12 / 111
12. デバガメとか急展開とか
しおりを挟む
人気のない駐車場で、あたしはぽつんと突っ立っていた。スマホを取られちゃったのでやることがない。
夜風に吹かれていると、舞い上がってた頭がだんだん冷えていくのを感じた。
さっき触られた手を撫でてみる。
今黒さんの手の感触を思い出すと、またぞわっと鳥肌が立った。
無理。触られたくない。
でも、結婚することになったら手を握られるどころじゃすまない。
問題は、触られるのが嫌って感覚は「今黒さんだから」なのか、「いきなり触られたから」なのかってところだ。
「どーしよ……今黒さんはあたしのこと気に入ってくれたみたいだけど。……でも、ここで断っちゃったら、別の相手なんかいるのかな?」
悩んでいると黒いワゴンが駐車場に入ってきたので、隅に移動する。自動販売機の前のベンチに座ろうとしたところで、ポンと肩をたたかれた。
「ひゃっ!?」
振り返ると、そこにはつば広の帽子をかぶった女のひとが立っていた。黒いシックなワンピースにさらさらのロングヘア―でいかにもお金持ちのマダムって感じだ。
「あの……何か用ですか?」
「私だ」
「え?」
マダムが帽子を取った。影になっていた顔を見て、あたしは大きく口を開けた。
「……環!?」
「そうだ」
「えっ、ウソ! 全然雰囲気違う! なんかすごい大人っぽいっていうか、マダムって感じ!」
「そうだろう、変装しているからな」
「へー変装してるんだ! でも綺麗だね、超似合ってるよ! ……ん? 何で変装?」
「見合いウォッチングのためだ」
「は?」
環ははっきりと繰り返した。
「今日一日、お前の見合いを見ていたぞ」
「……ええええっ!? う、うそっ、全然気が付かなかった……!」
「そのための変装だからな」
あたしは混乱した。
え? こういう時ってどういう反応すべき?
「み、見てたって、盗み見してたってこと? それもしかしてデバガメって奴……!?」
「そうとも言うな」
あれ?
もしかして、ここって怒るべきなのでは!?
でも環はメチャクチャ堂々としてるし……!?
「な……なんで? 何で変装までして見てたの?」
パニック状態になりながら尋ねると、環は静かにうなずき――かっと目を見開いた。
「もちろん、志麻が心配だったからだ!」
「えっ……し、心配?」
思いもよらない言葉に、あたしは再びぽかんとした。
「心配って、あたしを?」
「そうだお前をだ。高校生の身空で謎の実業家と見合いと聞いてとにかく気にかかってな。よもや何か良からぬことを無理強いされるのではないかと居ても立ってもいられず、こうして見守っていたというわけだ」
「……環!」
あたしは確信した。
ここは間違いなく感動するシーンだ!
あたしはぎゅっと環の手を握り締めた。
「あたしのこと、そんなに心配してくれたなんて……あ、ありがとうっ!」
「何の何の。同じ文芸部の仲間ではないか」
「友達に心配されるのなんて初めてだよーっ! もしかして小説の取材のためなのかな、とかちょっと思ってごめん!」
「実はそれも大いにある」
「ん?」
あたしが首を傾げたとき、不意に環の後ろに誰かが立っているのが見えた。
黒いキャップを目深にかぶった大きな男のひとだ。
「あれ? 今度は誰?」
チチチッ、と鳥が鳴くような音がして、環がはっと振り返ろうとする。
次の瞬間、バチッ! と何かが弾けた。
同時に環がびくりと震え、倒れかかってくる。
どさり、と持っていたハンドバッグが転がった。
「た、環!? どうし――」
思わず環の体を支えたとき、チチチッ、と今度はあたしの後ろで音がした。
直後、背中に何か押し付けられたかと思うと、全身に痺れるような衝撃が走った。
「っ――!?」
声も出せず、体の力が一気に抜ける。
あたしは環と折り重なるようにその場に倒れた。
「おい、二人いるぞ」
「どっちだよクソ」
「いいから両方連れていけ!」
視界の端に黒いワゴンが見えた。確か、さっき駐車場に入ってきた――
ぐいと乱暴に引っ張られたところで、あたしの意識はふっつり途絶えた。
「……マジかよ、そこまでするか? ヤベーな、連絡しねーと。えっと、名刺名刺……」
