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第四章 元冒険者、真の実力を見せつける

36:騎士団が隠した、赤髪の双子

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 次の日は午後から迎撃隊での訓練だった。
 訓練が終わってすぐ、寮の建物に入る前にリッカルドを捕まえる。

「リッカルドさん、このあとお話しできますか」
「団長に報告し終わってからは大丈夫だよ」
「どこで待っていればいいですか」
「いや、一緒についてきていいよ」

 リッカルドとよろいを置きに行き、団長室の前までやってきた。

 コンコン

「失礼します。訓練の報告をしに来ました」
「リック、連れは誰だ?」

 私の姿を見ていないのに、騎士団長はリッカルドの他に人がいることが分かっているらしい。すごい。

「クリスタルです」
「クリスタル君か。まぁよい、二人とも入ってこい」

 私も「失礼します」と言って、少し緊張しながら団長室に入る。

「本日の訓練は――」

 リッカルドが団長に、訓練内容と指導のポイントを述べていく。
 そういうことに気をつけて教えてくれていたのかと、今日の訓練を思い出す私。

「ふむ。報告ご苦労。ところで、クリスタル君」
「は、はいっ」

 ただリッカルドと団長のやり取りを聞くだけだと思っていただけに、急に呼ばれてビクッと体が震える。
 な、何を言われるんだろう。

「弓と双剣の掛け持ちだけど、大丈夫そう? キツくない?」

 あれ……? あんまり身構えなくてもよかったみたい。

「はい、大丈夫です。体力だけは前職でつけたので。どちらもやりがいを感じられていいです」
「そうか。それなら安心した」

 しかし、この団長は息子三人の性格を併せ持ったような人である。イントネーションや表情から何となく、言葉に裏があるような気がしている。私が考えすぎなのかもしれないが。

「これからも訓練に励み、実戦に備えてくれ」
「はいっ」
「では父上、この辺で失礼します」

 団長室から出るとそのまま、私はリッカルドの部屋に連れていかれた。





 この前、リッカルドが父に毒を吐いたときと同じイスに座る。

「それで、どんな話かな?」

 昨日私がディスモンドに会ったことで何か察していると思っていたが、リッカルドからは全くそういうものを感じない。

「お兄さんのディスモンドさんのことなんですけど……」
「合同訓練で会ったんだよね?」

 あまりにも自然に出たリッカルドの言葉に、私の方が動揺してしまう。怖い。

「この騎士団に入ってから昨日まで、一回もディスモンドさんに会ってなかったんです。遊撃隊に入ってからも会っていないので、どうしてなんだろうと思って」

 平静を装っていたリッカルドの瞳が揺れる。
 リッカルドは「うん」と言って立ち上がった。

「呼んでくる」
「えっ」
「直接本人と話した方が早いからね」

 私を残したまま、リッカルドは姿を消してしまった。隣の部屋からドアを開ける音が聞こえると、数秒して再びリッカルドが戻ってくる。

「すまない、応接室に移動してくれないかな」
「わ、分かりました」

 隣の部屋ではオズワルドが休んでいるからだろう。引いたイスを戻してから、リッカルドに導かれて応接室に向かった。





 応接室に入ると、昨日間近で見たディスモンドが先にソファに座っていた。

「ちゃんとあいさつをしていなかったな。第一遊撃隊隊長のディスモンドだ。よろしく」

 本人も私と『初めまして』を交わしていなかったことは把握していたようだ。

「クリスタルです。よろしくお願いします」

 促されてもう一つの方のソファに座ると、リッカルドはディスモンドの隣に座る。

 改めて見ても、やっぱり顔がディエゴとそっくりなんだよね。なんにも関係ないと思うけど。

 少しの沈黙が流れたあと、言いにくそうに口を開くディスモンド。

「やはり不自然だったか。クリスタルも気づいているだろう? 俺はクリスタルを避けていた」

 私を避けていた。
 いくつか立てた仮説のうちの、一番ないと思っていた説が正解だったのだ。どうして、どうして。

「昨日俺の顔を見て、何か別の人を思い浮かべなかったか?」
「……はい。ディスモンドさんにそっくりな人と関わったことがあるので」
「だよな。クリスタルがいたパーティのリーダーだろ?」
「そうです」

 次の瞬間、ディスモンドの口から驚きの事実が伝えられる。

「実はな、俺とディエゴは双子なんだ」

 私は呼吸するのも忘れ、目も口も開いたまま、「えっ」という言葉だけ発して固まった。

「双子は、縁を割く不吉なものと言われているだろう。双子のどちらかは養子に出されるのが習わしだから、弟であるディエゴが養子に出された」

 抱いていた違和感のすべてがつながった。

「クリスタルがディエゴのパーティから追放されたと知って、俺は申し訳なく思ってしまった。ディエゴには会ったことがないのに、だ。責任を感じたというか……俺の顔を見れば、きっとクリスタルはディエゴのことを思い出してしまうだろうってな」

 ディスモンドは私に気を遣って、私を避けていた。

「過去の記憶というのは、しつこく自分に絡みつくものだから、俺のせいで訓練に身が入らないようなことになってはいけないと思って」

 だから私は第二遊撃隊に配属されて、合同訓練もオズワルドが指揮していたのかもね。

「本当は、クリスタルが双剣使いになるもっと前に会いたかった。申し訳ない」
「……そうだったんですね。話していただきありがとうございます」

 一瞬で様々な思いが駆け巡った。

 私がディエゴのパーティにいたと知ったときの気持ち、私を避けようと決めたときの気持ち、あいさつしたいのにできない気持ち、指揮をオズワルドに任せたときの気持ち、昨日初めて顔を見られたときの気持ち。
 それだけではない。もしディエゴの方が兄だったら。もしディエゴが双子ではなく生まれてきていたら――

 私は下手ながらも冒険者を続けることができていたかもしれない。しかし、それでは自分の本当の実力と剣の才能を知らないままだった。エラにも出会えず、騎士団に縁など微塵みじんもなかっただろう。きょうだいみんなから謝られることもなかっただろう。

「今いろんなことを考えましたが、考えてもしょうがないことでした。私は、私の任務を全うするのみです」

 数カ月前の自分なら、おそらく討伐どころではなくなっていたと思う。よりディエゴの機嫌を伺いすぎるようになって、自分が疲弊していって、しまいには壊れる。
 だが今の私は違う。その事実と自分を切り離せる心の余裕がある。無心で打ちこめるものがある。

「自分から話しておいてだが、大丈夫か。訓練に支障が出るなら休んでもいい」
「大丈夫です。明日も訓練出ます」

 休むよりむしろ、訓練に没頭する方がいいかもしれないからね。

「ちなみに今回のことは、父上、母上、ディス、俺、オズしか知らないから、口外しないでね」
「分かりました」

 私が乗り越えなきゃいけない壁が、またやってきた。
 俯瞰ふかんして見た自分は、自分に「強いんだ」と言い聞かせている、ちっぽけな存在でしかなかった。
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