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第二章 元女子高生、異世界でどんどん成り上がる
20:裏でまさかのまさかが起こっていました!?
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ドスン! バキバキバキッ!
空から『何か』が降ってきたかと思うと、それらは騎士団寮の屋根を轟音とともに貫く。
幸いにも両国国王会談のための警備で、中にいた騎士たちは少なく、がれきの下敷きになった者はいなかった。
「何事だ!? ……あっ」
そこには目を回して気絶している隣国の国王と、トゥムル王国の国章をつけたボディーガードと思われる人たちがいた。
「どうしてこんなことに! とりあえず助けるぞ!」
「医務室に運べ!」
応急手当てが終わったところで、騎士の一人がこそっと先輩騎士に耳打ちをする。
「俺、王城の方を見てたんですけど、さっきハルドン国王がああなる直前に、王城の敷地内でものすごいでっかい竜巻が起こってたんですよ。それに飛ばされたんじゃないかって」
「それかもな。ただ……それほど大きいなら王城自体も壊れていいものだが」
「それが普通の竜巻じゃないんですよ。『移動しない』竜巻で、しかも火の粉みたいなものも巻き上げていて……」
結局原因が分からず、黙々とがれきの片づけをし始める騎士たちであった。
「ええっと、ちょっとやりすぎたかも」
竜巻があったところだけ、見事に地面の芝生が剥げている。
私は王城の柵をぐるっと見まわしてトゥムル軍がいないことを確認すると、王城の中に入っていった。
どこかに逃げているであろう、国王を探すためである。
「もしかしたら楽団のみんなと逃げたかもしれないから……」
地下の非常用通路に踏み入ると大勢の気配が。
私は首にぶら下げているサックスで『ファ♯』の音を出して、自分だということを知らせる。
「あっ、グローリア!」
楽団の団長の声がした。私はホッとしてその声がした方に向かっていく。
通路の途中で固まっている団員たちと、それに守られるようにいたのはわが国の国王だった。
「包囲軍にはいったん音波で吹っ飛んでもらって、ハルドン国王には竜巻でどっかに飛ばしておきました」
「な、な、何て言った!?」
あまりにさらっと言いすぎたせいか、国王や団員はぽかんとしている。
「私の能力で、包囲軍には音波の壁で気絶してもらって、ハルドン国王にはトリスタン大公爵に浴びせた竜巻の、何倍も大きな竜巻を浴びせました」
「なんと……わがアールテム王国は助かったということか?」
「はい、なんとか」
ぽかんとする瞳の焦点が定まってきたかと思うと、国王はスゥーっと音を立てて息を吸った。
「でかしたぁぁぁぁっ!!」
この前病気を治した時のような歓声をあげ、またも私の手を勝手にとってブンブンと握手される。
それを飾るように楽団のみんなが拍手をしてくれる。
「喜ぶのはもっと見晴らしのよいところでしませんか?」
「そうだな」
私はみんなと一緒に非常用通路から出て、国王を最上階の『王の広間』に送り届けた。
外に置きっぱなしだったサックスのケースに楽器をしまうと、私も遅れて『王の広間』に入室する。
王城の周りでのびているトゥムル軍が、騎士団の人たちに回収されている様を見ていると、
コンコンコン!
その騎士団の一人が扉を叩いて『王の広間』に入ってきた。
「申し上げます! 先ほどの竜巻によって飛来してきたとみられるハルドン国王とその護衛が、騎士団寮の真上に落下しました! 医務室で手当てをしております」
あっ、あの人たち騎士団寮に落っこっちゃったんだ。
続いて泥汚れがついた騎士も入ってきた。今度はただならぬ様子である。
「申し上げます! 今日の会談に乗じてトゥムル王国に攻めこみ、王都を陥落させました!」
なんと、アールテム王国を隣国の攻撃から守っただけでなく、そのものを倒してしまったのだ。
「「「ええっ!?」」」 「よっしゃ!」
みんなは目を丸くしているが、私一人でガッツポーズをする。
「私の作戦、効きました?」
「はい! おかげでたくさんのトゥムル国民がうちに寝返りました!」
私が提案したのはこういうものだった。
そもそもトゥムル王国を攻めようと言い出したのは、騎士団長である。そこで私は「ハルドン国王がいかに自分勝手な独裁者であるかを説いて、寝返らせればいいんじゃないか」と言ってみたのだ。
「例えば、どんな風に?」
「そうですね、『ハルドンに滅ぼされた国の民が払っている重い重い税金、それはハルドンの私利私欲のために使われている』とか、『ハルドンに心からの忠誠はあるのか、逆らうとどうなるか分からないから従っているだけではないのか』とかですかね」
なかなかすごいことを言ってくれるじゃん! そりゃあ寝返るわ!
