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相澤と速水の関係〈5〉内部分裂
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それは「新たな存在感」の出現だった。一旦は頭の中から弾いたものの、どうしても引き寄せられてしまうものがある。何故なら、その男は俺の中でも「特例」に値するからだ。
《……驚いたな……》
思いがけない出来事に過去の自分が顔を出す。
《まさか…ここで出会すとはな…!》
こんな俺でも入学当初は少なからず新鮮な感覚があった。自分の人生をリセットしたような気分になっていた。その時期に目にした男だ。
例えるなら、真っ白な紙に最初に染み付いた鮮やかなインクのようなものだろう。それは消える事もなく「当時のまま」記憶されている。所謂「インスピレーション」のようなものを感じた相手だ。
《ヤバイな…、心臓がドキドキしやがる…》
ただ、そんな時期は束の間だった。言わずと知れた現実の闇が全てを覆い隠すのに時間はかからなかった。そして、現在に至っている。こうして目にするまでは「男の存在」も「当時の記憶」も埋もれたままになっていたのだ。
《あれから全然見てないけど…多分、普通科だよな…?どのクラスなんだ?いつもここに居るのか?一緒に居る奴等は同じクラスか?》
小さな驚愕と興奮、過去と現在が入り乱れる。俺の中で「時間の歪み」が発生する。次々と浮かぶ疑問が頭の中を埋め尽くす。男に向ける関心が大きくなる。
《周りの奴等は知らない顔ばかりだ。かなり親しそうな感じがするけど…部活関係か?同じ中学出身って事もあるよな…?部活は何やってるんだ?運動神経良さそうだったからな。でも、バスケやバレー部では見てない。後は…》
強烈な印象はあっても情報が何も無い。
《初めて見た時はかなりインパクトあったよな…!でも、なんで今まで視界に入らなかったんだ…?》
《まぁ…、これだけ人数が居れば無理もない。知らない奴等の方が多いぐらいだ》
同じ学年でもクラスが違えば知らぬも同然だ。中学時代とはスケールが違う。全校生徒を合わせれば物凄い数になる。その出身校も様々で関連性も複雑化する。そんな中での迂闊な行動は命取りになり兼ねない。それだけに、高校に入ってからの俺は行動範囲も視野も縮小されていた。
《ここで会ったが100年目ってやつか…!》
ジワジワと身体の奥で「何か」が蠢く。本能的に刺激されるものがある。妙なゾクゾク感に全身がザワめく。速水に出会った時とは違う感覚だ。
《チッ…!よりにもよって、こんな時に出て来るとはな…!》
先程感じた「警告」は予感的なものだった。これから始まる全ての事を瞬間的に感じ取っていたのだろう。
これは単なる偶然か…?それとも悪魔の悪戯か…?何故、このタイミングで遭遇する事になったのか…?その時の俺には分からないが、全てのタイミングが「運悪く重なった」としか言いようがない。
そもそも、「その男」でなければ目に留まる事はなかっただろう。これが他の野郎なら間違いなくスルーしている。更に言うなら、勝負の相手が速水でなければ気分が乱れる事もなかったはずだ。ましてや、学食に来る事もない。
全てが「普段通り」なら、何一つ変わる事もなく、変な過ちも起きなかったはずだ。
もしかしたら、これが俺に用意されていた「運命」だったのかもしれない…。
《フン!見てしまったものは仕方ない。奴の正体を探るぐらいは良いだろ。別に、ターゲットに決まった訳じゃない》
俺が「自分の警告」を無視するなど初めての事だ。半分はヤケクソで、半分は当て付けだろう。周りに振り回されている自分自身も気に入らない。何もかもが全て裏目に出てしまう。
《これは暇潰しみたいなものだ!》
それでも自分に言い訳をする。クドいようだが、俺は自分の直感に従う習性がある。中でも「警告」は重要だ。自分の身を護る為のものだからだ。だが、それにも勝るのが「本能的」な部分なのだろう。
この段階で、俺の「内部分裂」が始まる。過去の自分と現在の自分が入り乱れ、思考は混乱し、統率が乱れ、通常の自分を見失い、更なる迷路へと足を踏み込んで行く事になる。
なんとも複雑すぎて訳が分からなくなるのは当然だろう。こうなると、何が「誤算」なのかも分からないほどだ。話の本筋さえ見失いそうになる。自分でも整理がつかないのだから、俺の内部事情を理解出来る人間など居ないはずだ。
だが、敢えてプチ解説をするならば…「本能」は動物的感覚で左脳を使うらしい。「直感」は経験や知識から無意識に処理される高次元感覚で右脳を使うらしい。
こんな俺の苦しみを…少しぐらいは読み解いてくれる誰かが居るだろうか…?
