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第三章 元冒険者、まさかの二刀流になる
31:あの人たちはお先真っ暗
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攻撃をしかけようとした私の脇腹スレスレで、オズワルドの長剣が静止している。
「やっぱりクリスタルちゃんは器用なんだね! 一ヶ月でこんなにできるようになるなんて~。うっかりするとクリスタルちゃんの剣が胴に当たっちゃってるもん」
オズワルドは褒めてくれるものの、まだまだ手加減してもらっている状態だ。
あれから一ヶ月、長剣で剣の基礎を学びつつ、双剣の訓練も同時進行で行っていた。
藁の筒を一発で斬れるようになるまでが一番難しいらしいが、私はものの一週間でできるようになってしまった。太い筒もすぐに斬れるようになり、それからの半月はオズワルドと一対一で稽古をつけてもらっていた。
「見習いの子でも、なかなかこんなに早くできるようになる子は少ないよ~。弓と並行してるのにすごいね!」
「ありがとうございます」
「ここまでできるなら、双剣騎士として認定してもいいころだと思う。クリスタルちゃん、明日父上に見てもらおうね」
「本当ですか!」
私は双剣を鞘にしまうと、ほっとして涙腺が緩んできてしまった。何かと感情が高ぶると涙が出てきてしまう私だが、今日は目を腫らすだけで済んだ。
実はオズワルドの知らないとこで自主練習をしていた。朝はより早く起きて、弓の素引きと長剣・双剣の素振りをしてからエラを手伝い、騎士団寮に向かっている。寝る前には長剣と双剣の素振りをしてから床についている。
なるべく早く遊撃隊に入って、一緒に訓練をやりたい。その一心で稽古に励んでいた。
次の日、騎士団長に「遊撃隊の入隊条件はクリアした」と認められた。晴れて、騎士団では初の弓騎士兼双剣騎士が生まれたのである。
「クリスタル君にそんな才能があったとはね。オズワルドもよく見抜いたな」
「ありがとうございます、父上」
「名前のとおり、磨いたら光り輝いてくれたね。クリスタル君」
騎士団長の笑顔。うなずくオズワルド。私の記憶上、初めて名前を褒めてくれた。
正直自分の名前は名前負けしていると思っていた。全然キラキラしないし、美しくもないし、ずっと泥を被ってばかりだった。
エラのおかげで何層にもなった泥を取り除くことができ、騎士団のおかげで原石が磨かれたのかもしれない。
「オズワルドさん、個別に一から教えていただきありがとうございました」
「いいのいいの! 教えてて楽しかったから、僕こそお礼を言いたいよ~。ありがと!」
恐縮だ。上達が早かった理由の九割は、オズワルドのマンツーマン指導のおかげだと思っている(残りの一割は自主練習)。
私は既に持っているワッペンの色違いのものを受け取った。
一方そのころの冒険者ギルド。
「まさかディエゴに追放された子、騎士の方が向いてるなんてねー」
「『アーチャー家で唯一下手な娘』って言われてたのにね!」
「まー、そのディエゴたちは中級冒険者に成り下がったみたいだし?」
「ホントに超能力なのかもねー」
女性冒険者どうしの陰口を聞いてしまったジェシカ。未だに、クリスタルを追放したことと自分たちの格が下がったことのつながりが見えてきていない。
そこで冒険者の間で噂されているのが、『クリスタルは何か特殊な能力を使っていたのではないか』ということ。知らない間にクリスタルが能力を使い、ディエゴたちを助けていたのではないかと。
逆にそのように考えなければ、無能を追放したパーティが落ちぶれたことの説明ができない。
「あんな無能が超能力なんて持ってるわけがないわよ!」
この期に及んでまだ強気のジェシカは、その二人に突っかかっていく。
「噂をしてたらご本人登場じゃん!」
「たまたま聞こえただけ。ていうか、ホントに超能力持ってるなら、うちらが散々な目に遭わなかったはずでしょ!」
