ヤクザのせいで結婚できない!

山吹

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13. 拉致監禁とか黒ウーロン(氷あり)とか

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 頭が痛い。

「……あ~、だりい。いつまで見張ってりゃいいんだよ、クソ」
「目が覚めるまでだろ。つか、二人いるけどどうすんだよマジで」
「知らねえよんなこと。あっくんに聞けよ」
「やだよ、殴られっし」

 知らない声の男が二人話してる。
 びりびり痛む頭に声が響いて、うるさくてたまらない。
 あれ? あたし、何してたんだっけ。

「あっくんとこ行ってくるわ。ちゃんと見張っとけよ、ミカ」
「ああ」

 ガチャリとドアが開く音がして、閉まる。
 残ったほうがため息をついた。

「……あー、マジ最悪。女を拉致るとか……だっせえ、何やってんだ俺」

 ラチル? 
 らちる……拉致?

「しかし全然起きねえな。コレ、生きてんのか?」

 つんつん、と頬をつつかれた。

「スタンガン強すぎたんかな。……あ、パンツ見えてる」

 ……なんだと!?
 ぼんやりしていた意識が急にはっきりした。

「――パンツ見るなスケベッ!!」
「うぉわっ!?」

 跳ね起きると、覗き込んでいた人影が驚いたように後ずさった。
 勢いがつきすぎて体がぐらりと傾く。とっさに手をつこう――としたけど、できなかった。腕が後ろで縛られている。

「ウソ!? うわわっ……わぶっ!」

 あたしは顔面から床に着地した。目から火花が出そうになる。

「い、いった~……何? なんなの?」

 あたしは体をくねらせ、何とか体を起こしてあたりを見回した。
 薄暗い部屋はかなり大きいようだった。床はふかふかしたカーペットが敷かれて、奥にはバーカウンターらしきものがある。離れたところにあるドアはすりガラスで、外の様子は見えない。どうやら、カラオケ店のパーティルームのような場所のようだ。壁に沿って横長のソファが置かれていて、あたしはそこに寝かされていたようだった。

「……お、おい。大丈夫か?」

 テーブルをはさんで、金髪で鼻ピアスをしたチャラい兄さんがこっちをうかがっている。
 どうやら、さっきあたしの頬をつついたのはこいつらしい。

「大丈夫なわけないじゃん……って、誰?」
「俺はミカ……あ」

 チャラい兄さんは名乗ってからハッとした顔になった。
 明らかに焦ってあたふたしている。

「いや、今のは違くて……あー」

 こっちが聞いておいてなんだけど、今、もしかして名乗っちゃいけなかったのではないだろうか。

「ミカね」
「……ああ」

 念を押すと、ミカはあきらめたように頷いた。
 なんかアホっぽいな、この人……。昔飼ってたハムスターにちょっと似てる。
 まだ覚めきってない頭でぼんやり考えていると、ハム……じゃなくてミカはあたしの顔を見て心配そうな表情になった。

「なあ、鼻血出てるぞ。拭いてやろうか」
「えっ、やだ。お願い」

 反射的に頷くと、ミカはティッシュを手に近寄ってきた。意外に丁寧な手つきで顔を拭かれるうちに、だんだん記憶がよみがえってくる。
 そうだ、確か駐車場で今黒さんを待っていたんだっけ。そこに環が現れて、びっくりしたんだ。話していたら、急に環が倒れてきて、受け止めたら体に衝撃が走って……。

「血が止まってるから、鼻には詰めなくていいな」
「あ、ども、ありがとう……って」

 それで、なんだこの状況は。

「拉致監禁だな」

 冷静な声がすぐそばで聞こえて、あたしは驚いて振り返った。
 傍のソファに寝かされていたらしい環が、体を起こすところだった。腕は後ろで結束バンドとガムテープでぐるぐる巻きに縛られている。多分、あたしの腕も同じようになっているんだろう。

「環! 良かった、無事で……ん? 今、なんて言った?」
「あまり無事ではないぞ、お互い」

 ソファに背を預けた環は一つ息を吐いた。

「拉致監禁。まあ、要するに誘拐だな」
「誘拐っ!?」

 あたしの声にティッシュを片付けていたミカがビクッとした。

「あまり叫ぶな、頭に響く」

 環は眉をひそめた。

「スタンガンでも食らわせられたな、おそらく」
「あ、あのビリッてする奴!? あれスタンガンだったんだ……すごい痛かった」
「貴重な初体験だ」
「嬉しくないよ!」
「なあ」

 あたしたちは揃って振り返った。突っ立っていたミカは、あたしたちの視線にたじろいだように瞬いた。

「えーと……なんか飲むか?」
「はあ!? 何のんきなこと言ってんの、あたし達を誘拐しといて! ねえ環!」
「ウーロン茶はあるか」

 あたしがにらみつける横で環がしれっと注文した。
 ミカがほっとしたような顔になる。

「お、おう! ウーロン茶あるぜ、多分」
「出来れば黒ウーロンが望ましい」
「分かった。あんたは?」

 ふざけんな、と言いかけたけどよく考えたらのどが渇いている。

「じゃあ、あたしはオレンジジュース。100%ね」
「ああ? あったかな」
「ちゃんとグラスに入れてストローつけてよ! あ、氷は入れないでね」
「私は氷を入れてほしい」
「注文こまけえなあ……え? ウーロン茶が氷入りだっけ」

 ミカはぶつぶつ言いながら、奥の冷蔵庫を開けて缶を二つ取り出した。
 その間に、あたしはずりずりと環の横に移動した。

「環すごい、落ち着いてるね」
「よく監禁される妄想をしているからな。しかし、想像より苦しいものだな……志麻、腕の戒めをどうにか出来んか」
「うっ、無理。朱虎から外し方レクチャーされたことあるけど、一度も成功したことない」
「そんなことまでレクチャーされるのか。私にもぜひ教えてくれ」
「ええ? 楽しくないよ、痛いし」
「いざというときに役立つだろう、たとえば今とかな。ところで、スマホを持っているか」

 飲み物を用意するミカを警戒しながら、環がぼそぼそとささやいた。

「私はバッグに入れていたんだが、落としたらしい。君は?」
「スマホは確かポケットに……あ、違う、今黒さんが持ってるんだった」

 あたしの頭を今黒さんがよぎった。

「今黒氏とは確か見合い相手だったな。なぜ彼が?」
「帰るときにあたしが朱虎を呼ぼうとしたら、『自分が家まで送るから』って、さっと取り上げられちゃって……」

 そうだ、今黒さんだ。
 あたしは目の前が明るくなった気がした。

「今黒氏が取り上げた……?」
「今黒さんとは駐車場で待ち合わせてたから……きっとあたしがいないことに気づいて、今頃探してくれてるよ!」

 もうとっくに門限は過ぎてるはずだ。そうしたら朱虎からも今黒さんに連絡が入ってるだろうから、朱虎にもあたしがいなくなったことが伝わってるに違いない。

「朱虎、心配してるかなあ……いや、めちゃくちゃ怒ってるかも」
「待て、志麻。駐車場に一人でいたのは、今黒氏から言われたからなんだな?」
「そうだよ。ちょっと用があるから、先に駐車場で待っててくれって」

 環がますます難しい顔になった。

「どうしたの、環? まだ頭痛いの?」
「……志麻、朱虎さんの助けは期待しない方がいいかもしれん」
「え?」
「後で話す」
 ミカが戻ってくるのを見た環は、意味ありげに話題を打ち切った。
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