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16. クズ野郎とか特別オーダーとか、
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環の震える手を見た瞬間、さあっ、と全身が冷たくなった。
頭が殴られたみたいにぐらりとする。
あたし、バカだ。
環だって、こんな状況で平気なわけがない。怖いに決まってる。ただ、我慢してるだけだ。
あたしのせいで、こんな怖い目に合ってるのに。
呆然とするあたしの前で、「あっくん」が不意に笑った。嫌らしく、悪意に満ちた顔で。
「こっちも保証がねえとな」
「……保証?」
「今からお前らを裸に剥いて動画を撮る」
一瞬、何を言い出したのか分からなかった。
ドアに寄り掛かった短髪つなぎが口笛を吹く。
「どれだけ意地張ってても、裸にされりゃ泣くだろ。俺はお前みたいな生意気なガキを泣かせるのが好きなんだよ」
「私は……」
「良いから黙って裸で泣けってんだよ、クソ女!!」
罵声に環の肩が小さく跳ねた。
その様子を見た「あっくん」がますます嫌らしく笑う。
冷めていた頭が一気に沸騰するのが分かった。
「……離せ」
「あっくん」が眉をひそめてこっちを見る。
「あ? なに……」
「その手を離せって言ってんのよ、このクズ野郎!!」
あたしは立ち上がっていた。
目の前が真っ赤になるくらい腹が立ってる。
全身がぐつぐつ煮えたぎってるみたいだ。
「高校生の女の子を泣かせて喜ぶ最低のゴミクズ野郎が、あたしの友達に触るんじゃない!!」
「……なんだと、てめえ」
「あっくん」の顔が真っ赤に染まった。環を突き飛ばすように離すと、あたしに向き直る。
「誰がゴミクズだと!?」
「あんたのことに決まってんじゃない。女さらって金引っ張ってこようなんて、やることが姑息なんだよ!!」
「この……」
「その上、口止めに裸に剥いて動画撮る!? 散々クソ女だの騒いでたけど、クソはあんたの方でしょ、このゲス!!」
額に血管を浮き上がらせた「あっくん」がポケットから折り畳みナイフを引き抜いた。きらめく刃があたしの鼻先に突き出される。
「そのツラ切り刻まれたくなかったら今すぐ土下座しろや!!」
「志麻っ……!」
環の押し殺した声がさらに熱を注ぐ。
ふつふつと煮えたぎる頭の奥は、不思議と冴えていた。
あたしは落ち着いて「あっくん」の眼を見返した。
「腕縛られた女子高生相手に、ナイフまで出すんだ。あんた、ホントに小物だね」
「こっ……クソ女が、本気で刺すぞ!」
「刺せるもんならやってみなよ」
刃はこっちを向いている。相手は理性が飛んで激高している。
腕は縛られて、ろくに動けない。
それでも怖さより、怒りが圧倒的に勝っていた。
「あたしはあんたみたいなゲス野郎に土下座なんてしないし、あんたを絶対許さない」
あたしは突き出されたナイフ越しに「あっくん」の血走った眼と睨みあった。
朱虎が前に言っていた。
ケンカは目をそらした方が負ける。だから、睨み合いから絶対に目をそらしちゃ駄目だって。
そらすもんか。
あたしの友達を傷つけたやつは、絶対に許さない。
「……う、ううっ」
「あっくん」の額に汗が浮かんだ。ナイフの切っ先が次第に大きく震え出す。
「ち、畜生……ちくしょう、何だお前……」
ギリギリと歯がきしむ音がして、「あっくん」の手からナイフが滑り落ちた。
床にぶつかるキン、という高い音に、思わず一瞬息を吐いてしまう。
あたしと「あっくん」の間の空気がほんの少しだけ緩んだ。
「う……ああああああクソがッ!」
「きゃあっ!!」
絶叫とともに、「あっくん」はこぶしを握り締めてあたしの頬を殴り飛ばした。目がチカチカする痛みと衝撃が走り、体が床にたたきつけられる。
「志麻っ!」
環の声が妙に遠く聞こえて、頭がグラグラした。
「クソ女が! てめえに何が出来るってんだ、ええ!? 何が出来るってんだよ!!」
「あ、ううっ」
ペンダントをわしづかみにされて引きずり起され、喉の奥からうめき声が漏れた。
「オラ、助けてくださいって言え! 偉そうなことほざいてすみませんでしたって言えよ!!」
がくがくと揺さぶられて、ペンダントのチェーンが首に食い込んだ。
ここに朱虎がいたら、こんな奴なんかすぐにやっつけてくれるのに。
朱虎がいてくれたら。
