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相澤 対 速水〈7〉軽い反撃
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「相澤、こんな所に居たのか?探したぜ。」
《……うわっ?!》
「瞑想」ならぬ「迷走状態」だった俺は、背後から声をかけられてビクッとなる。
「な、何だよ?!」
気付けば入口付近からかなり遠ざかっている。無意識に人混みを避けた結果だろう。
「慣れたんじゃなかったのか?」
速水が意味深に笑う。
「なっ…、何がだよ?」
思わずムキになりかけて既の所でグッと堪える。「お前のせいだ!」と言いたいところだが、俺も考えなしのバカではない。突っ慳貪ながらもどうにか体裁を繕う。
「……フン、あんな所に居たら昨日の二の舞いだからな。変な巻き添えは御免だ。」
「まぁ、確かに…あそこは戦場だからな。」
速水も「ヤレヤレ」といった感じで肩を竦める。
《分かってるなら言うなよ!》
どうやら、速水にとっても学食は「戦場」らしい。だが、俺と同じ意味かどうかは分からない。
《チッ…、あれぐらいの事でビビってるなんて思われてたまるか!大体、俺には俺の予定ってものがあるんだよ!何でもかんでも勝手に引っ掻き回しやがって…!》
速水と会話をする気はないが、ここで黙っていては男が廃る。なにしろ、昨日の今日だ。
《クソッ…、今日は絶対に言い返してやる!》
俺にも「男のプライド」がある。なるべく平静を保ちつつ軽い反撃に打って出る。ただ、正面きってやり合うつもりはない。
「お前…、よく飽きないな。」
毎日毎日、凝りもせずに学食に通う速水に対して嫌味を言う。「いい加減、付き合わされる俺の身にもなれ!パンぐらい前もって買って来い!」と言いたいところだが…言葉が妥当かどうかは分からない。
「そうか?パンが一番手っ取り早いじゃん。そういう相澤もパンだろ?なんなら、明日はカレーでも食べるか?」
「要らない。《違う!そういう意味じゃない!》」
「ふーん。相澤って少食か?腹減らないのか?」
「別に。お前だって似たようなもんだろ。」
《少食かどうかなんて知るかよ?!そんな事はどうでもいいんだよ!》
ちなみに、俺は「食べる事」への執着があまりない。生きていれば腹は減る。だが、食べ過ぎも良くないので必要最低限だ。何事も「過ぎたるは及ばざるが如し」と言うだろう。
「そうか?俺のは惣菜パンだからな。2個も食べれば弁当と同じぐらいだ。色々入ってて飽きないし…相澤も食べてみれば?」
「要らない。」
「ふーん…。安くてボリュームがあって味も悪くない。その辺の店で買うよりお得だぜ?」
「パンなんて何処で買っても同じだろ。わざわざ並んで買うまでもない。」
「ふーん。相澤は知らないのか?」
「何がだよ?」
「学食でしか買えないパンがあるんだぜ。」
「ど、どんなパンだよ?」
速水に負けじと会話を続ける。果たして、これを会話というのかどうかは知らないが…。
「それが、結構変わってて…」
速水の話によると、何処かの弁当屋が赤字経営に悩んで始めたチャレンジ企画らしい。弁当用のオカズをパンに詰め込み容器コスト削減。値段が安くてゴミの削減にも繋がるというエコパン。斬新な見た目と手軽さが学生の間で人気となり…云々かんぬん。
「要は、腹を空かせた学生をターゲットにして学食販売に目をつけたのが成功のカギだな。今では弁当やめてエコパン専門にやってるらしいぜ。」
何処で仕入れたか知らないが、速水は「情報通」らしい。そして、意外とよく喋る。
《だから、何なんだよ?!無駄を省いたエコパン解説かよ?!そんな話はどうでもいい!》
反撃しようと身構えていた俺は、最後まで「速水の話」を聞く羽目になる。
「……で?《もう、いちいち返事するのも面倒臭い》」
「まぁ、世の中は何処で何がどう転ぶか分からないって話だ。赤字経営からの逆転劇。結構、面白いだろ?」
