俺達の行方【番外編】

穂津見 乱

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相澤、過去を語る〈1〉孤独の戦士

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速水に出会ってからというもの「対決」の連続だった。

実際のところは「対決」というより「葛藤」なのだが、そんな事さえ分からないほど俺の内部は白熱していた。なにしろ、速水には余計なものが多すぎる。ゲイ問題、K問題、過去の因果関係、プライド勝負、学食問題、昼休憩問題…等々、数え始めればキリがない。更に言うなら、日々の我慢も含めれば「無駄の集大成」と言っても良い。その1つ1つを片っ端からぶった斬る。本来の復讐とは違うだけに苦戦を強いられたのは言うまでもない。

例えるなら、強敵を相手に剣を振る「孤独な戦士」の気分だろうか。子供の頃に観たアニメのように、迫りくる「大怪獣!ハヤミーン」の腕や足を斬りつける。そうやって攻撃力を削ぎ落とすのだ。そんな戦いに疲れ始めた矢先、「幸運の女神!サクマ神」が舞い降りた…。

気分的にはそんなところだ。

これを「妄想」というのかどうかは知らないが、強いていうなら「想像」はする。普段は機械的に動く頭の中にも「俺の領域」は存在する。どれほどシステム化されようと人間である事に変わりはない。どちらかと言えば「人として生きる」方が疲れるものだ。嫌な過去は切り棄てても「自分の全て」が消え去る訳ではない。
記憶とは「人生の歩み」と同じようなものだ。ついでに言うなら、決して俺が子供っぽい訳ではない。俺の世界は「自分が知り得た情報」で成り立っている。

つまり、幼い頃の記憶も情報の1つという事だ。

そういえば、子供の頃は「正義の味方」が好きだった。世の中の悪を薙ぎ倒す強いヒーローだ。そんな人間になりたいと憧れた時期もある。幼少期なら誰もが思い描く「夢物語り」がある。だが、そんな夢や希望など空想や幻想に過ぎない。

実際の世の中は、子供達が夢中になる「アイドル的ヒーロー」のグッズや玩具が流行し、誰もが同じように手にしては自慢して競い合う。幼い子供の間でも「競争社会」は同じだ。より多くのアイテムを手に出来る者が勝者となり正義の味方気取りで闊歩する。裕福な家に生まれた子供は欲しい物を手に入れ、貧乏でも身体が大きくて力の強い子供がそれを奪う。「正義の味方ごっこ」と称して遊ぶ中にも格差がある。強い子供がヒーロー役で、弱い子供は悪役にされてイジメられて泣かされる。それが子供社会のルールだ。大人のように「本音と建前」を知らないだけにリアルさも際立つ。誰に教わる訳でもなく物心ついた頃から人間の優劣など決まっているようなものだ。
その点で言うなら、遊び仲間にさえも入れてもらえなかった俺が一番悲惨と言える。その様子を遠目に眺めながら酷い現実を思い知らされたものだ。

あの頃から、俺の性格は捻くれていたのだろう。周りの子供達が熱狂するヒーロー番組には反感を抱き、お気に入りのアニメばかりを観ていた気がする。それが「銀河戦士バロン」だ。

思い出せば懐かしい記憶になる…。

地球を守る為に銀河の果てからやって来た「銀河戦士バロン」は、特殊能力を身に付けた超人で変身するとやたらと強くなる。普段は人間と同じ姿をしているが、怪獣が現れると剣を手に独りで立ち向かって行くのだ。その姿が強くて格好良くて最高だった。そして、戦いの最後には変身して怪獣のような姿に変わる。