「ジェシカ、まだ分からないの? クリスタルは、自分の実力を補うように超能力を使ってたんじゃないかって、私たち二人で話してたの」
「で、その超能力は、ジェシカたちが討伐しやすくするためのものだったのかもねーってね」
ジェシカにとっては面白くない話なので、逆ギレし始める。
「は? 超能力を使ってたクリスタルがいなくなったから、うちらが落ちこぼれたって言いたいの!?」
「まー、そういうことになるよねー。意外と大した実力じゃなかったってこと」
「だって、ジェシカたちもクリスタルが入ったぐらいに上級者になったんでしょ? そーいうことよ」
クリスタルが超能力者だと仮定すれば、確かに筋の通っている話である。
ジェシカは悔しさに歯を食いしばり、「もういいわ」と話から抜けてしまった。
ジェシカがいなくなったのを確認すると、片方が再び考察を話し出す。
「ホントは上級ダンジョンに入る実力じゃないけど、クリスタルの超能力に助けられて、それでもモンスターが強すぎるから苦労した。だけどその苦労をクリスタルのせいにした」
もう片方も続くように喋り出す。
「それでいざクリスタルがいなくなると、クリスタルの助けがなくなって、モンスターにコテンパンにされる。それでクロエに助けてもらったけど、クロエが優秀すぎてディエゴたちの出番なし」
二人は耐えきれずにぷっと吹き出した。
「これじゃん!」
「きれいに鼻をへし折られちゃってねー」
「変にプライド高いから、たぶん直す気ないでしょ? きっと一生中級のままだと思うんだけど」
「絶対そうだー」
廊下に二人の嫌味を含んだ笑い声が響く。
「あとは、プライドを壊すだけ?」
「そんなことできるの?」
「屈辱的なことをされればいいんだよ。例えば、クリスタルに剣で負けるとか」
「えっ? でもクリスタルは弓使いでしょ」
「そうだった。それなら、ディエゴたちが苦労して仕留めたモンスターを、クリスタルが秒で仕留めるとか」
「いいねー!」
女子たちのどす黒い会話は、このあともしばらく続いていた。
……寝る前の素振りをしていたクリスタルが、一つくしゃみをした。
「やっぱりクリスタルちゃんは器用なんだね! 一ヶ月でこんなにできるようになるなんて~。うっかりするとクリスタルちゃんの剣が胴に当たっちゃってるもん」
オズワルドは褒めてくれるものの、まだまだ手加減してもらっている状態だ。
あれから一ヶ月、長剣で剣の基礎を学びつつ、双剣の訓練も同時進行で行っていた。
藁の筒を一発で斬れるようになるまでが一番難しいらしいが、私はものの一週間でできるようになってしまった。太い筒もすぐに斬れるようになり、それからの半月はオズワルドと一対一で稽古をつけてもらっていた。
「見習いの子でも、なかなかこんなに早くできるようになる子は少ないよ~。弓と並行してるのにすごいね!」
「ありがとうございます」
「ここまでできるなら、双剣騎士として認定してもいいころだと思う。クリスタルちゃん、明日父上に見てもらおうね」
「本当ですか!」
私は双剣を鞘にしまうと、ほっとして涙腺が緩んできてしまった。何かと感情が高ぶると涙が出てきてしまう私だが、今日は目を腫らすだけで済んだ。
実はオズワルドの知らないとこで自主練習をしていた。朝はより早く起きて、弓の素引きと長剣・双剣の素振りをしてからエラを手伝い、騎士団寮に向かっている。寝る前には長剣と双剣の素振りをしてから床についている。
なるべく早く遊撃隊に入って、一緒に訓練をやりたい。その一心で稽古に励んでいた。
次の日、騎士団長に「遊撃隊の入隊条件はクリアした」と認められた。晴れて、騎士団では初の弓騎士兼双剣騎士が生まれたのである。
「クリスタル君にそんな才能があったとはね。オズワルドもよく見抜いたな」
「ありがとうございます、父上」
「名前のとおり、磨いたら光り輝いてくれたね。クリスタル君」
騎士団長の笑顔。うなずくオズワルド。私の記憶上、初めて名前を褒めてくれた。
