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第四章 元冒険者、真の実力を見せつける

34:第一遊撃隊隊長・ディスモンド

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 ――その事実は、騎士団の中では騎士団長とその息子たちしか知らない。

 クリスタルが双剣騎士になり、第二遊撃隊に配属されたのは、騎士団長の意向によるものだった。
 クリスタルがそのことを知ってしまえば、おそらく双剣も弓もまともに扱えなくなってしまう。

 しかし、クリスタルは自分から気づいてしまった。だが、クリスタルは成長していた。折れなかった。

「私は、私の任務を全うするのみです」





 私は不思議に思っていた。
 騎士団に入ってからというもの、私は一度も『長男』を見たことがないのだ。

「リッカルドさんからもオズワルドさんからも、いっこうにお兄さんの話が出てこないんですよね」

 営業が終わったサヴァルモンテ亭で皿を拭きながら、私はエラに尋ねてみる。

「ディスモンドのことか?」
「たぶん、そんな名前だったような」
「あの赤髪の隊長さんだよな」

 赤髪と聞いて、少しドキッとしたのは気のせいだろう。

「それに、同じ遊撃隊でもあるのに、一度も会ったことがないんです」
「まぁ、第一と第二で分かれてるからな」
「それにしても、ですよ」

 最後の皿を手に取り、拭き始める。
 エラは仕込みをする手を止めた。

「一週間に二回くらいは分かれずに訓練するんですけど、いつもオズワルドさんが指揮を執って、ディスモンドさんは後から来ているらしいんです」

 遊撃隊の合同訓練は、最初に隊員全員での行動演習をする。その後に第一の人と第二の人が混じって、武術訓練をする。
 行動演習のときにはディスモンドがおらず、武術訓練のときになって顔を出すそうだが、私は知らない。武術訓練では自分の訓練に集中しているからだ。

「どういうことだ? 遊撃隊が第一と第二に分かれる前、ディスモンドが隊長でオズワルドが副隊長だったような。だから、指揮を執るのはディスモンドがやってたんじゃねぇか?」
「あっ、そうだったんですね」
「ああ、前に大勢の騎士たちにディスモンドが指示をしていたのを見たことがあるから、そうだろうな」

 とすると……。
 私の頭にいくつかの説が思い浮かんできた。

 一つ目、ディスモンドは騎士を引退しようとしており、オズワルドに自分の仕事を引き継ごうとしている説。

 二つ目、体調が優れないので、合同訓練の後半だけなら参加できる説。

 三つ目、私を避けている説。

 三つ目に関しては、完全に私のマイナス思考から浮かんできたものなので、可能性は低いだろう。

「明日も遊撃隊での訓練なので、オズワルドさんに聞いてみようと思います」
「あぁ、それがいい。ここでうだうだ言ってるより、聞いた方が早いな」

 手伝いが終わったので、自分の部屋に戻ろうと階段を上る。ふと、仕込みを再開したエラの独り言が聞こえてきて、足を止めた。

「ふん……クリスタルも成長したな。自分から動けるようになった。ついこの間まではあたしがそう提案する側だったのにな」

 言われてみればそうだ。ずっと言われるがまま、されるがままだったのに。何か思いついても、行動するのにはかなり躊躇ちゅうちょしてたのに。

 私はまた、止めていた足を動かした。





 次の日、よろいを着て双剣を腰に差した私は、騎士団寮の庭に出るために廊下を歩いていた。「おはようございます!」のあいさつの嵐が、反対側から向かってきている。

 この感じは……隊長であるリッカルドかオズワルドか、はたまた騎士団長か。

 しかし、私の目がとらえたのは、赤髪で短髪の男性だった。

「おはようございます」

 誰か分からないが、私も周りの騎士と一緒にあいさつすると、その人と目が合う。あっ、と何かに気づいたような表情をしたあと、気まずそうに目をそらされた。

 えっ……?

 一瞬の出来事だったが、確実に脳裏に焼きついた。なぜなら、その人はどこかで見たことのあるような顔立ちだったからだ。

「あの人、ディエゴと似てる」

 そう思ったとたん、全身に鳥肌が立つ。髪型こそ違うものの、髪色も顔のパーツも配置もそっくりである。
 その人が通りすぎると、後ろを歩く騎士二人がしゃべり始めた。

「この時間からいるっていうことは、今日の合同訓練はディスモンド隊長が指揮するのかな?」
「だろうね。久しぶりだな」

 自分の耳を疑った。

 あの人が、ディスモンドさん!?

 ディエゴに似ている人を見ただけで動悸どうきがするのに、しかもその人が、会ったことがないと気にかけていたディスモンドであるのだ。

 合同訓練が始まった。縦の列も横の列もピシッと合わせた整列隊形を作ると、いつもオズワルドが立っているところに、さっき会ったディスモンドがやってきた。

「今日はオズワルドが体調不良のため、代わりに俺が指揮をとる。そして、今日から俺が指揮に戻ることにした」

 そうなんだ……。オズワルドさん、大丈夫かな?

 というより、声がディエゴから皮肉っぽい言い方を除いたような声なのだ。声質は本当にディエゴそのものだった。

「俺の指揮で訓練を受けたことがない諸君。俺の指揮はオズワルドより厳しいぞ。しっかりついてこい!」
「「「はいっ!!」」」

 さすがは長男。威厳はリッカルドやオズワルドの比ではない。騎士団長を思わせるようである。
 同じような声なのに、ただ私に怒鳴り散らしていたディエゴと何が違うのだろうか。

「これから、合同訓練を始める!」

 ディスモンドの一声で、色々な疑問が駆け巡っていた気持ちが収まった。
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