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魔法使い、正念場。
しおりを挟む道すがら、ネブレクはいろいろなことを惜しげもなく教えてくれた。剣の使い方や体の使い方、動き方、オーガの特性や対処法。ある意味冒険者の飯の種ともいえるのに、後進のために力を尽くしてくれる。いい人だ。
それゆえにC級であり、だからこそC級止まりなのだろう。世の中、せちがらい。
目指す場所は、街道近くの森だった。今度の道は前と違い、マルリエとの通商路にあたる。
その街道脇にオーガがいて、時々街道に暴れこんでくるらしい。いつもいると言うわけではなく時々なのだが、ひとたび暴れ出すとその巨体と怪力のため、危険きわまりない。
なので速やかな排除を、というのが今回のクエスト内容だ。たった一匹だから、低ランクの冒険者でも実力があれば何とかならないこともない。
「でも、はぐれオーガ? めずらしいわね」
「最近いろいろな魔物があちこちに出没しているらしいな。一説には近くの山にドラゴンが降臨していて、その魔力が魔物を狂わせているらしいとか」
「えー? やだな、それ」
すぐ近くにそんな危ない現場があるなんて、冒険者としては困る。冒険者といえど、安定と安全はお金を出してでも買いたいものなのだ。
「では我々が、その危険をひとつ減らそうではないか」
アルベルフトが宣言する。やっぱり貴族なのね。人民のためを思って仕事をするという精神がしっかり身についているし、最近の冒険者生活でずいぶんとたくましくなった。虚勢に実力がともなってきて、それが自信につながっている。成長したわね。イケメンもいいけど、男はやっぱり頼りがいよ。
そんな彼と彼の仲間の武功、つまりは昇級を勝ち得るため、わたしたちは木の陰から目標をうかがっていた。
オーガが一体、うろうろと所在なげに歩き回っている。手にした棍棒は巨大で、殴られればただではすまなそうだ。
「この態勢では奇襲も難しそうだな。とすると全員でかかるしかないが……」
ネブレクが一同を見回した。
「まずは、誰が行く?」
「ぼくが」
間髪入れず、アルベルフトが答える。
「ぼくが奴を引きつける。みんなは回り込んで仕留めてくれ」
ごく自然にリーダーシップを発揮する彼に、みんな頷いた。
「よし、おまえたちの実力、見せてくれよ」
◇
ギリアテとウルリクが回り込んで位置に着いたのを確認し、アルベルフトは喚声をあげて飛び出した。
オーガは一瞬驚いた表情をしたものの、余裕で棍棒を振り回す。
アルベルフトは剣ごと弾かれて二、三歩さがった。オーガの怪力と、棍棒の質量が半端ない。さらに棍棒を振り上げ、叩きつけてくる。
大ぶりな攻撃をかわし、アルベルフトが突っ込んでオーガの手に斬りつける。みごとにヒット。にもかかわらず、構わず振り払われる。あまりダメージも負っていないようだ。怪力のうえに頑丈。これは骨が折れるかも。
「【防壁】!」
アルベルフトがかわしきれず、直撃しそうになった棍棒を、わたしが魔法で弾く。軌道はそれたが完全には止まらない。地面に棍棒が派手にめり込んだとき、両後ろからギリアテとウルリクが飛びかかった。
それぞれの直撃。すかさずアルベルフトも斬りかかる。その全てを、オーガは棍棒の一振りで弾きとばした。
「くっ、効かない」
「どれだけ頑丈なんだ!?」
「みんな、立て!」
そう叫んだのはアルベルフトだった。
「こいつが頑丈なのはわかってたことだ。倒れるまでやるぞ。その覚悟で来たんだろう?」
「おう!」
「もちろんだ!」
……へえ、やるじゃない。
心まですっかりたくましくなっちゃって。もうお坊ちゃまなんて言えないわね。
「みんな、がんばって……」
ミラが祈るようにみんなを見つめている。今のところわたしたちに出番はない。祈ることしかできない。
でもせめて、魔法使いのわたしは貢献しなくちゃね。
戦いは一進一退、いや、押されている。じりじりと下がるアルベルフト。
「手助けが必要か?」
「まだよ。まだ全力を出し切ってない」
