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第一章 現役女子高生、異世界で超能力に目覚める
13:やばいやばい、やらかしたぁぁぁぁ!!
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「ベル! リリー!」
私は腰のベルトに、たくさんの金貨が入った革袋を二つ提げて帰った。
「国王陛下の病気、治せちゃった!」
「本当かい!?」
「すごいっ!」
良い土産を持って帰ったとたん、二人の歓喜の声が沸き起こった。
「それで……これが治療代って渡されたやつで……」
さっきからジャラジャラと鳴っているものを、ベルトからゆっくり外してテーブルに置く。
「こんなにもらって、いくらだい?」
「二つで金貨……百枚」
「ひゃ、百枚っ!?」
すぐさまテーブルの上に広げられ、黄金の海と化した。窓から入ってくる光でキラキラと輝く金貨。正直まぶしすぎる。
いきなりこんな大金を手に入れてしまったので、欲望どころの話ではないのだ。
「ベル、これ……どうする?」
「そうだねぇ……」
とりあえず家を改築することに決まった。
金貨百枚といっても日本円で百万円くらい。これでも王城の近くに住んでいる、貴族のような生活はできない。
お金持ちって、すごい遠い道のりなんだね……! もっと頑張らなくちゃ!
次の日は、週に一回の農村で演奏する日だった。
ベルから預かった麻布入りの袋を持って、村の中に入っていく。
「あっ、サックスのお姉ちゃんだ!」
「よお! 今日も来てくれたんだな!」
「ねぇねぇ、あれやってよ!」
さっそく大人から子供まで、たくさんの農民に囲まれてしまった。
「これを村長さんに届けてからやるので、もうちょっと待っていただけますか?」
先週よりもお出迎えが増えてるような……まぁ嬉しいからいっか!
「お姉ちゃんのためなら、俺、いくらでも待つぞ!」
胸を張って堂々と宣言する男に、どっと笑いが起こると、私は人垣をかき分けて村長の家に向かった。
演奏場所はいつも村長の家の前。
風邪をひいても足の骨を折っていても、家族がおんぶするなりして、必ず来てくれる。――この後治してくれることが確定しているからだ。
明らかにぐったりしていたり、痛々しそうにしているのを見るとなんだか申し訳ない感じがするけど……頑張らなくちゃ! って思えるからオッケー!
「今日もお集まりいただき、ありがとうございます。心をこめ、精一杯の演奏をしますのでよろしくお願いします」
私が一礼すると、場は拍手と指笛に包まれた。
村人たちがわくわくうずうずしているのが見て取れる。目を閉じ、すぅっと息を吸った。
まず始めは、噴水広場のところでも人気の曲。吹き始めて私自身もノッてきたその時。
「こんなところにいたのか」
農民と私を挟む空間に、『異物』が紛れこんできたのだ。
話しかけられては、演奏を止めるしかない。楽器から口を離し『異物』を見上げて、私は驚きとともにあ然とした。
「トリスタン! ……大公爵」
馬に乗った、国王の側近であるトリスタンがいたのだ。
本人の前では呼び捨てするわけにもいかず、あとでつけ足す。
「演奏中なのでお話があれば後で――」
「私より農民ごときを優先するのか?」
馬から降りて、私に一気に詰め寄ってくる。
うわっ、本当にこの人、大公爵なんだよね!?
「まぁ、いい。昨日は陛下のために来てくれてありがとう。報酬のことで話したいから王城に来てくれ、と言いたかったところなのだが。広場にも家にもいなくてな。こんなところにいたんだな」
「は、はぁ」
話していいっていってないのに、この人勝手に話し始めたんですけど!?
まだ一曲吹き終わってないから、そことかそこに調子が悪そうな人いるし……。
「承知いたしました。このあと何曲か演奏するので、それが終わったら向かいます」
「いや、今すぐだ」
「今すぐって!」
「陛下がお待ちになっている。農民ごときのために陛下をお待たせになるつもりか」
はぁ? 大公爵のくせに音楽を聴くときのルールも知らないの!? しかも農民『ごとき』って、本人たちの前では絶対言っちゃいけないだろーが!!
