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相澤の改心〈2〉
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翌日、俺はベッドの中に居た。微熱で寝込んでいる。全くもって貧弱だ。昨夜の帰り道、変な汗で身体が冷えたらしい。あの武者震いのような震えは寒気だったのだろうか…?
「マジで情けない…。」
天井を見上げて呟くものの、不思議と気分は悪くない。胸の中が軽くて、少しばかり心が浮ついた感じだ。頭の中までフワフワしている。これが風邪薬のせいだとは思いたくない。
「まぁ、いいや…。」
考えるのには丁度良い。
《この土日の2日間でみっちり考えてやる…!》
軽く寝返りを打って布団に潜る。布団の中は暖かくて心地良い。
《……温かいな……》
それは俺の心が温かいせいだろう。妙な安らぎと高揚感に似た感覚もある。昨日の興奮が軽く残っているようだ。これが微熱によるものでない事を信じたい。
あれから、俺は色々な事を考えた。考えたと言うよりは溜め込んでいたものが次々と「正体を現した」と言った方が良いのだろう。
今まで他人との接触を避けて来ただけに、自分の思考や感情を表に出す事は殆ど無かった。それが胸の中にどんどん溜まり…渦巻く黒い闇となった。俺はそこから目を背け、見えない振りをして閉じ込めて来た。
言っておくが、俺は「悪」ではない。意外な所で「正義感」というか「ポリシー」というか…?そういうものは持っている。表に出さないだけの事で、気持ち的には「正しき道」なるものは解っているつもりだ。
《全然、行動が伴ってないけどな…》
俺は自分の「行い」を反省している。
《……少しはな……》
「復讐」においては、それ相応の意味があった。ターゲットになるのは「並以上」の「自惚れ野郎」である事が条件だった。悪意の無い人間に牙を剥くほどバカではない。基本的には、俺を刺激しなければ何も起こらない。相手が俺を見下した瞬間に命取りとなるだけだ。つまり、俺は売られた喧嘩を買って出るだけの事だった。格好良く言えばの話だが…。
《佐久間だけは特例だったけどな…》
要は「俺のコンプレックスを刺激した奴が悪い」という事だ。人間全てを敵視していても全員を相手にする事など出来ない。そんな事をしていては身体がもたない。普通に平凡に生きているだけの「無害」な人間は除外だ。
変な話だが、人間というものは「ランク付け」をするのが好きらしい。周りの人間共の中で自分がどの位置に居るのかを気にする生き物だ。子供の頃の俺は、いつも自分が底辺に居るような気がしていた。周りの奴等がそんな風に扱ったからだ。それだけに、そういう勝手な「基準」を決める人間が大嫌いだった。
『誰が上で誰が下なんて決めたのは何処のどいつだ?!そんな事を誰が決めた?!それを言い出した奴は全員出て来い!俺が思い知らせてやる!』
そんな気分だった。それも「復讐の理由」の一つになった。
今にして思えば、俺も似たようなものだったのかもしれない。男を見比べて品定めしていたのは事実だ。強いて言い訳をするならば、俺の場合は「復讐のターゲット」に成り得るかどうかだけのボーダーラインのようなものだ。セックスをするのだから誰でも良いという訳ではない。生理的嫌悪を感じる奴は無理だ。他にも、いくら外見が良くても「尻軽な遊び人」は除外。それでは復讐の意味を成さないからだ。そして、運動神経が良くても「暴力的な奴」は御免だ。俺自身の身の危険性がある。
一言で言えば、俺にも「選ぶ」権利はある。それなりの事をするのだから当然だろう。
自分の範疇で無難な相手を選び密かに復讐を成し遂げて来た。これを身勝手と言われようが何と思われようが俺の自由だ。ターゲットになった奴等も自業自得だ。俺の身体を好き放題にして楽しんだのだから文句を言えるはずもない。
当然、俺にもリスクはある。復讐と言えど慎重さは必要だ。問題が大きくならないように万全の注意を払って来た。周りに知られると困るからだ。そういう部分での「危険回避能力」と相手を「嗅ぎ分ける直感」だけは備わっていた。それが俺の妙な自信と図太さにもなった。あくまでも「復讐」に関してだけだが…。