正直自分の名前は名前負けしていると思っていた。全然キラキラしないし、美しくもないし、ずっと泥を被ってばかりだった。
エラのおかげで何層にもなった泥を取り除くことができ、騎士団のおかげで原石が磨かれたのかもしれない。
「オズワルドさん、個別に一から教えていただきありがとうございました」
「いいのいいの! 教えてて楽しかったから、僕こそお礼を言いたいよ~。ありがと!」
恐縮だ。上達が早かった理由の九割は、オズワルドのマンツーマン指導のおかげだと思っている(残りの一割は自主練習)。
私は既に持っているワッペンの色違いのものを受け取った。
一方そのころの冒険者ギルド。
「まさかディエゴに追放された子、騎士の方が向いてるなんてねー」
「『アーチャー家で唯一下手な娘』って言われてたのにね!」
「まー、そのディエゴたちは中級冒険者に成り下がったみたいだし?」
「ホントに超能力なのかもねー」
女性冒険者どうしの陰口を聞いてしまったジェシカ。未だに、クリスタルを追放したことと自分たちの格が下がったことのつながりが見えてきていない。
そこで冒険者の間で噂されているのが、『クリスタルは何か特殊な能力を使っていたのではないか』ということ。知らない間にクリスタルが能力を使い、ディエゴたちを助けていたのではないかと。
逆にそのように考えなければ、無能を追放したパーティが落ちぶれたことの説明ができない。
「あんな無能が超能力なんて持ってるわけがないわよ!」
この期に及んでまだ強気のジェシカは、その二人に突っかかっていく。
「噂をしてたらご本人登場じゃん!」
「たまたま聞こえただけ。ていうか、ホントに超能力持ってるなら、うちらが散々な目に遭わなかったはずでしょ!」
「ジェシカ、まだ分からないの? クリスタルは、自分の実力を補うように超能力を使ってたんじゃないかって、私たち二人で話してたの」
「で、その超能力は、ジェシカたちが討伐しやすくするためのものだったのかもねーってね」
ジェシカにとっては面白くない話なので、逆ギレし始める。
「は? 超能力を使ってたクリスタルがいなくなったから、うちらが落ちこぼれたって言いたいの!?」
「まー、そういうことになるよねー。意外と大した実力じゃなかったってこと」
「だって、ジェシカたちもクリスタルが入ったぐらいに上級者になったんでしょ? そーいうことよ」
クリスタルが超能力者だと仮定すれば、確かに筋の通っている話である。
ジェシカは悔しさに歯を食いしばり、「もういいわ」と話から抜けてしまった。
ジェシカがいなくなったのを確認すると、片方が再び考察を話し出す。
「ホントは上級ダンジョンに入る実力じゃないけど、クリスタルの超能力に助けられて、それでもモンスターが強すぎるから苦労した。だけどその苦労をクリスタルのせいにした」
もう片方も続くように喋り出す。
「それでいざクリスタルがいなくなると、クリスタルの助けがなくなって、モンスターにコテンパンにされる。それでクロエに助けてもらったけど、クロエが優秀すぎてディエゴたちの出番なし」
二人は耐えきれずにぷっと吹き出した。
「これじゃん!」
「きれいに鼻をへし折られちゃってねー」
「変にプライド高いから、たぶん直す気ないでしょ? きっと一生中級のままだと思うんだけど」
「絶対そうだー」
廊下に二人の嫌味を含んだ笑い声が響く。
「あとは、プライドを壊すだけ?」
「そんなことできるの?」
「屈辱的なことをされればいいんだよ。例えば、クリスタルに剣で負けるとか」
「えっ? でもクリスタルは弓使いでしょ」
「そうだった。それなら、ディエゴたちが苦労して仕留めたモンスターを、クリスタルが秒で仕留めるとか」
「いいねー!」
女子たちのどす黒い会話は、このあともしばらく続いていた。
……寝る前の素振りをしていたクリスタルが、一つくしゃみをした。
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