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相澤と速水の出逢い〈6〉怒る相澤
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怒りのままにジロリと睨む。前髪に隠れるような上目使いはどうしようもない。正面切って睨み合いをする勇気は無い。
だが、速水の方は軽く顔を背けている。俯向きがちの目線はさり気なく廊下の向こう側を探るように見ている。
《何だよ?!コイツ!俺を無視して何見てんだよ!他人事みたいな顔しやがって…!お前のせいだろ!ホント、ムカつく奴!》
《ん…?もしかして…?まだアイツが居るって事か?!それとも、これも俺を騙す芝居か?!ま、まさか?!Kとグルって事はないよな?!》
疑い始めるとキリがない。ゲイはノンケのように単純ではないからだ。ナメてかかると痛い目をみる。それは身に染みて分かっている。
怒りを向けてはみたものの、実際の俺は身動き一つ出来ないままだ。天敵を前にして神経質に毛を逆立てるだけの「野良ネコ」レベルだ。
《でも…、なんかコイツの雰囲気…俺と似てる感じがするよな…?》
ふと、そんな事を思う。
壁にもたれた速水はズボンのポケットに両手を突っ込んだまま軽く脚を組んで立っている。やや俯向き加減の顔は髪型のせいで陰になり表情が読み取りにくい。一見すると何気ない立ち振る舞いだが、何処か影を感じさせる男だ。
あくまでも「直感的」なものだが、俺はこういう感覚も鋭い。いつも用心深く人間観察しているだけあって細かな点も見逃さない。目で見なくても五感で感じ取れる事も多い。つまり、かなり神経質で敏感に出来ている。ただ、好きで「こうなった」訳ではない。必然的に「そうなった」だけの事だ。俺の人生など「そんなもの」だ。
突然の速水の登場に混乱していただけに、改めて「その全貌」を目にしたと言っても良いだろう。怒りが再燃した事で自分のペースを戻しつつあった。「ピンチをチャンスに変える」とまではいかないが、「ピンチからの反撃」といったところだ。
《やっぱりコイツ、一癖ありそうだよな…!クッソ~!ゲイなんかに負けてたまるかよ!Kもゲイもクソ喰らえだ!》
自分と似ているだけに妙に腹が立つ。そして、何もかもに腹が立つ。こうなると「怒りのオンパレード」だ。
《あ~!ムカつく!イライラする!腹が立つ!何なんだよ!大体、Kの野郎が悪いんだろ!アイツのせいで何もかもが滅茶苦茶だ!!》
「それで…?どうする?俺と一緒に行動するか?俺はどっちでも良いんだけど。」
視線を戻した速水がサラリと言う。本当にどちらでも良いという感じだ。
《何なんだよ?!その態度は!あ~!もうムカつく!大体、お前にも原因があるんだよ!全部お前等が悪いんだ!責任取りやがれ!コノヤロー!!》
俺の「怒り」は一度火が点いたら収まりがつかない。こうなってしまった以上、今更「無関係」では済まされない。
《どうせ、もう全部バレてんだよ!今更、足掻いたって仕方ないだろ!》
そして開き直る。追い詰められた境地の中でヤケクソ気味に怒りを暴発させる。憎々しげに速水を睨む。
「まぁ、別に無理にって訳じゃない。嫌ならそれで良い。たまたま、相澤とは同じクラスだから声かけただけだ。」
「………。」
《何だよ!たまたまで通用するかよ!?タマタマもキンタマもあるかよ!大体、男にはタマがついてるから悪いんだよ!どいつもこいつも下半身で動きやがって!男なんてのは皆同じなんだよ!》
暴走する怒りが止まらない。もう、腹の中でありったけの暴言を吐きまくる。俺に関わって来る野郎共は全てが「性欲の塊」でしかない。そんな人生にも嫌気が差していた。
《今更、遅いんだよ!!》
怒りに震える拳を握りしめて無言の睨みをきかせる。速水の目にはどう映っているのか分からないが、俺なりの精一杯の反撃だ。
それをどう受け取ったのかは知らないが、速水は小さく首を振って壁にもたれていた身体を起こす。
「どうするか決めるのは個人の自由だからさ。俺の提案は以上だ。後は、相澤が自分で決めろ。」
「……うっ!?」
《ク、クソッ…!何なんだよ!ホント、ムカつく言い方しやがる!お前が悪いんだろ!全部お前のせいじゃないか!》
妙に正論めいて聞こえるセリフに怒りが増す。こんな態度を取られたのは初めてだ。俺に選択肢を提示して来た奴など居ない。いつも一方的で横暴で強引で自己顕示欲にまみれた奴等ばかりだった。それを逆手に取って復讐して来ただけの事だ。
今回は、何もかも状況が違い過ぎる。
《クソッ!どうしろって言うんだよ!?》
このまま速水を蹴散らして立ち去る事も出来る。又は、無視を決め込んでいれば速水の方が居なくなるだろう。だが、それでは怒りが収まらない。この場から「逃げ出す」事も「立ち去られる」事も納得がいかない。それは負けた気がしてならないからだ。
そうなると、残る選択肢は速水の提案を「受ける」か「拒む」かのどちらかだ。
《ううっ…!どっちにしても俺の負けじゃないか…!》
気持ち的には即座に拒みたいところだ。俺が拒めば速水はアッサリと身を引くだろう。だが、ここまで引っ掻き回された以上「アッサリ解決!」など有るはずもない。
つまり、残る選択肢は1つだ。速水の提案を受け入れて行動を共にするという事だ。それは速水の言いなりになるような気がして納得がいかない。
《クッソ~!速水の言いなりかよ?!冗談じゃない!何で俺がゲイの言いなりにならなきゃならないんだよ!》
それでも答えは1つしかない。
《これは全部!お前のせいだからな!何もかもお前が悪い!お前が責任取れ!クソ野郎~~!!》
腹立たしさに歯噛みする。これは未だかつてない勝負だ。ゲイの速水を前にして負ける訳にはいかない。俺の怒りが闘志に変わる。
《クッソォ~~!覚えてろ!俺はお前なんかに絶対負けないからな!!》
復讐のない戦いの火蓋が切って落とされる。
だが、速水の方は軽く顔を背けている。俯向きがちの目線はさり気なく廊下の向こう側を探るように見ている。
《何だよ?!コイツ!俺を無視して何見てんだよ!他人事みたいな顔しやがって…!お前のせいだろ!ホント、ムカつく奴!》
《ん…?もしかして…?まだアイツが居るって事か?!それとも、これも俺を騙す芝居か?!ま、まさか?!Kとグルって事はないよな?!》
疑い始めるとキリがない。ゲイはノンケのように単純ではないからだ。ナメてかかると痛い目をみる。それは身に染みて分かっている。
怒りを向けてはみたものの、実際の俺は身動き一つ出来ないままだ。天敵を前にして神経質に毛を逆立てるだけの「野良ネコ」レベルだ。
《でも…、なんかコイツの雰囲気…俺と似てる感じがするよな…?》
ふと、そんな事を思う。
壁にもたれた速水はズボンのポケットに両手を突っ込んだまま軽く脚を組んで立っている。やや俯向き加減の顔は髪型のせいで陰になり表情が読み取りにくい。一見すると何気ない立ち振る舞いだが、何処か影を感じさせる男だ。
あくまでも「直感的」なものだが、俺はこういう感覚も鋭い。いつも用心深く人間観察しているだけあって細かな点も見逃さない。目で見なくても五感で感じ取れる事も多い。つまり、かなり神経質で敏感に出来ている。ただ、好きで「こうなった」訳ではない。必然的に「そうなった」だけの事だ。俺の人生など「そんなもの」だ。
突然の速水の登場に混乱していただけに、改めて「その全貌」を目にしたと言っても良いだろう。怒りが再燃した事で自分のペースを戻しつつあった。「ピンチをチャンスに変える」とまではいかないが、「ピンチからの反撃」といったところだ。
《やっぱりコイツ、一癖ありそうだよな…!クッソ~!ゲイなんかに負けてたまるかよ!Kもゲイもクソ喰らえだ!》
自分と似ているだけに妙に腹が立つ。そして、何もかもに腹が立つ。こうなると「怒りのオンパレード」だ。
《あ~!ムカつく!イライラする!腹が立つ!何なんだよ!大体、Kの野郎が悪いんだろ!アイツのせいで何もかもが滅茶苦茶だ!!》
「それで…?どうする?俺と一緒に行動するか?俺はどっちでも良いんだけど。」
視線を戻した速水がサラリと言う。本当にどちらでも良いという感じだ。
《何なんだよ?!その態度は!あ~!もうムカつく!大体、お前にも原因があるんだよ!全部お前等が悪いんだ!責任取りやがれ!コノヤロー!!》
俺の「怒り」は一度火が点いたら収まりがつかない。こうなってしまった以上、今更「無関係」では済まされない。
《どうせ、もう全部バレてんだよ!今更、足掻いたって仕方ないだろ!》
そして開き直る。追い詰められた境地の中でヤケクソ気味に怒りを暴発させる。憎々しげに速水を睨む。
「まぁ、別に無理にって訳じゃない。嫌ならそれで良い。たまたま、相澤とは同じクラスだから声かけただけだ。」
「………。」
《何だよ!たまたまで通用するかよ!?タマタマもキンタマもあるかよ!大体、男にはタマがついてるから悪いんだよ!どいつもこいつも下半身で動きやがって!男なんてのは皆同じなんだよ!》
暴走する怒りが止まらない。もう、腹の中でありったけの暴言を吐きまくる。俺に関わって来る野郎共は全てが「性欲の塊」でしかない。そんな人生にも嫌気が差していた。
《今更、遅いんだよ!!》
怒りに震える拳を握りしめて無言の睨みをきかせる。速水の目にはどう映っているのか分からないが、俺なりの精一杯の反撃だ。
それをどう受け取ったのかは知らないが、速水は小さく首を振って壁にもたれていた身体を起こす。
「どうするか決めるのは個人の自由だからさ。俺の提案は以上だ。後は、相澤が自分で決めろ。」
「……うっ!?」
《ク、クソッ…!何なんだよ!ホント、ムカつく言い方しやがる!お前が悪いんだろ!全部お前のせいじゃないか!》
妙に正論めいて聞こえるセリフに怒りが増す。こんな態度を取られたのは初めてだ。俺に選択肢を提示して来た奴など居ない。いつも一方的で横暴で強引で自己顕示欲にまみれた奴等ばかりだった。それを逆手に取って復讐して来ただけの事だ。
今回は、何もかも状況が違い過ぎる。
《クソッ!どうしろって言うんだよ!?》
このまま速水を蹴散らして立ち去る事も出来る。又は、無視を決め込んでいれば速水の方が居なくなるだろう。だが、それでは怒りが収まらない。この場から「逃げ出す」事も「立ち去られる」事も納得がいかない。それは負けた気がしてならないからだ。
そうなると、残る選択肢は速水の提案を「受ける」か「拒む」かのどちらかだ。
《ううっ…!どっちにしても俺の負けじゃないか…!》
気持ち的には即座に拒みたいところだ。俺が拒めば速水はアッサリと身を引くだろう。だが、ここまで引っ掻き回された以上「アッサリ解決!」など有るはずもない。
つまり、残る選択肢は1つだ。速水の提案を受け入れて行動を共にするという事だ。それは速水の言いなりになるような気がして納得がいかない。
《クッソ~!速水の言いなりかよ?!冗談じゃない!何で俺がゲイの言いなりにならなきゃならないんだよ!》
それでも答えは1つしかない。
《これは全部!お前のせいだからな!何もかもお前が悪い!お前が責任取れ!クソ野郎~~!!》
腹立たしさに歯噛みする。これは未だかつてない勝負だ。ゲイの速水を前にして負ける訳にはいかない。俺の怒りが闘志に変わる。
《クッソォ~~!覚えてろ!俺はお前なんかに絶対負けないからな!!》
復讐のない戦いの火蓋が切って落とされる。
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