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もう、疲れましたわ……

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ここは、ティザーラ王国。

緑が多く美しい街並み、行き交う人々は笑顔で溢れ、幸せそうに日々を送っている。


わたくしはセレンディア・ウィンガザル。

父のダニエル・ウィンガザル公爵と母マリアンナ、兄シリウスの4人家族である。


今、わたくしはひと組の男女に相対しているのですが、いいかげん嫌になってきております。

1人はわたくしの婚約者であり第1王子のフリード・アズヴァイン殿下。

見目麗しく王家の象徴である薄紫の銀髪と紫眼を持つ王太子です。

そしてもう1人が…「フリードさまぁ、セレンディア様がこわいですぅ…」

……と、フリード様の腕に抱き付き、その背後からこちらを涙目で覗き見てくる、ピンク頭で瞳もピンク、唇もピンクのメリンダ・マクウェル男爵令嬢。


…………目がチカチカしますわね。


わたくしは、背筋を伸ばし、お2人の正面に立って注意を促します。

「フリード様、そのままで学院内を歩かれますと風紀が乱れますわ。
メリンダ様とご一緒されるにしても、周囲の目を気にして下さいませ」

「お前は相変わらずメリンダに嫉妬しているのか」

こちらを睨む様に言ってきますが、別にわたくしはメリンダ様に嫉妬している訳ではございませんよ?

「違いますわ。 ここは学院生徒や教師達が行き交う共用の廊下です。
その様に抱き付かせたまま歩いて良い所ではないと申しているのです」

「フッ…それが嫉妬していると言うのだ」

「ですから…「もういいっ!」」

行くぞっ!―――と言って結局そのまま立ち去って行かれました。

去り際でメリンダ様が蔑む笑みを浮かべ、『ざまぁみろ』と小さく呟いたのが聞こえました。


「はぁ……」

淑女としては減点ですが、ため息も吐きたくなるというものです。

1歳下のメリンダ・マクウェル男爵令嬢がファルシオン学院に入学した3ヵ月前から、フリード様が徐々に変わられて先程の様になってしまわれました。

男爵令嬢では側妃にすらなれません、よくて愛妾止まりですわね、彼女は後宮にも入ることができませんが宜しいのでしょうか…

あの様子ではお2人共、側妃以下には予算を組まれない事などご存じないのでしょうねぇ。

というか、まさか伯爵位までしか側妃にする事ができないのを知らないなんてことありませんわよね?

運良く養子先を見つけて子供を授かっても、母親の生まれが男爵家では継承権など御座いませんから養子先の家には利がありませんものねぇ。


「セレンディア嬢、大丈夫か?」

不意に声を掛けられて隣を見ると、グレン様が心配そうにしておられます。

この方は、隣国のルナカッシュ王国から留学して来られたグレン・ファリアスタ公爵子息ですわ。

「グレン様、大丈夫とは?」

「いや、随分考え事をしながら歩いていた様に見えたからね…」

「あら……ご心配ありがとうございます」

「気のせいなら良いのだが、最近体調が悪かったりは…」

「少し頭痛がするだけですの、このくらいなら平気ですわ」

「頭痛の種は例の2人か…」

「婚約者ですから仕方ありませんわ、王太子相手にわたくししか物申せる人間はいませんもの」

「あまり頑張り過ぎると疲れるぞ、適度に気を抜いていけ」

と、わたくしの肩をポンっと叩いて下さいましたわ。

「しかし王太子もだが、あのピンクは何を考えているのだろうな」

ふふっ、呼称が色だけになってますわよグレン様。

「解りませんわ、メリンダ様もですがフリード様も、何故わたくしが嫉妬すると思われるのでしょうか」

首を傾げて心底不思議そうに考えますと、隣で思い切り吹き出すグレン様、とても良い笑顔でございます。

「くくっ…今夜の夜会は出るのかい?」

「ええ、兄がエスコートして下さいますわ」

「はぁぁ、婚約者のエスコートもしない王太子か…」

「ふふ、今更ですわね。…ではここで」

「あぁまた明日」

わたくしは馬車に乗り、グレン様に見送られて公爵邸に帰ろうとしたら……

「セレンディア様っ、お待ち下さい!」

学院の教師がわたくしを呼びながら走って参りました。

……嫌な予感しかしませんわ。




わたくしが急いで駆け付けた場所はカフェテリアの入り口です。

知らせに来た教師の話では、カスティル侯爵家次男のマイルズ様が、フリード様に抱き付いているメリンダ様に抗議をしているとの事でした。

「俺の事が好きだと言ったのは嘘だったのかよ!」

ドンッ! と、マイルズ様が両膝を付き拳で床を叩いています。

「そうなのか?」

フリード様はメリンダ様に問い掛けますが…「確かに言ったけど、お友達としてですよぉ?」

これでは少々マイルズ様がお可哀そうですし、もし激昂なさってフリード様に不敬を働いてしまっては大変です。

「お話し中失礼しますフリード様、このような場所で騒ぎを起こされては皆様の迷惑になりますわ」

わたくしがそう話しかけるとお2人は振り返り…

「またお前か…只でさえ其処の愚か者の所為で苛ついているというのに」

「そぉですよぉセレンディアさまぁ、フリード様は悪くないんですぅ」

メリンダ様はそう言いながらフリード様の腕に再び絡み付く。

この時、わたくしは連日の様に繰り返されるこのやり取りに、少々疲れていたのかも知れません。

目の端にマイルズ様がメリンダ様を睨みつけながら立ち上がり、足を踏み出すのが見えてしまって、わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…

「いいかげんにしないかっ!」

バシッ!!

フリード様に頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。


「セレンディア嬢っ!!」


目を閉じる寸前見えたのは、必死に駆け寄って来るグレン様の顔と…

聞こえたのは………



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