私は相手が大公爵であろうと、猫かぶりをやめることを決意した!
「横入りしておいて、子供でも守れるルールを……!」
「陛下のご命令だぞ? 逆らう気か?」
「農民であろうと陛下であろうと、客であることに変わりはないし! 最初に約束していた人が優先でしょうが!」
「なんだと、大公爵である私に大口をたたくのか!?」
ガシッ!
トリスタンに髪をつかまれてしまった。楽器を提げている以上、下手に動けない。
その時。
「おう、大公爵様がそうやって手を出すんだなぁ?」
さっき「お姉ちゃんのためならいくらでも待つ」と言った男が立ち上がり、手をポキポキと鳴らす。
「自分がいい身分だからって、お前の都合で俺たちとの約束を破らせるのか? やっぱり都の民はクズだな」
男は私をつかむトリスタンの指を、無理やり引き剥がしたのだ。農業で鍛えられた手の力に、毎日遊んで国王のご機嫌を伺っているような手が勝てるはずもない。
男に会釈をした私は、数歩下がってトリスタンと距離を取った。
「私はアンマジーケから来たから、ここがどれほど身分制が厳しいのかは、感覚では分からない。けどね、農民だからってばかにしたり、高い身分を利用して自分の願いを押し通そうっていうのは間違ってる! それはアンマジーケも一緒!」
私の中に、いつも楽器を吹く時とは違う感情が湧き上がってきた。
「そうだそうだ!」
「もっと言ってやれ!」
農民たちが野次馬となって、私の背中を押してくれる。
「おととい初めて会った時も、私が演奏している途中に話しかけてきたよね? そんな人、トリスタンが初めてだけど。しかも『平民』って強調して、明らかに私のことも見下してた。敬語も使わず」
私の言葉にザワつく農民。「お勉強していない私でも敬語使えるのに」と聞こえてきた。
ホントだよね、まったく……。
わざと咳払いをした私は、あえて使うのをやめていた敬語を使い始める。
「要件は伝え終わりましたよね? ルールも守れないクズ人間は、これだけ聴いて帰ってください」
畳みかけるように言葉をつむぐ私に、言い返せずずっとにらみつけているトリスタン。
その絞り出した言葉は、絶対言ってはいけない禁句だった。
「黙れ! 女のくせして!」
……ついに私の堪忍袋の緒が切れた。魔法でも使えたら吹っ飛ばしてやりたいところだけど、演奏しかできないし。
私はマウスピースをくわえた。
フツフツと湧き上がるいつもとは違う感情――『怒り』が頂点に達した時、私はそれを音に乗せて吹き始める。
ヒューーーーーーーーーーッ!!
私の荒々しい音で竜巻が起こったのだ。
隣にいる馬を上手に避けて、竜巻はトリスタンだけをさらっていく。
「うわぁぁぁぁ!! 助けろ、賤民ども!」
「「「なんだとぉ!?」」」
トリスタンの助けを呼ぶ声も、禁句のせいで台無しである。
「わざわざお偉い身分の方が、こんなところまで来てくれたお礼ってことで」
バキバキッ!
