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相澤と速水の関係〈6〉男の正体
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視界の端で男を観察する。
《普通科だけに…普通か…》
全員が顔馴染みと思われる面々は平凡な奴等ばかりだ。これといった特徴がない。
《……って、くだらないダジャレかよ?!速水のせいで頭が疲れすぎだな。ホント、嫌になる…》
妙な脱力感に溜め息を吐く。俺の想像とは裏腹に男は普通の奴等とたむろしている。それはそれで良いのだが、今までのターゲットとは雰囲気が違う。
《変だな…?俺の目に狂いはないはずだけどな。アイツは間違いなく敵将クラスか…それ以上でも良いはずだ》
通常、敵将クラスにもなると独特な空気感を放つものだ。集団の中に居ても自然と目立つようになっている。自他共認める恵まれた人間だけが甘い汁を吸う世の中だ。それが人間社会の風習なのかもしれないが、そういう集団心理は見ているだけでも嫌悪を感じる。
《……でも、普通っぽいな…?》
男が居る空間は和気藹々とした空気に包まれている。眺めていても嫌な印象を受けない。
《なんか…調子が狂うな。速水のせいで感覚までおかしくなったのか…?》
もっとよく確認しようとした矢先、目の前を横切った女共が俺の近くでたむろする。
《チッ…、邪魔しやがって!早く消え失せろ…!》
視界を遮られた事に苛立ちながらも反射的に身構えてしまう。顔を背けて素知らぬ振りをする。気配を消して時が過ぎるのをの待つ。
「選抜クラスに行っちゃたから遠くに感じるよね。もう、同じクラスになれる可能性ゼロって酷くない?出来の悪い親を恨むわ…」
「うん、近付ける余地なしって感じ。選抜クラス入りは無理でも陸上部だったらチャンスあったかも…」
「ねぇ、知ってる?最近、佐久間君って女子の間で人気急上昇中みたいよ。この前も……ヒソヒソ」
「あ、それ私も聞いた。それでね……コソコソ」
「ウッソ~!ヤダ~、何それ~?!」
「わっ?!バカ…声が大きいって…!」
「やっぱり出来の良い男は違うわね。皆、抜け目なしって感じね。カオリ、ちょっと声かけてカラオケでも誘ってみれば?」
「え~、ムリムリ!1年の時はあんまり話した事ないし、絶対断られるに決まってる」
「そうそう、カオリは前田君とイイ感じだったもんね~」
「やめてよ。アイツとはもう関係ないんだから。あ~、人生の選択を失敗したわ~」
「ねぇねぇ、前田君も一緒に誘っちゃえば?それならイケるかも~?」
「ちょっと、他人事だと思って軽く言わないでくれる?それに、マリは加藤派なんだから割り込んで来ないでよね」
「え~?佐久間君なら全然イイよ~。頭が良くって~、運動神経抜群で~、背も高くって~、性格も良さそうで~」
「やめてよ。横取りみたいなマネしないでよね」
「何よ~?自分のものでもないくせに~」
「あんたのものでもないわよ…!」
「ちょっと、2人共うるさいって…!」
「揉めてる暇があるなら早く声かけなさいよ。ゴールデンウィークが近いんだから…」
「だから、ムリだって…!ちょっと、何よ?ミドリは他に居るじゃない」
「それとこれとは話が別なの。良い男をゲットするチャンスは誰にでもあるのよ」
「あ~、ズルい~!それ、山田君に言っちゃおうかな~?」
「余計なお世話よ。アレは友達の延長線。可能性は無限大よ。そろそろ乗り換え時期かもね…」
「キャー、ミドリってばヤラシイ~!真面目な顔して肉食系なんだ~。意外とやるぅ~」
「あんたと一緒にしないでよ。私はタダ乗りしない主義なんだから…」
「何よ~?タダ乗りって、どういう意味よ~?」
「もう、全員うるさいって…!ケンカなら外でやってよね」
ヒソヒソ話のつもりだろうが興奮した女の声は金属音に近いものがある。騒音の中でも聞き分けるのは可能だ。と言うよりも、距離が近いだけに丸聞こえだ。