ただ、佐久間に関しては別だった。そして、奴は俺の想像を遥かに超える「真の男」だったという事だ。
ちなみに、葉山は平凡というよりも「論外」だった。佐久間の周りに居た奴等は全員がザコに見えたからだ。
《結局、俺も他の奴等と大差無いのかも…?》
自分なりの理屈を付けて生きて来た。その理屈が、いつしか「屁理屈」になっていたのかもしれない。
《人間なんて屁理屈とエゴの塊みたいなもんだろ…!俺だって…どうにかしたかっただけだ…!》
俺は自分の悲惨な人生から逃げたかった。いや、立ち向かおうとした。「弱い自分」を閉じ込めて「偽り」で身を固め、自分を「護りたかった」だけだ。俺を追い詰めた世の中に反撃する為に、弱い自分に打ち勝つ為に「偽りの自分」に成りすまし「復讐」と「怒り」に身を染めた。そうしなければ生きられなかった俺の気持ちも解って欲しい。
《俺だって必死だったんだ…。自分を護る為にはそれしか無かった…》
だが、それも限界だった。復讐しても得られるものなど無かった。一時的な憂さ晴らし、自己満足、自己弁護…。自分が汚れて落ちぶれて行くだけだった。
高校を卒業すれば新たな道に進まなければならない。大学進学や就職、新たな「人生の選択肢」が待ち受けている。それぞれの人間が「各々の選択」を始めている。他人にかまけている暇など無いと言わんばかりの奴等も増えた。
やがて襲い来る現実が徐々に色濃くなる中で、自分だけが取り残されて行くような気がしていた。復讐しか無い人生…偽りの自分…そんな俺には何も無い。結局、何も変われないまま…感じるのは虚しさだけだった。このままでは、周りからも…自分の人生からも…完全に取り残されてしまう。そんな焦操感に取り憑かれていたのだろう。
《モヤモヤしてたのはそういう事か…》
冷静に自分を振り返れば自ずと見えて来るものがある。本当に、俺は一夜にして凡人から天才になったのだろうか…?これは冗談だが、頭の中の霧が晴れたような気分だ。
俺は自分の「復讐人生」にケリをつけたかったのだ。その矛先が俺の中の「理想的な男」とも言える佐久間に向かっただけの事だった。
《俺って…最低だよな…》
結局は、自分自身が納得したかっただけの理由で奴を巻き込んだのだ。佐久間にとっては迷惑な話でしかなかっただろう。俺の悲惨な人生の巻き添えを食らった「被害者」だ。
そして、元を辿れば俺も被害者だった。人が無神経に「誰か」を傷付ける事で、また新たな「誰か」が傷付くという事の証明だ。
俺の「生き方」は間違っていたのだろう。だが、果たして…俺だけが悪いと言えるのだろうか…?
《佐久間には悪い事をしたよな…。もう、許してもらえないだろうけど…》
佐久間に対する罪悪感と後悔が胸を締め付ける。
《俺がもっと早く気付いてれば…こんな事にはならなかった…。佐久間を傷付けずに済んだのに…!》
佐久間を傷付けた自分への憎しみと怒りが込み上げる。
《俺は…バカだ…!なんて事したんだ…!》
これを「自業自得」と言うのだろう。激しい責苦に心が痛む。
……ただ、一緒に居たかった……
……ただ、隣に居たかった……
……ただ、認めて欲しかった……
同じ空気を吸い、同じ時間を過ごし、同じものを見て、同じように感じたかった。共に語り、共に笑い、共に分かち合いたかった。
俺は佐久間と「対等」でありたかったのだ。
ただ、それだけの事だった。そんな簡単な事でさえ気付けなかった俺は、なんと不憫な人生を送って来たのだろう。なんと哀れでちっぽけな人間なのだろう。
《今更…気付いても遅すぎる…》
俺自身がそのチャンスを破壊し尽くしたのだ。引き戻せるタイミングは何度かあった。その度に胸の中で「何か」が動いた。あれは「俺の心」だった。偽りの自分の中に隠した「本当の自分」が苦しんでいたのだ。
《佐久間にとっても災難だけど…、俺にとっても災難だよな…》
もう、諦めるしかないのだろう。思い返せば、俺の人生は「諦め」ばかりのような気もする。ただ、それを素直に認めたくはなかった。いや、認められるはずもない。認めたら負けなのだ。
《こんな人生、認められる訳ないだろ!?俺はどれだけ不幸なんだよ!》
女みたいな外見、悲惨な過去、復讐人生、偽りの自分、惨めで無残な現実。そして「ゲイ」かもしれない疑い。
《俺は…ゲイじゃない…!》