竜巻で真上に飛ばされたトリスタンは、村長の家の屋根に激突した。見事に全壊である。
「問題ない。農民ごときが直してくれるわい」
さっそく皮肉る村長。
「ところで、大公爵をこんな目にしてよかったのかい? さっき報酬がなんとかって言っていた気がするのだが……」
「あ……」
怒りにまかせて吹いた私は我に返った。
「やばいやばい、やらかしたぁぁぁぁ!! 国王からの報酬がぁぁぁぁ!!」
時すでに遅し。『癒し』以外に目覚めた能力は、初戦にしてとんでもないことを起こしてしまったのだった。
私は腰のベルトに、たくさんの金貨が入った革袋を二つ提げて帰った。
「国王陛下の病気、治せちゃった!」
「本当かい!?」
「すごいっ!」
良い土産を持って帰ったとたん、二人の歓喜の声が沸き起こった。
「それで……これが治療代って渡されたやつで……」
さっきからジャラジャラと鳴っているものを、ベルトからゆっくり外してテーブルに置く。
「こんなにもらって、いくらだい?」
「二つで金貨……百枚」
「ひゃ、百枚っ!?」
すぐさまテーブルの上に広げられ、黄金の海と化した。窓から入ってくる光でキラキラと輝く金貨。正直まぶしすぎる。
いきなりこんな大金を手に入れてしまったので、欲望どころの話ではないのだ。
「ベル、これ……どうする?」
「そうだねぇ……」
とりあえず家を改築することに決まった。
金貨百枚といっても日本円で百万円くらい。これでも王城の近くに住んでいる、貴族のような生活はできない。
お金持ちって、すごい遠い道のりなんだね……! もっと頑張らなくちゃ!
次の日は、週に一回の農村で演奏する日だった。
ベルから預かった麻布入りの袋を持って、村の中に入っていく。
「あっ、サックスのお姉ちゃんだ!」
「よお! 今日も来てくれたんだな!」
「ねぇねぇ、あれやってよ!」
さっそく大人から子供まで、たくさんの農民に囲まれてしまった。
「これを村長さんに届けてからやるので、もうちょっと待っていただけますか?」
先週よりもお出迎えが増えてるような……まぁ嬉しいからいっか!
「お姉ちゃんのためなら、俺、いくらでも待つぞ!」
胸を張って堂々と宣言する男に、どっと笑いが起こると、私は人垣をかき分けて村長の家に向かった。
演奏場所はいつも村長の家の前。
風邪をひいても足の骨を折っていても、家族がおんぶするなりして、必ず来てくれる。――この後治してくれることが確定しているからだ。
明らかにぐったりしていたり、痛々しそうにしているのを見るとなんだか申し訳ない感じがするけど……頑張らなくちゃ! って思えるからオッケー!
「今日もお集まりいただき、ありがとうございます。心をこめ、精一杯の演奏をしますのでよろしくお願いします」
私が一礼すると、場は拍手と指笛に包まれた。
村人たちがわくわくうずうずしているのが見て取れる。目を閉じ、すぅっと息を吸った。
まず始めは、噴水広場のところでも人気の曲。吹き始めて私自身もノッてきたその時。
「こんなところにいたのか」
農民と私を挟む空間に、『異物』が紛れこんできたのだ。
話しかけられては、演奏を止めるしかない。楽器から口を離し『異物』を見上げて、私は驚きとともにあ然とした。
「トリスタン! ……大公爵」
馬に乗った、国王の側近であるトリスタンがいたのだ。
本人の前では呼び捨てするわけにもいかず、あとでつけ足す。
「演奏中なのでお話があれば後で――」
「私より農民ごときを優先するのか?」
馬から降りて、私に一気に詰め寄ってくる。
うわっ、本当にこの人、大公爵なんだよね!?
「まぁ、いい。昨日は陛下のために来てくれてありがとう。報酬のことで話したいから王城に来てくれ、と言いたかったところなのだが。広場にも家にもいなくてな。こんなところにいたんだな」
「は、はぁ」
話していいっていってないのに、この人勝手に話し始めたんですけど!?
まだ一曲吹き終わってないから、そことかそこに調子が悪そうな人いるし……。
「承知いたしました。このあと何曲か演奏するので、それが終わったら向かいます」
「いや、今すぐだ」
「今すぐって!」
「陛下がお待ちになっている。農民ごときのために陛下をお待たせになるつもりか」
はぁ? 大公爵のくせに音楽を聴くときのルールも知らないの!? しかも農民『ごとき』って、本人たちの前では絶対言っちゃいけないだろーが!!