《お前等、全員目障りなんだよ!俺の視界に入って騒ぐな!キーキーうるさいんだよ!》
女の噂話など耳にするだけでもウンザリする。しかも、男漁りとは浅ましいにも程がある。
《フン!選抜クラスがなんだ!どいつもこいつも目の色変えやがって…!どうせ、くだらない男の話に決まってる》
「選抜クラス」と聞くだけでも胸くそが悪くなる。過剰反応により、それに連なる情報までもがインプットされてしまう。
《選抜クラス…陸上部…佐久間…。頭が良くて…運動神経抜群で…背が高い…。いかにも女が好きそうなタイプだな…》
《そういえば…?学年トップの奴の名前も、確か…佐久間だったよな…?》
不意に頭の中に浮かび上がる情報がある。
《……まさか…?!》
小さな閃きと共に、反射的に女共の「注目の的」を探る。
《アイツが…佐久間か…?》
俺の心臓がドクンと鳴った。女共の視線の先には「あの男」が居る。
《そうか…、アイツが学年トップの……佐久間 剛か…!》
1年の時に2回行われた実力試験の結果発表で、どちらも断トツ1位だった「佐久間 剛」という名前は記憶にある。顔は知らないが「有頂天間違い無しの自惚れ野郎に決まっている!」と思ったからだ。だが、現実的に目にしない限りは「架空の人物」に過ぎない。実在しなければターゲットにも成り得ない。
《……マジかよ……?!》
信じられないモノを目にした気分だった。その時、初めて俺の中で「佐久間 剛」が実体化したのだ。
《アイツが…そうだったのか…!あの時の男が…!》
閃きと現実が一致した瞬間、本能的な興奮が湧き上がる。それは驚愕と歓喜に近い。
《クソッ…!なんて事だ…!》
俺のハートが強く刺激される。例えるなら、オリの中に閉じ込められた猛虎が「とっておきの獲物」を見つけた気分だろうか。
《見つけたぞ…!アイツが…佐久間 剛か…!》
身体の奥から込み上げてくるゾクゾク感に身震いがする。その感覚が何を意味するのかは分からないが、俺の視界には「佐久間 剛」の姿しか映らなくなる。
《普通科だけに…普通か…》
全員が顔馴染みと思われる面々は平凡な奴等ばかりだ。これといった特徴がない。
《……って、くだらないダジャレかよ?!速水のせいで頭が疲れすぎだな。ホント、嫌になる…》
妙な脱力感に溜め息を吐く。俺の想像とは裏腹に男は普通の奴等とたむろしている。それはそれで良いのだが、今までのターゲットとは雰囲気が違う。
《変だな…?俺の目に狂いはないはずだけどな。アイツは間違いなく敵将クラスか…それ以上でも良いはずだ》
通常、敵将クラスにもなると独特な空気感を放つものだ。集団の中に居ても自然と目立つようになっている。自他共認める恵まれた人間だけが甘い汁を吸う世の中だ。それが人間社会の風習なのかもしれないが、そういう集団心理は見ているだけでも嫌悪を感じる。
《……でも、普通っぽいな…?》
男が居る空間は和気藹々とした空気に包まれている。眺めていても嫌な印象を受けない。
《なんか…調子が狂うな。速水のせいで感覚までおかしくなったのか…?》
もっとよく確認しようとした矢先、目の前を横切った女共が俺の近くでたむろする。
《チッ…、邪魔しやがって!早く消え失せろ…!》
視界を遮られた事に苛立ちながらも反射的に身構えてしまう。顔を背けて素知らぬ振りをする。気配を消して時が過ぎるのをの待つ。
「選抜クラスに行っちゃたから遠くに感じるよね。もう、同じクラスになれる可能性ゼロって酷くない?出来の悪い親を恨むわ…」
「うん、近付ける余地なしって感じ。選抜クラス入りは無理でも陸上部だったらチャンスあったかも…」
「ねぇ、知ってる?最近、佐久間君って女子の間で人気急上昇中みたいよ。この前も……ヒソヒソ」
「あ、それ私も聞いた。それでね……コソコソ」
「ウッソ~!ヤダ~、何それ~?!」
「わっ?!バカ…声が大きいって…!」
