上 下
32 / 49
第三章 元冒険者、まさかの二刀流になる

32:噂の超能力、本人による実験

しおりを挟む

対抗戦当日の朝。俺は緊張や不安というよりも対抗戦に出るのが嫌すぎてゲロりそうになっていた。心の底からドタキャンしたい。誰か代役で出て欲しい。俺には無理。この学園の貧弱生物ですよ?? 人間が亜人に勝てないのは常識だと思うんだけど、華薇先生を見てるとそうでも無いかもと思い込んぢゃうのかな…ここの生徒も先生たちも。

「「はぁ・・・帰りたい」」

俺と妹華の叶わぬ願いの言葉が重なる。こういう所は兄妹だなとしみじみ思う。然し、今更とやかく言ってもどうしようもない。ここに来た時点で帰るという選択肢は無くなっている。今あるのは『敗北』と『降参』のどちらかの選択肢のみ。俺的にはすぐさま降参したいところなんだが、タッグマッチともなるとペアが同意しなければ無効になってしまう。最悪な事に俺のペアは陽汰先輩である為、降参の選択肢は元から排除されているに決まっている。結局、俺に残された選択肢は『勝利』と『敗北』のどちらか。正直、怪我する前に安全に敗北したい。まぁ、無理だと思うが。

「さて、そろそろ開会式だ。行こうか」

陽汰先輩が舞台の袖から、俺達に声をかける。どうやら対抗戦の前に出場メンバーの発表がもうそろ始まるらしい。俺達が席を立つとそのタイミングで、舞台から司会者の声が響き始める。

「今日は待ちに待った一年に一度の対抗戦!!今年も生徒会チームと風紀委員会チームが互いの全てをかけて火花を散らす!!では、先ずは生徒会チームの紹介です!!」

それを合図に壁に貼り付けられたモニターに生徒会のメンバーが映し出されていく。

「先鋒! 生徒会会計・青柳シェロぉぉおお!!そして、彼女のパートナーはなんと!妹絶対主義お兄様!青柳ユウぅぅうううう!!」

どうやら先鋒から大将へという順番で舞台に出ていくらしい。

「よし、行くか。シェロ」

「・・・足だけは引っ張らないでくださいね」

ユウ先輩がシェロさんを肩に座らせて舞台へと緊張もなく堂々と出ていく。歓声が湧き、その後も次々とメンバー紹介が行われ、大将の番が来た。

「お待たせしまた!最後は我らが生徒会長!!誰よりも正義感が強く生徒だけでなく教師からも熱い信頼を寄せられし男!!聖桐陽汰ぁぁあ!!」

そう紹介が終えると先程まで以上の歓声が響き渡る。本当に陽汰先輩は大人気らしい。そんな人の後に俺の紹介とか辛すぎる。

「彼のパートナーは、先程紹介した久慈宮妹華さんのお兄さんであり、華薇先生の下僕で有名な二年生!!久慈宮兄太ぁぁあ!!」

・・・・?? 華薇先生の下僕?俺ってそんな風に思われてたのか…。

「みんな、今日は応援よろしく頼むよ」

「・・・・」

陽汰先輩は舞台に出て、司会者からマイクを受け取ったあと、そう声掛けをする。既に生徒達の大半が生徒会チームに寄っていることだろう。

「それでは、次は風紀委員会チームの紹介を始めます!先鋒!! 全男子の心をへし折ってきた氷結女王こと雪柳結七ゆきやなぎゆいなぁぁあ!!」

その紹介と共に現れたのは、俺の中学時代の後輩だ。枝毛ひとつない美しい白髪と凛とした表情は、慈愛園の男子共の心を撃ち抜くには十分だろう。

「そして次はパートナー・・・・」

次々と風紀委員メンバーが紹介されていく中で、副将で魔宙先輩の名前があがった。それに関しては俺以外にも生徒会メンバーや観客も驚いていた。風紀委員長なら大将戦に出ると思っていた。然し、順番を決めるルールに、大将は必ず生徒会長と風紀委員長のみとは記載されていなかった。という事は、アイツが大将戦に出るというわけだ。

「まさかまさかの風紀委員長が副将との事で驚きですが、気になる大将はコイツだぁぁあああ!!風紀委員会の番犬!天風狗兎ぅぅううう!!」

その紹介と共に、天風が姿を現し、舞台に既に立っていた俺に敵意のこもった視線を向けてくる。勿論、目を合わせることはしない。こんなめんどい奴の相手をするほど俺も暇ではない。というか単純に関わりたくないだけだったりする。

「ふんっ。僕の事を無視するとは相変わらず君は舐めているようだね、久慈宮兄太」

司会者からマイクを奪い取り、そう声をかけてくる。まさかマイクを使用しての発言とは、観客から変に注目されてしまうじゃないか。予想通り観客がざわめき始める。

「はははっ!随分と躾のなってない番犬だね。でも、兄太君には役不足だと思うよ、淫魔風紀委員長」

「あら、そちらこそウチの番犬を舐めてると痛い目を見るわよ、ガリ勉君」

バチバチと陽汰先輩と魔宙先輩が火花を散らす。正直、俺を巻き込まないで欲しいし、役不足なのはこっちだと思うんですが。

「ふんっ。大将戦を楽しみにしているんだな、久慈宮兄太」

「・・・帰りたい」

弱音を吐く俺にそう言葉を吐き捨てて、天風がマイクを司会者に返す。

「とても盛り上がっていますが、まずは先鋒戦!! 出場選手以外は舞台裏での待機をお願いします!」

司会者の進行で、舞台には先鋒戦に出場するメンバーだけが残る。

「では先鋒戦!生徒会チームからは青柳兄妹!!そして風紀委員会チームからは雪柳姉妹!! そして気になる最初の種目は--」

巨大なモニターにルーレットが映し出され、数回まわった後に、針がとある部分で止まる。

「第一種目!!互いの嘘を見抜け!その名も【ブラフゲーム】!!」

司会者が種目名をそう声高らかに告げた。

「ブラフゲーム・・・余裕ですね」

「俺たち、青柳兄妹に負けはねえ!」

余裕満々な青柳兄妹と、

「足を引っ張らないでね、八宵やよい

「 そっちこそ足引っ張んなよ、クソ姉貴」

仲の悪そうな雪柳結七と雪柳八宵。

「それでは第一種目【ブラフゲーム】開幕です!!」

司会者の合図により、対抗戦が始まった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

聖女召喚

胸の轟
ファンタジー
召喚は不幸しか生まないので止めましょう。

愚者による愚行と愚策の結果……《完結》

アーエル
ファンタジー
その愚者は無知だった。 それが転落の始まり……ではなかった。 本当の愚者は誰だったのか。 誰を相手にしていたのか。 後悔は……してもし足りない。 全13話 ‪☆他社でも公開します

(完)聖女様は頑張らない

青空一夏
ファンタジー
私は大聖女様だった。歴史上最強の聖女だった私はそのあまりに強すぎる力から、悪魔? 魔女?と疑われ追放された。 それも命を救ってやったカール王太子の命令により追放されたのだ。あの恩知らずめ! 侯爵令嬢の色香に負けやがって。本物の聖女より偽物美女の侯爵令嬢を選びやがった。 私は逃亡中に足をすべらせ死んだ? と思ったら聖女認定の最初の日に巻き戻っていた!! もう全力でこの国の為になんか働くもんか! 異世界ゆるふわ設定ご都合主義ファンタジー。よくあるパターンの聖女もの。ラブコメ要素ありです。楽しく笑えるお話です。(多分😅)

処理中です...