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相澤 対 速水〈1〉始まりは脱線から
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それ以降、俺の意識は佐久間へと移る。
《よし、昼休みだ…!》
目的が変われば学食へ向かう事も苦ではない。
「悪いな、直ぐ戻る。」
「別にいい。気にするな。早く行け。時間はある。ゆっくりしろ。」
いつもは完全無視なのだが、今日の俺は違っている。思いつく言葉を並べ立てて穏便に速水を追いやる。怒りがなければ大した問題ではないと知る。ただ、乱雑になるのはどうしょうもない。
「ふ~ん…。なんなら、一緒に行くか?待つだけってのも退屈だろ?」
速水が面白そうに笑う。
「いや、いい。」
「まぁ、別にいいけどさ。今日もここで待つのか?」
「いいから早く行けよ。」
既に、速水の事など眼中にない。俺の意識は一直線に佐久間へと向かう。
《よし、ここからがメインだ!》
逸る気持ちを抑えるように学食内に視線を向ける。無意識に気分が高揚するのも無理はない。佐久間に刺激される本能と、速水から開放される日々に期待度も上昇だ。気分的には「脱!速水」からの「着!佐久間」といった感じだ。
《フゥ……。昨日までは散々だったからな。これで、ようやく落ち着ける》
一旦、息を吐いて自分の内部を整える。軽い「リセット」のようなものだ。なにしろ、この数日間は苦難と苦悩の連続だった。速水に取り憑かれて呪い殺されそうな気がしていた。それは言い過ぎかもしれないが、そんな呪縛から開放されると思うだけでも身軽になれる。一件落着とはいかないまでも「一段落からの再出発!」というところだ。所謂「肩の荷がおりた」とはこういう感覚を言うのだろうか…?
《今日も同じメンバーか…?変わり映えしないな》
暫く観察してみるものの「野郎だらけの集団」というだけで特に変化がない。そこに佐久間が居なければ注目する意味もないような「ありふれた光景」だ。
《アイツ以外は全員ザコだな。どいつもこいつも平和な顔しやがって…。フン、平凡な学年生活エンジョイライフってやつか?呑気なもんだな》
取り敢えず、目に見える情報収集と解析を始める。人数が多くて雑多な感じの集団は「平凡」としか言いようがない。これといった問題点も見当たらない。
《う~ん…。左から…ザコメガネ、イモ野郎、オタク系…。ダンゴみたいな顔に…サルっぽい奴…。次はイヌかキジだな…って、桃太郎かよ?!》
メンバーの顔ぶれを一通りチェックする。だが、平凡な奴等に興味はない。品定めにもならないだけに「やる気のない品評会」だ。
《チッ…、人数が多くて関係性も分かりにくいな。どうなってんだ?!》
辛抱強く眺めるものの、段々と嫌気が差してくる。敵に動きが無い限り黙って待つしかないのだが、あまりにも何も無い。その違和感が大きくなる。
《もう、何なんだよ?!平凡すぎて何も無いって…そんなの有りかよ?!》
通常ならば「問題なし」で終わっている。だが、この時ばかりは問題のない事が「問題あり」に思えた。
想像とは違う現状にやや苛立つ。今までには無かった事だ。そんな矛盾にも気付かない俺は、完全に乱されていたのだろう。
常に周りを淡々と眺め、無駄な事には意識を向けず、必要以上の事は考えない。怒りはあっても感情は揺らがず、文句はあっても要求はしない。他人に向ける関心も無ければ期待する事もないからだ。いや、そもそも期待出来ないから関心を向けないのだ。いやいや、期待したくないから無関心を決め込んでいるとも言える。否、期待するだけ無駄なので期待しないだけの話だ。なにしろ、俺は無駄な事はしない主義だ。期待すればムカつく。ムカつくだけでも疲れる。疲れる事はしたくない。つまり、初めから期待しなければ良いのだ。これが俺の「三段論法」ならぬ「四段論法」だ。
今、まさに「それ」さえもが崩されている。冷静でありながらも冷静でない。そんな事があるのだろうか…?
