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第三章 元女子高生、異世界で反旗を翻す

31:とうとうアイツがやらかした……!

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「賠償金が金貨二兆枚⁉︎」

 ぽかんと開いた口が閉じられない私。

「しかし、向こうから侵略しないと約束してくださいました」
「そういうことじゃないでしょ‼︎」

 国王もあ然とし、言い訳をするトリスタンに、またも私は呆然ぼうぜんとしてしまった。
 十ヶ月の謹慎期間中にも関わらず、こそこそと戦争を仕かけ、大敗したのである。

「どうやっても払えませんよ……いったいどうしたら……」
「それよりまずは」

 めったに怒らない国王の顔がみるみる険しくなっていく。国王らしい威厳を放ち、低い声でトリスタンに告げる。

「約束したとおり、そなたには今度こそ王城から出て行ってもらおうか。爵位はどうしようか、剥奪もできるが」
「陛下、約束どおりに王城からは離れますが、爵位の剥奪だけは、どうか、どうか、お許しを……!」

 命ごいをするトリスタンに、私は冷ややかな目を向けた。
 失敗が許されないのにね、人間が失敗しないわけがないじゃん。あの時素直に王城を出ていけばよかったのに。

「ただ、徴税をしてもらえないのは困る。法律で『王都からの徴税代表は公爵以上の者とする』と書かれているからな……。だがグローリアを信用していないわけではないが、国のまつりごとをする者と徴税の代表を同じ者にすると、あの・・ようなことが起こる」

 トリスタンの目をじっと見て、圧を与えていく。
 そうだよ、集めた税金(ウソ)を自分の物にしちゃってたもんね。
 法律を変えるっていうのも手だけど、今すぐにできることじゃないしなぁ。

「グローリアと爵位を入れ替えるか?」

 あ……そういう手段? てことは。

「そうなればグローリアが大公爵だ」
「わ、私が大公爵に⁉︎」

 ちょっとちょっと! 貴族のトップだなんて! それはどうなの⁉︎

「私はまだ貴族になったばかりで、大公爵など、まだ身の丈に合っておりません」
「そなたは宰相であろう?」
「宰相でございますが、この国で一番お偉いのは陛下でございます。私は頂点になど立てるような者ではありません」
「だが、そなたは音楽隊の隊長ではないか」

 はっ! やべっ、言い訳が!

「音楽隊は新しく作ったものなので、まだ伝統というものがありません。しかし貴族というのは何百年もの歴史があり、守られてきたものがあります。私はそれを背負えるほどの器ではないです」

 私の即席で必死な言い訳に、国王は「そうか……どうしようか」とツッコミが止まった。
 それならもうこれでいいんじゃない?

「いっそ、大公爵という爵位を不在にしてはいかがでしょう?」
「その手があったか」
「いつか、どなたか大公爵にふさわしい功績をした人のために取っておきましょう」

 我ながらいい考えだと思うけど。どうかな?

「それでいこう。今日づけで、トリスタン・ヴェルナを公爵に降格する。今すぐ荷物をまとめて王城を去りなさい」

 あーあ、トリスタンの別名が大公爵だったけど、そう呼べなくなっちゃったなぁ。
 大公爵だったトリスタンが私と同じ公爵になったことで、力関係としては宰相でもある私が有利になった。

「それでは、グローリアと賠償金について話し合うか。あっ、トリスタン」

『王の広間』を出ていこうとしたトリスタンを呼び止める。

「これだけの賠償金、どうしてもらおうか。もちろん、そなたが責任を負うのだろう?」

 着服の件で財産が没収されているトリスタンは、一瞬で顔が青ざめる。

「金貨二兆枚を……?」
「払えないというなら、どうなるか」
「は、払います」

 まぁ金貨二兆枚、大公爵『だった』トリスタンなら払えそうだけど。
 税収改革もろもろで黒字になった分を賠償金にあてないと。と私はため息をつく。

 せっかく黒字回復してるのに、また国の収入が火の車に……!
 トリスタンめ……!





 税収改革の影響が国中に広がっていた。ここ、元トゥムル王国領でアールテム王国辺境の地域にも影響が出ていた。

「この国の宰相、やっぱりどうかしてるだろ」
「そうだよな、戦争に負けた俺らを奴隷にしないどころか、自由自治を認めてくれるなんてよ」
「奴隷がほしくて戦争したんじゃないってことだよな」

 元トゥムル王国の領土のほとんどは、グローリアの意向で自由自治となっている。というより、そもそも王都はもとから自由都市となっているのだが。

「「「やっぱりおかしい」」」

 グローリアは自由自治を認めた理由について、こう文章に記している。

『国王陛下や私は、国民を縛りつけるのではなく、国民をゆるくひもでつなげておくような統治をしたいと考えている。領土が倍増したことで、さまざまな文化がある地域も治めることになった。私たちは文化を尊重し、自由自治を許可することにした』

 反対にハルドンといえば『恐怖政策』で国民をギチギチに縛りつけていた。

 戦争で負けた国からは財宝という財宝を奪い取り、強制的に宗教を変えさせ、ハルドンが奇妙だと思った文化は根絶やしにしていった。
 あくまでハルドンの主観でやっていたことである。グローリアからすれば「すごい!」と思った文化でさえ、ハルドンのせいで消えかけていた。

「おかげで俺らが毎月している『お祭り』が、またできるようになったんだもんな。俺らからすれば、ハルドンあいつが保護していた文化の方が奇妙に思えるのだが」
「ああ、俺も。今思えばだけど、今までのがひどすぎたんだな。生まれた時からこんな生活だから、今の平和は逆に戸惑う」

 あれもやっていいのか、これもやっていいのかと、人々はトゥムル王国に併合される前の活気を取り戻した。逆にこんなに自由だが国が危なくなる気配もしない。

 辺境の人々さえ思った。この宰相はただ者ではないと。
 ただ、本当のところは……。

「こんなでっかい領土全部なんて治められないし! とりあえず税金だけ納めてくれればいいから!」

 という、筋が通っていそうで通っていない理由からであった。
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