「ホントに『愛しの自分の国』がなくなっちゃった……」
私がプッと吹き出すと、『王の広間』は大爆笑に包まれた。
泥だらけの騎士は思い出したように付け加えた。
「あとグローリア様のことも言っておきました。『今アールテムには平民から貴族に成り上がった、のちにアールテムを大きく変えそうな少女がいる。珍しい楽器を吹いて農民から国王までの病気やケガを癒し、身分関係なく平等に接してくれる聖女のような音楽家がいる』と」
ちょっとちょっと! 何か話盛りすぎじゃない? 「アールテムを大きく変える」って、そんなこと思ってないんですけど! ただサックスのプロになってお金持ちになりたいだけなんですけど!?
「うん、グローリアは行動力があるからね」
「もともと平民で農民ともよく接しているからか、私たちにはない価値観を持っているのよ。とても新鮮だわ」
「しかもさっき『いいから早く逃げて!』って言ってくれた時、女だけど正直ほれちゃった!」
「大侯爵様の件もそうだけど、ちゃんと悪いことは悪いって言えるのがすごいよねぇ」
と、口々に言いだす団員たち。
えっ、思いつきで行動してただけなのに? 平等に接するとか前世からしてたことを続けてるだけだよ?
「私もそう思っておる。そなたのような人がこの国を変えると」
と、国王までもが。
「あの……みんなが思ってるより、私そんなにすごくないですよ?」
いつの間にか自分の株が上げられていることに、私はひとり困惑するのだった。
空から『何か』が降ってきたかと思うと、それらは騎士団寮の屋根を轟音とともに貫く。
幸いにも両国国王会談のための警備で、中にいた騎士たちは少なく、がれきの下敷きになった者はいなかった。
「何事だ!? ……あっ」
そこには目を回して気絶している隣国の国王と、トゥムル王国の国章をつけたボディーガードと思われる人たちがいた。
「どうしてこんなことに! とりあえず助けるぞ!」
「医務室に運べ!」
応急手当てが終わったところで、騎士の一人がこそっと先輩騎士に耳打ちをする。
「俺、王城の方を見てたんですけど、さっきハルドン国王がああなる直前に、王城の敷地内でものすごいでっかい竜巻が起こってたんですよ。それに飛ばされたんじゃないかって」
「それかもな。ただ……それほど大きいなら王城自体も壊れていいものだが」
「それが普通の竜巻じゃないんですよ。『移動しない』竜巻で、しかも火の粉みたいなものも巻き上げていて……」
結局原因が分からず、黙々とがれきの片づけをし始める騎士たちであった。
「ええっと、ちょっとやりすぎたかも」
竜巻があったところだけ、見事に地面の芝生が剥げている。
私は王城の柵をぐるっと見まわしてトゥムル軍がいないことを確認すると、王城の中に入っていった。
どこかに逃げているであろう、国王を探すためである。
「もしかしたら楽団のみんなと逃げたかもしれないから……」
地下の非常用通路に踏み入ると大勢の気配が。
私は首にぶら下げているサックスで『ファ♯』の音を出して、自分だということを知らせる。
「あっ、グローリア!」
楽団の団長の声がした。私はホッとしてその声がした方に向かっていく。
通路の途中で固まっている団員たちと、それに守られるようにいたのはわが国の国王だった。
「包囲軍にはいったん音波で吹っ飛んでもらって、ハルドン国王には竜巻でどっかに飛ばしておきました」
「な、な、何て言った!?」
あまりにさらっと言いすぎたせいか、国王や団員はぽかんとしている。
「私の能力で、包囲軍には音波の壁で気絶してもらって、ハルドン国王にはトリスタン大公爵に浴びせた竜巻の、何倍も大きな竜巻を浴びせました」
「なんと……わがアールテム王国は助かったということか?」
「はい、なんとか」
ぽかんとする瞳の焦点が定まってきたかと思うと、国王はスゥーっと音を立てて息を吸った。
「でかしたぁぁぁぁっ!!」
この前病気を治した時のような歓声をあげ、またも私の手を勝手にとってブンブンと握手される。
それを飾るように楽団のみんなが拍手をしてくれる。
「喜ぶのはもっと見晴らしのよいところでしませんか?」
「そうだな」
私はみんなと一緒に非常用通路から出て、国王を最上階の『王の広間』に送り届けた。
外に置きっぱなしだったサックスのケースに楽器をしまうと、私も遅れて『王の広間』に入室する。
王城の周りでのびているトゥムル軍が、騎士団の人たちに回収されている様を見ていると、
コンコンコン!