考えるだけでも拒絶感だ。復讐に終わりを告げた今、向き合わなければならない新たな問題が浮上してくる。
《い、いや…落ち着いて考えよう…》
頭の中を整理するように目を閉じる。全くもって、人生の課題が目白押しだ。
「マジで情けない…。」
天井を見上げて呟くものの、不思議と気分は悪くない。胸の中が軽くて、少しばかり心が浮ついた感じだ。頭の中までフワフワしている。これが風邪薬のせいだとは思いたくない。
「まぁ、いいや…。」
考えるのには丁度良い。
《この土日の2日間でみっちり考えてやる…!》
軽く寝返りを打って布団に潜る。布団の中は暖かくて心地良い。
《……温かいな……》
それは俺の心が温かいせいだろう。妙な安らぎと高揚感に似た感覚もある。昨日の興奮が軽く残っているようだ。これが微熱によるものでない事を信じたい。
あれから、俺は色々な事を考えた。考えたと言うよりは溜め込んでいたものが次々と「正体を現した」と言った方が良いのだろう。
今まで他人との接触を避けて来ただけに、自分の思考や感情を表に出す事は殆ど無かった。それが胸の中にどんどん溜まり…渦巻く黒い闇となった。俺はそこから目を背け、見えない振りをして閉じ込めて来た。
言っておくが、俺は「悪」ではない。意外な所で「正義感」というか「ポリシー」というか…?そういうものは持っている。表に出さないだけの事で、気持ち的には「正しき道」なるものは解っているつもりだ。
《全然、行動が伴ってないけどな…》
俺は自分の「行い」を反省している。
《……少しはな……》
「復讐」においては、それ相応の意味があった。ターゲットになるのは「並以上」の「自惚れ野郎」である事が条件だった。悪意の無い人間に牙を剥くほどバカではない。基本的には、俺を刺激しなければ何も起こらない。相手が俺を見下した瞬間に命取りとなるだけだ。つまり、俺は売られた喧嘩を買って出るだけの事だった。格好良く言えばの話だが…。
《佐久間だけは特例だったけどな…》
要は「俺のコンプレックスを刺激した奴が悪い」という事だ。人間全てを敵視していても全員を相手にする事など出来ない。そんな事をしていては身体がもたない。普通に平凡に生きているだけの「無害」な人間は除外だ。
変な話だが、人間というものは「ランク付け」をするのが好きらしい。周りの人間共の中で自分がどの位置に居るのかを気にする生き物だ。子供の頃の俺は、いつも自分が底辺に居るような気がしていた。周りの奴等がそんな風に扱ったからだ。それだけに、そういう勝手な「基準」を決める人間が大嫌いだった。
『誰が上で誰が下なんて決めたのは何処のどいつだ?!そんな事を誰が決めた?!それを言い出した奴は全員出て来い!俺が思い知らせてやる!』
そんな気分だった。それも「復讐の理由」の一つになった。
今にして思えば、俺も似たようなものだったのかもしれない。男を見比べて品定めしていたのは事実だ。強いて言い訳をするならば、俺の場合は「復讐のターゲット」に成り得るかどうかだけのボーダーラインのようなものだ。セックスをするのだから誰でも良いという訳ではない。生理的嫌悪を感じる奴は無理だ。他にも、いくら外見が良くても「尻軽な遊び人」は除外。それでは復讐の意味を成さないからだ。そして、運動神経が良くても「暴力的な奴」は御免だ。俺自身の身の危険性がある。
一言で言えば、俺にも「選ぶ」権利はある。それなりの事をするのだから当然だろう。
自分の範疇で無難な相手を選び密かに復讐を成し遂げて来た。これを身勝手と言われようが何と思われようが俺の自由だ。ターゲットになった奴等も自業自得だ。俺の身体を好き放題にして楽しんだのだから文句を言えるはずもない。
当然、俺にもリスクはある。復讐と言えど慎重さは必要だ。問題が大きくならないように万全の注意を払って来た。周りに知られると困るからだ。そういう部分での「危険回避能力」と相手を「嗅ぎ分ける直感」だけは備わっていた。それが俺の妙な自信と図太さにもなった。あくまでも「復讐」に関してだけだが…。
ただ、佐久間に関しては別だった。そして、奴は俺の想像を遥かに超える「真の男」だったという事だ。
ちなみに、葉山は平凡というよりも「論外」だった。佐久間の周りに居た奴等は全員がザコに見えたからだ。
《結局、俺も他の奴等と大差無いのかも…?》