ネブレクの申し出を、わたしは謝絶した。まだ出来ることがある。
わたしはタイミングを計っていた。アルベルフトがさらに下がってきて、わたしの詠唱が完成する。
「アルベルフト! 後ろに跳んで!」
アルベルフトが大きく後退した直後、魔法陣が発動した。
地面から発した光がオーガを包み込む。
オーガの動きが止まった。
【拘束】の魔法。これで動きを止められる。
はずなのだけど、それでもオーガは抵抗してじりじりと動いていた。なんという怪力。
「ええい、往生際が悪い!」
わたしは袖からニードルを出して投げつけた。
「【串打ち三年・改】!」
ニードルがオーガを襲う。
「しょぼっ!?」
以前に呪符を使った時みたいに巨大化はせず、はるかに小さい針だ。それでもオーガの持つ棍棒に幾本か突き刺さって、棍棒に大きくひびが入る。
「うおらあっ!」
ウルリクが飛びかかり、メイスで棍棒を痛撃した。ひびが大きくなって棍棒に裂け目ができる。
すかさずギリアテが入れ替わりで飛び込む。迎え撃った棍棒が完全に砕かれた。
「よし! 今だ! かかれ!」
アルベルフトが叫ぶ。【拘束】の魔法が効いていてろくに反撃できないオーガに、全員が全力で飛びかかった。オーガの叫びと男たちの雄叫びが入り乱れる。
頑張れ、みんな。これならいけるぞ!
◇
戦況が変わったのは一瞬だった。
最初、何が起こったのかわからなかった。みんなが戦っていたオーガが吹っ飛ばされ、みんなも巻き込まれて吹き飛んだ。
「なに? なにが起こったの?」
土煙が上がっている中、今までオーガが立っていた場所には、それよりはるかに大きいモノがいた。
オーガの倍以上の背丈に全身毛むくじゃらの、それ。
「な、なんですか? あれ?」
「トロールだ」
ミラに答えたのはネブレクだった。わたしは呆気に取られていて、言葉すら出なかった。
トロール? なにそれ?
今まで戦っていたオーガが化けた? いやいや。
どこかから乱入してきたのだ。
「……そんな化け物、想定外よ」
オーガよりワンランク上の魔物、トロール。オーガより巨体で力もあるうえに、いくら傷つけても無限に再生すると言われる、たちの悪い化け物だ。
そのトロールは近くにいたオーガをわしづかみにした。わたしたちと戦って弱っていたオーガはふりほどけない。
トロールはそのまま、オーガの肩口にがぶりとかみついた。
「きゃっ」
「見ちゃだめ!」
わたしはミラを抱え込んだ。
叫ぶオーガにかまわず、トロールはがつがつとオーガを喰らっていた。わたしも思わず目をそむける。すぐにオーガの叫びが消えたのは、頭が喰われたからだろう。
「こいつ、オーガを再生の糧にしているのか」
呟いたネブレクの口調もひびわれていた。
「再生?」
「怪我をしているんだ。見ろ、腕が再生していく」
トロールが吼えた。おそるおそる目を向けると、トロールの片腕がぬるぬると生えていくのがわかった。辺りには食い散らかされたオーガの破片。胸が悪くなる光景だ。
こんな奴、相手にできない。
力が違いすぎる。本来ならD級相当の魔物だ。
どうやって逃げる? こんな化け物から。
そう忙しく考えているところに、
「こんな所にいたか! やっと追いついたぞ!」
「くそっ、もう再生してやがる」
「やれやれ、また一からやり直しか」
ひとの声がした。
遅れて現れた一団のパーティ。
どうやら彼らの獲物が逃げて来て、わたしたちの獲物と出くわしてしまったらしい。
あわれ、わたしたちの獲物は食い散らかされて消滅してしまった。
問題は目の前の危機だけど。
「すまないな。きみらの獲物を横取りしちまった」
新しく来てくれたパーティが問題なく対処してくれるはず。
「で、さっそくで悪いんだが、手伝ってくれないか?」
「って、ええええ!?」
なんで? こんな下っ端集団、役に立ちませんよ!?
「おれたちもDに上がったばかりでなあ。ちょっと不安なんだわ」
「なんですかそれはあ!?」
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