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相澤と速水の出逢い〈7〉2人の始まり
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「ああ…、分かったよ…。そうする…。」
俺は小声でボソリと答える。不本意ながらも速水の提案を受け入れる事にしたのだ。ただ、腹の中は煮えくり返ってグラグラに沸き立っている。
《クッソォ~~!お前のせいだからな!キッチリ責任取りやがれ!このクソ野郎!出しゃばりやがって!余計なお節介なんだよ!バカヤロー!ゲイなんか嫌いだ!クソ喰らえだ!消えて無くなれ!》
そして、腹の中で目一杯に罵倒する。
「そう?それじゃあ、暫くは友達って事でヨロシクな!」
速水がニッコリ笑顔で答える。目を細めて親しげに笑う顔はキツネそっくりだ。
「………。」
《何がヨロシクだ!?嬉しそうにニコニコ笑うな!このキツネ野郎~~~!!》
俺は軽く顔を背けて無言で返す。腹の中でギリギリと歯ぎしりをする。
「ふーん…。まぁ、いいけどさ。それじゃあ、サッサと帰ろうぜ。」
俺の反応に何か言いたげな素振りを見せた後、サラリと言った速水は何事も無かったかのように教室へと戻って行く。
「……え?!…お、おい…、ちょっ……と…。」
《……な、何なんだ…?!》
思わず呆気にとられる。又しても「肩透かし」を喰らった気分だ。
その後、重い足取りで渋々と教室へ戻った俺を速水が待ち構えていた。
「相澤、何やってんの?早くしろよ~。日が暮れるぜ。」
愉しげに笑う姿は「すっかり友達」と化しているらしい。こうなると完全に速水のペースだ。
《クソッ…!何なんだよ?!何でこうなるんだよ?!》
校門へ向かう間も無言で速水の後ろを付いて歩く。その背中を憎々しげに睨みながらも文句を言えるはずもない。何しろ、これは俺の「自己決定」に他ならないからだ。怒りに任せて暴走した結果、敢え無く速水の術中にはまったようなものだ。
《クッソォ~~!!我慢だ!我慢!我慢!暫くの我慢だ!!》
納得のいかない現状にひたすら耐えるしかない。この選択は間違っていたのだろうか…?
【ドスン】
「うわっ?!痛っ…!い、いきなり何だよ?!」
突然の衝撃に目の前がチカチカする。俯向いて歩いていた俺は、立ち止まった速水の背中に追突していた。
「相澤、家はどっちだ?」
痛む鼻を押さえながら不満いっぱいに顔を上げると、校門を出た辺りで足を止めた速水が振り返る。俺の追突など痛くも痒くも無いらしい。半分呆れ顔で俺を見ている。
《な、何だよ?!前見て歩けとでも言いたいのか?!いきなり止まるお前が悪いんだろ!?》
そもそも、俺は誰かと一緒に歩く事など殆ど無い。復讐においても「人目につかない事」が鉄則だ。変な噂を立てられては困るからだ。そういう部分は抜かりがない。
だが、今回は条件が違う。Kを遠ざける事が目的だからだ。つまり「友達の振り」をするという事になる。
《ク…、クッソ~~!!ムカつく~~!!》
妙な敗北感に下口唇をグググッと噛みしめる。復讐のターゲットではない相手だけに憎らしさも倍増だ。友達の振りでも「作り笑い」をする気にもならない。しかも、鼻が痛くて涙が滲む。もう踏んだり蹴ったりの気分だ。それでも我慢するしかない俺は無言で指を差す。
「ふーん…。俺の家とは反対方向だな。それじゃあ、此処までだな。」
俺が指差した方角を暫く眺めていた速水はクルリと身体の向きを変えた。そして、俺の顔を見る事もなく小声で言う。
「奴はもう居ないと思うけど、気を付けて帰れよ。」
「え…?」
「それから、前見て歩け。」
「……なっ?!」
「それじゃあ、またな!」
愉しげに笑った速水が軽く手を上げて立ち去って行く。反撃する間も無いままに、独り取り残された俺は茫然と立ち尽くす。
《な、な、な、何だよ!?バカヤロー!!》
思わずその背中に向かって「あっかんべー」をしたくなる。そんな気分は初めてだった。
