上 下
8 / 17

ファルシオン記念舞踏会

しおりを挟む
「ええっ! 学院で舞踏会がありますの?」

「セレンディアは去年も参加したんだよ」

わたくしは今、公爵邸の自室でグレンから驚く事を聞かされました。

あのファルシオン学院は毎年、設立記念日に舞踏会を開くのだそうです。

「学院関係者だけが参加する舞踏会だから、そんなに堅苦しくないよ」

「無理ですわっ。 わたくしダンスとか踊れませんわよっ!?」

「大丈夫だよ、 俺が教えるから安心して?」

「お嬢様、 グレン様がいない時は私もおりますので」

カイがお茶を淹れながら言って来る……ううっ…侍従って私の味方じゃなかったのぉ

「学院でやるんだから、まさかドレスじゃ無いよね…?」

「貴族学院の舞踏会だよ?」

「「当然、ドレス!!」」

うわああああんっ!



と言う訳でわたくしは、お母様とカイに指導を受けながらグレンに特訓される事になってしまいました。

「お嬢様、お上手ですよ」

「カイ、甘やかしてはダメですよ。セレンディアそこで足を引くのです」

「はいっ!」

「くくっ……俺、毎日来ようか?」

「ううっ…グレンのいぢわる…」



「え? エスコートって強制じゃないんですの?」

お母様の指導が終わって、今はグレンと特訓後のお茶をしています。

「うん。 学院主催だからパートナーは必須じゃないよ」

「そうですの、でしたらわたくしは1人で…」

「でも君のエスコートは俺がするからね?」

「え…でも…強制じゃ…」

「俺が、するからね?」

「………」

「ね?」

「……はい」

と言うやり取りを経て、強制じゃないのに強制されてしまうと言う、如何いかんともしがたい状況になってしまった。

まぁ…別に嫌と言う訳ではないのだけど…どっちかって言うと…嬉しい?…かもしれない……かも?

そうよっ 舞踏会なんて初めてだし。 うんっ! 緊張するからねっ!


「そういえばドレスはどうするんだ?」

「あゝ、お母様が張り切ってましたわよ? 明日採寸するんですって」

「そっか。 ふぅん…」

?? 何か考え込んじゃってるけれど、どうしたのかしら?

「じゃあそろそろ俺は帰るね。 また明日、学院が終わったら寄るよ」

「ええ、よろしくね。 今日はありがとう」


翌日、採寸してお母様とドレスのデザインを決めて、その間お茶をしながら待っててくれたグレンとダンスの特訓をしたのですが…

「あっ! ごめんっ…」(また踏んじゃった…)

「くくっ…なるべく来るようにするね?」

「うううっ…」(恥ずかしいっ…)