「う、ぐぅっ……!」
大きく揺さぶられたとき、ペンダントの黄色い花が目に飛び込んできた。
――このペンダントは特別オーダーです。
「どうだ!? 何も出来ねえだろうが!!」
あたしは揺さぶられる勢いに乗って、一気に体を後ろに反らした。チェーンが首に強く食い込み――「あっくん」の手の中に花を残して、チェーンが外れる。
とたんにけたたましいサイレンが部屋中に鳴り響いた。音を一番間近でもろに食らった「あっくん」が尻もちをつく。
「なっ、なんだ!? うるせえっ!」
音の出どころに気付いた「あっくん」が転がった黄色い花を思いっきり踏みつけたが、音は全くやむ気配がない。さすが特別オーダーだ。
「クソッ、なんだこりゃ! おい、止めろ!」
「真ん中の黒い石!! 押したら止まる!!」
ずりずりと這って距離を取りながら、あたしは叫んだ。「あっくん」が花をつまみ上げ、黒い石を押す。
次の瞬間、花全体から白い煙が一斉に噴出した。
「なっ……ぐわああああっ!?」
もろに催涙ガスを食らった「あっくん」が悲鳴を上げて顔を押え、倒れこむ。
「あはははは、ざまーみろ! うえ……ゲホゲホッ」
なるべく距離をとったけど、催涙ガスの余波で喉と目が痛い。
朱虎のやつ、どれだけ強力なガスを仕込んだんだろうか。
「このクソガキぃぃっ!!」
裏返った怒鳴り声に振り替えると、「あっくん」がナイフを握り締めたところだった。こちらに向かってよろよろ歩いてくる。
あ、ヤバい。完全にキレてる。
あとじさった背にソファが当たる。その後ろは壁だ。
「殺すっ!」
涙と鼻水をだらだら流した「あっくん」がナイフを振り上げた時――突然、入り口のドアがものすごい音を立てて軋んだ。
何か重いものがぶつかったような――思いっきり蹴飛ばされたような音だ。
傍に立っていた短髪つなぎが、慌ててすりガラスの向こうを覗き込んだ。
「何だ、今蹴りやがったのはてめぇか……」
衝撃とともにドアが内側へ吹っ飛んだ。短髪つなぎがなぎ倒される。
「ぐはっ……!」
短髪つなぎが押しつぶされたドアを容赦なく踏んで、蹴り破った張本人がのっそりと入ってきた。
白く煙るガスの中で赤い髪が鮮やかに揺れる。
「無事ですか、お嬢」
声音は飄々として、ムカつくくらいいつものまま。
ほっとして、全身から一気に力が抜ける。じわりと涙がにじんだ。
「……朱虎、遅い!」
頭が殴られたみたいにぐらりとする。
あたし、バカだ。
環だって、こんな状況で平気なわけがない。怖いに決まってる。ただ、我慢してるだけだ。
あたしのせいで、こんな怖い目に合ってるのに。
呆然とするあたしの前で、「あっくん」が不意に笑った。嫌らしく、悪意に満ちた顔で。
「こっちも保証がねえとな」
「……保証?」
「今からお前らを裸に剥いて動画を撮る」
一瞬、何を言い出したのか分からなかった。
ドアに寄り掛かった短髪つなぎが口笛を吹く。
「どれだけ意地張ってても、裸にされりゃ泣くだろ。俺はお前みたいな生意気なガキを泣かせるのが好きなんだよ」
「私は……」
「良いから黙って裸で泣けってんだよ、クソ女!!」
罵声に環の肩が小さく跳ねた。
その様子を見た「あっくん」がますます嫌らしく笑う。
冷めていた頭が一気に沸騰するのが分かった。
「……離せ」
「あっくん」が眉をひそめてこっちを見る。
「あ? なに……」
「その手を離せって言ってんのよ、このクズ野郎!!」
あたしは立ち上がっていた。
目の前が真っ赤になるくらい腹が立ってる。
全身がぐつぐつ煮えたぎってるみたいだ。
「高校生の女の子を泣かせて喜ぶ最低のゴミクズ野郎が、あたしの友達に触るんじゃない!!」
「……なんだと、てめえ」
「あっくん」の顔が真っ赤に染まった。環を突き飛ばすように離すと、あたしに向き直る。
「誰がゴミクズだと!?」
「あんたのことに決まってんじゃない。女さらって金引っ張ってこようなんて、やることが姑息なんだよ!!」
「この……」
「その上、口止めに裸に剥いて動画撮る!? 散々クソ女だの騒いでたけど、クソはあんたの方でしょ、このゲス!!」
額に血管を浮き上がらせた「あっくん」がポケットから折り畳みナイフを引き抜いた。きらめく刃があたしの鼻先に突き出される。
「そのツラ切り刻まれたくなかったら今すぐ土下座しろや!!」
「志麻っ……!」
環の押し殺した声がさらに熱を注ぐ。
ふつふつと煮えたぎる頭の奥は、不思議と冴えていた。