その騎士団の一人が扉を叩いて『王の広間』に入ってきた。
「申し上げます! 先ほどの竜巻によって飛来してきたとみられるハルドン国王とその護衛が、騎士団寮の真上に落下しました! 医務室で手当てをしております」
あっ、あの人たち騎士団寮に落っこっちゃったんだ。
続いて泥汚れがついた騎士も入ってきた。今度はただならぬ様子である。
「申し上げます! 今日の会談に乗じてトゥムル王国に攻めこみ、王都を陥落させました!」
なんと、アールテム王国を隣国の攻撃から守っただけでなく、そのものを倒してしまったのだ。
「「「ええっ!?」」」 「よっしゃ!」
みんなは目を丸くしているが、私一人でガッツポーズをする。
「私の作戦、効きました?」
「はい! おかげでたくさんのトゥムル国民がうちに寝返りました!」
私が提案したのはこういうものだった。
そもそもトゥムル王国を攻めようと言い出したのは、騎士団長である。そこで私は「ハルドン国王がいかに自分勝手な独裁者であるかを説いて、寝返らせればいいんじゃないか」と言ってみたのだ。
「例えば、どんな風に?」
「そうですね、『ハルドンに滅ぼされた国の民が払っている重い重い税金、それはハルドンの私利私欲のために使われている』とか、『ハルドンに心からの忠誠はあるのか、逆らうとどうなるか分からないから従っているだけではないのか』とかですかね」
なかなかすごいことを言ってくれるじゃん! そりゃあ寝返るわ!
「ホントに『愛しの自分の国』がなくなっちゃった……」
私がプッと吹き出すと、『王の広間』は大爆笑に包まれた。
泥だらけの騎士は思い出したように付け加えた。
「あとグローリア様のことも言っておきました。『今アールテムには平民から貴族に成り上がった、のちにアールテムを大きく変えそうな少女がいる。珍しい楽器を吹いて農民から国王までの病気やケガを癒し、身分関係なく平等に接してくれる聖女のような音楽家がいる』と」
ちょっとちょっと! 何か話盛りすぎじゃない? 「アールテムを大きく変える」って、そんなこと思ってないんですけど! ただサックスのプロになってお金持ちになりたいだけなんですけど!?
「うん、グローリアは行動力があるからね」
「もともと平民で農民ともよく接しているからか、私たちにはない価値観を持っているのよ。とても新鮮だわ」
「しかもさっき『いいから早く逃げて!』って言ってくれた時、女だけど正直ほれちゃった!」
「大侯爵様の件もそうだけど、ちゃんと悪いことは悪いって言えるのがすごいよねぇ」
と、口々に言いだす団員たち。
えっ、思いつきで行動してただけなのに? 平等に接するとか前世からしてたことを続けてるだけだよ?
「私もそう思っておる。そなたのような人がこの国を変えると」
と、国王までもが。
「あの……みんなが思ってるより、私そんなにすごくないですよ?」
いつの間にか自分の株が上げられていることに、私はひとり困惑するのだった。
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