結局、何もかも速水に振り回された結果だろう。無駄に刺激された感情が剥き出しのまま独走している。しかも、あらぬ事に佐久間に期待を向けている。
勿論、ターゲットとしては「最高ランク」に値する男だ。だが、現段階でターゲットに決まった訳ではない。それには「キッカケ」が必要となる。いくら「復讐」とは言えど、キッカケ無くしての行動は有り得ない。そして、今まではキッカケの方が先にあった。過去のターゲットは全て「嫌な野郎」ばかりだったからだ。視界に入れば目について、見ているだけで鼻につく。接触すればムカつくこと間違いなしだった。
ところがどっこい、佐久間にはそれが無い。気さくに笑う男は平凡な学生生活をエンジョイしている。目立たず騒がず普通に生きている。集団の中のリーダー格という雰囲気でもない。
《チッ、これじゃあ身動き取れないだろ?!そもそも、アイツが嫌な野郎なら話は早いんだよ!》
《大体、なんで俺がコソコソしなきゃならないんだよ?!これじゃあ、俺が悪者みたいじゃないか?!》
現状と感情が衝突する。こうなると論点までもがズレてくる。走り出したら止まらない列車と同じだ。想像だけが先走り現実との区別がつかなくなる。
《佐久間も佐久間だ!恵まれた野郎のくせに、平凡な奴等と一緒になって笑ってる場合かよ?!》
《女にキャーキャー言われてイイ気になるとか、周りの奴等を見下すとか、何かあるだろ?!》
更には、無理矢理にでも目の前の事実を捻じ曲げようとする。しかも、内容が稚拙だ。
何故なら、佐久間には文句の付けようがないからだ。所謂「非の打ち所がない」とはこの事だろう。過去のターゲットとは明らかに違う。だが、考えている余裕はない。どうにかして現状を打開したい気持ちが強い。
この段階で、俺は余程に「速水との関係」に参っていたのだろう。それにより「佐久間問題」も先送りとなるのだが…。
速水に関する事柄を頭の中では処理しているが、実際には未処理のままだ。それを無理矢理に終わった事にして次に進もうとしている。やっている事が矛盾しているのだから、矛盾が矛盾を生むのは当然だ。だが、様々な要因が俺を狂わせ正常な判断が利かなくなっている。
何故、こうなったのかと言えば…今回ばかりは全ての状況が違っていたからだ。置かれている環境も、与えられた条件も、ここまでの経緯も含めて、何もかもが通常とは異なっている。突発的事態から始まり、勢いに任せて突き進む内に…俺は完全に「通常の軌道」から外れていた。入口を間違えれば出口が分からなくなるのと同じだ。そして、更に迷路の中を彷徨う事となる…。
いや、もう「脱線」だ。
一度「脱線」した道を元に戻す術はない…。
俺は「脱線列車」の如くガタガタ道をひた走る。
《よし、昼休みだ…!》
目的が変われば学食へ向かう事も苦ではない。
「悪いな、直ぐ戻る。」
「別にいい。気にするな。早く行け。時間はある。ゆっくりしろ。」
いつもは完全無視なのだが、今日の俺は違っている。思いつく言葉を並べ立てて穏便に速水を追いやる。怒りがなければ大した問題ではないと知る。ただ、乱雑になるのはどうしょうもない。
「ふ~ん…。なんなら、一緒に行くか?待つだけってのも退屈だろ?」
速水が面白そうに笑う。
「いや、いい。」
「まぁ、別にいいけどさ。今日もここで待つのか?」
「いいから早く行けよ。」
既に、速水の事など眼中にない。俺の意識は一直線に佐久間へと向かう。
《よし、ここからがメインだ!》
逸る気持ちを抑えるように学食内に視線を向ける。無意識に気分が高揚するのも無理はない。佐久間に刺激される本能と、速水から開放される日々に期待度も上昇だ。気分的には「脱!速水」からの「着!佐久間」といった感じだ。
《フゥ……。昨日までは散々だったからな。これで、ようやく落ち着ける》
一旦、息を吐いて自分の内部を整える。軽い「リセット」のようなものだ。なにしろ、この数日間は苦難と苦悩の連続だった。速水に取り憑かれて呪い殺されそうな気がしていた。それは言い過ぎかもしれないが、そんな呪縛から開放されると思うだけでも身軽になれる。一件落着とはいかないまでも「一段落からの再出発!」というところだ。所謂「肩の荷がおりた」とはこういう感覚を言うのだろうか…?
