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第二章 元冒険者、弓の騎士になる
18:騎士団迎撃隊長・リッカルド
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ここはエラとクリスタルが週に一回行っている、エラが弓を一から教わった練習場。
ふらっと入ってきたのは、高身長でサラサラの長い黒髪をもつ、いかにも育ちがよさそうな見た目の若い男性だった。
「えっ……リッカルド様!?」
受付をしていた女性は、そう言ったきり言葉を失ってしまう。
「突然お邪魔してすまないね。気づかれないように私服で来たんだが、この反応じゃ意味がなかったね」
苦笑する彼は、王家直属の騎士団である『ベーム騎士団』の迎撃隊長を務めている、リッカルド・フォーゲル・ド・ベームだ。騎士団長の次男で弓騎士であり、弓の腕前は王国一と言われている。
貴族とまではいかないものの、それに準ずるくらいの身分なので、私服であっても平民とは見た目が一目瞭然である。
「分かってるとは思うけど、一応これを見せておこうか」
リッカルドは、ポケットに忍ばせていたワッペンをその女性に見せた。これが騎士団員である証だ。もちろん、裏に騎士団長の直筆サインがある本物だ。
「いつものところ、調べさせてね」
受付の女性が、関係者以外は入れないドアを開けてリッカルドを通すと、抜き打ち調査が始まった。
「うん、大丈夫だね。協力ありがとう」
調査に合格したことを証明する名刺サイズのカードを渡すと、リッカルドはこちらをキラキラとした目で見つめてくる人たちに言い放つ。
「よし、俺に弓を教わりたい人はいるか」
ぱぁっと顔を明るくした人たち(特に女性)は、進んで挙手してリッカルドに群がる。
「はいはい、順番順番。一列に並んで」
まるで子どもに呼びかけるかのような言い方のリッカルド。群がっているのは大人が多いが、このあとも子どものようであった。
「私が先にリッカルド様に近づいたんだけど?」
「私の方がリッカルド様のそばにいたんだから、私が先」
「まぁまぁ、並んでるみんなに教えてあげるから、ちゃんと並んで。じゃあ、じゃんけんで勝った方が先」
リッカルドになだめられた二人は、子どものようには駄々をこねずにおとなしくじゃんけんをする。先にリッカルドの近くにいた人が勝った。
「一人二射まで。じゃないと他の見廻りができなくなっちゃうからね」
「「「はーい」」」
列を作っている二十人ほどがいっせいに返事をする。一人二射までだが、最後まで終わるには三十分以上はかかるだろう。
王国一の弓使いから直々に教えてもらえる、めったにない時間がスタートした。
これができなくて悩んでるからアドバイスがほしい、客観的によくないところを指摘してほしいなど、人によって求めることは違う。しかしリッカルドは騎士団で教え慣れているので、誰にでも的確なアドバイスを届けることができていた。
結局小一時間はかかって全員を教えきると、教えた二十一人の実力は確実に上がっていた。この練習場としてはあまりうれしくないものの、利用者が喜んでいるようなので(騎士団に文句は言えないので)目をつぶることにした。
リッカルドがパトロールに戻ろうとしたその時。
バシッ
とっさに音のしたほうに振り向くと、一番奥の的に矢が何本も命中しているという光景を目の当たりにする。
そしてその弓を放っていたのは、リッカルドと同じくらいの髪の長さの、銀髪の女の子であった。歳はリッカルドより五歳は下だろう。その体格には似合わない重そうな黒い弓を左手に持っている。
気になったので近づいてみる。
「あの子うまいからねー」
「えっ、団長の息子からスカウト?」
「いいなー」
と、他の利用者はこそこそと話し始める。
リッカルドは銀髪の少女に五メートルくらいまで近づいてみたが、集中しているのかこちらには気づいていない。
少女は矢をセットし弓を引き、もう一発撃った。強い反動に耐える左手、自分でも出せるか分からないくらいの速度で飛んでいく矢、命中しても喜ぶような素振りを見せない顔。
ついにリッカルドは少女の視界に入った。
「えっ、うわぁぁぁぁっ!」
気づかれた。
「び、びっくりした……。あっ、ごめんなさい。急に大きな声出しちゃって」
すぐに謝ってきたので、誠実そうな子ではある。
「驚かせてすまない。君、素晴らしい実力の持ち主じゃないか。名前は?」
「クリスタル……です」
「いつからやってる?」
「五歳くらいからやってます」
「おぉ、どおりで」
クリスタルの撃ち方は、見た目にはそぐわないほどの『慣れ』が含まれていた。その弓も含め、本当に見た目の年齢だけが置いていかれているように思えたのだ。
「これだけ上手ければ何かの大会にも出ていそうだけど……名前は聞いたことがないな」
「あははは……そうですね」
苦笑いをされたので、確かに大会には出ていないのだろう。
「というか、俺の顔見ても反応がないけど、俺が誰だか分かる?」
「……すみません、分かりません」
えっ、と軽く衝撃を受けたリッカルドは、さっき見せたワッペンを少女にも見せた。
「一応、こういう者で」
「これは……! あのベーム騎士団の方だったんですね!」
いや、そうじゃなくて。俺だよ、俺の名前。
察しが悪い少女に、またも軽く衝撃を受ける。
「ベーム騎士団の迎撃隊長の、リッカルドだ」
「あっ、あのリッカルドさん!?」
ようやく、この長髪の男の人が誰であるかを把握できたクリスタル。
「騎士団の方に会えるなんて、とても光栄です」
王都にいる人間なら、騎士団長の三人息子は知っていて当然であるが、まさか顔を見ても分からない人がいたなんて。
