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前編
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「お前、『赤い絨毯の話』知ってる?聞いたことある?」
ホルモン焼きの鉄板を挟んで、正面に座った山本さんの言った言葉に、僕は素直に
「はい?」と聞きかえした。山本さんは僕の職場の先輩だ。
「なんすか、それ?」
『赤い絨毯』ならもちろん知っていたけど、『赤い絨毯の話』と言われると自信が無い。赤色の絨毯が日本に伝来した由来でも聞かされるんだろうか?だったら勘弁してほしい。一ミリも食指が動く気配がない。
「なんだ。倖田も知らないのか。お前怖い話好きなんじゃなかったっけ?」
「怖い話なんすか?その『赤い絨毯の話』って」
半分ほど中身の残ったジョッキをテーブルに置いて質問してみた。確かに怖い話なら興味が湧く。そろそろホルモンも焼き飽きてきた頃だったから丁度良い。
「いや、じつは俺も知らないんだよ」
「は?」
自分で話を振っておきながら山本さんはそう言った。この人は何を言っているんだろう?ひょっとして結構酔ってるんだろうか?よくよく見れば顔も赤いし呂律もあまり回っていない。久々の外飲みだからペースが速くなってしまったかも知れない。
「酔ってるんすか?」
「酔ってねーよ。この前仕事中に調べ物してたら『赤い絨毯の話が怖い』って記事を見つけたから、お前なら知ってるかなーって思って」
「サボってたんすか?」
「サボってねーよ。たまたま見てたページからリンク先に飛んでその記事見つけただけだぞ」
仕事に関連するウェブサイトから怖い話のリンク先に飛ぶって、この人普段どんなサイト使ってるんだ?セキュリティとか大丈夫か?それとも絨毯業界に転職でも考えているんだろうか?若干心配になる。
「記事見つけたんなら知らないってオカシクないっすか?読んだんでしょ?記事を。どうせサボって」
「だからサボってねーって。ちょっと面白そうだったけど仕事中だったから、後で読もうと思ってその時は見るの止めた」
「じゃあそのあとで読んだんじゃないんすか?その赤い絨毯の話」
「いや、読もうとしたんだけどさあ」
山本さんは網の上で焦げ付いたホルモンをひっくり返しながら言う。トングを操っている手元が覚束ないところを見ると、やっぱり結構酔っ払っているな。
「あとでどんだけ調べても出て来ないんだよなー。そのサイト」
「今もう一回調べてみたらいいじゃないっすか。出てくるかも知れませんよ?」
「そう思ってさっき調べたんだけどさー」
山本さんが左手でズボンのポケットからスマホを取り出す。
「なんか『あかい絨毯』って入力して検索してたら、引っ越し屋のページに飛んだから面倒くさくなって調べるの止めた」
「それって多分ですけど予測変換で「あかいひでかず」って入力されてません?」
僕がそんなアホな、と半ば冗談半分で言うと、「あ、ホントだ」と山本さんから返ってきた。
山本さんと別れ、アパートに帰ってきて、一息付いたあとで『赤い絨毯』の話を思い出した。同時に、この話を持ち出してきた山本さんはちゃんと家まで帰れただろうか、とそっちも気になった。まあ、通りがかりのタクシーにぶちこんできたから大丈夫だろう。仮に大丈夫じゃなくても今更どうしようもないから、赤ら顔の先輩のことは忘れることにした。
スマホで『赤い絨毯』と入力して検索してみると、赤い絨毯の画像とともに通販サイトが画面の上に表示された。スワイプしながらページ下部まで目で追ってみたけど、やっぱり怪談話は見つからない。そりゃそうだ。『赤い絨毯』と検索してすぐに怖い話がヒットするような検索エンジンなら、多分『あかいひでかず』と入れても引越社より先に怖い話が出てくるだろう。そんな検索エンジン絶対普段使いにしたくない。
そこで、『赤い絨毯 怖い』と追加で文言を入力して再検索を掛けてみた。すると今度は一番上から順に、見るからに怪談話っぽいものが表示された。表示されたサイトを一つ一つ順番に開いては閉じ、開いては閉じを繰り返すこと約十分。
「あ……」あった。
タイトルに『赤い絨毯の呪い』と書かれたそのページは、どこかのだれだかが書いた個人ブログみたいだった。左上に記事を更新した日付が表示されている。もう五年以上も前に更新したきり放置されていることが伺える。こういう人居るよなーと思いながら、そういえば自分もブログ作ってみたは良いけどすぐ放置してしまったなー、と思い出す。残ってんのかな?あのブログ。そんなことを考えながら記事を読み進めてみた。
しょーもな。
読み終わったあとで、思わずそう漏らしていた。
『赤い絨毯の話』は想像していたよりもだいぶクオリティが低く、拍子抜けするほどにあっさりしていた。
要は昔どこかの誰かが押し入った強盗に絨毯の上で殺されて、その後殺された人の血と怨念が染み込んだその絨毯が売りに出されて、それを買った人が次々呪われた、という話だった。
ブログには御大層に長々とうんたらかんたら書かれていたけど、要約するとそれだけの話しだった。三行で終わる話だ。おまけに、インパクトを出したかったのかどうか知らないけど、記事の最後にはご丁寧に『この話を知った人の元に赤い絨毯が現れる』と付け足されている。その一文が逆にチープさに拍車を掛けていることに気付かないんだろうか。というか話を知っただけでその人の元に赤い絨毯が訪ねてきてくれるんなら、今後赤い絨毯業界は商売上がったりじゃないか?知らないけど。
