44 / 46
第三章 元女子高生、異世界で反旗を翻す
44:お帰りなさいませ! 国王、奇跡の帰還
しおりを挟む
「「「反逆者を倒したぞぉぉぉぉ!!」」」
騎士たちはその武器を天向けて高く挙げ、勝利を宣言した。
私はアドリブでサックスを吹き、その喜びに花を添える。
「それにしても犠牲が……私の演奏で治るかな……」
二十九万人いた本軍は、今や一万人を切っていた。
またも王城の庭は『動かぬ人間』の山であふれかえっている。
確か世界史でやったけど、あのナポレオンがロシア遠征の時、冬の寒さと飢えでどんどん兵が減っちゃったのと同規模な気がする。六十何万の兵が最終的に五千くらいだったはず。
いや……それより全然酷い。今日の数時間でこれだもん。
音楽隊の隊員の何人かは、人間の山に背を向けている。
リリーは「こわい……」と連呼して私に顔をうずめて泣いている。
「みんな、お疲れ様。後は私が」
私は音楽隊のみんなにそれだけ言うと、リリーをケイトに預けて、一人で人間の山たちへと歩み寄る。
トリスタンが立っていた場所には、おそらく彼の服に着いていたであろう宝石が転がっていた。
「……これがアイツの首ってことでいいかな?」
それらを軍服のポケットにしまいこむと、私は庭の真ん中に立ち、サックスを構える。
「みなさん、トリスタンを倒すために騎士団長や私についてきてくださってありがとうございました。そしてこれからもよろしくお願いいたします」
もはや直す気のない癖であるおじぎをすると、私は心の中とペンダントの中に『想い』をためた。
それがサックスの音に乗せて響き渡ると奇跡が起きた。
背後にいる女神の気配を感じ取りながら、ゆっくりと歩みを進め、王城を囲む庭を一周する。
私の十八番である『まどろみのむこうに』を吹きながら、まどろみから覚めてもらう。
私の音がはっきり聞こえる範囲に入ると、兵士の体に負った傷が治り始め、私が隣を通ると目を覚まして起き上がり始めたのだ。
王城の敷地の外で倒れていた兵士にも近寄り、奇跡を起こす。
「い、生き返った……⁉︎」
「グローリア様は死んだ俺たちにまで⁉︎」
「いつも以上にただならぬオーラが!」
「奴隷なのに用なしじゃないなんて……」
「やっぱりグローリア様は聖女だ!」
どんな身分出身の兵であろうと、私は共に戦った仲間の一人として見ている。当たり前だけど。
息絶えていた者から動けなくなっていた者、二十八万人の全てが、私に頭を垂れている。
「えっ、みなさん顔を上げてください!」
ちょっと! 私はみんなへの感謝で魔法を使っただけだよ? そんなペコペコされたらやりにくいんだけど!
何か、ちゃんとしたこと言わないといけない空気……じゃない?
