ハイ・オーダー

桐坂数也

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第一章

入学初日からクエスト&バトル。

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 入学式。
 華やかな式典を終えて、教室でのオリエンテーションも終了。
 教室を出ておれはそそくさと別棟に向かった。

 これから三年間過ごす場所。想像以上にたくさんの出来事が起こるに違いない場所。
 そんな予感を充分に裏付けてくれる気配を、別棟から感じる。
 入学初日からこの歓迎。喜んでいいのか嘆いていいのかすら分からない。

 職員室の脇を通って、渡りの通路を歩いていく。
 通路の先には夢と希望と不思議と幻想が渦巻く、渡りと廊下のぶつかるところ。


 ◇◆◇◆◇


 あたしは早々に教室を出た。
 友だちになりそうな子たちもいたけど、今日はこっち。
 これからの三年間を決定づけるような気配を、別棟に感じるから。

 廊下を歩いていく。いくつかの部が部活動にいそしんでいる。
 どこかの部に入ることになるのかな。

 だけど早くも、波乱はそこにある。
 そんな夢と希望と不思議と幻想が渦巻く、廊下と階段のぶつかるところ。


 ◇◆◇◆◇


 ざわつく気配をたどって、別棟へ。階段を降りる。不安もあるけど、楽しみだなあ。
 だってここには、仲間がいる。人はそれを予感と言うけど、ぼくらにとっては確信だ。高次元体がそう教えてくれるから。

 でも必ずしも仲間ばかりじゃないとも教えてくれる。
 そんな夢と希望と不思議と幻想が渦巻くのは、踊り場のすぐ向こう。


 ◇◆◇◆◇


 不思議な感覚です。
 今までこれを理解し合える人はいませんでした。
 でも今は、感じます。わたしを含めて四人の生徒。
 高次元体を内に住まわせる、特殊な生い立ちのひと。

 彼らを求めて、わたしは階段を昇ります。
 彼らとは、今後どう関わっていくのでしょう。とても楽しみな、夢と希望と不思議と幻想が渦巻く、階段と渡りのぶつかるところはすぐそこに。


 ◇◆◇◆◇


 その合流地点で。



 おれは出会った。やつらと。

 あたしは出会った。彼らと。

 ぼくは出会った。みんなと。

 わたしは出会った。仲間と。



 そして。


「じゃーんけん」

 ぽん。

 おれの勝ち。


「ということで、おれがリーダーだ」
「ちょっと! なによいきなり? まずは自己紹介くらいするもんでしょ」
「あはは。面白い。ぼくはいいよ、それで」
「わたしもいいですよ。でも自己紹介はした方がいいですね」

「じゃ、リーダーのおれからだ。一年B組、見城けんじょう拓斗たくと。能力は記憶と解析。それと次元の干渉。だからちゃんとリーダーは敬うように。なにか質問は?」

「言ってることは上から目線なのに、そこそこイケメンなのが余計にむかつくわ。ま、いいか、あたしはC組、御子神みこがみ香凜かりん。能力は流体制御。それと次元転移。リーダー云々は後で問い質すとして、みんなよろしくねっ!」

「ぼくはG組、鳴海なるみ修成しゅうせい。能力は肉体強化。それと固体錬成。同じ仲間に会えて嬉しいよ。よろしく」

「わたしは水月みなづき彩奈あやな、E組です。能力は精神干渉。それと治癒能力です。わたしもみんなに会えて、わくわくしてます」


 ◇◆◇◆◇


 薄暗い校舎の片すみ。運命の邂逅は、いきなり始まったじゃんけんのせいでドラマ性のかけらもなく、そして彼らは自己紹介からお互いの会話を始めたのだった。

「さすが成長期の高校生だけあって、外見も性格も多彩だな」
 拓斗が感想を述べると、後を継いだ香凜が修成と彩奈に話しかける。

「そうね。鳴海くんと水月さんは、ちっちゃくて可愛いー。二人とも眼鏡が可愛くて、いいわあ」
「御子神さん、水月さんはともかく、ぼくに『可愛い』はないんじゃない?いちおう男子なんだしさ」
「この中ではわたしが一番チビかしら?」
「ぼく、151センチ」
「う、負けた。149センチです」
「いやーん、ますます可愛い二人とも」
「……そんなこと言ってると、ぼく体重も言うよ」
「きっと鳴海くんの方が軽いですね」
「う、さりげなく二人とも嫌味だわ」

