俺達の行方【番外編】

穂津見 乱

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相澤と速水の関係〈9〉急展開

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《……チッ、速水の野郎が戻って来やがった!》

雑踏の中で目を閉じていた俺は速水の接近を探知する。過剰に反応し過ぎる部分もあるのだろうが、ある意味で「慣れ」の一種とも言える。気配だけで他人との区別がつくのだから余程だろう。良いのか悪いのかも分からないが、なんとも有り難迷惑な話だ。

《今日はやけに早いな。もう終わりかよ…?!》

佐久間に意識を奪われて時間の経過を忘れていたらしい。こうなると頭の中の筋書きも変わってくる。目的を達成する為には手段を選ばないのが俺のやり方だ。

「待たせたな。」

「早かったな。」

「そうか?」

「急ぐ必要はない。もっとゆっくりで良い。」

「ふ~ん、そう?少しは慣れたか?」

「問題ない。」

「たまには、学食で何か食べるか?」

「不要だ。」

「何で?」

「人混みは嫌いだ。」

「ふ~ん、そうか。俺もなんだ。」

速水が軽く肩を竦めて鼻先で小さく笑う。どうやら、これは独特の仕草らしい。最初は小馬鹿にされているようで苛ついたが、思考が変われば見え方も変わるものだ。

《フン…意外だな。慣れてるようにしか見えないけど》

そんな事を思いながらも速水に対する興味はない。必要な事は口にしても無駄な事まで答える気はない。これを会話というのかどうかは知らないが、俺にしては上出来だろう。今更、速水を相手に愛想良く出来るはずもないからだ。

《落ち着いてれば何の問題もない。もう、速水なんか敵でも何でもない!》

極端すぎる思考展開なのだろうが、速水に関しては「有り」か「無し」かのどちらかだ。それ以外の選択肢はない。

「行こうぜ。」

「ああ。」

《よし、無事クリアだ…!》

取り敢えず、自分の行動を悟られないように要求を述べ伝える。今までのように動揺する事もない。それには「佐久間の存在」が強く影響しているのだが、そんな事にも気付かない。

この辺りから、速水との関係にも変化が生じ始める。

《フゥ…、これで解決だな》

廊下を歩きながら小さく息を吐く。

《学食問題と昼休憩問題もクリアだ。もう充分だろ。今まで散々だったからな…》

《大体、速水は問題が多すぎるんだよ。切っても切ってもキリがない。どれだけ苦労させれば気が済むんだ?!》

《お前なんか、佐久間に比べたら月とスッポンだ!》

「ゲイの速水」と「ノンケの佐久間」を比べたところで意味はない。どちらも敵である事に変わりはない。だが、こうなると「何が始まり」なのかも分からなくなる。

そもそも、全ての物事には「原因」と「結果」がある。人生とは「その繰り返し」のようなものだ。大きい小さいに関わらず、望む望まざるに関わらず、それらが「一連の鎖」のように繋がっている。元を辿ればキリがない。
つまり、何を言いたいのかといえば、無数の原因と結果が集結して出来上がったのが「今の俺」という事だ。それほどに「俺の過去」は複雑極まりない。

《速水を待つ事に意味が無いからムカつくんだよ。毎日毎日、余計な問題ばかり増やしやがって…》

ブチブチと腹の中で文句を言う。今では、これも「習慣」になっている。既に、怒りというよりは「愚痴と不満」の垂れ流し状態だ。

なにしろ、速水が相手では無理もない。どんなに怒りを向けようとも「肩透かし」の「空吹かし」でしかないのだからストレスは溜まる一方だ。しかも、本来の復讐とは違い実戦を伴わない。この場合の実戦とはセックスの事になるのだが、そんな事さえ頭の中から消し去っている。

《佐久間を見ろ!アレが普通だ!そもそも、お前が特殊すぎるんだよ!》

現状の乱れに気付かないまま勢いに任せて結論づける。結論というよりは極論だ。正直なところ、「速水問題」を早く終わらせたい気持ちが強い。

《もう、お前との勝負は終わりだ!》

俺は一気にたたみかけるように終止符を打つ。


この段階で、かなり崩壊していると言っても良いだろう。結局、その場その場の状況に振り回されて行き当たりばったりの行動に出ている。それでも、自分では上手く事が運んでいると思い込んでいるのだから始末が悪い。冷静に判断しているつもりが、隠れた本音や感情に大きく左右されている。完全に統率が乱れている証拠だろう。こうなると、自分でも何がどうなっているのかさえ皆目見当がつかなくなる。

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