私は咳払いをし、ポケットから宝石を取り出す。
「みなさんの活躍により、アールテム王国を乗っ取って生活を苦しめた悪党は、この宝石だけを残して消え去りました。危険を顧みずに志願してくださった兵士のみなさん、協力してくださった騎士団のみなさん、そして一緒に演奏してくれた音楽隊のみんなに多大な感謝を申し上げます」
指をめいいっぱい広げた手を、まっすぐに挙げた。
「あとは国王陛下の帰りを待つのみです。戻ってきたらまた二ヶ月前までの生活に戻りましょう!」
「「「オォォォォッ!!」」」
二十九万人の仲間から同意の雄叫びをもらうと、私は音の神・グローリアとの共鳴を解いた。
私は兵士たちを家に帰し(奴隷は騎士団に入らせ)、音楽隊を家に帰しても、まだ一人で王城に残っていた。
一人といっても、護衛の騎士が交代制で見張ってくれるのだが。
「グローリア様……いつお帰りになるか分からないというのに」
「一番最初に陛下をお出迎えしたいんです」
「さすがに何もお食べにならないのは……」
カルラー王国の爆弾や、私が放った高温の爆風のせいで、王城の外装は悲惨なことになっている。
王都の職人を総動員させて、絶賛(?)修理中だ。
「グローリア様!」
馬に乗って急いだ様子でやってきた騎士が、私に紙切れを渡してくれた。
「国王陛下を保護いたしました! 今、こちらに向かっておられます」
「よかったぁ! あとは無事に帰ってくるだけですね」
おそらくカルラー王国の王城の地下牢にいると考えられるが、どうやって保護したのは後で聞くとして。
「とりあえず陛下がご無事であることが何よりです」
私は胸をなで下ろして、今か今かと向こうの方から現れるであろう姿を探していた。
それから待つこと三時間、のべ九時間。かなり傾いた日は、あと数十分で地平線に触れようとしている。
「国王陛下のお帰りだぁぁぁぁ!!」
道行く人にバレないよう、国王を乗せた御輿には目隠しがされており、一見すると食材を運んでいるようである。
王城の入口にいる私の目の前に、御輿がゆっくりと降ろされた。
目隠しが外れると、国王は騎士に手を貸してもらいながらヨタヨタと私に近寄っていく。
「陛下、お帰りなさいませ」
「おぉ……グローリアよ」
私は失礼を承知で、国王をこの腕の中に抱擁する。
あのパーティーから実に二ヶ月ぶりの再会をとげた。
夕焼けの茜色が私たちを染め上げ、足元に置いてあるサックスがその光を反射する。
「トリスタンはどうなった」
「私が、きれいさっぱり消しておきました」
まぁ、私と女神様とだけど。
「そうかそうか。やはり私の目は間違っていなかったようだ」
えっ、何が?
「そなたはアールテムを変えてくれる人だったのだな。もしや、そなたが音のコンペテンシャンだったり?」
「そう……ですね。今日分かったばかりですが」
「何となくだが、そんな気はしていた」
ちょっと……! この国王、何か勘だけはいいんだよね。政治をする才能はないけど。
「それでは国王陛下のご無事をお祝いして、音楽隊から一曲お送りします」
私がそう言って後ろを向くと、王城の中からスタンバイしていた音楽隊が出てくる。
さっと三列くらいに並ぶと、私の合図で『アールテム英雄物語』の演奏が始まった。
騎士たちはその武器を天向けて高く挙げ、勝利を宣言した。
私はアドリブでサックスを吹き、その喜びに花を添える。
「それにしても犠牲が……私の演奏で治るかな……」
二十九万人いた本軍は、今や一万人を切っていた。
またも王城の庭は『動かぬ人間』の山であふれかえっている。
確か世界史でやったけど、あのナポレオンがロシア遠征の時、冬の寒さと飢えでどんどん兵が減っちゃったのと同規模な気がする。六十何万の兵が最終的に五千くらいだったはず。
いや……それより全然酷い。今日の数時間でこれだもん。
音楽隊の隊員の何人かは、人間の山に背を向けている。
リリーは「こわい……」と連呼して私に顔をうずめて泣いている。
「みんな、お疲れ様。後は私が」
私は音楽隊のみんなにそれだけ言うと、リリーをケイトに預けて、一人で人間の山たちへと歩み寄る。
トリスタンが立っていた場所には、おそらく彼の服に着いていたであろう宝石が転がっていた。
「……これがアイツの首ってことでいいかな?」
それらを軍服のポケットにしまいこむと、私は庭の真ん中に立ち、サックスを構える。
「みなさん、トリスタンを倒すために騎士団長や私についてきてくださってありがとうございました。そしてこれからもよろしくお願いいたします」
もはや直す気のない癖であるおじぎをすると、私は心の中とペンダントの中に『想い』をためた。
それがサックスの音に乗せて響き渡ると奇跡が起きた。
背後にいる女神の気配を感じ取りながら、ゆっくりと歩みを進め、王城を囲む庭を一周する。
私の十八番である『まどろみのむこうに』を吹きながら、まどろみから覚めてもらう。
私の音がはっきり聞こえる範囲に入ると、兵士の体に負った傷が治り始め、私が隣を通ると目を覚まして起き上がり始めたのだ。
王城の敷地の外で倒れていた兵士にも近寄り、奇跡を起こす。
「い、生き返った……⁉︎」
「グローリア様は死んだ俺たちにまで⁉︎」
「いつも以上にただならぬオーラが!」
「奴隷なのに用なしじゃないなんて……」
「やっぱりグローリア様は聖女だ!」
どんな身分出身の兵であろうと、私は共に戦った仲間の一人として見ている。当たり前だけど。
息絶えていた者から動けなくなっていた者、二十八万人の全てが、私に頭を垂れている。
「えっ、みなさん顔を上げてください!」
ちょっと! 私はみんなへの感謝で魔法を使っただけだよ? そんなペコペコされたらやりにくいんだけど!