あたしは落ち着いて「あっくん」の眼を見返した。
「腕縛られた女子高生相手に、ナイフまで出すんだ。あんた、ホントに小物だね」
「こっ……クソ女が、本気で刺すぞ!」
「刺せるもんならやってみなよ」
刃はこっちを向いている。相手は理性が飛んで激高している。
腕は縛られて、ろくに動けない。
それでも怖さより、怒りが圧倒的に勝っていた。
「あたしはあんたみたいなゲス野郎に土下座なんてしないし、あんたを絶対許さない」
あたしは突き出されたナイフ越しに「あっくん」の血走った眼と睨みあった。
朱虎が前に言っていた。
ケンカは目をそらした方が負ける。だから、睨み合いから絶対に目をそらしちゃ駄目だって。
そらすもんか。
あたしの友達を傷つけたやつは、絶対に許さない。
「……う、ううっ」
「あっくん」の額に汗が浮かんだ。ナイフの切っ先が次第に大きく震え出す。
「ち、畜生……ちくしょう、何だお前……」
ギリギリと歯がきしむ音がして、「あっくん」の手からナイフが滑り落ちた。
床にぶつかるキン、という高い音に、思わず一瞬息を吐いてしまう。
あたしと「あっくん」の間の空気がほんの少しだけ緩んだ。
「う……ああああああクソがッ!」
「きゃあっ!!」
絶叫とともに、「あっくん」はこぶしを握り締めてあたしの頬を殴り飛ばした。目がチカチカする痛みと衝撃が走り、体が床にたたきつけられる。
「志麻っ!」
環の声が妙に遠く聞こえて、頭がグラグラした。
「クソ女が! てめえに何が出来るってんだ、ええ!? 何が出来るってんだよ!!」
「あ、ううっ」
ペンダントをわしづかみにされて引きずり起され、喉の奥からうめき声が漏れた。
「オラ、助けてくださいって言え! 偉そうなことほざいてすみませんでしたって言えよ!!」
がくがくと揺さぶられて、ペンダントのチェーンが首に食い込んだ。
ここに朱虎がいたら、こんな奴なんかすぐにやっつけてくれるのに。
朱虎がいてくれたら。
「う、ぐぅっ……!」
大きく揺さぶられたとき、ペンダントの黄色い花が目に飛び込んできた。
――このペンダントは特別オーダーです。
「どうだ!? 何も出来ねえだろうが!!」
あたしは揺さぶられる勢いに乗って、一気に体を後ろに反らした。チェーンが首に強く食い込み――「あっくん」の手の中に花を残して、チェーンが外れる。
とたんにけたたましいサイレンが部屋中に鳴り響いた。音を一番間近でもろに食らった「あっくん」が尻もちをつく。
「なっ、なんだ!? うるせえっ!」
音の出どころに気付いた「あっくん」が転がった黄色い花を思いっきり踏みつけたが、音は全くやむ気配がない。さすが特別オーダーだ。
「クソッ、なんだこりゃ! おい、止めろ!」
「真ん中の黒い石!! 押したら止まる!!」
ずりずりと這って距離を取りながら、あたしは叫んだ。「あっくん」が花をつまみ上げ、黒い石を押す。
次の瞬間、花全体から白い煙が一斉に噴出した。
「なっ……ぐわああああっ!?」
もろに催涙ガスを食らった「あっくん」が悲鳴を上げて顔を押え、倒れこむ。
「あはははは、ざまーみろ! うえ……ゲホゲホッ」
なるべく距離をとったけど、催涙ガスの余波で喉と目が痛い。
朱虎のやつ、どれだけ強力なガスを仕込んだんだろうか。
「このクソガキぃぃっ!!」
裏返った怒鳴り声に振り替えると、「あっくん」がナイフを握り締めたところだった。こちらに向かってよろよろ歩いてくる。
あ、ヤバい。完全にキレてる。
あとじさった背にソファが当たる。その後ろは壁だ。
「殺すっ!」
涙と鼻水をだらだら流した「あっくん」がナイフを振り上げた時――突然、入り口のドアがものすごい音を立てて軋んだ。
何か重いものがぶつかったような――思いっきり蹴飛ばされたような音だ。
傍に立っていた短髪つなぎが、慌ててすりガラスの向こうを覗き込んだ。
「何だ、今蹴りやがったのはてめぇか……」
衝撃とともにドアが内側へ吹っ飛んだ。短髪つなぎがなぎ倒される。
「ぐはっ……!」
短髪つなぎが押しつぶされたドアを容赦なく踏んで、蹴り破った張本人がのっそりと入ってきた。
白く煙るガスの中で赤い髪が鮮やかに揺れる。
「無事ですか、お嬢」
声音は飄々として、ムカつくくらいいつものまま。
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