私は相手が大公爵であろうと、猫かぶりをやめることを決意した!
「横入りしておいて、子供でも守れるルールを……!」
「陛下のご命令だぞ? 逆らう気か?」
「農民であろうと陛下であろうと、客であることに変わりはないし! 最初に約束していた人が優先でしょうが!」
「なんだと、大公爵である私に大口をたたくのか!?」
ガシッ!
トリスタンに髪をつかまれてしまった。楽器を提げている以上、下手に動けない。
その時。
「おう、大公爵様がそうやって手を出すんだなぁ?」
さっき「お姉ちゃんのためならいくらでも待つ」と言った男が立ち上がり、手をポキポキと鳴らす。
「自分がいい身分だからって、お前の都合で俺たちとの約束を破らせるのか? やっぱり都の民はクズだな」
男は私をつかむトリスタンの指を、無理やり引き剥がしたのだ。農業で鍛えられた手の力に、毎日遊んで国王のご機嫌を伺っているような手が勝てるはずもない。
男に会釈をした私は、数歩下がってトリスタンと距離を取った。
「私はアンマジーケから来たから、ここがどれほど身分制が厳しいのかは、感覚では分からない。けどね、農民だからってばかにしたり、高い身分を利用して自分の願いを押し通そうっていうのは間違ってる! それはアンマジーケも一緒!」
私の中に、いつも楽器を吹く時とは違う感情が湧き上がってきた。
「そうだそうだ!」
「もっと言ってやれ!」
農民たちが野次馬となって、私の背中を押してくれる。
「おととい初めて会った時も、私が演奏している途中に話しかけてきたよね? そんな人、トリスタンが初めてだけど。しかも『平民』って強調して、明らかに私のことも見下してた。敬語も使わず」
私の言葉にザワつく農民。「お勉強していない私でも敬語使えるのに」と聞こえてきた。
ホントだよね、まったく……。
わざと咳払いをした私は、あえて使うのをやめていた敬語を使い始める。
「要件は伝え終わりましたよね? ルールも守れないクズ人間は、これだけ聴いて帰ってください」
畳みかけるように言葉をつむぐ私に、言い返せずずっとにらみつけているトリスタン。
その絞り出した言葉は、絶対言ってはいけない禁句だった。
「黙れ! 女のくせして!」
……ついに私の堪忍袋の緒が切れた。魔法でも使えたら吹っ飛ばしてやりたいところだけど、演奏しかできないし。
私はマウスピースをくわえた。
フツフツと湧き上がるいつもとは違う感情――『怒り』が頂点に達した時、私はそれを音に乗せて吹き始める。
ヒューーーーーーーーーーッ!!
私の荒々しい音で竜巻が起こったのだ。
隣にいる馬を上手に避けて、竜巻はトリスタンだけをさらっていく。
「うわぁぁぁぁ!! 助けろ、賤民ども!」
「「「なんだとぉ!?」」」
トリスタンの助けを呼ぶ声も、禁句のせいで台無しである。
「わざわざお偉い身分の方が、こんなところまで来てくれたお礼ってことで」
バキバキッ!
竜巻で真上に飛ばされたトリスタンは、村長の家の屋根に激突した。見事に全壊である。
「問題ない。農民ごときが直してくれるわい」
さっそく皮肉る村長。
「ところで、大公爵をこんな目にしてよかったのかい? さっき報酬がなんとかって言っていた気がするのだが……」
「あ……」
怒りにまかせて吹いた私は我に返った。
「やばいやばい、やらかしたぁぁぁぁ!! 国王からの報酬がぁぁぁぁ!!」
時すでに遅し。『癒し』以外に目覚めた能力は、初戦にしてとんでもないことを起こしてしまったのだった。
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