リッカルドは「こちらこそ、いい弓を見せてもらった」とお礼を言ってから、たくさんの人に見送られながら練習場をあとにした。
その時もクリスタルは、一人で練習に勤しんでいた。
ふらっと入ってきたのは、高身長でサラサラの長い黒髪をもつ、いかにも育ちがよさそうな見た目の若い男性だった。
「えっ……リッカルド様!?」
受付をしていた女性は、そう言ったきり言葉を失ってしまう。
「突然お邪魔してすまないね。気づかれないように私服で来たんだが、この反応じゃ意味がなかったね」
苦笑する彼は、王家直属の騎士団である『ベーム騎士団』の迎撃隊長を務めている、リッカルド・フォーゲル・ド・ベームだ。騎士団長の次男で弓騎士であり、弓の腕前は王国一と言われている。
貴族とまではいかないものの、それに準ずるくらいの身分なので、私服であっても平民とは見た目が一目瞭然である。
「分かってるとは思うけど、一応これを見せておこうか」
リッカルドは、ポケットに忍ばせていたワッペンをその女性に見せた。これが騎士団員である証だ。もちろん、裏に騎士団長の直筆サインがある本物だ。
「いつものところ、調べさせてね」
受付の女性が、関係者以外は入れないドアを開けてリッカルドを通すと、抜き打ち調査が始まった。
「うん、大丈夫だね。協力ありがとう」
調査に合格したことを証明する名刺サイズのカードを渡すと、リッカルドはこちらをキラキラとした目で見つめてくる人たちに言い放つ。
「よし、俺に弓を教わりたい人はいるか」
ぱぁっと顔を明るくした人たち(特に女性)は、進んで挙手してリッカルドに群がる。
「はいはい、順番順番。一列に並んで」
まるで子どもに呼びかけるかのような言い方のリッカルド。群がっているのは大人が多いが、このあとも子どものようであった。
「私が先にリッカルド様に近づいたんだけど?」
「私の方がリッカルド様のそばにいたんだから、私が先」
「まぁまぁ、並んでるみんなに教えてあげるから、ちゃんと並んで。じゃあ、じゃんけんで勝った方が先」
リッカルドになだめられた二人は、子どものようには駄々をこねずにおとなしくじゃんけんをする。先にリッカルドの近くにいた人が勝った。
「一人二射まで。じゃないと他の見廻りができなくなっちゃうからね」
「「「はーい」」」
列を作っている二十人ほどがいっせいに返事をする。一人二射までだが、最後まで終わるには三十分以上はかかるだろう。
王国一の弓使いから直々に教えてもらえる、めったにない時間がスタートした。
これができなくて悩んでるからアドバイスがほしい、客観的によくないところを指摘してほしいなど、人によって求めることは違う。しかしリッカルドは騎士団で教え慣れているので、誰にでも的確なアドバイスを届けることができていた。
結局小一時間はかかって全員を教えきると、教えた二十一人の実力は確実に上がっていた。この練習場としてはあまりうれしくないものの、利用者が喜んでいるようなので(騎士団に文句は言えないので)目をつぶることにした。
リッカルドがパトロールに戻ろうとしたその時。
バシッ
とっさに音のしたほうに振り向くと、一番奥の的に矢が何本も命中しているという光景を目の当たりにする。
そしてその弓を放っていたのは、リッカルドと同じくらいの髪の長さの、銀髪の女の子であった。歳はリッカルドより五歳は下だろう。その体格には似合わない重そうな黒い弓を左手に持っている。
気になったので近づいてみる。
「あの子うまいからねー」
「えっ、団長の息子からスカウト?」
「いいなー」
と、他の利用者はこそこそと話し始める。
リッカルドは銀髪の少女に五メートルくらいまで近づいてみたが、集中しているのかこちらには気づいていない。
少女は矢をセットし弓を引き、もう一発撃った。強い反動に耐える左手、自分でも出せるか分からないくらいの速度で飛んでいく矢、命中しても喜ぶような素振りを見せない顔。
ついにリッカルドは少女の視界に入った。
「えっ、うわぁぁぁぁっ!」
気づかれた。
「び、びっくりした……。あっ、ごめんなさい。急に大きな声出しちゃって」
すぐに謝ってきたので、誠実そうな子ではある。
「驚かせてすまない。君、素晴らしい実力の持ち主じゃないか。名前は?」
「クリスタル……です」
「いつからやってる?」
「五歳くらいからやってます」
「おぉ、どおりで」
クリスタルの撃ち方は、見た目にはそぐわないほどの『慣れ』が含まれていた。その弓も含め、本当に見た目の年齢だけが置いていかれているように思えたのだ。
「これだけ上手ければ何かの大会にも出ていそうだけど……名前は聞いたことがないな」
「あははは……そうですね」
苦笑いをされたので、確かに大会には出ていないのだろう。
「というか、俺の顔見ても反応がないけど、俺が誰だか分かる?」
「……すみません、分かりません」
えっ、と軽く衝撃を受けたリッカルドは、さっき見せたワッペンを少女にも見せた。
「一応、こういう者で」
「これは……! あのベーム騎士団の方だったんですね!」
いや、そうじゃなくて。俺だよ、俺の名前。
察しが悪い少女に、またも軽く衝撃を受ける。
「ベーム騎士団の迎撃隊長の、リッカルドだ」
「あっ、あのリッカルドさん!?」
ようやく、この長髪の男の人が誰であるかを把握できたクリスタル。
「騎士団の方に会えるなんて、とても光栄です」
王都にいる人間なら、騎士団長の三人息子は知っていて当然であるが、まさか顔を見ても分からない人がいたなんて。
リッカルドは「こちらこそ、いい弓を見せてもらった」とお礼を言ってから、たくさんの人に見送られながら練習場をあとにした。
その時もクリスタルは、一人で練習に勤しんでいた。
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