上 下
5 / 5

第5話

しおりを挟む
 午後の会談では、元から話し合おうとしていたこと以外にも、互いの国境警備隊を強化し有事には協力することを追加した。

 会談が終わるや否や、王妃がマシューに話しかける。

「マシュー様、クリスタル様は本当に貴族のご出身でいらっしゃいますの?」

 あ…………もう完全にバレた。やっぱり付け焼き刃じゃ本物には敵わないよね。

 自らを明かすことにした。

「本当に申し訳ございません。お二人にうそをついていました。私はクリスタル・フォスター・アーチャー、平民の騎士でございます。ですのでマシュー殿下の婚約候補でもございません。本日は殿下の警護をしておりました。どうか、お二人を欺いたことをお許しください」

 王妃は鼻で笑った。罵倒されるのを覚悟した。

「納得しましたわ。引っかかっていたことはあなたの説明ですべてつながりました。私たちに『まだそちらの王太子には婚約候補すらいないのか』と言われることがしゃくだったのでしょう?」

と言ってあざ笑う王妃。

「マシュー様にはやはり、まだ婚約候補すらいらっしゃらないのですね」

 誰がどう見ても意地悪そうな表情でマシューをいじる王子。だが、

「いえ、クリスタルさんは私の婚約候補です」

と、マシューは言い切ったのだ。

「殿下!? しかし私は平民――」
「平民でも構いません。この一カ月で私はあなたがとても魅力的な人だと感じました。法がそれを許さないのならば法を変えます。心身ともに強い女性、まさに私が求めていた女性です」

 そっか、貴族だと体が強い女性は少ないかもね……ってうわぁっ!

 マシューは私を抱き寄せた。

「あんなに強いのに、どうして自信なさげだったのですか。もっと自分を信じればいいのですが、これはギャップというものですかね」

 マシューの言葉で、今すぐここから離れたい衝動にかられる。あぁ恥ずかしすぎる。恋愛経験も何もない私には刺激が強すぎる。
 と、そこに。

「「「お待ちください」」」

 この広間で警備をしていた例の三兄弟、ディスモンドとリッカルドとオズワルドが止めに入ったのだ。

「クリスタルは騎士団の副団長で、弓も剣も扱える有力な人材でございます。ですので――」
「兄上、そう言っておいて本当はクリスタルのことが好きなんでしょう? まぁ、俺がスカウトしたから俺の将来の嫁ですが」
「リック、お前は何を言っている」
「それを言うなら僕はクリスタルちゃんに剣術を教えた師匠ですよ~。クリスタルちゃんといる時間は兄上のお二人より多いと思いますが~」
「時間の問題ではない。あのなオズ――」

 なぜか三人でめだしてしまった。えぇっと……何か言った方がいいよね。

「私はまだ外の世界を知って一年経ってないので、恋愛というのが分からないんです。しばらく考えさせてください」

 これを聞いたマシューと三兄弟の無言の張り合いがより激化してしまった。曖昧に言ったからだろう。

 だが、マシューの言葉の「もっと自分を信じればいい」は頭にこびりついた貴婦人の悪口をかき消してくれた。
 そしてそのまま、何日も私から離れることはなかった。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

邪魔しないので、ほっておいてください。

りまり
恋愛
お父さまが再婚しました。 お母さまが亡くなり早5年です。そろそろかと思っておりましたがとうとう良い人をゲットしてきました。 義母となられる方はそれはそれは美しい人で、その方にもお子様がいるのですがとても愛らしい方で、お父様がメロメロなんです。 実の娘よりもかわいがっているぐらいです。 幾分寂しさを感じましたが、お父様の幸せをと思いがまんしていました。 でも私は義妹に階段から落とされてしまったのです。 階段から落ちたことで私は前世の記憶を取り戻し、この世界がゲームの世界で私が悪役令嬢として義妹をいじめる役なのだと知りました。 悪役令嬢なんて勘弁です。そんなにやりたいなら勝手にやってください。 それなのに私を巻き込まないで~~!!!!!!

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

ご安心を、2度とその手を求める事はありません

ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・ それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望

処理中です...