要は、他の銀河系から飛来した他種族同士の抗争の話だった。地球を舞台に繰り広げられる善と悪に分かれた戦いで、バロンは地球を守る為に送り込まれた戦闘要員だったのだ。

更に、細かく解説すると…無数の銀河系を統治する銀河政府の一員だったバロンは、上層部から不当な理由をつけられて犯罪者として地球に送られる。終身刑に近い数千年という刑期を告げられて絶望する。愛する家族と引き離されて母星に戻る手段も無い。その代わり、地球を襲う悪者を倒し続ければ模範囚として認められるという条件付きだった。つまり、銀河政府の手駒の1つにされていたという事だ。
地球という小さな星に島送りにされた上、守ろうが滅ぼうが関係ない。壮大な銀河の中では「地球」など取るに足らない星の1つでしかないが、生命体が宿るだけに銀河政府の管理下にあるという…身も蓋もない話だ。
その一方で、地球を守る戦いを繰り広げるバロンには別の問題があった。自分の正体がバレてしまえば、守るべき人間達からも忌み嫌われて捕らえられるか殺されてしまうという悲惨な結果が待っている。身分を隠して孤独に戦い続けるバロンには味方となる人間が誰一人として居なかった。しかも、自分が倒されてしまえば地球は滅んでしまうのだ。その事実を知らない地球人類の浅はかさを描いたような作品でもあったのだろう…。

当時の俺には理解不充分な内容だったが、何処か哀愁を帯びた「孤高の戦士」の雰囲気がやけに格好良く見えた。剣を片手に怪獣に挑んで行く姿も最高で「正義の味方」の中では一番最強に思えた。変身すれば簡単に倒せる所を、なかなか変身しないのも見所だった。バロンは危機的状況にならなければ変身しないからだ。
他の番組のド派手なアクションや必殺技の連続、装備品や武器の多さに比べると、実に質素な設定だった。いや、どちらかと言えば「真実味」を帯びていたのだろう。地道な戦いをするだけにハラハラしながら観ていた記憶がある。普通なら「早く変身してやっつけろ!」と言いたくなるところだが、驚異的な身体能力で身を躱して華麗に宙を舞う。剣以外の武器や必殺技は少なく身体一つで挑んで行く。血まみれになりながらも諦める事をせず、限界ギリギリまで戦う姿は圧巻だった。

今にして思えば、子供向けアニメにしてはシリアスな内容だった。当時の人気から外れたマイナーな作品とも言える。何故、それが家にあったのかも分からないが…多分、誰かから貰った「お下がり」か「要らないもの」だったのかもしれない。それでも俺は夢中になった。周りの誰も知らない「俺だけのヒーロー」という強い拘りがあったのかもしれない…。


《フン、戦況は悪くない!好機到来だ!》

不意に懐かしい記憶を思い出して小さく鼻を鳴らす。所謂「光明が差す」とはこの事だ。苦戦を強いられる日々の中に「我を見出す」とも言える。ゲイの速水とは違う「正統派の佐久間」にロックオンだ。

この時の俺は、物語の主人公になった気分だった。これが本来の復讐スタイルでもあるからだ。復讐に疲れながらも復讐を止められない。長年に渡って染み付いた感覚は拭えない。更には、速水から逃れたい意識が佐久間に向かう。

速水に振り回され、普段の冷静さを見失い、感情を掻き乱され、慣れない状況に置かれ続ける事により、自分を保守しようとする意識が「自分の世界」に深く入り込んでしまっていた。
しかも、自分の中だけで繰り広げられる「孤人戦」だけあって表向きには何の変化も起きていない。つまり、速水の方は出会った頃から何も変わっていないのだが、俺だけが白熱したバトルを展開していたという事だ。

世間では、この状態を「独り相撲」とでも言うのだろうか…?

だが、冷静さを欠いた俺には深刻な問題だった。様々な状況が影響を及ぼし、俺の思考は散乱するばかりだ。それでも、自分の中にある情報だけを掻き集めて現状を解析する。

誰に言うでもなく独りで論争して結論づける。これは俺の特徴でもある。他人と関わらないのだから当然だ。ある意味で、俺の「話し相手」は自分しか居ない。

改めて考えると、なんとも寂しい現状なのだろうが…俺の人生は自分の中だけで展開されるストーリーのようなものだ。それが「孤独に生きる」という事でもある。

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