夜風に吹かれていると、舞い上がってた頭がだんだん冷えていくのを感じた。
さっき触られた手を撫でてみる。
今黒さんの手の感触を思い出すと、またぞわっと鳥肌が立った。
無理。触られたくない。
でも、結婚することになったら手を握られるどころじゃすまない。
問題は、触られるのが嫌って感覚は「今黒さんだから」なのか、「いきなり触られたから」なのかってところだ。
「どーしよ……今黒さんはあたしのこと気に入ってくれたみたいだけど。……でも、ここで断っちゃったら、別の相手なんかいるのかな?」
悩んでいると黒いワゴンが駐車場に入ってきたので、隅に移動する。自動販売機の前のベンチに座ろうとしたところで、ポンと肩をたたかれた。
「ひゃっ!?」
振り返ると、そこにはつば広の帽子をかぶった女のひとが立っていた。黒いシックなワンピースにさらさらのロングヘア―でいかにもお金持ちのマダムって感じだ。
「あの……何か用ですか?」
「私だ」
「え?」
マダムが帽子を取った。影になっていた顔を見て、あたしは大きく口を開けた。
「……環!?」
「そうだ」
「えっ、ウソ! 全然雰囲気違う! なんかすごい大人っぽいっていうか、マダムって感じ!」
「そうだろう、変装しているからな」
「へー変装してるんだ! でも綺麗だね、超似合ってるよ! ……ん? 何で変装?」
「見合いウォッチングのためだ」
「は?」
環ははっきりと繰り返した。
「今日一日、お前の見合いを見ていたぞ」
「……ええええっ!? う、うそっ、全然気が付かなかった……!」
「そのための変装だからな」
あたしは混乱した。
え? こういう時ってどういう反応すべき?
「み、見てたって、盗み見してたってこと? それもしかしてデバガメって奴……!?」
「そうとも言うな」
あれ?
もしかして、ここって怒るべきなのでは!?
でも環はメチャクチャ堂々としてるし……!?
「な……なんで? 何で変装までして見てたの?」
パニック状態になりながら尋ねると、環は静かにうなずき――かっと目を見開いた。
「もちろん、志麻が心配だったからだ!」
「えっ……し、心配?」
思いもよらない言葉に、あたしは再びぽかんとした。
「心配って、あたしを?」
「そうだお前をだ。高校生の身空で謎の実業家と見合いと聞いてとにかく気にかかってな。よもや何か良からぬことを無理強いされるのではないかと居ても立ってもいられず、こうして見守っていたというわけだ」
「……環!」
あたしは確信した。
ここは間違いなく感動するシーンだ!
あたしはぎゅっと環の手を握り締めた。
「あたしのこと、そんなに心配してくれたなんて……あ、ありがとうっ!」
「何の何の。同じ文芸部の仲間ではないか」
「友達に心配されるのなんて初めてだよーっ! もしかして小説の取材のためなのかな、とかちょっと思ってごめん!」
「実はそれも大いにある」
「ん?」
あたしが首を傾げたとき、不意に環の後ろに誰かが立っているのが見えた。
黒いキャップを目深にかぶった大きな男のひとだ。
「あれ? 今度は誰?」
チチチッ、と鳥が鳴くような音がして、環がはっと振り返ろうとする。
次の瞬間、バチッ! と何かが弾けた。
同時に環がびくりと震え、倒れかかってくる。
どさり、と持っていたハンドバッグが転がった。
「た、環!? どうし――」
思わず環の体を支えたとき、チチチッ、と今度はあたしの後ろで音がした。
直後、背中に何か押し付けられたかと思うと、全身に痺れるような衝撃が走った。
「っ――!?」
声も出せず、体の力が一気に抜ける。
あたしは環と折り重なるようにその場に倒れた。
「おい、二人いるぞ」
「どっちだよクソ」
「いいから両方連れていけ!」
視界の端に黒いワゴンが見えた。確か、さっき駐車場に入ってきた――
ぐいと乱暴に引っ張られたところで、あたしの意識はふっつり途絶えた。
「……マジかよ、そこまでするか? ヤベーな、連絡しねーと。えっと、名刺名刺……」
0
お気に入りに追加
187
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