そんなこんなでグレンの足を犠牲にしつつも、舞踏会までには何とか人並みには踊れる様になりました。




コンコンコン―――

「お嬢様、グレン様がお迎えに来ております」

「わかりました。 今行きます」

階段を下りて行くとグレンが玄関でお兄様とお話ししていました。

「お待たせしました」

「綺麗だよ、セレン。学院主催の舞踏会だし、練習だと思って気軽に行っておいで」

「はい、お兄様。 行って来ますわ」

「カイ。 セレンに変な虫を近寄らせるなよ」

「お任せ下さい」

「じゃあ行こうか、セレンディア」

グレンが手を差し出してくれたので、あゝここからもうエスコートなんだと、ちょっと照れるけど自分の手を重ねた。

不思議なもので、ドレスを着ると貴族の世界なんだと実感する。

いつも乗っている馬車も、何だか違う乗り物の様に思えてくるわね…

「セレンディア、 緊張してる?」

「少しね…」

「大丈夫ですよ、お嬢様。 何かやらかしてもグレン様が対処してくれますよ」

「カイもだろう?」

「今日の私は周囲の対処で手一杯ですので」

「なるほど…確かにな。 セレンディア、今日は俺から離れるなよ?」

「怖くて1人になんてなれないですわよ、グレンこそわたくしから離れないで下さいませね」

「了解」




グレンの腕に手を添えて舞踏会の広間に辿り着くと、学院生徒達のきらびやかな装いであふれており、一瞬目をしばたたかせ息を呑んだ。

「………凄いですわね…」

「あゝ君としてはこういうのは初めて目にするものなぁ」

「開始の挨拶とかは有りますの?」

「今から始める…みたいなのは無いな。 大抵、場が馴染んだ頃に学院長があそこに立って、設立を祝う言葉を告げると音楽がダンス用に切り替わる」

「じゃあ、わたくし達は自由にしていていいのね」

「そうだよ。 俺たちはマナーを学んでる貴族だからね、余程の馬鹿じゃない限り騒ぐ事も無いから、学院長が話してる間も談笑してたり…ほら、あれ見えるかい?」

「あら、休憩も出来る様になっているのね」

所々にソファーやテーブル席が設けてあるのが見えて、何人か座って居たり軽食をっているみたいだわ。

「基本的に参加は自由だから、何時来ても帰ってもいいんだよ」

「そうなんですのね」

「只、他の舞踏会や夜会では主催者が挨拶をする時、座ってれば立ち上がってもくして聞くのが礼儀だけどね」

「教えてくれてありがとうグレン。とても助かるわ」

「「セレンディア様」」

呼ばれて振り返ると、ルチアーナ様とカナリア様が来ていました。

「まぁ! お2人共、凄く素敵ですわっ」

「ありがとうございます。 セレンディア様もお美しいですわ」

「ルチアーナ様と一緒にお待ちしてたんですのよ」

ちょうどその時、学院長が設立を祝う言葉を述べられて音楽が変わった。


「セレンディア、 舞踏会の雰囲気には慣れて来た?」

「ええ、 皆さんのお陰で落ち着いてきましたわ」

「セレンディア様、 グレン様と踊られて来ては?」

「そうですわっ、 折角練習なさったんですもの」

「ええっ!? もうですかっ? ま、まだ心の準備がっ…」

「最初の内は曲もゆるやかだからちょうどいいんじゃないか?」

「ううっ…これは通過儀礼なのですわね…今ならまだ簡単なステップ…」

「お嬢様、ぶつくさ言ってないでさっさと踊って来て下さい」

「カ、カイが辛辣ですわっ…」

「難しい曲になってから行かれますか? グレン様、強制連行です」

「ぶはっ! くくっ…セレンディア、人間諦めが肝心だよ?」

もうっ! 2人共いじわるですわっ!

「セレンディア嬢、踊って頂けますか?」

グレンが手を差し伸べて来ます…ううっ…わたくしは覚悟を決めてその手を取りました。


あゝ……失敗しませんように………



しおりを挟む
感想 119

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたショックですっ転び記憶喪失になったので、第二の人生を歩みたいと思います

ととせ
恋愛
「本日この時をもってアリシア・レンホルムとの婚約を解消する」 公爵令嬢アリシアは反論する気力もなくその場を立ち去ろうとするが…見事にすっ転び、記憶喪失になってしまう。 本当に思い出せないのよね。貴方たち、誰ですか? 元婚約者の王子? 私、婚約してたんですか? 義理の妹に取られた? 別にいいです。知ったこっちゃないので。 不遇な立場も過去も忘れてしまったので、心機一転新しい人生を歩みます! この作品は小説家になろうでも掲載しています

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。

しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。 私たち夫婦には娘が1人。 愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。 だけど娘が選んだのは夫の方だった。 失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。 事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。 再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。

〖完結〗死にかけて前世の記憶が戻りました。側妃? 贅沢出来るなんて最高! と思っていたら、陛下が甘やかしてくるのですが?

藍川みいな
恋愛
私は死んだはずだった。 目を覚ましたら、そこは見知らぬ世界。しかも、国王陛下の側妃になっていた。 前世の記憶が戻る前は、冷遇されていたらしい。そして池に身を投げた。死にかけたことで、私は前世の記憶を思い出した。 前世では借金取りに捕まり、お金を返す為にキャバ嬢をしていた。給料は全部持っていかれ、食べ物にも困り、ガリガリに痩せ細った私は路地裏に捨てられて死んだ。そんな私が、側妃? 冷遇なんて構わない! こんな贅沢が出来るなんて幸せ過ぎるじゃない! そう思っていたのに、いつの間にか陛下が甘やかして来るのですが? 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。

夫に相手にされない侯爵夫人ですが、記憶を失ったので人生やり直します。

MIRICO
恋愛
第二章【記憶を失った侯爵夫人ですが、夫と人生やり直します。】完結です。 記憶を失った私は侯爵夫人だった。しかし、旦那様とは不仲でほとんど話すこともなく、パーティに連れて行かれたのは結婚して数回ほど。それを聞いても何も思い出せないので、とりあえず記憶を失ったことは旦那様に内緒にしておいた。 旦那様は美形で凛とした顔の見目の良い方。けれどお城に泊まってばかりで、お屋敷にいてもほとんど顔を合わせない。いいんですよ、その間私は自由にできますから。 屋敷の生活は楽しく旦那様がいなくても何の問題もなかったけれど、ある日突然パーティに同伴することに。 旦那様が「わたし」をどう思っているのか、記憶を失った私にはどうでもいい。けれど、旦那様のお相手たちがやけに私に噛み付いてくる。 記憶がないのだから、私は旦那様のことはどうでもいいのよ? それなのに、旦那様までもが私にかまってくる。旦那様は一体何がしたいのかしら…? 小説家になろう様に掲載済みです。

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

処理中です...