上 下
39 / 49
第四章 元冒険者、真の実力を見せつける

39:傷だらけの冒険者ギルド

しおりを挟む
――3か月後

桜が綺麗に咲く季節がやってくる。

私は無事2年生に進級した。


新学期初日、今日から私の新しいクラスとなる2年3組の教室。

その扉の前で私は深呼吸を繰り返しながら緊張した面持ちで立っていると、ふいに後ろから声を掛けられる。


「ねぇあんた、そこ邪魔なんだけど」

「あ、ごめんなさい!」


入り口の扉を塞いでしまっていた私は慌てて声の主に謝罪をしながら振り返る。


「げ、あんた……」


振り返った私の頭上からは、何だかとても嫌そうな声が聞こえてきて、私は「え?」と顔を上げた。

するとそこにはどこか見覚えのある、懐かしい人物が立っていて。 


「……え……えぇ? 先輩? えっと確か……月岡佑樹先輩!」


胸元につけられた名札をチラリと見ながら私はその人の名前を呼んだ。

その人は去年の秋、まだ私がクラスに馴染めなかった頃に何度かお世話になった1学年上の先輩で、階段から落ちかけた私を偶然にも助けてくれた人だった。


「え?どうして先輩が2年の教室に?」

「どうしてって……見りゃ分かるだろ。ここが今日から俺のクラスだからだよ」

「えぇ?!どうしてですか? だって先輩は先輩のはずじゃ……」

「るっせーな。留年したからに決まってんだろ」

「えぇ~留年?!」

「バカ、大声だすな」


恥ずかしそうに周りをキョロキョロ見ながら月岡先輩は慌てた様子で私の口を塞ぐ。


「ご、ごめんなさい。でも、どうして留年なんて?」

「単位が足りなかったんだよ。去年9月に事故にあって、今までずっと入院してたからな」

「えぇ……そうだったんですか。それは大変でしたね……」

「哀れんだ目で見るな。むかつく。それよりあんたは? その後どうだったんだよ。まだいじめられてるのか?」

「あ、そのせつは色々とお世話になりまして――」


私が先輩に近況を報告しようとした丁度その時、後ろから声を掛けられ振り返る。

そこには安藤さんと石川さんの姿があった。


「ちょ、ちょっと葵葉?! そのイケメン誰?!」

「あ、安藤さん。おはようございます」

「あれ、こいつ、お前のこと階段から突き落と――」



先輩が言いかけた言葉を何となく察して、今度は私が先輩の口を両手で塞いだ。


「どうしたの、葵葉?」

「いえ、何でも」


突然の私の行動に驚いた顔の二人に軽く咳払いしてみせながら、私は先輩と安藤さん達お互いの自己紹介をした。


「えっと、お二人にご紹介しますね。こちらは月岡佑樹先輩って言って、前に何度かお世話になった方なんです。で先輩、こちらは安藤さんと石川さん。今日から先輩のクラスメイトになる方達ですよ」

「ど、どうも。私達この子の友達で安藤可奈子って言います」

「私は石川咲良です。宜しく~」


二人が月岡先輩に向けて自己紹介している内容を聞きながら、私は不意に自分の顔がかぁと赤くなるのを感じた。
安藤さんが口にした“友達”の言葉が嬉しくて。

そんな私の姿を見ながら、先輩は何かを察したようのに「ふ~ん」と溢しながら私達を交互に見比べていた。


「なるほどね。案外楽しそうじゃん、今のあんた。良かったな」


そしてそれだけ言い残すと先輩は、私の頭をポンと一度叩きながら、教室へと入って行った。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

愚者による愚行と愚策の結果……《完結》

アーエル
ファンタジー
その愚者は無知だった。 それが転落の始まり……ではなかった。 本当の愚者は誰だったのか。 誰を相手にしていたのか。 後悔は……してもし足りない。 全13話 ‪☆他社でも公開します

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

処理中です...