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ジルベール ~疑心~

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時は少しさかのぼり…



シアとゲイルを先に帰した日の夜。

僕は今、アルフォードの屋敷に来ている。


「今日はどうした? ジルベール。 お前が急に来るなんて珍しいな」

「お前の様子が以前と違っていたから、心配になって来たんだよ」

「? 俺はいつもどおりだが…?」

―――やはり、自分じゃ気が付いてないのか…

「変わったよ…先日まで話した時と、まるで違う」

侍女が茶を淹れて部屋を出て行き、アルフォードと2人になった。

「それで? どこが違うと言うんだ?」

「まず、アルフォード…インジャスタ男爵令嬢の事をどう思っている?」

アルフォードは虚を突かれたように目をしばたいた。

「は……!? 何故今アリエルの事を聞く?」

「…………」

問い返されても無言で見つめる僕に、アルフォードは溜息をき、仕方が無いとばかりに答えた。

「はぁ…アリエルは俺が守りたいと思っている女性だ」

「守りたい? 何から守ると言うんだい? 前にも言ったが、お前と彼女とでは身分が違うだろう? それに…あの男爵令嬢はどこか変だ」

「変だと!? どこが変だと言うんだ!! 幾らお前でもアリエルをけなす事は許さんぞ!!」

ガチャン――と、持っていたカップを乱暴にソーサーへ戻し、僕を睨みつける様にして声を荒げる。

「アルフォード。確かにお前は彼女へ好意を持っていたが、僕から見てもまだ友人のそれだった。でも今のお前から感じるのは恋慕だ!」

「それのどこがおかしいっ!」

「…いつからだ? あの教科書を持って来た日までは、お前にそんな感情は無かっただろう!? あの後なにがあった!?」

「はっ! アリエルに何かされたとでも? 俺が!? 有り得んっ!!」

アルフォードの境遇は、以前彼から少しだが聞いた事がある。
幼い頃から幽閉されていて、あまり他人と接する事が無かったと…
好意の裏に隠された悪意など、彼が見抜けるとは思えない。

(それに…以前の彼なら、僕の忠言ちゅうげんを頭ごなしに否定などしなかった)

この様子だと、今すぐにどうこう出来るものではなさそうだな…
一旦退いて、暫く彼に張り付いてみるか…

「ふぅ…分かった、落ち着け。 ところで、明日から試験休みに入るな」

「……ああ。 それが…?」

「休みの間、ここに泊めてくれ。王立魔法学院の見学に行くんだ。お前も興味あったろう? 一緒に行こう」


それにしても、今日あったインジャスタ男爵令嬢との話し合いは、終始頭痛が酷かった。
僕の体調が悪かっただけかもしれないが、とにかく不快だった。
それに、あの令嬢とは初めて会話したけど、やけに馴れ馴れしかったな…

以前シアが言っていたが、確かに僕らとあの令嬢の思う平等は違うのだろう。
天真爛漫と言えば聞こえはいいが、一歩間違うと不敬罪になる。

まぁ、インジャスタ男爵も馬鹿ではないだろうから、貴族令嬢の一般教養くらいは男爵家で並行して教えていると思うけどね…


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