「……フン、成功する奴なんて一握りぐらいだろ。」
「んー、そうだな。世の中の全員が成功したら…成功なんてなくなるかもな?」
「……は?」
「何もかもが当たり前になったら、変わった事もなくなるだろ?」
「……へ?」
「皆が同じなら苦労しない世の中かもな?」
「……どういう事だ??」
「まぁ、そういう事だ。」
「………。」
《い、意味解かんねぇ~?!》
「それより、早く行こうぜ。時間が無くなる。」
「お、おい…、ちょっと…?!」
《な、ななな…、何なんだ?!結局、どういう事だ?!全然、意味不明だろ?!》
《え…?もしかして、俺がバカなのか?!いやいや、アイツがバカだろ!?何を言ってるのかサッパリじゃないか!俺をバカにしてんのか?!》
慣れない会話に疲れる思考。速水に向ける対抗意識も加わって、頭の中がシッチャカメッチャカになる。
《いやいやいや、待て待て待て!なんで俺が負けたみたいになってるんだよ?!》
《そもそも、何の話だよ?!弁当屋がエコパン作って成功したから何だっていうんだよ?!それを俺に買えって言うのか?!冗談じゃない!なんで俺が速水の言いなりにならなきゃならないんだよ!?》
《いいや!それより、今日は学食に行く予定なんてなかったのに…速水が余計な事するから悪いんだ!誰も手伝ってくれなんて頼んでないのに…余計なお節介野郎め!》
《大体、速水と居るとロクな事がない!なんで俺がこんなに神経使わなきゃならないんだよ?!》
毎度ながらの「自己解釈」「自己判断」「自己結論」を繰り返す。常に、自分に降りかかる問題は自分の中で処理をする。だが、出て来るのは不満ばかりだ。
《うああぁ~~!もう、イライラする~~!!》
最終的には、反撃どころか速水に振り回されて終わる。
《あゝ、クソッ!待てコラ!バカ速水!俺を置いて行くなんて千年早いんだよ!お前なんて万年疫病神だ!俺を何だと思ってるんだよ!このクソタンコブ野郎~~!!》
又しても、腹の中で不満をぶちまけ速水の背中を追いかける。
《……うわっ?!》
「瞑想」ならぬ「迷走状態」だった俺は、背後から声をかけられてビクッとなる。
「な、何だよ?!」
気付けば入口付近からかなり遠ざかっている。無意識に人混みを避けた結果だろう。
「慣れたんじゃなかったのか?」
速水が意味深に笑う。
「なっ…、何がだよ?」
思わずムキになりかけて既の所でグッと堪える。「お前のせいだ!」と言いたいところだが、俺も考えなしのバカではない。突っ慳貪ながらもどうにか体裁を繕う。
「……フン、あんな所に居たら昨日の二の舞いだからな。変な巻き添えは御免だ。」
「まぁ、確かに…あそこは戦場だからな。」
速水も「ヤレヤレ」といった感じで肩を竦める。
《分かってるなら言うなよ!》
どうやら、速水にとっても学食は「戦場」らしい。だが、俺と同じ意味かどうかは分からない。
《チッ…、あれぐらいの事でビビってるなんて思われてたまるか!大体、俺には俺の予定ってものがあるんだよ!何でもかんでも勝手に引っ掻き回しやがって…!》
速水と会話をする気はないが、ここで黙っていては男が廃る。なにしろ、昨日の今日だ。
《クソッ…、今日は絶対に言い返してやる!》
俺にも「男のプライド」がある。なるべく平静を保ちつつ軽い反撃に打って出る。ただ、正面きってやり合うつもりはない。
「お前…、よく飽きないな。」
毎日毎日、凝りもせずに学食に通う速水に対して嫌味を言う。「いい加減、付き合わされる俺の身にもなれ!パンぐらい前もって買って来い!」と言いたいところだが…言葉が妥当かどうかは分からない。
「そうか?パンが一番手っ取り早いじゃん。そういう相澤もパンだろ?なんなら、明日はカレーでも食べるか?」
「要らない。《違う!そういう意味じゃない!》」
「ふーん。相澤って少食か?腹減らないのか?」
「別に。お前だって似たようなもんだろ。」