《あああぁ~~!!もう!超ムカつく~~!!何なんだよ!アイツは!俺をバカにしてんのか?!》
《覚えてやがれ!俺は、絶対!絶対!絶対に!あんな野郎に屈しないからな!速水なんかに負けてたまるかよ~~!!》
帰る道々、俺は独りで闘志を燃やす。
改めて思い返せば、速水は強制も強要もして来なかった。その真意は分からないが、表向きはあくまでも普通だった。結果的には俺を助けた形になっている。
確かに、あのまま速水が乱入して来なければ…今頃はどうなっていたのかさえも分からない。正直なところ、そんな事さえ考える余裕も無かった。後先考えずに怒りを暴発させた事で事態の悪化を招いたのは事実だ。それは少なからず自覚している。それだけに、速水に対しては文句を言えない所があった。
そして俺は考えた。
Kは執念深そうな男だ。あのまま黙って引き下がる事はしないだろう。速水の言う通り、怒りを倍増させて来る可能性が高い。今後の単独行動は危険度を増す。だが、俺には友達など居ない。速水をカモフラージュとして使うのは有効的とも言える。
そして、Kと速水を見比べただけでも、ゲイという事を除けば速水の方がマシな思考回路をしている。殴り合いにおいても速水の方が強そうだ。あの時、ヘラリと笑いながらもKを軽く威圧していたのは見て取れた。多分、負けない自信でもあるのだろう。追突した時に分かった事だが、見た目よりも頑丈そうな身体をしていた。「友達の振り」をしておけば護身用にはなるだろう。
それと同時に、速水の動向も気になるところだ。俺は奴の存在さえ知らなかったぐらいだ。必要以上に関わりたくはないが、下手に邪魔をされたくもない。少なからず「俺の秘密」を知られた以上、このまま放置する訳にはいかないだろう。ゲイは敵に回すと危険で厄介な存在となる。
「K問題」と「ゲイ問題」の2つを同時処理する為には、当面は大人しく速水に従うのが得策と言える。
《こうなったら、速水を利用してやる!》
これが速水との最初の出会いだ。そして、後々にその関係性は大きく変化して行く事となる。
単なる「出会い」は、俺の人生を揺り動かす「出逢い」となった。
だが、この時の俺には知る由も無かった…。
俺は小声でボソリと答える。不本意ながらも速水の提案を受け入れる事にしたのだ。ただ、腹の中は煮えくり返ってグラグラに沸き立っている。
《クッソォ~~!お前のせいだからな!キッチリ責任取りやがれ!このクソ野郎!出しゃばりやがって!余計なお節介なんだよ!バカヤロー!ゲイなんか嫌いだ!クソ喰らえだ!消えて無くなれ!》
そして、腹の中で目一杯に罵倒する。
「そう?それじゃあ、暫くは友達って事でヨロシクな!」
速水がニッコリ笑顔で答える。目を細めて親しげに笑う顔はキツネそっくりだ。
「………。」
《何がヨロシクだ!?嬉しそうにニコニコ笑うな!このキツネ野郎~~~!!》
俺は軽く顔を背けて無言で返す。腹の中でギリギリと歯ぎしりをする。
「ふーん…。まぁ、いいけどさ。それじゃあ、サッサと帰ろうぜ。」
俺の反応に何か言いたげな素振りを見せた後、サラリと言った速水は何事も無かったかのように教室へと戻って行く。
「……え?!…お、おい…、ちょっ……と…。」
《……な、何なんだ…?!》
思わず呆気にとられる。又しても「肩透かし」を喰らった気分だ。
その後、重い足取りで渋々と教室へ戻った俺を速水が待ち構えていた。
「相澤、何やってんの?早くしろよ~。日が暮れるぜ。」
愉しげに笑う姿は「すっかり友達」と化しているらしい。こうなると完全に速水のペースだ。
《クソッ…!何なんだよ?!何でこうなるんだよ?!》
校門へ向かう間も無言で速水の後ろを付いて歩く。その背中を憎々しげに睨みながらも文句を言えるはずもない。何しろ、これは俺の「自己決定」に他ならないからだ。怒りに任せて暴走した結果、敢え無く速水の術中にはまったようなものだ。
《クッソォ~~!!我慢だ!我慢!我慢!暫くの我慢だ!!》
納得のいかない現状にひたすら耐えるしかない。この選択は間違っていたのだろうか…?