何か、ちゃんとしたこと言わないといけない空気……じゃない?
私は咳払いをし、ポケットから宝石を取り出す。
「みなさんの活躍により、アールテム王国を乗っ取って生活を苦しめた悪党は、この宝石だけを残して消え去りました。危険を顧みずに志願してくださった兵士のみなさん、協力してくださった騎士団のみなさん、そして一緒に演奏してくれた音楽隊のみんなに多大な感謝を申し上げます」
指をめいいっぱい広げた手を、まっすぐに挙げた。
「あとは国王陛下の帰りを待つのみです。戻ってきたらまた二ヶ月前までの生活に戻りましょう!」
「「「オォォォォッ!!」」」
二十九万人の仲間から同意の雄叫びをもらうと、私は音の神・グローリアとの共鳴を解いた。
私は兵士たちを家に帰し(奴隷は騎士団に入らせ)、音楽隊を家に帰しても、まだ一人で王城に残っていた。
一人といっても、護衛の騎士が交代制で見張ってくれるのだが。
「グローリア様……いつお帰りになるか分からないというのに」
「一番最初に陛下をお出迎えしたいんです」
「さすがに何もお食べにならないのは……」
カルラー王国の爆弾や、私が放った高温の爆風のせいで、王城の外装は悲惨なことになっている。
王都の職人を総動員させて、絶賛(?)修理中だ。
「グローリア様!」
馬に乗って急いだ様子でやってきた騎士が、私に紙切れを渡してくれた。
「国王陛下を保護いたしました! 今、こちらに向かっておられます」
「よかったぁ! あとは無事に帰ってくるだけですね」
おそらくカルラー王国の王城の地下牢にいると考えられるが、どうやって保護したのは後で聞くとして。
「とりあえず陛下がご無事であることが何よりです」
私は胸をなで下ろして、今か今かと向こうの方から現れるであろう姿を探していた。
それから待つこと三時間、のべ九時間。かなり傾いた日は、あと数十分で地平線に触れようとしている。
「国王陛下のお帰りだぁぁぁぁ!!」
道行く人にバレないよう、国王を乗せた御輿には目隠しがされており、一見すると食材を運んでいるようである。
王城の入口にいる私の目の前に、御輿がゆっくりと降ろされた。
目隠しが外れると、国王は騎士に手を貸してもらいながらヨタヨタと私に近寄っていく。
「陛下、お帰りなさいませ」
「おぉ……グローリアよ」
私は失礼を承知で、国王をこの腕の中に抱擁する。
あのパーティーから実に二ヶ月ぶりの再会をとげた。
夕焼けの茜色が私たちを染め上げ、足元に置いてあるサックスがその光を反射する。
「トリスタンはどうなった」
「私が、きれいさっぱり消しておきました」
まぁ、私と女神様とだけど。
「そうかそうか。やはり私の目は間違っていなかったようだ」
えっ、何が?
「そなたはアールテムを変えてくれる人だったのだな。もしや、そなたが音のコンペテンシャンだったり?」
「そう……ですね。今日分かったばかりですが」
「何となくだが、そんな気はしていた」
ちょっと……! この国王、何か勘だけはいいんだよね。政治をする才能はないけど。
「それでは国王陛下のご無事をお祝いして、音楽隊から一曲お送りします」
私がそう言って後ろを向くと、王城の中からスタンバイしていた音楽隊が出てくる。
さっと三列くらいに並ぶと、私の合図で『アールテム英雄物語』の演奏が始まった。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢によればこの世界は乙女ゲームの世界らしい
斯波
ファンタジー
ブラック企業を辞退した私が卒業後に手に入れたのは無職の称号だった。不服そうな親の目から逃れるべく、喫茶店でパート情報を探そうとしたが暴走トラックに轢かれて人生を終えた――かと思ったら村人達に恐れられ、軟禁されている10歳の少女に転生していた。どうやら少女の強大すぎる魔法は村人達の恐怖の対象となったらしい。村人の気持ちも分からなくはないが、二度目の人生を小屋での軟禁生活で終わらせるつもりは毛頭ないので、逃げることにした。だが私には強すぎるステータスと『ポイント交換システム』がある!拠点をテントに決め、日々魔物を狩りながら自由気ままな冒険者を続けてたのだが……。
※1.恋愛要素を含みますが、出てくるのが遅いのでご注意ください。
※2.『悪役令嬢に転生したので断罪エンドまでぐーたら過ごしたい 王子がスパルタとか聞いてないんですけど!?』と同じ世界観・時間軸のお話ですが、こちらだけでもお楽しみいただけます。
転生したら大好きな乙女ゲームの世界だったけど私は妹ポジでしたので、元気に小姑ムーブを繰り広げます!
つなかん
ファンタジー
なんちゃってヴィクトリア王朝を舞台にした乙女ゲーム、『ネバーランドの花束』の世界に転生!? しかし、そのポジションはヒロインではなく少ししか出番のない元婚約者の妹! これはNTRどころの騒ぎではないんだが!
第一章で殺されるはずの推しを救済してしまったことで、原作の乙女ゲーム展開はまったくなくなってしまい――。
***
黒髪で、魔法を使うことができる唯一の家系、ブラッドリー家。その能力を公共事業に生かし、莫大な富と権力を持っていた。一方、遺伝によってのみ継承する魔力を独占するため、下の兄弟たちは成長速度に制限を加えられる負の側面もあった。陰謀渦巻くパラレル展開へ。
家庭の事情で歪んだ悪役令嬢に転生しましたが、溺愛されすぎて歪むはずがありません。
木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるエルミナ・サディードは、両親や兄弟から虐げられて育ってきた。
その結果、彼女の性格は最悪なものとなり、主人公であるメリーナを虐め抜くような悪役令嬢となったのである。
そんなエルミナに生まれ変わった私は困惑していた。
なぜなら、ゲームの中で明かされた彼女の過去とは異なり、両親も兄弟も私のことを溺愛していたからである。
私は、確かに彼女と同じ姿をしていた。
しかも、人生の中で出会う人々もゲームの中と同じだ。
それなのに、私の扱いだけはまったく違う。
どうやら、私が転生したこの世界は、ゲームと少しだけずれているようだ。
当然のことながら、そんな環境で歪むはずはなく、私はただの公爵令嬢として育つのだった。
転生したら避けてきた攻略対象にすでにロックオンされていました
みなみ抄花
恋愛
睦見 香桜(むつみ かお)は今年で19歳。
日本で普通に生まれ日本で育った少し田舎の町の娘であったが、都内の大学に無事合格し春からは学生寮で新生活がスタートするはず、だった。
引越しの前日、生まれ育った町を離れることに、少し名残惜しさを感じた香桜は、子どもの頃によく遊んだ川まで一人で歩いていた。
そこで子犬が溺れているのが目に入り、助けるためいきなり川に飛び込んでしまう。
香桜は必死の力で子犬を岸にあげるも、そこで力尽きてしまい……
悪役令嬢、第四王子と結婚します!
水魔沙希
恋愛
私・フローディア・フランソワーズには前世の記憶があります。定番の乙女ゲームの悪役転生というものです。私に残された道はただ一つ。破滅フラグを立てない事!それには、手っ取り早く同じく悪役キャラになってしまう第四王子を何とかして、私の手中にして、シナリオブレイクします!
小説家になろう様にも、書き起こしております。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う
ひなクラゲ
ファンタジー
ここは乙女ゲームの世界
悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…
主人公と王子の幸せそうな笑顔で…
でも転生者であるモブは思う
きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる