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第1章 元死刑囚とトラブルメーカー
008 基地は食堂も最新鋭
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機嫌を取り戻したティアに、基地の中を案内してもらっている。
「まずは……食堂ですわね」
研究本部棟に入って左に行くと食堂が見えてきた。コンソメのような匂いが鼻腔に広がる。
「毎食、予め決められたお食事が用意されておりますの。今の時間は昼食ですわね」
まだ昼休みまでは一時間くらいあるらしいが。
スクリーンに今日のメニューが表示されている。ロールパンと日替わりスープとポークソテーとサラダ。
あぁ、こんなにちゃんとした食事はいつぶりだろうか。スクリーンに映し出されたメニューの写真は、赤・緑・黄と色とりどりで私にはまぶしすぎた。
いつの間にか私は言葉を失って、呆然と口を開けたまま一粒の涙を流していた。
ティアが心配そうに私の顔を見つめてくる。
「ごめんごめん、まだ食べてないのにね」
指先で涙を取り除く。
「そうとう過酷な環境にいらしたのですわね……」
「たぶんね。まぁいいや、どうやって注文するの?」
ティア以外の誰が聞いているかわからないような状況で、自分自身が人間であることや、拘置所の事情など言えるわけがない。なるべく違和感がないように本題に戻る。
「コミュニカに専用のアプリがありますの。そうそう、それですわ。アプリを開きますと、自動で食堂にチェックインしてくれますわ」
ティアに言われるがままにコミュニカを操作すると、画面には『食堂チェックイン済』『ただいまの時間はランチメニューです』の文字と、『注文する』のボタンが並んでいた。画面の下の方には、タブがいくつかあり、どうやらデリバリー機能もあるようだ。
「ここの『注文する』を押しますと、大盛り少なめなどの選択肢が出てきますわ」
今日のランチはパンなので、パンをいくつつけるか決められるようだ。
「久しぶりにこんな量食べるから、パンは一個でいいかな」
下にスクロールして『次へ』のボタンを押す。注文確認画面が出てきたので、内容を確かめてから『注文を確定する』とタップした。
私が使っていたスマートフォンに入っていたアプリと、使い勝手はあまり変わらない。もうなんとなくでも操作できる。
「そう、それで注文できましたわ。そうしたらあちらに並びますの」
ティアの指し示した方を見て、私は「これが噂のあれか」と興奮気味になった。
調理室がガラスで丸見えになっている。中にいる――あるのは機械のみ。このご時世なので調理師がいないのだ。
クリサイトが発見されてから、機械化できなかった飲食店はだいたい休業か店を畳んでしまっている。
それ以前から技術的には機械が食事を作れるようになっていたが、導入費用が高くて見送ったり、人の手作りにこだわったお店が多かったりした。
目の前で調理工程を見ながら、ティアと話して時間を潰す。
「実際に機械が作ってるの見たのは初めて。さすが新しい基地だね」
「あたくしもここに来るまでは、人のシェフのお料理しか味わったことがなくてよ、機械でお料理を作れる時代なのかと驚きましたわ」
「あぁ……ティアとは話してる次元が違う気がする」
「違いますの?」
「シェフの料理って……見た目からなんとなく想像できるけど、もしかしてティアってお嬢様?」
「お嬢様……まぁ、お母様が元王女でしたわ。と言いましても、三十年前の革命で王族ではなくなった――」
「ちょっと待って、思ったよりすごい人で整理ができない」
えっ、ティアのお母さんが元王女? ティアは王家の血を引いてるの? それなのに軍人なの?
もう疑問が浮かんできては止まらない。
「ティア、めちゃくちゃエリートじゃん! いや、エリートってもんじゃない、ロイヤルファミリー! どうして王族の末裔が命がけでクリサイトと戦ってるの⁉︎」
「それは、食べながらお話ししましょう」
受取口の上にあるモニターに何かが表示された。
「『Kushinada-hime』、私のだ」
数字ではなく、コミュニカIDのようだ。
受取口は高さ二十センチメートルくらいで、最低限トレーに乗った食事が通れるくらいの大きさである。中から私の料理が出てきた。湯気から立ち上る匂いが久しぶりに食欲をそそる。
トレーを受け取るとすぐに、違うコミュニカIDが表示された。『Agnes-Fides』……何て読むんだろ。
「あたくしのもできましたようね」
ティアのコミュニカIDのようだ。ということは、ティアが武器を召喚するときには、これを言うってことだよね。
何か楽しみになってきた。
「席は……一番奥の角にしましょう」
「了解」
私は受取口らへんでいいかなって思ってたけど、そうだよね、ティアはおサボり中だった。
ティアが昼食の乗ったお盆をテーブルに置いて気づいた。
ロールパンはなく、スープやサラダは数口くらいで、ポークソテーは半分しかなかった。
少食なのだろうか。それにしても少なすぎる気がする。
「あれ? ティア、そんな量で足りるの?」
「……これで十分ですわ」
それまではきはきと話していたティアが、ワンテンポ遅れて答えたのだ。
「あっ、そう」
この場ではスルーすることにした。
「まずは……食堂ですわね」
研究本部棟に入って左に行くと食堂が見えてきた。コンソメのような匂いが鼻腔に広がる。
「毎食、予め決められたお食事が用意されておりますの。今の時間は昼食ですわね」
まだ昼休みまでは一時間くらいあるらしいが。
スクリーンに今日のメニューが表示されている。ロールパンと日替わりスープとポークソテーとサラダ。
あぁ、こんなにちゃんとした食事はいつぶりだろうか。スクリーンに映し出されたメニューの写真は、赤・緑・黄と色とりどりで私にはまぶしすぎた。
いつの間にか私は言葉を失って、呆然と口を開けたまま一粒の涙を流していた。
ティアが心配そうに私の顔を見つめてくる。
「ごめんごめん、まだ食べてないのにね」
指先で涙を取り除く。
「そうとう過酷な環境にいらしたのですわね……」
「たぶんね。まぁいいや、どうやって注文するの?」
ティア以外の誰が聞いているかわからないような状況で、自分自身が人間であることや、拘置所の事情など言えるわけがない。なるべく違和感がないように本題に戻る。
「コミュニカに専用のアプリがありますの。そうそう、それですわ。アプリを開きますと、自動で食堂にチェックインしてくれますわ」
ティアに言われるがままにコミュニカを操作すると、画面には『食堂チェックイン済』『ただいまの時間はランチメニューです』の文字と、『注文する』のボタンが並んでいた。画面の下の方には、タブがいくつかあり、どうやらデリバリー機能もあるようだ。
「ここの『注文する』を押しますと、大盛り少なめなどの選択肢が出てきますわ」
今日のランチはパンなので、パンをいくつつけるか決められるようだ。
「久しぶりにこんな量食べるから、パンは一個でいいかな」
下にスクロールして『次へ』のボタンを押す。注文確認画面が出てきたので、内容を確かめてから『注文を確定する』とタップした。
私が使っていたスマートフォンに入っていたアプリと、使い勝手はあまり変わらない。もうなんとなくでも操作できる。
「そう、それで注文できましたわ。そうしたらあちらに並びますの」
ティアの指し示した方を見て、私は「これが噂のあれか」と興奮気味になった。
調理室がガラスで丸見えになっている。中にいる――あるのは機械のみ。このご時世なので調理師がいないのだ。
クリサイトが発見されてから、機械化できなかった飲食店はだいたい休業か店を畳んでしまっている。
それ以前から技術的には機械が食事を作れるようになっていたが、導入費用が高くて見送ったり、人の手作りにこだわったお店が多かったりした。
目の前で調理工程を見ながら、ティアと話して時間を潰す。
「実際に機械が作ってるの見たのは初めて。さすが新しい基地だね」
「あたくしもここに来るまでは、人のシェフのお料理しか味わったことがなくてよ、機械でお料理を作れる時代なのかと驚きましたわ」
「あぁ……ティアとは話してる次元が違う気がする」
「違いますの?」
「シェフの料理って……見た目からなんとなく想像できるけど、もしかしてティアってお嬢様?」
「お嬢様……まぁ、お母様が元王女でしたわ。と言いましても、三十年前の革命で王族ではなくなった――」
「ちょっと待って、思ったよりすごい人で整理ができない」
えっ、ティアのお母さんが元王女? ティアは王家の血を引いてるの? それなのに軍人なの?
もう疑問が浮かんできては止まらない。
「ティア、めちゃくちゃエリートじゃん! いや、エリートってもんじゃない、ロイヤルファミリー! どうして王族の末裔が命がけでクリサイトと戦ってるの⁉︎」
「それは、食べながらお話ししましょう」
受取口の上にあるモニターに何かが表示された。
「『Kushinada-hime』、私のだ」
数字ではなく、コミュニカIDのようだ。
受取口は高さ二十センチメートルくらいで、最低限トレーに乗った食事が通れるくらいの大きさである。中から私の料理が出てきた。湯気から立ち上る匂いが久しぶりに食欲をそそる。
トレーを受け取るとすぐに、違うコミュニカIDが表示された。『Agnes-Fides』……何て読むんだろ。
「あたくしのもできましたようね」
ティアのコミュニカIDのようだ。ということは、ティアが武器を召喚するときには、これを言うってことだよね。
何か楽しみになってきた。
「席は……一番奥の角にしましょう」
「了解」
私は受取口らへんでいいかなって思ってたけど、そうだよね、ティアはおサボり中だった。
ティアが昼食の乗ったお盆をテーブルに置いて気づいた。
ロールパンはなく、スープやサラダは数口くらいで、ポークソテーは半分しかなかった。
少食なのだろうか。それにしても少なすぎる気がする。
「あれ? ティア、そんな量で足りるの?」
「……これで十分ですわ」
それまではきはきと話していたティアが、ワンテンポ遅れて答えたのだ。
「あっ、そう」
この場ではスルーすることにした。
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