ハイ・オーダー

桐坂数也

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第三章:それぞれの力

新サークルと顧問。

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四人の新入生。
ひととは異なる能力を持つ、それぞれ異なる能力の保持者たち。

しかしクラスはばらばらだ。


 叱られどおしだった日の翌日、拓斗たくと香凜かりん修成しゅうせい彩奈あやなの四人は、なんとはなしに集まっていた。

「というわけで、連絡を密に取り合う場を得るためにも、サークル登録がいいんじゃないかと思う」
「面白そう。あたしたちの、世を忍ぶ仮の姿ね」
「サークル名は要るかな?」
「いちおう体裁は整えないとなりませんしね」

「はいっ! じゃあね」
 香凜が勢い込んで手を挙げる。

「ぐっじょ部とか、勇者部とか」
「いやそれはいろいろとまずかろう」
 拓斗がにべもなく却下する。

「じゃあ、ずばり世界を守る活動だから地球防衛部とか」
 立て続けの香凜の提案に、今度は三人が冷ややかな目を向ける。

「……ベタだな」
「……ベタだね」
「……ベタですね」
「何よお。文句ばっかり言ってないで、あんたたちも考えなさいよ」
 むくれる香凜。

「このさいサークル名は符牒みたいなもんだから、深刻に考えなくていいんじゃないか? SNS部程度で」
「いやそれもまずいでしょ」
「こうしてみると、使える名前って少ないのかなあ」
「四人の名前とかイニシャルとか、ですか」

「拓斗、香凜、修成、彩奈。T、K、S、A、か。並べ替えて……TASK?」
「あ、ちょっと響きがかっこいいかも」
「なんのタスクかって訊かれたら、地球防衛任務とか、かねえ」
「ふふ、韜晦してて、面白いかも」


 こうして入学三日目に、サークル『TASK』が発足することになる。


「で、あたしたちのミッションは? 高次元体退治、でいいのかな?」
 香凜の問いかけに、
「高次元体すべてを一緒くたに悪とみなすのはどうかな」
 拓斗が冷静に指摘する。

 高次元体をその身に住まわせる四人にとっても、「それ」はよくわからない点が多い。
 悪とみなして退治するのか。融和と協調を目指すのか。
 協調するとして、話し合うに足る意識や自我があるのか。
 そもそも「それ」は生命体なのか。


「そうだな。まずは高次元体の調査と観察、というところかな。場合によっては退治、と」
「で、拓はそいつらの居場所がわかるんでしょ」
 香凜の問いに拓斗が答える。

「意識を集中すれば、かなりあぶり出せると思う。けどまあ、あせる必要もないんじゃないかな。もうこの二日で、すでにお腹一杯だ」
「そうねえ、いろいろありすぎだわ」
「けっこう大変だったよねえ」
「ふふ、日誌つけておきましょうか?」

「そうだな。頼む」
 少し考えて、拓斗が言った。
「一年たったら、どの位の活動記録になっているかな」



 拓斗は職員室に向かっていた。
 いちおうリーダーとして、サークル発足のための体裁を整える必要がある。
 彼はまず担任に相談した。

「そうだね。部員が五人以下だと同好会という扱いになるよ」
 担任は規約を説明してくれた。それによると、正式な部と違い同好会では生徒会の予算を受けられない。だが四人の居場所と連絡場所があれば充分なので、それは特に問題とは思われなかった。

 問題は、顧問が必要なことだ。さてこの企画をどうやって説明したものか。

「そういえば、社会の結城先生が言っていたな。もし顧問の依頼があったら教えてくれと。引き受けてくれるかもしれないよ」
「そうですか。では訪ねてみます」

 拓斗は今度は社会準備室に向かう。
 くだんの先生とは、受け持ちの学年も違うようだし、まだ面識はない。いきなり顧問を頼むのはどうなのだろう。大抵のことには遠慮しない拓斗も少しは遠慮を考える事態ではある。

(まあ取り敢えず、当たって砕けてみてからだ)
「失礼します。結城先生はいらっしゃいますか」

 奥の方にいた女性教諭が顔を上げた。
「はい。何かご用かしら?」

 何の予備知識もなく訪問して、性別すら聞いていなかったことに拓斗は思い至った。
(おれとしたことが、無計画にもほどがあるな)
 内心苦笑せざるを得ない。

「梅木先生からのご紹介で、相談にあがりました」
 結城の目が光ったように思ったのは、そしてその気配をすぐに消したように見えたのは、拓斗の気のせいだろうか。

「こちらへどうぞ」
 近くで見ると、小柄な女性だった。年齢は二十代後半か、三十代前半くらいだろうか。大人の年齢は拓斗にはよくわからないが、まだ若い部類と言っていいだろう。

 初対面の教師に臆することなく拓斗が依頼内容を告げると、結城教諭はさして驚いたふうでもなく、
「じゃ、必要書類に記入して、生徒会に提出して下さい」
 と、ごく事務的に言うものだから、拓斗の方が逆にいぶかった。

「その……先生、いいんですか? 内容も聞かないで、引き受けて下さるんですか?」
 そこで初めて、結城はちょっと苦笑してみせた。

「そうね。文化系の同好会、ということだから、それで充分よ。正直に言うと私はそんなに顔を出せないと思うけど、危ない事をしなければ問題はありません。あなた方なら大丈夫でしょう」

「いや、その……」

 逆に拓斗の方が不安だった。「あなた方なら」というほど、自分たちの何を知っているというのか。あまりに簡単に行きすぎて、何か裏があるんじゃないかと思いたくなる。

「なあに? 心配かしら?」
 結城教諭は軽く笑った。拓斗は軽く能力を使ってみたが、悪意は感じられない。

「生徒が前向きに何かしようとしているんだから、全面的に協力するわよ。でも、それでも信用できないというなら……」
 再び、今度は楽しそうに笑って、
「そうね。きみには謎を残しておいた方がいいんじゃないかしら? そういうの好きなんでしょ?」

(なんだ? 試されているのか?)

 拓斗はものすごい違和感に囚われた。この先生は、何を知っているのか。自分たちの何もかも知られているのか。あるいは……。

「わかりました。顧問の件は、お願いします」
 拓斗は言った。
 今日のところは引き下がるとしよう。

「詳細が決まりましたら、また報告にあがります。謎解きは、またいずれ」
「はい。楽しみにしているわ」


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