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第二章 元女子高生、異世界でどんどん成り上がる

27:お久しぶりです、サックスファミリー!

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 まるで、私と考えていることが一致しているのかと思うほどの出来栄えだった。

「……すごいです、まんまこれです!」

 私の前には、私のものより一回り大きいサックスと、大きく存在感を放つサックスが二つずつ置いてあった。
 設計図を書く時点で、私の記憶を頼りに細かいところまで指示していったが、ここまでの出来だとは。

『楽器工房』から三種類のサックスが誕生した。

「試しに吹いてくれないか?」
「分かりました」

 テナーとバリトン、数えるほどしか吹いたことがないけど。
 ここに来る前に、テナーとバリトン専用のリードをもらっている。

「おおっ、こんな音なんだね」

 少し渋い音と かなり渋い音、慣れていないだけで音はこんなもんかな?

「あとはこれを王城に持っていくだけだね」
「あっ、何回かに分けて運ばないと」
「そう思って、力持ちを呼んでいるよ」

 そう言うと見覚えのある男が一人と、超見覚えのある男が一人、工房から出てきた。

「あっ、ルーク! ……と……あっ」
「私が楽器を王城に持っていくと言ったら、お手伝いでこの人をよこしてきたよ。知り合いかな?」

 私は空いた口が閉じられなかった。

「そっか、刑期中だから……」

 ハルドンだった。あの時より体が一回り小さくなっている。

 ……いや、同情など感じちゃだめだ。私が吹っ飛ばしたんだから。

「俺はこのデカい方を持つよ」
「ルーク、ありがとうございます」

 率先してルークがバリトンサックスのケースを持つ。

「……私も」

 私に一切目を合わせないハルドンも、バリトンサックスのケースを持ってくれた。

「じゃあ私はテナーの方だね」

 おじさんが小さい方のケースを持ち、私は残りのケースを持つ。

「それじゃあ行こうか」

 すっかりやつれてしまったハルドンがいることで、一人気まずく感じてしまったのだった。





 入隊予定のメンバーは、リリー以外にアルトサックスが一人、テナーサックスとバリトンサックスが二人ずつである。
 すでに王城に、他のサックスのメンバーが待っているのだ。

「お待たせしました、楽器を持って来ました」
「「「うぉっ」」」
「小さい方がテナーで、大きい方がバリトンです」

 新メンバーの貴族出身の女性が、新たな大きい相棒に飛んでいった。
 唯一の農民出身でアルトサックスの男性には、昨日のうちに楽器を渡してある。
 他の平民出身の三人は、おずおずとケースに近寄ってきた。

「これからみんなの相棒になる楽器たちです。ちょっとでもぶつけるとすぐに凹んで、音が変わってしまいます。ガラスでできていると思って、丁寧に取り扱ってください」

 前世の吹奏楽部でも、最初に必ず言う言葉である。
 あの時は、修理に出している間の代理の楽器があったけど、この世界ではめっちゃ貴重なんだからね! それは分かってると思うけど。

「それでは楽器倉庫に行って、さっそく始めましょうか」

 私は、一緒に楽器を運んでくれた三人にお礼を言っておく。
 それからリリーを含めた新メンバー六人とともに、列をなして『はじめての場所』に向かった。





『身分関係なく、音楽を楽しめる楽団を作ろう』。
 七人のサックスパートは、貴族が三人、平民が三人、農民が一人で構成されている。

 農民は一人だけだが、貴族には十分に激震が走った。
 音楽といえば貴族のような、高貴な身分が楽しむものだった。平民すら賛美歌を歌うくらいで、オーケストラはやはり貴族のものだった。

 それにも関わらず、音楽にすらほとんど触れない農民が、楽器を演奏するなんて。

「グローリアさんの演奏を聴いて、ずっとやってみたいと思ってました。やるならグローリアさんと同じものでやりたいです」

 そう、私と同い年の男子に言われてしまえば、スカウトするしかなかった。
 私の演奏でやってみたいと思ってくれてたなんて! 

 ピーッ、ピーッ、ファーッ……

 この音を聞いてると、完全に前世を思い出してうるうるしてきちゃう!
 サックスパートのみんなで練習して、後輩に教えて、合奏したもんなぁ……。

「次は何したらいいですか?」
「あっ、次はこれをつけて吹いてみてください」

 初めてでも、マウスピースだけならすぐに音が出てくれた。感じていた不安は、飲みこみのいいメンバーによって洗い流されていく。

「リリーちゃん、サックス始めてどれくらいなの?」

 バリトン担当の女性がリリーに尋ねる。リリーは親指と人差し指を伸ばして、女性に差し出した。

「二ヶ月!」
「経験者って言っても、まだそれくらいなんですよ」
「そうなんだね。よーし、リリーちゃんに追いつけるように頑張らないと!」

 とても明るい性格の女性で、ギチギチに固まっている他のメンバーを和ませてくれる。
 まぁ、最初こそは二ヶ月もけっこうな差だけどね。

「僕、一人だけこんな見た目ですが……気になりますか?」

 農民出身の男子が、着ている麻の服をつまむ。

「いやぜんぜん! ぶっちゃけ、私も農民をあそこまで差別する必要あるのかな? って思ってたから、グローリアちゃんに賛成したんだ。むしろ、君がよく来てくれたねっていう感じ!」
「ちょっと怖かったんですが、『音楽は身分関係ない』って言うグローリアさんに感銘を受けて、決めました」

 私以外の貴族を相手にしても、自然と笑みがこぼれるその男子に、またもうるうる来そうになった。

 みんなよそよそしくて、気まずい雰囲気になったらどうしようとか、自分が積極的に話題を作らなきゃとか思ってたけど。
 ……大丈夫そうだね、よかった!

「みんなできているので、ついに楽器を全部組み立てた状態で吹いてみましょうか!」
「よし!」「音出せるかな」「少し緊張しますね」

 ぎこちないながらも、みんな自分からしゃべってくれるようになった。
 初めて一緒に練習しているとは思えないほど、柔らかく穏やかな空気で包まれている。

「最初はどこも押さえないで、吹いてみましょう」

 アルトよりテナー、テナーよりバリトンの方が音を出すのが大変なのだが。

 音がか弱い人もいたが、何とか全員サックスの音はだせるようになった。

「すごい! みんなできるんですね! みんなお上手です!」

 こちらの想像をはるかに越える上達具合に、こちらが戸惑ってしまう事態に。
 しかし、これくらいのペースでやっていかないと、音楽隊の結成は難しくなる。サックスだけ初心者の集まりで、他はほとんどがプロの演奏者。この差をいかに埋められるか。

 この六人にかかっているのだ。

「その調子で次は……」

 私は心の中で舞い上がりながら、ノリノリでサックスを教えていくのだった。
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