上 下
45 / 46
第三章 元女子高生、異世界で反旗を翻す

45:これでも元JKは癒しの音を奏でたい!

しおりを挟む
「これでやっと以前の生活を送れるぞ……!」

 仲の良い貴族にかくまってもらっていた皇太子とも再会した国王は、ホッとした表情で玉座に座った。

「この前、手紙を送っただろう? あれは本当にそなたがいなくて不安だったのだよ。妻がいないからなおさらかもしれないな」

 やっぱりラブレターだったの、あれ!

「心が沈んでいる時にあのような手紙をいただき、少しばかり……いえ、けっこう心が救われました」

 思い出し笑いをしそうになり、私の顔は不自然に引きつる。

「ふむ、そなたを私の妃に迎えようかとも思ったのだが……」
「えっ、今なんとおっしゃい――」
「私の妻となってくれないか」

 き、き、き、妃に!? さすがにそれはムリ! 年の差ヤバいし、妃となると色々縛られそうだし……。

「大変申し訳ありませんが、お気持ちだけ頂戴いたします」

 丁重にお断りした。

「そうか……急すぎたか」
「いえ、私は庭木に止まる鳥のような者です。そしてその時々によって姿を変えます。宮廷音楽家ではありますが自由に活動をしたいんです。私はただ音楽で生活したいだけなので」

 そういって頭を下げる。どう解釈してくれるだろうか。

「宰相は……続けてくれるのだろう?」
「それはもちろん続けます。陛下とお仕事するのは楽しいので」
「そなたは気まぐれなのだな」
「はい、目の前のことに全力を注ぐ気まぐれです」
「ハハハッ、面白い鳥だな」

 私が宰相になったばかりの頃のように笑う国王。フラれることは最初から分かっていたらしい。

「それでは改めて、よろしくお願いいたします」
「あぁ、よろしく頼むよ」

 国王と熱く握手を交わす。私はさっそく胸ポケットから手帳を取り出した。





 アールテム王国に今また平和が訪れた。

 私が偵察で国内を回れば、「あぁグローリア様、こんなにいい生活をさせてくれるなんて、頭が上がりません」と言われ、聖女だと祭りたてられる始末。

 あのぉ……聖女なんかじゃないですよ。
 収入から払う税を一割に戻しただけだし、自由商売を再開しただけだし、奴隷を解放させて住む土地と仕事を保証して、自立を支援しただけだし。

 特に革新的なことはやってないと思うけど?
 しかし国王に言わせればこうらしい。

「そもそもそなたのように、身分関係なく『国民』として捉えることが新しいのだよ。どうやら世論では、そなたが『平民出身だから成し得ること』だと言われているようだが」

 国王の言葉が否定で終わったのは、その先に「本当はそうではないのだろう?」という言葉が続いている。

 私と国王とは何回も話し合ってきて、互いの目指すところを同じくしてきた。まぁ、妃になるかと言われたくらいの仲だし。

 そしてもし戦いに出ることになったら、必ず音楽隊がついていくことにした。トリスタンはああいう風にばかにしてきたけど、実は音楽隊の音にビビって焦ってたって、風のうわさで聞いたんだよね。

 しかし、リリーには戦場が刺激の強すぎる場所だったため、音楽隊も動員することにはずっと首を振っていた。

「ねぇお姉ちゃん、もう見たくないよ。リリーいや」
「あれはね……初めてながら、かなり酷いものだったんだよ。今度はリリーはお留守番にするから」

 同じサックス奏者といっても、まだ七歳。さすがに隊員全員を駆り出すことは慎むべきだと反省した。
 行きたい人だけ行き、行きたくない人は行かないと選択できるようにした。

「後衛が『動かぬ人間の山』を見るなんて、二十九万人が一万人までに減っても戦い続けるなんて、普通の戦争じゃありえないし……」

 いい案だと思っても必ずどこかでほころびが生じ、直していく。これの繰り返しである。
 アールテム王国は、内側から最強の国へと成長していた。





 私は農村にいた。週に一回の演奏をしに行く日である。
 しかし今日はリリーもついてきた。

「いつもは私のサックスだけで聞いていただいていますが、今日は妹のリリアンと二重奏を披露いたします」

 色々なところで演奏して肝がすわったリリー。王都以外で演奏するのは初めてだが、そこまで緊張しているようには見えない。

「まずは……何がいい?」
「賛美歌! 賛美歌やって!」

 やっぱり。だいたい子どもにリクエストを聞くと、この答えが帰ってくる。
 ソロで吹くより二重奏の方が原曲に近いものとなる。原曲の混声四部合唱のうち、二つを満たしてくれるからだ。