《少食かどうかなんて知るかよ?!そんな事はどうでもいいんだよ!》
ちなみに、俺は「食べる事」への執着があまりない。生きていれば腹は減る。だが、食べ過ぎも良くないので必要最低限だ。何事も「過ぎたるは及ばざるが如し」と言うだろう。
「そうか?俺のは惣菜パンだからな。2個も食べれば弁当と同じぐらいだ。色々入ってて飽きないし…相澤も食べてみれば?」
「要らない。」
「ふーん…。安くてボリュームがあって味も悪くない。その辺の店で買うよりお得だぜ?」
「パンなんて何処で買っても同じだろ。わざわざ並んで買うまでもない。」
「ふーん。相澤は知らないのか?」
「何がだよ?」
「学食でしか買えないパンがあるんだぜ。」
「ど、どんなパンだよ?」
速水に負けじと会話を続ける。果たして、これを会話というのかどうかは知らないが…。
「それが、結構変わってて…」
速水の話によると、何処かの弁当屋が赤字経営に悩んで始めたチャレンジ企画らしい。弁当用のオカズをパンに詰め込み容器コスト削減。値段が安くてゴミの削減にも繋がるというエコパン。斬新な見た目と手軽さが学生の間で人気となり…云々かんぬん。
「要は、腹を空かせた学生をターゲットにして学食販売に目をつけたのが成功のカギだな。今では弁当やめてエコパン専門にやってるらしいぜ。」
何処で仕入れたか知らないが、速水は「情報通」らしい。そして、意外とよく喋る。
《だから、何なんだよ?!無駄を省いたエコパン解説かよ?!そんな話はどうでもいい!》
反撃しようと身構えていた俺は、最後まで「速水の話」を聞く羽目になる。
「……で?《もう、いちいち返事するのも面倒臭い》」
「まぁ、世の中は何処で何がどう転ぶか分からないって話だ。赤字経営からの逆転劇。結構、面白いだろ?」
「……フン、成功する奴なんて一握りぐらいだろ。」
「んー、そうだな。世の中の全員が成功したら…成功なんてなくなるかもな?」
「……は?」
「何もかもが当たり前になったら、変わった事もなくなるだろ?」
「……へ?」
「皆が同じなら苦労しない世の中かもな?」
「……どういう事だ??」
「まぁ、そういう事だ。」
「………。」
《い、意味解かんねぇ~?!》
「それより、早く行こうぜ。時間が無くなる。」
「お、おい…、ちょっと…?!」
《な、ななな…、何なんだ?!結局、どういう事だ?!全然、意味不明だろ?!》
《え…?もしかして、俺がバカなのか?!いやいや、アイツがバカだろ!?何を言ってるのかサッパリじゃないか!俺をバカにしてんのか?!》
慣れない会話に疲れる思考。速水に向ける対抗意識も加わって、頭の中がシッチャカメッチャカになる。
《いやいやいや、待て待て待て!なんで俺が負けたみたいになってるんだよ?!》
《そもそも、何の話だよ?!弁当屋がエコパン作って成功したから何だっていうんだよ?!それを俺に買えって言うのか?!冗談じゃない!なんで俺が速水の言いなりにならなきゃならないんだよ!?》
《いいや!それより、今日は学食に行く予定なんてなかったのに…速水が余計な事するから悪いんだ!誰も手伝ってくれなんて頼んでないのに…余計なお節介野郎め!》
《大体、速水と居るとロクな事がない!なんで俺がこんなに神経使わなきゃならないんだよ?!》
毎度ながらの「自己解釈」「自己判断」「自己結論」を繰り返す。常に、自分に降りかかる問題は自分の中で処理をする。だが、出て来るのは不満ばかりだ。
《うああぁ~~!もう、イライラする~~!!》
最終的には、反撃どころか速水に振り回されて終わる。
《あゝ、クソッ!待てコラ!バカ速水!俺を置いて行くなんて千年早いんだよ!お前なんて万年疫病神だ!俺を何だと思ってるんだよ!このクソタンコブ野郎~~!!》
又しても、腹の中で不満をぶちまけ速水の背中を追いかける。
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