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第三章 元女子高生、異世界で反旗を翻す

33:管弦楽と吹奏楽でパーティーは大忙し!

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 社交ダンスで思ったよりいい反応をくれたので一安心。あの後も色々な人と踊り、「ダンスがよかった」と言ってもらい、私の心は少しばかり舞い上がっていた。

 次は音楽鑑賞だから……。

「あと十分したら、また楽団のみんなに会わなくちゃね」

 そして何より、オーケストラの後には私たちの初公演がある。
 アールテムで独自に生み出された『吹奏楽』の。

「リリー、迷子にならないかな?」
「大丈夫、私と一緒に行こ」

 まさかリリーを一人でうろうろさせることはしない。私はリリーの手をしっかり握った。

 他のパーティーの参加者は各円卓に六人ずつ座って、紅茶やケーキを食べながら演奏を聴いてくれる。

「グローリア様、オーケストラの次にある『吹奏楽』ってどういうものなのかな?」

 まだ席についていない男性が尋ねてきた。

「簡単にいうと、オーケストラから弦楽器を外して演奏をするものです」
「弦楽器がないのか! 要は管楽器と打楽器だけということだよね。どんな音になるのか想像ができない」
「思ったよりいい音がしますよ」
「ほう、楽しみにしているよ」

 私はその男性に別れを告げると、リリーと手をつないだまま部屋を出ていく。
 練習室に待機させている音楽隊のみんなにリリーを預け、私はその隣の練習室にいる管弦楽団と合流した。

「あれ、まだ集合時間じゃないですよ?」
「五分前行動です」
「あぁ、前世で心がけていたっていうあれですね」

 ホントは中途半端に時間が余っちゃったから、それなら先に集合しておこうってだけなんだけど。
 遅刻するよりはマシだもんね。

 さっき社交ダンスが終わった後に、私は楽器をここに移動していた。
 イスに座り、首にストラップをかけ、床に置いたサックスを持ち上げてストラップに引っかける。

 団長が手をたたいて、個人練習をしている不協和音を止めた。

「グローリアが早く来てくれたから、もうやっちゃおうか。まずはオープニングの頭から」

 本番直前の確認ということで、全ての曲の楽章ごとに、最初の方だけを合奏した。





 私たちの前にはさっきと同じ人たちが座っていた。しかし、今度はみんながこちらを見て、演奏が始まるのを待っている。

 指揮者が演奏者を目線だけでぐるりとたどり、うなずく。うなずき返す。すましたようにニコッとし、指揮をする手を構えた。

 序曲を一曲演奏し、三十分くらいかかる交響曲を演奏。
 オーケストラって一曲一曲が長いイメージがあるけど、演奏する側はあっという間なんだよね。

 最後の一音までほぼゾーンに入りながら、私は指揮の合図でピタッと音を切った。
 余韻までしっかり感じながら、拍手が鳴り始める。

「ブラボー!」「ブラボー!」

 時間の都合でアンコールはできなかったものの、全員が退場するまで拍手をしてくれた。
 弦楽器奏者は片づけのために練習室に入るが、管楽器と打楽器の人だけその隣の練習室に入る。

「みなさん、お待たせしました」
「大丈夫、リリーちゃんと遊んでたから!」

 そう言って親指を立てて笑う、バリトンサックスのケイト。端に寄せてあるテーブルで、リリーの遊び相手をしてくれたようだ。

「何して遊んでたの?」
「お手玉とか積み木をしたよ」

 七歳のリリーでは、長時間のパーティーは絶対に飽きるだろうと思って、持ってきたものである。

「さっき、私とどっちが高く積めるか競争をしたんだよね。それがさ、リリーちゃんけっこう上手いのね!」
「うん、リリー勝ったの!」

 ふんと自慢げになるリリー。テーブルの上には、ギリギリのバランスで立つ塔らしきものが作られていた。

「それでは最終確認の合奏をするので、席についてください」

 一時間前と同じように、曲ごとの始めの部分だけを練習した。





 会場の方は二十分休憩が終わり、みんなが元の席に着いていた。
 私は前世で使っていた、後輩を勇気づける言葉を投げかける。

「これから、私たちの大事な初舞台です。楽譜に書きこんだことも重要ですが、まずは演奏を楽しみましょう!」
「はい」

 隊員たちは楽器を持っていない方の手を握り、胸に拳を当てて首を縦に振った。

 私たちは部屋の中に入っていく。
 私だけイスには座らず、その前で楽器を持ったまま立つ。

「みなさま、ごきげんよう。お初にお目にかかります、アールテム音楽隊でございます」

『お客さん』は興味津々に隊員たちを見ている。

「ご覧のとおり、管楽器と打楽器とコントラバスで構成されており、オーケストラとは違ったサウンドを楽しんでいただけると思います。それではお聴きください」

 一礼をして座り、指揮者に視線を向けた。
 ちなみに指揮者は管弦楽団と同じ人である。

 吹奏楽といえばマーチ。最初は明るい曲調のマーチで飾る。

「こんな人数なのにかなりの迫力……!」

 人数としてはたった三十五人だが、弦楽器より管楽器の方が一人一人が奏でる音量は大きくなりやすい。

「グローリア様が吹いているのはサックスよね? その周りにも似たような楽器があるけれど……」

 婦人がこちらを指さしている。
 八小節の休みで『お客さん』を見てみると、どんな楽器があるのかまじまじと観察したり、目を閉じて音を楽しんだりする人もいた。

 マーチを吹き終わり、みんなが気になっているであろう、吹奏楽で使われている楽器を紹介していく。

「吹奏楽には、オーケストラでは使われていない楽器もあります。例えば……」

 私はサックスパートに、手で『起立』の合図を出す。

「新しい楽器の『サクソフォン』、略して『サックス』です。豊かな音を作るために、音域の違う三種類のサックスを使っています」

 さっきこちらを指さしていた婦人が、なるほどと言うようにうなずいている。 
 サックスパートを座らせ、今度は別の人を立たせた。

「もう一つは『ユーフォニアム』です。チューバを小さくしたような形ですが、全体の音をきれいにまとめてくれます」

 そう言っている自分も、前世ではまだ実感できてなかったんだよね。ただ顧問にそう教わってただけだし。
 音楽隊を作って自分で教えるようになってから、ただの知識が経験になったというか。それぞれの楽器の大切さが身にしみたというか、ね。

「オーケストラとの違いを知っていただけたところで、もう一曲お送りします」

 本来の演奏会であればあと三十分は発表したいところだが、初心者が何人かいるので二曲演奏するのが精一杯だった。
 二曲目は、オーケストラで人気の曲を吹奏楽にアレンジした曲である。

「弦楽器がないだけで、こんなに雰囲気が変わるんだね」

 一番伝えたかった『吹奏楽はオーケストラとどのような違いがあるのか』をたった二曲で表せられた。
 嫌な顔はされず、思ったより受け入れてくれたと感じている。

 演奏が終わり、私は数人に囲まれながらその感想を聞いていた。

「これもこれでいい音楽だと思うよ。新しい音楽の道を開いてくれたんじゃないかな。この音楽隊はグローリア様がお作りに?」
「はい。前世で吹奏楽をやっていたので、またやりたいと思って集めました」
「とても新鮮で楽しかったよ。いいおもてなしだったと思う」
「今度は私の国で演奏を聴きたいね」

 音楽隊の初舞台は案外好評で、手応えのある通過点となった。
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