【ドスン】
「うわっ?!痛っ…!い、いきなり何だよ?!」
突然の衝撃に目の前がチカチカする。俯向いて歩いていた俺は、立ち止まった速水の背中に追突していた。
「相澤、家はどっちだ?」
痛む鼻を押さえながら不満いっぱいに顔を上げると、校門を出た辺りで足を止めた速水が振り返る。俺の追突など痛くも痒くも無いらしい。半分呆れ顔で俺を見ている。
《な、何だよ?!前見て歩けとでも言いたいのか?!いきなり止まるお前が悪いんだろ!?》
そもそも、俺は誰かと一緒に歩く事など殆ど無い。復讐においても「人目につかない事」が鉄則だ。変な噂を立てられては困るからだ。そういう部分は抜かりがない。
だが、今回は条件が違う。Kを遠ざける事が目的だからだ。つまり「友達の振り」をするという事になる。
《ク…、クッソ~~!!ムカつく~~!!》
妙な敗北感に下口唇をグググッと噛みしめる。復讐のターゲットではない相手だけに憎らしさも倍増だ。友達の振りでも「作り笑い」をする気にもならない。しかも、鼻が痛くて涙が滲む。もう踏んだり蹴ったりの気分だ。それでも我慢するしかない俺は無言で指を差す。
「ふーん…。俺の家とは反対方向だな。それじゃあ、此処までだな。」
俺が指差した方角を暫く眺めていた速水はクルリと身体の向きを変えた。そして、俺の顔を見る事もなく小声で言う。
「奴はもう居ないと思うけど、気を付けて帰れよ。」
「え…?」
「それから、前見て歩け。」
「……なっ?!」
「それじゃあ、またな!」
愉しげに笑った速水が軽く手を上げて立ち去って行く。反撃する間も無いままに、独り取り残された俺は茫然と立ち尽くす。
《な、な、な、何だよ!?バカヤロー!!》
思わずその背中に向かって「あっかんべー」をしたくなる。そんな気分は初めてだった。
《あああぁ~~!!もう!超ムカつく~~!!何なんだよ!アイツは!俺をバカにしてんのか?!》
《覚えてやがれ!俺は、絶対!絶対!絶対に!あんな野郎に屈しないからな!速水なんかに負けてたまるかよ~~!!》
帰る道々、俺は独りで闘志を燃やす。
改めて思い返せば、速水は強制も強要もして来なかった。その真意は分からないが、表向きはあくまでも普通だった。結果的には俺を助けた形になっている。
確かに、あのまま速水が乱入して来なければ…今頃はどうなっていたのかさえも分からない。正直なところ、そんな事さえ考える余裕も無かった。後先考えずに怒りを暴発させた事で事態の悪化を招いたのは事実だ。それは少なからず自覚している。それだけに、速水に対しては文句を言えない所があった。
そして俺は考えた。
Kは執念深そうな男だ。あのまま黙って引き下がる事はしないだろう。速水の言う通り、怒りを倍増させて来る可能性が高い。今後の単独行動は危険度を増す。だが、俺には友達など居ない。速水をカモフラージュとして使うのは有効的とも言える。
そして、Kと速水を見比べただけでも、ゲイという事を除けば速水の方がマシな思考回路をしている。殴り合いにおいても速水の方が強そうだ。あの時、ヘラリと笑いながらもKを軽く威圧していたのは見て取れた。多分、負けない自信でもあるのだろう。追突した時に分かった事だが、見た目よりも頑丈そうな身体をしていた。「友達の振り」をしておけば護身用にはなるだろう。
それと同時に、速水の動向も気になるところだ。俺は奴の存在さえ知らなかったぐらいだ。必要以上に関わりたくはないが、下手に邪魔をされたくもない。少なからず「俺の秘密」を知られた以上、このまま放置する訳にはいかないだろう。ゲイは敵に回すと危険で厄介な存在となる。
「K問題」と「ゲイ問題」の2つを同時処理する為には、当面は大人しく速水に従うのが得策と言える。
《こうなったら、速水を利用してやる!》
これが速水との最初の出会いだ。そして、後々にその関係性は大きく変化して行く事となる。
単なる「出会い」は、俺の人生を揺り動かす「出逢い」となった。
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