「やっぱり出来の良い男は違うわね。皆、抜け目なしって感じね。カオリ、ちょっと声かけてカラオケでも誘ってみれば?」
「え~、ムリムリ!1年の時はあんまり話した事ないし、絶対断られるに決まってる」
「そうそう、カオリは前田君とイイ感じだったもんね~」
「やめてよ。アイツとはもう関係ないんだから。あ~、人生の選択を失敗したわ~」
「ねぇねぇ、前田君も一緒に誘っちゃえば?それならイケるかも~?」
「ちょっと、他人事だと思って軽く言わないでくれる?それに、マリは加藤派なんだから割り込んで来ないでよね」
「え~?佐久間君なら全然イイよ~。頭が良くって~、運動神経抜群で~、背も高くって~、性格も良さそうで~」
「やめてよ。横取りみたいなマネしないでよね」
「何よ~?自分のものでもないくせに~」
「あんたのものでもないわよ…!」
「ちょっと、2人共うるさいって…!」
「揉めてる暇があるなら早く声かけなさいよ。ゴールデンウィークが近いんだから…」
「だから、ムリだって…!ちょっと、何よ?ミドリは他に居るじゃない」
「それとこれとは話が別なの。良い男をゲットするチャンスは誰にでもあるのよ」
「あ~、ズルい~!それ、山田君に言っちゃおうかな~?」
「余計なお世話よ。アレは友達の延長線。可能性は無限大よ。そろそろ乗り換え時期かもね…」
「キャー、ミドリってばヤラシイ~!真面目な顔して肉食系なんだ~。意外とやるぅ~」
「あんたと一緒にしないでよ。私はタダ乗りしない主義なんだから…」
「何よ~?タダ乗りって、どういう意味よ~?」
「もう、全員うるさいって…!ケンカなら外でやってよね」
ヒソヒソ話のつもりだろうが興奮した女の声は金属音に近いものがある。騒音の中でも聞き分けるのは可能だ。と言うよりも、距離が近いだけに丸聞こえだ。
《お前等、全員目障りなんだよ!俺の視界に入って騒ぐな!キーキーうるさいんだよ!》
女の噂話など耳にするだけでもウンザリする。しかも、男漁りとは浅ましいにも程がある。
《フン!選抜クラスがなんだ!どいつもこいつも目の色変えやがって…!どうせ、くだらない男の話に決まってる》
「選抜クラス」と聞くだけでも胸くそが悪くなる。過剰反応により、それに連なる情報までもがインプットされてしまう。
《選抜クラス…陸上部…佐久間…。頭が良くて…運動神経抜群で…背が高い…。いかにも女が好きそうなタイプだな…》
《そういえば…?学年トップの奴の名前も、確か…佐久間だったよな…?》
不意に頭の中に浮かび上がる情報がある。
《……まさか…?!》
小さな閃きと共に、反射的に女共の「注目の的」を探る。
《アイツが…佐久間か…?》
俺の心臓がドクンと鳴った。女共の視線の先には「あの男」が居る。
《そうか…、アイツが学年トップの……佐久間 剛か…!》
1年の時に2回行われた実力試験の結果発表で、どちらも断トツ1位だった「佐久間 剛」という名前は記憶にある。顔は知らないが「有頂天間違い無しの自惚れ野郎に決まっている!」と思ったからだ。だが、現実的に目にしない限りは「架空の人物」に過ぎない。実在しなければターゲットにも成り得ない。
《……マジかよ……?!》
信じられないモノを目にした気分だった。その時、初めて俺の中で「佐久間 剛」が実体化したのだ。
《アイツが…そうだったのか…!あの時の男が…!》
閃きと現実が一致した瞬間、本能的な興奮が湧き上がる。それは驚愕と歓喜に近い。
《クソッ…!なんて事だ…!》
俺のハートが強く刺激される。例えるなら、オリの中に閉じ込められた猛虎が「とっておきの獲物」を見つけた気分だろうか。
《見つけたぞ…!アイツが…佐久間 剛か…!》
身体の奥から込み上げてくるゾクゾク感に身震いがする。その感覚が何を意味するのかは分からないが、俺の視界には「佐久間 剛」の姿しか映らなくなる。
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