《今日も同じメンバーか…?変わり映えしないな》
暫く観察してみるものの「野郎だらけの集団」というだけで特に変化がない。そこに佐久間が居なければ注目する意味もないような「ありふれた光景」だ。
《アイツ以外は全員ザコだな。どいつもこいつも平和な顔しやがって…。フン、平凡な学年生活エンジョイライフってやつか?呑気なもんだな》
取り敢えず、目に見える情報収集と解析を始める。人数が多くて雑多な感じの集団は「平凡」としか言いようがない。これといった問題点も見当たらない。
《う~ん…。左から…ザコメガネ、イモ野郎、オタク系…。ダンゴみたいな顔に…サルっぽい奴…。次はイヌかキジだな…って、桃太郎かよ?!》
メンバーの顔ぶれを一通りチェックする。だが、平凡な奴等に興味はない。品定めにもならないだけに「やる気のない品評会」だ。
《チッ…、人数が多くて関係性も分かりにくいな。どうなってんだ?!》
辛抱強く眺めるものの、段々と嫌気が差してくる。敵に動きが無い限り黙って待つしかないのだが、あまりにも何も無い。その違和感が大きくなる。
《もう、何なんだよ?!平凡すぎて何も無いって…そんなの有りかよ?!》
通常ならば「問題なし」で終わっている。だが、この時ばかりは問題のない事が「問題あり」に思えた。
想像とは違う現状にやや苛立つ。今までには無かった事だ。そんな矛盾にも気付かない俺は、完全に乱されていたのだろう。
常に周りを淡々と眺め、無駄な事には意識を向けず、必要以上の事は考えない。怒りはあっても感情は揺らがず、文句はあっても要求はしない。他人に向ける関心も無ければ期待する事もないからだ。いや、そもそも期待出来ないから関心を向けないのだ。いやいや、期待したくないから無関心を決め込んでいるとも言える。否、期待するだけ無駄なので期待しないだけの話だ。なにしろ、俺は無駄な事はしない主義だ。期待すればムカつく。ムカつくだけでも疲れる。疲れる事はしたくない。つまり、初めから期待しなければ良いのだ。これが俺の「三段論法」ならぬ「四段論法」だ。
今、まさに「それ」さえもが崩されている。冷静でありながらも冷静でない。そんな事があるのだろうか…?
結局、何もかも速水に振り回された結果だろう。無駄に刺激された感情が剥き出しのまま独走している。しかも、あらぬ事に佐久間に期待を向けている。
勿論、ターゲットとしては「最高ランク」に値する男だ。だが、現段階でターゲットに決まった訳ではない。それには「キッカケ」が必要となる。いくら「復讐」とは言えど、キッカケ無くしての行動は有り得ない。そして、今まではキッカケの方が先にあった。過去のターゲットは全て「嫌な野郎」ばかりだったからだ。視界に入れば目について、見ているだけで鼻につく。接触すればムカつくこと間違いなしだった。
ところがどっこい、佐久間にはそれが無い。気さくに笑う男は平凡な学生生活をエンジョイしている。目立たず騒がず普通に生きている。集団の中のリーダー格という雰囲気でもない。
《チッ、これじゃあ身動き取れないだろ?!そもそも、アイツが嫌な野郎なら話は早いんだよ!》
《大体、なんで俺がコソコソしなきゃならないんだよ?!これじゃあ、俺が悪者みたいじゃないか?!》
現状と感情が衝突する。こうなると論点までもがズレてくる。走り出したら止まらない列車と同じだ。想像だけが先走り現実との区別がつかなくなる。
《佐久間も佐久間だ!恵まれた野郎のくせに、平凡な奴等と一緒になって笑ってる場合かよ?!》
《女にキャーキャー言われてイイ気になるとか、周りの奴等を見下すとか、何かあるだろ?!》
更には、無理矢理にでも目の前の事実を捻じ曲げようとする。しかも、内容が稚拙だ。
何故なら、佐久間には文句の付けようがないからだ。所謂「非の打ち所がない」とはこの事だろう。過去のターゲットとは明らかに違う。だが、考えている余裕はない。どうにかして現状を打開したい気持ちが強い。
この段階で、俺は余程に「速水との関係」に参っていたのだろう。それにより「佐久間問題」も先送りとなるのだが…。
速水に関する事柄を頭の中では処理しているが、実際には未処理のままだ。それを無理矢理に終わった事にして次に進もうとしている。やっている事が矛盾しているのだから、矛盾が矛盾を生むのは当然だ。だが、様々な要因が俺を狂わせ正常な判断が利かなくなっている。
何故、こうなったのかと言えば…今回ばかりは全ての状況が違っていたからだ。置かれている環境も、与えられた条件も、ここまでの経緯も含めて、何もかもが通常とは異なっている。突発的事態から始まり、勢いに任せて突き進む内に…俺は完全に「通常の軌道」から外れていた。入口を間違えれば出口が分からなくなるのと同じだ。そして、更に迷路の中を彷徨う事となる…。
いや、もう「脱線」だ。
一度「脱線」した道を元に戻す術はない…。
俺は「脱線列車」の如くガタガタ道をひた走る。
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