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第二章 元女子高生、異世界でどんどん成り上がる
26:困っている農民を助けよう!
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私は音楽隊の隊員募集もかねて、噴水広場にいた。
露店が立ち並び、待ち合わせの場所として使われるため、多くの人でにぎわっている。
前世でいう私服警備員と同じ要領で、今日の私は平民時代の格好をしている。
「おっ、いるいる」
オンボロで泥のついた服を着た女の人が、農作物を売っていた。農民だろう。
遠巻きにその状況をながめていると、どうやらその女の人は困った様子であった。
「あんたらが作ったものなんか、これくらいでいいだろう」
「……たったこれだけですか。おかしいですよ」
「大して金の価値も分からないようなヤツが、口答えするんじゃないよ!」
にんじんのようなものをたんまりと売ったにも関わらず、たった銅貨二枚しかもらっていない。
「たぶん一キロくらいはあるよね。それで銅貨二枚はおかしすぎる」
私は何気なくその店の商品を買うふりをして近づいた。
「えっと今の野菜がとてもおいしそうだったので、それを二つ」
「はい、銅貨一枚です」
そういって、数秒前に店が買い取ったばかりの野菜を差し出した。
一キロくらいを銅貨二枚で買ったくせに、売るときは二本で銅貨一枚! 超ぼったくりじゃん!
「はい、ありがと……って、えっ?」
私は例の前世で鍛えた営業スマイルで、店の人と目を合わせる。
「あんなにたくさんのこれを、たった銅貨二枚で買ったんですか」
「あっ、これは……その……」
気づいたようだ。
「あまりにも他の店との金額が違う場合、法律違反となりますが?」
「お、お許しください。先ほどの客を呼び戻して取引をし直すので」
「それだけではありません。『あんたらが作ったものなんかこれくらいでいい』とか、『大して金の価値も分からないヤツが』とか、聞き捨てなりませんね」
店の人は反論する気もないようだ。この前の会見で、明らかに平民や農民にやさしい政策を発表したのを分かっている。
低い身分のせいで被る不利益をなくしていくと。
「それでは」
私は店の名前をメモして、店の人の顔を目に焼きつけると、農民らしき女性が去っていった方向に走り出した。
周りに馴染まない、一人だけ異様にオンボロな服だったので、追いかけていくとすぐに見つけられた。
「さっきこの野菜を売っていたそこの女性!」
具体的に言ったおかげか、こちらを振り向いてくれた。
「あっ、サックスのお姉さん」
「こんにちは。さっきこれを銅貨二枚で売りました?」
「そうですけど……安すぎませんか?」
「あれはぼったくりです。これ二本で銅貨一枚でしたので」
「えぇっ」
私はその女の人に銀貨二枚を手渡した。
「あれくらいの量ならば、これくらいが相場です」
「えっ、でも悪いですって」
「あの店には処分を下しますので、代わりに私が」
銀貨を手にした女の人は、目がうるみそうになっている。
「生活がかかってるんですもんね。適切な値段で売るのはとても大事なことですよ」
「あ、ありがとうございます!」
「今度村に行った時、食べた時の報告をしますね」
私は女の人を手を振って見送り、また噴水広場に戻った。
そのまま農村に帰った女の人は、近所の人に初めて手に入れた銀貨を見せびらかしていた。
「ねぇ、都の民しかもっていなかった銀貨が、私でも手に入れられたの!」
「そんなに高く売れるのか!」
もの珍しい銀貨を見ようと、近くにいた数人が集まってくる。
「いえ、最初は銅貨二枚だと言われたの。でも、毎週来てくれるサックスのお姉さんにちょうど会って、『あれくらいの量なら、銀貨二枚だ』って言って渡してくれて」
「銅貨二枚と銀貨二枚はえらい違いだぞ~」
「よかったな」
サックスのお姉さん=グローリア=宰相だが、農民は未だにサックスのお姉さんと呼んでいる。
「いやあ、すごく損をするところだったな。俺も気をつけねぇと」
「そうだね、一つのお店じゃなくていろんなお店を回ってみようか」
貨幣経済が入ってきたばかりの農民だったが、何とかグローリアのおかげで学習できたらしい。
女の人は「それにしても」と話を続けた。
「憧れの王都に行けるようになったし、税金はぐっと減ったし、こうやって助けてもらったし、サックスのお姉さんはすごい人よね」
「ああ。昨日王都に行ったら、サックスのお姉さんが『聖女』って呼ばれてるっていうのを聞いたな」
「まさにそうね! ケガも病気も治してくれるし、大聖女よ!」
そこに集まる一同が大きくうなずいていた。
「ふぅ、これだけいれば何とか吹奏楽はできるでしょ」
私はリリーと一緒に、音楽隊に入隊予定の人の名簿を見ていた。
アールテム管弦楽団は人数は六十人くらいだが、半分以上が弦楽器奏者。他の管楽器と打楽器奏者を集めても二十数人。
そこに私がスカウトした、サックスをやってくれる人と、サックス以外の楽器をやってくれる人を入れても三十人くらい。
私が前世で吹いていた時は、吹奏楽部だけで百人超えだったのでかなり少なく感じた。
「みんなおとな?」
名簿を指さしてリリーは首をかしげる。
「そんなことないよ。この子は十二歳で、この子は十三歳だよ」
「みんな、リリーよりお兄さんかお姉さん?」
「うん、リリーが一番年下だね」
リリーの友だちがサックスをやりたいとは言っていたものの、貴族の子供はお稽古で忙しく、平民の子供は親の手伝いで忙しい子がほとんどだった。
それでも二人は捕まえられたし、上出来でしょ!