自分なりの理屈を付けて生きて来た。その理屈が、いつしか「屁理屈」になっていたのかもしれない。
《人間なんて屁理屈とエゴの塊みたいなもんだろ…!俺だって…どうにかしたかっただけだ…!》
俺は自分の悲惨な人生から逃げたかった。いや、立ち向かおうとした。「弱い自分」を閉じ込めて「偽り」で身を固め、自分を「護りたかった」だけだ。俺を追い詰めた世の中に反撃する為に、弱い自分に打ち勝つ為に「偽りの自分」に成りすまし「復讐」と「怒り」に身を染めた。そうしなければ生きられなかった俺の気持ちも解って欲しい。
《俺だって必死だったんだ…。自分を護る為にはそれしか無かった…》
だが、それも限界だった。復讐しても得られるものなど無かった。一時的な憂さ晴らし、自己満足、自己弁護…。自分が汚れて落ちぶれて行くだけだった。
高校を卒業すれば新たな道に進まなければならない。大学進学や就職、新たな「人生の選択肢」が待ち受けている。それぞれの人間が「各々の選択」を始めている。他人にかまけている暇など無いと言わんばかりの奴等も増えた。
やがて襲い来る現実が徐々に色濃くなる中で、自分だけが取り残されて行くような気がしていた。復讐しか無い人生…偽りの自分…そんな俺には何も無い。結局、何も変われないまま…感じるのは虚しさだけだった。このままでは、周りからも…自分の人生からも…完全に取り残されてしまう。そんな焦操感に取り憑かれていたのだろう。
《モヤモヤしてたのはそういう事か…》
冷静に自分を振り返れば自ずと見えて来るものがある。本当に、俺は一夜にして凡人から天才になったのだろうか…?これは冗談だが、頭の中の霧が晴れたような気分だ。
俺は自分の「復讐人生」にケリをつけたかったのだ。その矛先が俺の中の「理想的な男」とも言える佐久間に向かっただけの事だった。
《俺って…最低だよな…》
結局は、自分自身が納得したかっただけの理由で奴を巻き込んだのだ。佐久間にとっては迷惑な話でしかなかっただろう。俺の悲惨な人生の巻き添えを食らった「被害者」だ。
そして、元を辿れば俺も被害者だった。人が無神経に「誰か」を傷付ける事で、また新たな「誰か」が傷付くという事の証明だ。
俺の「生き方」は間違っていたのだろう。だが、果たして…俺だけが悪いと言えるのだろうか…?
《佐久間には悪い事をしたよな…。もう、許してもらえないだろうけど…》
佐久間に対する罪悪感と後悔が胸を締め付ける。
《俺がもっと早く気付いてれば…こんな事にはならなかった…。佐久間を傷付けずに済んだのに…!》
佐久間を傷付けた自分への憎しみと怒りが込み上げる。
《俺は…バカだ…!なんて事したんだ…!》
これを「自業自得」と言うのだろう。激しい責苦に心が痛む。
……ただ、一緒に居たかった……
……ただ、隣に居たかった……
……ただ、認めて欲しかった……
同じ空気を吸い、同じ時間を過ごし、同じものを見て、同じように感じたかった。共に語り、共に笑い、共に分かち合いたかった。
俺は佐久間と「対等」でありたかったのだ。
ただ、それだけの事だった。そんな簡単な事でさえ気付けなかった俺は、なんと不憫な人生を送って来たのだろう。なんと哀れでちっぽけな人間なのだろう。
《今更…気付いても遅すぎる…》
俺自身がそのチャンスを破壊し尽くしたのだ。引き戻せるタイミングは何度かあった。その度に胸の中で「何か」が動いた。あれは「俺の心」だった。偽りの自分の中に隠した「本当の自分」が苦しんでいたのだ。
《佐久間にとっても災難だけど…、俺にとっても災難だよな…》
もう、諦めるしかないのだろう。思い返せば、俺の人生は「諦め」ばかりのような気もする。ただ、それを素直に認めたくはなかった。いや、認められるはずもない。認めたら負けなのだ。
《こんな人生、認められる訳ないだろ!?俺はどれだけ不幸なんだよ!》
女みたいな外見、悲惨な過去、復讐人生、偽りの自分、惨めで無残な現実。そして「ゲイ」かもしれない疑い。
《俺は…ゲイじゃない…!》
考えるだけでも拒絶感だ。復讐に終わりを告げた今、向き合わなければならない新たな問題が浮上してくる。
《い、いや…落ち着いて考えよう…》
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