ヤクザのせいで結婚できない!

山吹

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12. デバガメとか急展開とか

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 人気のない駐車場で、あたしはぽつんと突っ立っていた。スマホを取られちゃったのでやることがない。
 夜風に吹かれていると、舞い上がってた頭がだんだん冷えていくのを感じた。
 さっき触られた手を撫でてみる。
 今黒さんの手の感触を思い出すと、またぞわっと鳥肌が立った。
 無理。触られたくない。
 でも、結婚することになったら手を握られるどころじゃすまない。
 問題は、触られるのが嫌って感覚は「今黒さんだから」なのか、「いきなり触られたから」なのかってところだ。

「どーしよ……今黒さんはあたしのこと気に入ってくれたみたいだけど。……でも、ここで断っちゃったら、別の相手なんかいるのかな?」

 悩んでいると黒いワゴンが駐車場に入ってきたので、隅に移動する。自動販売機の前のベンチに座ろうとしたところで、ポンと肩をたたかれた。

「ひゃっ!?」

 振り返ると、そこにはつば広の帽子をかぶった女のひとが立っていた。黒いシックなワンピースにさらさらのロングヘア―でいかにもお金持ちのマダムって感じだ。

「あの……何か用ですか?」
「私だ」
「え?」

 マダムが帽子を取った。影になっていた顔を見て、あたしは大きく口を開けた。

「……環!?」
「そうだ」
「えっ、ウソ! 全然雰囲気違う! なんかすごい大人っぽいっていうか、マダムって感じ!」
「そうだろう、変装しているからな」
「へー変装してるんだ! でも綺麗だね、超似合ってるよ! ……ん? 何で変装?」
「見合いウォッチングのためだ」
「は?」

 環ははっきりと繰り返した。

「今日一日、お前の見合いを見ていたぞ」
「……ええええっ!? う、うそっ、全然気が付かなかった……!」
「そのための変装だからな」

 あたしは混乱した。
 え? こういう時ってどういう反応すべき?

「み、見てたって、盗み見してたってこと? それもしかしてデバガメって奴……!?」
「そうとも言うな」

 あれ?
 もしかして、ここって怒るべきなのでは!?
 でも環はメチャクチャ堂々としてるし……!?

「な……なんで? 何で変装までして見てたの?」

 パニック状態になりながら尋ねると、環は静かにうなずき――かっと目を見開いた。

「もちろん、志麻が心配だったからだ!」 
「えっ……し、心配?」

 思いもよらない言葉に、あたしは再びぽかんとした。

「心配って、あたしを?」
「そうだお前をだ。高校生の身空で謎の実業家と見合いと聞いてとにかく気にかかってな。よもや何か良からぬことを無理強いされるのではないかと居ても立ってもいられず、こうして見守っていたというわけだ」
「……環!」

 あたしは確信した。
 ここは間違いなく感動するシーンだ!
 あたしはぎゅっと環の手を握り締めた。

「あたしのこと、そんなに心配してくれたなんて……あ、ありがとうっ!」
「何の何の。同じ文芸部の仲間ではないか」
「友達に心配されるのなんて初めてだよーっ! もしかして小説の取材のためなのかな、とかちょっと思ってごめん!」
「実はそれも大いにある」
「ん?」

 あたしが首を傾げたとき、不意に環の後ろに誰かが立っているのが見えた。
 黒いキャップを目深にかぶった大きな男のひとだ。

「あれ? 今度は誰?」

 チチチッ、と鳥が鳴くような音がして、環がはっと振り返ろうとする。
 次の瞬間、バチッ! と何かが弾けた。
 同時に環がびくりと震え、倒れかかってくる。
 どさり、と持っていたハンドバッグが転がった。

「た、環!? どうし――」

 思わず環の体を支えたとき、チチチッ、と今度はあたしの後ろで音がした。
 直後、背中に何か押し付けられたかと思うと、全身に痺れるような衝撃が走った。

「っ――!?」

 声も出せず、体の力が一気に抜ける。
 あたしは環と折り重なるようにその場に倒れた。

「おい、二人いるぞ」
「どっちだよクソ」
「いいから両方連れていけ!」

 視界の端に黒いワゴンが見えた。確か、さっき駐車場に入ってきた――
 ぐいと乱暴に引っ張られたところで、あたしの意識はふっつり途絶えた。




「……マジかよ、そこまでするか? ヤベーな、連絡しねーと。えっと、名刺名刺……」
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