虚弱なヤクザの駆け込み寺
菅井群青
恋愛
突然ドアが開いたとおもったらヤクザが抱えられてやってきた。
「今すぐ立てるようにしろ、さもなければ──」
「脅してる場合ですか?」
ギックリ腰ばかりを繰り返すヤクザの組長と、治療の相性が良かったために気に入られ、ヤクザ御用達の鍼灸院と化してしまった院に軟禁されてしまった女の話。
※なろう、カクヨムでも投稿
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

お隣さんはヤのつくご職業
古亜
恋愛
佐伯梓は、日々平穏に過ごしてきたOL。
残業から帰り夜食のカップ麺を食べていたら、突然壁に穴が空いた。
元々薄い壁だと思ってたけど、まさか人が飛んでくるなんて……ん?そもそも人が飛んでくるっておかしくない?それにお隣さんの顔、初めて見ましたがだいぶ強面でいらっしゃいますね。
……え、ちゃんとしたもん食え?
ちょ、冷蔵庫漁らないでくださいっ!!
ちょっとアホな社畜OLがヤクザさんとご飯を食べるラブコメ
建築基準法と物理法則なんて知りません
登場人物や団体の名称や設定は作者が適当に生み出したものであり、現実に類似のものがあったとしても一切関係ありません。
2020/5/26 完結

働かなくていいなんて最高!貴族夫人の自由気ままな生活
ゆる
恋愛
前世では、仕事に追われる日々を送り、恋愛とは無縁のまま亡くなった私。
「今度こそ、のんびり優雅に暮らしたい!」
そう願って転生した先は、なんと貴族令嬢!
そして迎えた結婚式――そこで前世の記憶が蘇る。
「ちょっと待って、前世で恋人もできなかった私が結婚!?!??」
しかも相手は名門貴族の旦那様。
「君は何もしなくていい。すべて自由に過ごせばいい」と言われ、夢の“働かなくていい貴族夫人ライフ”を満喫するつもりだったのに――。
◆メイドの待遇改善を提案したら、旦那様が即採用!
◆夫の仕事を手伝ったら、持ち前の簿記と珠算スキルで屋敷の経理が超効率化!
◆商人たちに簿記を教えていたら、商業界で話題になりギルドの顧問に!?
「あれ? なんで私、働いてるの!?!??」
そんな中、旦那様から突然の告白――
「実は、君を妻にしたのは政略結婚のためではない。ずっと、君を想い続けていた」
えっ、旦那様、まさかの溺愛系でした!?
「自由を与えることでそばにいてもらう」つもりだった旦那様と、
「働かない貴族夫人」になりたかったはずの私。
お互いの本当の気持ちに気づいたとき、
気づけば 最強夫婦 になっていました――!
のんびり暮らすつもりが、商業界のキーパーソンになってしまった貴族夫人の、成長と溺愛の物語!

【完結】新皇帝の後宮に献上された姫は、皇帝の寵愛を望まない
ユユ
恋愛
周辺諸国19国を統べるエテルネル帝国の皇帝が崩御し、若い皇子が即位した2年前から従属国が次々と姫や公女、もしくは美女を献上している。
既に帝国の令嬢数人と従属国から18人が後宮で住んでいる。
未だ献上していなかったプロプル王国では、王女である私が仕方なく献上されることになった。
後宮の余った人気のない部屋に押し込まれ、選択を迫られた。
欲の無い王女と、女達の醜い争いに辟易した新皇帝の噛み合わない新生活が始まった。
* 作り話です
* そんなに長くしない予定です
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

Sランクの年下旦那様は如何でしょうか?
キミノ
恋愛
職場と自宅を往復するだけの枯れた生活を送っていた白石亜子(27)は、
帰宅途中に見知らぬイケメンの大谷匠に求婚される。
二日酔いで目覚めた亜子は、記憶の無いまま彼の妻になっていた。
彼は日本でもトップの大企業の御曹司で・・・。
無邪気に笑ったと思えば、大人の色気で翻弄してくる匠。戸惑いながらもお互いを知り、仲を深める日々を過ごしていた。
このまま、私は彼と生きていくんだ。
そう思っていた。
彼の心に住み付いて離れない存在を知るまでは。
「どうしようもなく好きだった人がいたんだ」
報われない想いを隠し切れない背中を見て、私はどうしたらいいの?
代わりでもいい。
それでも一緒にいられるなら。
そう思っていたけれど、そう思っていたかったけれど。
Sランクの年下旦那様に本気で愛されたいの。
―――――――――――――――
ページを捲ってみてください。
貴女の心にズンとくる重い愛を届けます。
【Sランクの男は如何でしょうか?】シリーズの匠編です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる