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第三章 元女子高生、異世界で反旗を翻す

34:あれ、何かがおかしい……?

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 私の腹の虫が鳴り始めてから、数分おきに鳴り続けている。止まってくれない。

「他の人はケーキ食べてたけど、私は色々準備で食べられなかったし! さすがにお腹すいた!」

 楽器を片づけ、リリーと二人で部屋に向かっている。

「リリーもお腹ペコペコ!」
「どんなおいしいのがでてくるかな?」

 部屋に戻ると、私たちは使用人に案内されたところに座る。
 席はさっきと同じ円卓で、私たちはベルの隣と決められていた。同じテーブルには、プレノート家の他に各国のツートップが座っている。

「二人とも、お疲れ様」

 ベルは、両隣である私とリリーの背中をトントンと叩く。

「ベルも聴いてくれてありがとう。みなさんもありがとうございました」

 私はこのテーブルにいるみんなにお礼をしておいた。
 料理が運ばれるまでの間は、音楽隊のことも話題にしてくれた。

「もしや、音楽隊に貴族以外も混じっております?」

 やはり格好で分かってしまったらしい。
 ていうか、そんなひそめ声で質問しなきゃいけないこと?

「はい、オーケストラと兼任している人をのぞけば、ほとんどが平民と農民です」
「の、農民も!」

 他の国もオーケストラをするのは貴族だというものがあるらしい。
 やっぱりかぁ。

「『音楽を楽しむのに身分はいらない』と考えていて。今日、それを実現できたのが嬉しくて……」
「さすがは宮廷音楽家殿。そういう魂胆があったのですね」

 そのようにしゃべっていると、部屋のドアが開いて大勢の使用人が入ってきた。カラフルなものが乗ったお皿を両手に持っている。

「お待たせいたしました。前菜のマリネでございます」

 魚や野菜の鮮やかな色が、透明な皿に透けてキラキラと輝く。
 ちょうど食べ終わるころに、湯気が立ちのぼるスープが運ばれてきた。タイミングばっちり。

「アールテムの人は貴族でもこんなに野菜を食べるのですか?」

 と、カルラー王国の国王側近。
 ……え? 『こんなに』って、うちのご飯じゃもっと出てくるけど?

「ついこの間までは、アールテムの貴族もそうだったらしいですね。私たちプレノート家は元平民なので食べ続けていますが。ある時、『野菜をたくさん食べると病気になりにくくなるらしい』と私が言ったら貴族の中にも広まりました」
「そうなんですか!」
「顔色がよく見えるようになったり、月に一回風邪をひいていたのがまったくかからなくなったり……したそうです」

 完 全 に 前 世 の 知 識 な ん だ け ど ね !

 貴族たるもの、やはり美容や無病息災はどこの国でも手に入れたいものらしい。
 政治に何も関係ないが、側近はなぜかメモをとっている。
 まぁ、元気なことに越したことはないし。シェアしてもいいよね!

 その時、急に寒気がして背中に冷や汗がツーっと流れた。
 スープを飲んでみる。うん、あったかくてホッとする。野菜のうまみがしっかり出ていておいしい。

「他にも健康維持に関することはありますか」

 私はその後も七人で話に花を咲かせた。

 しかし冷や汗は止まらず、小刻みに手が震えてきた。お腹は空いていたはずだが、どこか調子が悪い。
 頭がズキズキと痛み始め、さすがにマズいことを自覚した。

「あれ、顔色がよくありませんが大丈夫ですか?」
「ちょっと疲れてしまったみたいです。でも大丈夫です」

 相手国の人に心配されてしまった。何か申し訳なく思ってしまう。
 リリーやベルも心配そうに私を見つめている。

「ちょっとお手洗いに」

 一旦部屋の外の空気を吸おうと、私は席を外す。足に力が入らずうまく歩けない。めまいで視界がゆがむ。

 ふっと意識が飛び、私の体が床に叩きつけられた。遠くの方で私を呼ぶ声が聞こえた。





「…………んっ」

 目が覚めると、私は自分の部屋のベッドに横たわっていた。

「お姉ちゃん! お姉ちゃんが起きた!」

 リリーの声。体がだるく、まだ頭痛がする。私の右手がリリーの両手で包まれていた。

「お医者さん呼んでくる!」

 リリーは急いで私の部屋から出ていく。一分ほどでリリーと、白衣を着た初対面の人が入ってきた。

「何とか事なきを得たようですね、よかったです」

 事なき……? そんなに私ヤバかったの?

「先生、私はどうなっていたんですか」
「…………毒で死にかけていました」

 言いづらそうな医者の口から衝撃的な言葉が飛び出す。
 えぇっ…………ど、ど、毒!?

「そんな……いつ飲んじゃったんだろ?」
「おそらく、パーティーのお食事中でしょう」

 いやいやいや! だって作ったものに何かないように、ちゃんと毒味の人使ったし!

「しかし、他の参加者には何も症状ないのが気がかりです」

 え? ということは、私だけ狙われたってこと?

「今、騎士団の方がグローリア様のお食べになったものや、食器もろもろを調べているそうで」
「そうなんですね……。ともかく、先生ありがとうございました」

 すると、ベルや他の使用人が私の部屋に入ってきた。

「グロー……! よかった」
「グローリア様!」
「よかった、お目覚めに!」

 メイドのジェンナは泣き崩れ、いつもはあまり感情を表に出さないベルでさえ、嬉し涙をこらえている。
 それに誘発されたのか、リリーが急に泣き出して私に抱きついてきた。

「本当に……お姉ちゃんが死んじゃうと思った……」
「リリー、もしかしてずっと私の隣に?」
「うん、ずっとずっと、お姉ちゃんの手をギューってしてた」

 私はこうせざるを得なかった。リリーの頭をそっとなで、「ありがとう、リリーのおかげだよ」と言葉にした。

 私が転生して初めて目を覚ました時も、リリーがそばにいてくれたんだよね。
 なんか私までもらい泣きしちゃいそう。

 力が入りにくい体を無理やり起こし、リリーとしっかりハグをする。泣き止まないリリーを私の胸にうずめさせる。

「ほら、ちゃんとドックンドックンって聞こえるでしょ? もうお姉ちゃんは大丈夫だから」

 私はリリーが泣き疲れるまで見守ることにした。それだけ悲しい思いをさせてしまったのだから、それくらいのことはね。
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