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第41話

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「え、嘘でしょ」

「なんだよこれ」

「ひどい」

「マジか」

 クラス劇までがあと3日しか残されていないのに準備していた小道具やら衣装やらがボロボロになっていた。

 見事なまでにボロボロになっているな。

「これ誰がやったんだよ」

「許せない」

 クラスの連中は自分達が汗水垂らして作ったものをボロボロにされて怒りが抑えられないようだ。

 まぁ余は全然何もやっていないから怒りは無いがな。

「おい、この中にいるんじゃないか。これをやった犯人が」

「誰がやったの」

 当然だがクラスの中で犯人探しが始まる。

「お前がやったんじゃないか」

「やめてよ」

「お前じゃないのか」

「そういうお前こそ」

 クラスの全員が疑心暗鬼になっている。

 まずいな、このままでは余が疑われてしまう。

 準備を一番何もしていないのが余で、こいつらは余を変な奴だと思っているからな。
 
 余は王だって言うのにこいつらは尊敬のかけらも無い。

 はっきり言って余は舐められている。

 王が舐められるなんて由々しき事態だ、いつか余がどれだけ素晴らしいか教えてやるとしよう。

 そんなことはどうでも良かった、今はこの事態をどうするかだ。

「皆さん落ち着いてください」

 教卓に九重菫が立ち、皆の視線を一点に集める。

「私たちが今やるべきことは何ですか?」

「犯人を探し出すことだろ」

「犯人をボコボコにする」

「やった奴に謝罪をさす」

 ドンッ

「違います」

 教卓をドンッと叩く。

「私たちが今やるべきことは、ボロボロになったものを直してクラス劇を完璧に行うことです」

 皆の意見をはっきりと否定し、今やるべきことを皆に示す。

「これをやった犯人はクラス劇を出来ないように嫌がらせをしました。だから犯人への最大の復讐は完璧にクラス劇を行うことです。なのに手がかりや証拠もないことに時間を費やしている暇はありません」

 おー良いことを言うではないか。

 犯人はクラス劇を出来きないことを願っているからクラス劇を行うことが余らにとっての今やるべきことか。

「そうだよな。俺たちが今やるべきことはクラス劇を出来きるようにすることだよな」

「ごめん。俺たち冷静じゃなかった」

「さすが菫」

「私たちのクラス委員かっこよすぎ」

 なんだよ、余もクラス委員なのに。

 ここはクラスの王である余もクラスの皆を鼓舞してやろうかな。

 余は九重菫が立っている教卓の場所まで行き、クラスの皆に言う。

「今回のことは残念だったが、皆が協力をすれば必ずクラス劇は成功するから、気を引き締めていくぞ」

 シーンッ

 あれ?あまりにも良いことを言ったから皆は固まっているのか?

「ふ」

 ふ?

「ふざけんじゃねぇ」

 え?

「お前寝てばっかのくせになに偉そうに言ってんだよ」

「お前が動いてるところ一回も見たことないぞ」

「お前はただの九重のおまけだからな」

「自分のこと王って言ってるけど、俺たちは下僕でもなんでもないぞ」

「クラス委員辞めちまえ」

 あ、あれ?思っていたのと違う。

「あぶなっ」

 クラスの皆は暴言と自分が持っているものを余に投げてくる。

「おい、物を投げてくるな」

 余は飛んできた物を必死に避ける。

「あほらし、みんなもうこんな奴放って準備やろうぜ」

「そうだな」

「そうね」

 物を投げるのを辞めてクラスの皆はクラス劇の準備に取り掛かる。

「よ、余も手伝うぞ」

 同じクラス委員なのにこんなに違うのか?




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 また宇野が可愛くなってしまいましたね。
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