「二人とも、香凜をいじるのはその辺にしておけ」
 じゃれ合いを続ける三人に声をかけて、拓斗は自分に注意を向けさせる。

「ま、いきなり呼び捨て」
「まあまあ。これからが今日一番のイベントだし」
「やっぱりみんな、感じるんですね」

 一同が目を向けた先には。



 女子トイレ。


「入学初日のクエストがトイレの花子さん退治とはな」
「でも『高次元体』なんでしょ? なめてるとひどい目に遭うんじゃないの?」
「そうだね。どんなのがいるのかな?」
「では、僭越ながら、わたしが視てみますね」

 彩奈が静かに引き戸を開けてトイレの戸口に立つ。
 他の三人はその隙間から中をうかがう。

 男子二人にはなじみがないが、女子二人には当たり前の、何の変哲もない場所だ。
 奥には窓があって、室内を薄く照らしている。


 彩奈は左手を軽く上げて、目を閉じる。
 拓斗は、彼女の指先から蜘蛛の糸のような知覚センサーが無数に伸びて室内に広がっていくのを感じた。
 糸は時々弾かれて、やがて弾ける箇所が部屋の隅の一角に集まり出し、そこに糸が集まっていく。

「あそこか」
 香凜と修成に見えているかはわからないが、糸が集まって「それ」に絡みつき、薄く光る繭のようになっている。
「そうですね。この空間にフィールドを作って、いわば巣になっているのかしら?」
「みたいだな。時々物体に干渉して、ポルターガイスト現象を起こしたりもしているようだ」


 と、ごうっと音がして突風が吹きつけた。

「わっ!」
「きゃっ!」

 四人の制服のブレザーやスカートが、ばたばたとはためいた。

「どうやら敵認定されたみたいだな」
「何かいるのね」
 香凜が確認する。香凜と修成にはまだ明確に見えていない。

「ああ、いる」


 高次元体。
 どこから来たか分からない謎の物体。
 おそらく、精神体と言っていいであろう、実体を持たない、目にも見えない存在。
 ゆえに、何かに憑りつかなければ、現実世界に物理的に干渉できない存在。

 今いる四人だけが、その存在を見ることができる。感じることができる。
 そして彼らだけが、それに干渉することができる。

 ゆえに彼らだけが、それを退治することができる。



「それじゃあ、あの高次元体を退治する、ということでいいね?」
 一歩下がった四人の輪の中で、みなの意志を確認するように修成が問う。

「ああ」
 拓斗が短く、だがきっぱりと答える。

「そのためにこそ、おれたちはここにつどったんだ。あれをねじ伏せて、おれたちの目的を果たす」
 三人を見回して、さらに拓斗は言を続ける。
「それによっておれたちは、おれたちの能力の意味を知ることになるだろう。長い長い疑問に、今日ひとつの答えが与えられる」

 誰も答えなかった。
 拓斗の言う通り、それぞれがずっと一人で思い悩んできた事。その疑問にひとつの答えが提示される。

 新しい結果を求めて、胸が高鳴る。その結果がどんな形をしているのか、まだわからない。だが結果が出ることは間違いない。そのことは誰も疑っていなかった。


「……燃えるわあ。わくわくしてきた」
 香凜が目を輝かせてつぶやく。

「オーケー。目指せミッションコンプリート」
 笑顔で親指を立てる修成に、

「はい」
 と彩奈が、同じく笑顔で応じる。



「よし、それじゃあ」
 拓斗が手順の説明に入る。

「まず水月さんの力で、奴をこのフィールドから引っぺがす。それから、おれが次元の壁に穴を開けるから、香凜、おまえが奴を次元の向こうに放り出せ」
「わかったわ」
「じゃ、ぼくが水月さんのバックアップに入るよ」
「よろしくお願いします」

 ぺこり。

「よし」
「どきどき」
「じゃあ」
「行きます!」



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