拍子抜けした僕は、そのあとシャワーをサッと浴びてベッドにもぐり込んだ。
ホルモン焼きの鉄板を挟んで、正面に座った山本さんの言った言葉に、僕は素直に
「はい?」と聞きかえした。山本さんは僕の職場の先輩だ。
「なんすか、それ?」
『赤い絨毯』ならもちろん知っていたけど、『赤い絨毯の話』と言われると自信が無い。赤色の絨毯が日本に伝来した由来でも聞かされるんだろうか?だったら勘弁してほしい。一ミリも食指が動く気配がない。
「なんだ。倖田も知らないのか。お前怖い話好きなんじゃなかったっけ?」
「怖い話なんすか?その『赤い絨毯の話』って」
半分ほど中身の残ったジョッキをテーブルに置いて質問してみた。確かに怖い話なら興味が湧く。そろそろホルモンも焼き飽きてきた頃だったから丁度良い。
「いや、じつは俺も知らないんだよ」
「は?」
自分で話を振っておきながら山本さんはそう言った。この人は何を言っているんだろう?ひょっとして結構酔ってるんだろうか?よくよく見れば顔も赤いし呂律もあまり回っていない。久々の外飲みだからペースが速くなってしまったかも知れない。
「酔ってるんすか?」
「酔ってねーよ。この前仕事中に調べ物してたら『赤い絨毯の話が怖い』って記事を見つけたから、お前なら知ってるかなーって思って」
「サボってたんすか?」
「サボってねーよ。たまたま見てたページからリンク先に飛んでその記事見つけただけだぞ」
仕事に関連するウェブサイトから怖い話のリンク先に飛ぶって、この人普段どんなサイト使ってるんだ?セキュリティとか大丈夫か?それとも絨毯業界に転職でも考えているんだろうか?若干心配になる。
「記事見つけたんなら知らないってオカシクないっすか?読んだんでしょ?記事を。どうせサボって」
「だからサボってねーって。ちょっと面白そうだったけど仕事中だったから、後で読もうと思ってその時は見るの止めた」
「じゃあそのあとで読んだんじゃないんすか?その赤い絨毯の話」
「いや、読もうとしたんだけどさあ」
山本さんは網の上で焦げ付いたホルモンをひっくり返しながら言う。トングを操っている手元が覚束ないところを見ると、やっぱり結構酔っ払っているな。
「あとでどんだけ調べても出て来ないんだよなー。そのサイト」
「今もう一回調べてみたらいいじゃないっすか。出てくるかも知れませんよ?」
「そう思ってさっき調べたんだけどさー」
山本さんが左手でズボンのポケットからスマホを取り出す。
「なんか『あかい絨毯』って入力して検索してたら、引っ越し屋のページに飛んだから面倒くさくなって調べるの止めた」
「それって多分ですけど予測変換で「あかいひでかず」って入力されてません?」
僕がそんなアホな、と半ば冗談半分で言うと、「あ、ホントだ」と山本さんから返ってきた。
山本さんと別れ、アパートに帰ってきて、一息付いたあとで『赤い絨毯』の話を思い出した。同時に、この話を持ち出してきた山本さんはちゃんと家まで帰れただろうか、とそっちも気になった。まあ、通りがかりのタクシーにぶちこんできたから大丈夫だろう。仮に大丈夫じゃなくても今更どうしようもないから、赤ら顔の先輩のことは忘れることにした。
スマホで『赤い絨毯』と入力して検索してみると、赤い絨毯の画像とともに通販サイトが画面の上に表示された。スワイプしながらページ下部まで目で追ってみたけど、やっぱり怪談話は見つからない。そりゃそうだ。『赤い絨毯』と検索してすぐに怖い話がヒットするような検索エンジンなら、多分『あかいひでかず』と入れても引越社より先に怖い話が出てくるだろう。そんな検索エンジン絶対普段使いにしたくない。
そこで、『赤い絨毯 怖い』と追加で文言を入力して再検索を掛けてみた。すると今度は一番上から順に、見るからに怪談話っぽいものが表示された。表示されたサイトを一つ一つ順番に開いては閉じ、開いては閉じを繰り返すこと約十分。
「あ……」あった。
タイトルに『赤い絨毯の呪い』と書かれたそのページは、どこかのだれだかが書いた個人ブログみたいだった。左上に記事を更新した日付が表示されている。もう五年以上も前に更新したきり放置されていることが伺える。こういう人居るよなーと思いながら、そういえば自分もブログ作ってみたは良いけどすぐ放置してしまったなー、と思い出す。残ってんのかな?あのブログ。そんなことを考えながら記事を読み進めてみた。
しょーもな。
読み終わったあとで、思わずそう漏らしていた。
『赤い絨毯の話』は想像していたよりもだいぶクオリティが低く、拍子抜けするほどにあっさりしていた。
要は昔どこかの誰かが押し入った強盗に絨毯の上で殺されて、その後殺された人の血と怨念が染み込んだその絨毯が売りに出されて、それを買った人が次々呪われた、という話だった。
ブログには御大層に長々とうんたらかんたら書かれていたけど、要約するとそれだけの話しだった。三行で終わる話だ。おまけに、インパクトを出したかったのかどうか知らないけど、記事の最後にはご丁寧に『この話を知った人の元に赤い絨毯が現れる』と付け足されている。その一文が逆にチープさに拍車を掛けていることに気付かないんだろうか。というか話を知っただけでその人の元に赤い絨毯が訪ねてきてくれるんなら、今後赤い絨毯業界は商売上がったりじゃないか?知らないけど。
拍子抜けした僕は、そのあとシャワーをサッと浴びてベッドにもぐり込んだ。
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