「それでは賛美歌の新たな響きをお楽しみください」

 私は心の中にためた『想い』を、リリーが出す音とともに解き放つ。和音が気持ちよく響くところでメロディやハモリを奏でる。
 音楽に浸りながら、ケガや病気の農民が光を帯び、治っていった。

 宰相となり、聖女とうたわれても、私は農民への演奏を止めることはないだろう。
 もし自分の道を見失うことがあっても、原点に立ち戻れるように。





 いつものようにグレーのスーツを着て、私はオーケストラの合奏をしにサックスのケースを背負う。

「グロー、相変わらず忙しそうだねぇ」

 お見送りをしに、ベルがのっそのっそとこちらに歩いてくる。

「そうだね、でもどの仕事もすごくやりがいを感じるよ」
「楽しそうなグローの顔を見ていると、私も嬉しくなってくるよ。あれ、グローはサックスのプロになりたいだけじゃなかったのかい?」

 私はそれに笑って答える。

「前はね、プロのサックス奏者になりたかっただけだけど、ちょっと変わったかな。これからも『癒しの音』を奏で続けていたいっていう夢に変わった」
「なるほど、それが一番だ」
「やっぱり?」

 与えられたこの力・音のコンペテンシャンとして、サックスの音色で耳も体も心も癒されてもらいたい。自分の能力を余すことなく必要とする人に振る舞いたい。

 ただ、それだけ。

 ベルに手を振ると、青空の下、私はピンク色の髪をなびかせて王城へ歩いていく。私の顔つきは途端に『宮廷音楽家』の顔に変わった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

公爵令嬢は薬師を目指す~悪役令嬢ってなんですの?~【短編版】

ゆうの
ファンタジー
 公爵令嬢、ミネルヴァ・メディシスは時折夢に見る。「治癒の神力を授かることができなかった落ちこぼれのミネルヴァ・メディシス」が、婚約者である第一王子殿下と恋に落ちた男爵令嬢に毒を盛り、断罪される夢を。  ――しかし、夢から覚めたミネルヴァは、そのたびに、思うのだ。「医者の家系《メディシス》に生まれた自分がよりによって誰かに毒を盛るなんて真似をするはずがないのに」と。  これは、「治癒の神力」を授かれなかったミネルヴァが、それでもメディシスの人間たろうと努力した、その先の話。 ※ 様子見で(一応)短編として投稿します。反響次第では長編化しようかと(「その後」を含めて書きたいエピソードは山ほどある)。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

迷宮攻略してたらいつの間にか世界救ってた

新世界の神
ファンタジー
冒険者業界ではそれなりに名の知れたソロの冒険者。月中悠一郎。 彼はある日、冒険者ギルドで一つの依頼を受ける。 依頼の内容は街の郊外にある建物から起きる怪音を調査してほしいというものだ。 これが後に世界救う引き金となる依頼だった。 仲間との出会い、別れを経験しながら彼は実力に磨きをかけていき、最終的には伝説にすら匹敵する存在になっていた…というありがちストーリー。 舞台は異世界。 スキル、ステータスはもちろん魔法だってあるそんな世界。 不定期投稿です。暇があるときにチラッと覗いてくれたら良いなと思います

婚約破棄された地味姫令嬢は獣人騎士団のブラッシング係に任命される

安眠にどね
恋愛
 社交界で『地味姫』と嘲笑されている主人公、オルテシア・ケルンベルマは、ある日婚約破棄をされたことによって前世の記憶を取り戻す。  婚約破棄をされた直後、王城内で一匹の虎に出会う。婚約破棄と前世の記憶と取り戻すという二つのショックで呆然としていたオルテシアは、虎の求めるままブラッシングをしていた。その虎は、実は獣人が獣の姿になった状態だったのだ。虎の獣人であるアルディ・ザルミールに気に入られて、オルテシアは獣人が多く所属する第二騎士団のブラッシング係として働くことになり――!? 【第16回恋愛小説大賞 奨励賞受賞。ありがとうございました!】  

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

処理中です...