや――
口を尖らせてこちらを見上げる、その目尻が赤くなって少し濡れている。
くそ、やっぱり泣いたのか。
そう思った瞬間、言うつもりのなかった言葉が滑り出ていた。
「お嬢はちゃんと可愛いですよ」
大きな瞳がびっくりしたように丸くなる。
ああ、こいつホントに素直だな。顔に全部出る。
そういうところが、昔から全然変わらない。
「ほ、ホント?」
「信じられませんか」
「……そんなことないけど」
本当だよ。
だから、もう泣くな。
そう言う代わりに、俺はお嬢の瞳を覗き込んだ。
大きな瞳に俺が映っている。ぽかんと開いた唇は、きつく噛みしめたせいで歯型がくっきりとついていた。
口紅をひいたみたいに鮮やかな赤い痕に目が吸い寄せられる。
今更ながら、ぴったりと密着した柔らかな身体がリアルに感じられた。指を滑らせて頬を撫でると、その身体がぴくりと震える。
「朱虎」
赤い唇から自分の名がこぼれると、鼓動が跳ねた。
どくどくと高鳴る心臓の音は俺のものか、それともこいつのものか、分からない。
大きな瞳の中の俺がどんどんと大きくなり、吐息がまじりあって――
「付き合ってんのか、あんたら?」
危うく声が出そうになった。
お嬢の方は「ふわっ!?」と間抜けな声を上げている。
足元に転がっている金髪の男がぽかんとこちらを見上げていた。
あれ、こんな奴いたか?
いや、待て。その前に今、俺は何をしようとしてたんだ?
水をぶっかけられたみたいに急速に頭が冷える。
違う。
俺はただ、こいつが泣きだすと面倒だから何とか宥めようとしただけだ。
あんまり顔のことを心配するから様子を確認して、別に酷いわけじゃないと安心させようと思って――
「あ、ごめん邪魔して。気になったからつい……」
うだうだしゃべっている金髪は、顔面に蹴りをぶち込んで黙らせた。
「すみません、ネズミが一匹残ってました」
「ええ!? ミカはあたしを助けてくれようとしたんだよ、一応。あーあ、完全に伸びちゃってる……」
金髪野郎を覗き込むお嬢から、俺はさり気なく体を離した。
「車に戻りますか、お嬢。自分もついて行きます」
「そうだね~……あれ、靴がない! 朱虎、あたしの靴見なかった?」
「知りませんが」
「さらわれたときに脱げたのかな……お気に入りだったのに、最悪。ねえ朱虎、車までおんぶして」
幽霊みたいに手を突き出してくるお嬢からは、さっきの雰囲気を気にしている様子は微塵もない。
まるっきりいつもの色気ゼロで我がままなお嬢だ。
「はいはい……分かりましたよ」
さっきのは気の迷いだ。疲れがたまってるところにイレギュラーなことが起こって、少しばかり感覚が狂っていただけだ。
こいつを可愛いと感じるなんて、ましてやそれ以上なんて絶対にありえない。
「お嬢、間食多すぎなんじゃないですか。重いです」
「ぎゃっ、なんてこと言うの朱虎! 重いとかサイテー!」
「蹴らないでください、地味に痛いんで」
お嬢を背負いながら、俺は改めてしっかりと心に刻んだ。
うちのお嬢は、全然、これっぽっちも、全く、可愛くなんかない。
※お読みいただきありがとうございます!
本編は引き続き、19話以降更新していきます。
ぜひ、本編の方もお楽しみください!
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