明日、楽器職人のおじさんに頼んでいた、テナーサックスとバリトンサックスができあがるという。
転生してから久しぶりに見るから、めっちゃ楽しみ!
露店が立ち並び、待ち合わせの場所として使われるため、多くの人でにぎわっている。
前世でいう私服警備員と同じ要領で、今日の私は平民時代の格好をしている。
「おっ、いるいる」
オンボロで泥のついた服を着た女の人が、農作物を売っていた。農民だろう。
遠巻きにその状況をながめていると、どうやらその女の人は困った様子であった。
「あんたらが作ったものなんか、これくらいでいいだろう」
「……たったこれだけですか。おかしいですよ」
「大して金の価値も分からないようなヤツが、口答えするんじゃないよ!」
にんじんのようなものをたんまりと売ったにも関わらず、たった銅貨二枚しかもらっていない。
「たぶん一キロくらいはあるよね。それで銅貨二枚はおかしすぎる」
私は何気なくその店の商品を買うふりをして近づいた。
「えっと今の野菜がとてもおいしそうだったので、それを二つ」
「はい、銅貨一枚です」
そういって、数秒前に店が買い取ったばかりの野菜を差し出した。
一キロくらいを銅貨二枚で買ったくせに、売るときは二本で銅貨一枚! 超ぼったくりじゃん!
「はい、ありがと……って、えっ?」
私は例の前世で鍛えた営業スマイルで、店の人と目を合わせる。
「あんなにたくさんのこれを、たった銅貨二枚で買ったんですか」
「あっ、これは……その……」
気づいたようだ。
「あまりにも他の店との金額が違う場合、法律違反となりますが?」
「お、お許しください。先ほどの客を呼び戻して取引をし直すので」
「それだけではありません。『あんたらが作ったものなんかこれくらいでいい』とか、『大して金の価値も分からないヤツが』とか、聞き捨てなりませんね」
店の人は反論する気もないようだ。この前の会見で、明らかに平民や農民にやさしい政策を発表したのを分かっている。
低い身分のせいで被る不利益をなくしていくと。
「それでは」
私は店の名前をメモして、店の人の顔を目に焼きつけると、農民らしき女性が去っていった方向に走り出した。
周りに馴染まない、一人だけ異様にオンボロな服だったので、追いかけていくとすぐに見つけられた。
「さっきこの野菜を売っていたそこの女性!」
具体的に言ったおかげか、こちらを振り向いてくれた。
「あっ、サックスのお姉さん」
「こんにちは。さっきこれを銅貨二枚で売りました?」
「そうですけど……安すぎませんか?」
「あれはぼったくりです。これ二本で銅貨一枚でしたので」
「えぇっ」
私はその女の人に銀貨二枚を手渡した。
「あれくらいの量ならば、これくらいが相場です」
「えっ、でも悪いですって」
「あの店には処分を下しますので、代わりに私が」
銀貨を手にした女の人は、目がうるみそうになっている。
「生活がかかってるんですもんね。適切な値段で売るのはとても大事なことですよ」
「あ、ありがとうございます!」
「今度村に行った時、食べた時の報告をしますね」
私は女の人を手を振って見送り、また噴水広場に戻った。
そのまま農村に帰った女の人は、近所の人に初めて手に入れた銀貨を見せびらかしていた。
「ねぇ、都の民しかもっていなかった銀貨が、私でも手に入れられたの!」
「そんなに高く売れるのか!」
もの珍しい銀貨を見ようと、近くにいた数人が集まってくる。
「いえ、最初は銅貨二枚だと言われたの。でも、毎週来てくれるサックスのお姉さんにちょうど会って、『あれくらいの量なら、銀貨二枚だ』って言って渡してくれて」
「銅貨二枚と銀貨二枚はえらい違いだぞ~」
「よかったな」
サックスのお姉さん=グローリア=宰相だが、農民は未だにサックスのお姉さんと呼んでいる。
「いやあ、すごく損をするところだったな。俺も気をつけねぇと」
「そうだね、一つのお店じゃなくていろんなお店を回ってみようか」
貨幣経済が入ってきたばかりの農民だったが、何とかグローリアのおかげで学習できたらしい。
女の人は「それにしても」と話を続けた。
「憧れの王都に行けるようになったし、税金はぐっと減ったし、こうやって助けてもらったし、サックスのお姉さんはすごい人よね」
「ああ。昨日王都に行ったら、サックスのお姉さんが『聖女』って呼ばれてるっていうのを聞いたな」
「まさにそうね! ケガも病気も治してくれるし、大聖女よ!」
そこに集まる一同が大きくうなずいていた。
「ふぅ、これだけいれば何とか吹奏楽はできるでしょ」
私はリリーと一緒に、音楽隊に入隊予定の人の名簿を見ていた。
アールテム管弦楽団は人数は六十人くらいだが、半分以上が弦楽器奏者。他の管楽器と打楽器奏者を集めても二十数人。
そこに私がスカウトした、サックスをやってくれる人と、サックス以外の楽器をやってくれる人を入れても三十人くらい。
私が前世で吹いていた時は、吹奏楽部だけで百人超えだったのでかなり少なく感じた。
「みんなおとな?」
名簿を指さしてリリーは首をかしげる。
「そんなことないよ。この子は十二歳で、この子は十三歳だよ」
「みんな、リリーよりお兄さんかお姉さん?」
「うん、リリーが一番年下だね」
リリーの友だちがサックスをやりたいとは言っていたものの、貴族の子供はお稽古で忙しく、平民の子供は親の手伝いで忙しい子がほとんどだった。
それでも二人は捕まえられたし、上出来でしょ!
明日、楽器職人のおじさんに頼んでいた、テナーサックスとバリトンサックスができあがるという。
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