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第33話

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放課後になり教室には余と九重菫の二人きりだ。

 なんかこれ前にもあったな、前はホッチキスで一緒に作業してたな。

 そういえば前もあの教師のせいだった気がするのだが。

「どんな劇にしますか?」

「う~ん、無難なもので良いかもしれないな」

「無難なものですか」

 劇をするのに無難なものとは何だろうか?

 そして考えているうちに余と九重菫はすっかり黙っていた。

 真剣に考えれば考えるほどあの教師がムカついてきた。

「あの教師め、また余らに押し付けやがって」

「まぁまぁそう言わずに」

 九重菫は余を落ち着かせようと宥めてくる。

「お前は腹が立たないのか」

 余がムカついているというのにお前がムカつかなかったら余が小さいみたいではないか。

「あの人は私の憧れの人ですから」

 お前があいつを?

「あいつに憧れる要素なんかあるのか?」

 余が見たところ憧れるなんて感情は湧かない。

「私が演劇部に入ったのも鈴木先生の影響があったからです」

 そういえばこいつは演劇部に入っていたんだったな。

「私が小学二年生の時で鈴木先生が高校生の時に文化祭で先生のお芝居をする姿を観て私は演劇部に入ろうと決めました」

 九重菫は目を輝かせながら語っていく。

「本当にすごかったんですよ、人を惹きつけるお芝居ってこういうものなのだと感じたんですよ」

 段々九重菫はヒートアップしていっている。

 あの教師にもそんな姿があったとはな、今では想像し難い。

「それに学業の方も優秀で、私も鈴木先生に近づきたくて学業も頑張ってるんです」

 あいつ勉強も出来たのか、中々やるな。

「私がこの高校に入ろうと決めたのも先生がこの高校だからだったんです」

 そんな理由でこの高校に入ったのか?理由は人それぞれだけれども。
 
 余も大した理由ではないけれども。

「そしたら鈴木先生が担任になって、私とても嬉しかったんです」

 なんか運命的な再会みたいだな。

「宇野さんも見てますか?」

「何をだ?」

「学級日誌」

「学級日誌?」

 あの日直になったらなぜか書かされる意味が分からないあのやつか。

「鈴木先生はいつもコメント書いてくれるんですよ。例えば、私がいつも行っている服屋とか、綺麗なお花が咲いてる場所とか、最近出来たラーメン屋のレビューとか、他にもまだまだありますよ」

「もう良い、分かったから」

 へーいつもそんなこと書いていたのか、興味が無かったから読んでなかったが、今度から気にはしようと思う。

 服屋と花はそこまでだがラーメン屋のレビューは気になるな。

 というかこいつはあの教師のファンか!九重菫の熱量がすごい。

 こいつこんな感じになるんだな、もっとクールなイメージだったが。

「でもなぜか演劇部の顧問ではなかったんです」

 さっきの感じとは一変して九重菫は急に落ち込んむ。

 そら、演劇部の顧問になってると思うよな、人を惹きつける芝居をやったんだから。

 関係ないか。

 学生にやったから大人にもなってやりたいとは思わなかっただけだろう。

「何回か鈴木先生にお芝居のことを聞いたのですが、適当にあしらわれてしまって…、でもいつか鈴木先生に教えてもらいたいです」

「そうか、いつかそんな日が来ると良いな」

「はい」

 そして、結局劇はロミオとジュリエットになった。
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