多くの人間が存在する世の中で、何処かに1人でも理解してくれる誰かが居るのなら…俺も少しは救われるのかもしれないが…。
《……驚いたな……》
思いがけない出来事に過去の自分が顔を出す。
《まさか…ここで出会すとはな…!》
こんな俺でも入学当初は少なからず新鮮な感覚があった。自分の人生をリセットしたような気分になっていた。その時期に目にした男だ。
例えるなら、真っ白な紙に最初に染み付いた鮮やかなインクのようなものだろう。それは消える事もなく「当時のまま」記憶されている。所謂「インスピレーション」のようなものを感じた相手だ。
《ヤバイな…、心臓がドキドキしやがる…》
ただ、そんな時期は束の間だった。言わずと知れた現実の闇が全てを覆い隠すのに時間はかからなかった。そして、現在に至っている。こうして目にするまでは「男の存在」も「当時の記憶」も埋もれたままになっていたのだ。
《あれから全然見てないけど…多分、普通科だよな…?どのクラスなんだ?いつもここに居るのか?一緒に居る奴等は同じクラスか?》
小さな驚愕と興奮、過去と現在が入り乱れる。俺の中で「時間の歪み」が発生する。次々と浮かぶ疑問が頭の中を埋め尽くす。男に向ける関心が大きくなる。
《周りの奴等は知らない顔ばかりだ。かなり親しそうな感じがするけど…部活関係か?同じ中学出身って事もあるよな…?部活は何やってるんだ?運動神経良さそうだったからな。でも、バスケやバレー部では見てない。後は…》
強烈な印象はあっても情報が何も無い。
《初めて見た時はかなりインパクトあったよな…!でも、なんで今まで視界に入らなかったんだ…?》
《まぁ…、これだけ人数が居れば無理もない。知らない奴等の方が多いぐらいだ》
同じ学年でもクラスが違えば知らぬも同然だ。中学時代とはスケールが違う。全校生徒を合わせれば物凄い数になる。その出身校も様々で関連性も複雑化する。そんな中での迂闊な行動は命取りになり兼ねない。それだけに、高校に入ってからの俺は行動範囲も視野も縮小されていた。
《ここで会ったが100年目ってやつか…!》
ジワジワと身体の奥で「何か」が蠢く。本能的に刺激されるものがある。妙なゾクゾク感に全身がザワめく。速水に出会った時とは違う感覚だ。
《チッ…!よりにもよって、こんな時に出て来るとはな…!》
先程感じた「警告」は予感的なものだった。これから始まる全ての事を瞬間的に感じ取っていたのだろう。
これは単なる偶然か…?それとも悪魔の悪戯か…?何故、このタイミングで遭遇する事になったのか…?その時の俺には分からないが、全てのタイミングが「運悪く重なった」としか言いようがない。
そもそも、「その男」でなければ目に留まる事はなかっただろう。これが他の野郎なら間違いなくスルーしている。更に言うなら、勝負の相手が速水でなければ気分が乱れる事もなかったはずだ。ましてや、学食に来る事もない。
全てが「普段通り」なら、何一つ変わる事もなく、変な過ちも起きなかったはずだ。
もしかしたら、これが俺に用意されていた「運命」だったのかもしれない…。
《フン!見てしまったものは仕方ない。奴の正体を探るぐらいは良いだろ。別に、ターゲットに決まった訳じゃない》
俺が「自分の警告」を無視するなど初めての事だ。半分はヤケクソで、半分は当て付けだろう。周りに振り回されている自分自身も気に入らない。何もかもが全て裏目に出てしまう。
《これは暇潰しみたいなものだ!》
それでも自分に言い訳をする。クドいようだが、俺は自分の直感に従う習性がある。中でも「警告」は重要だ。自分の身を護る為のものだからだ。だが、それにも勝るのが「本能的」な部分なのだろう。
この段階で、俺の「内部分裂」が始まる。過去の自分と現在の自分が入り乱れ、思考は混乱し、統率が乱れ、通常の自分を見失い、更なる迷路へと足を踏み込んで行く事になる。
なんとも複雑すぎて訳が分からなくなるのは当然だろう。こうなると、何が「誤算」なのかも分からないほどだ。話の本筋さえ見失いそうになる。自分でも整理がつかないのだから、俺の内部事情を理解出来る人間など居ないはずだ。
だが、敢えてプチ解説をするならば…「本能」は動物的感覚で左脳を使うらしい。「直感」は経験や知識から無意識に処理される高次元感覚で右脳を使うらしい。
こんな俺の苦しみを…少しぐらいは読み解いてくれる誰かが居るだろうか…?
多くの人間が存在する世の中で、何処かに1人でも理解してくれる誰かが居るのなら…俺も少しは救われるのかもしれないが…。
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