俺達の行方【番外編】

穂津見 乱

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相澤 対 佐久間 激突

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それは物凄い衝撃となって俺を打ちのめした。

《ウソだろ…?マジかよ…?》

信じ難い事実を知らされたような気分だろうか。

《佐久間が葉山を…?!》

思いがけないショックに思考が乱れる。

《ど…、どういう事だ?!何がどうなってる?!》

考えようにも頭が働かない。変にドキドキする心臓の音が大きく鳴り響いて思考を邪魔する。見開いた目は佐久間を凝視したまま動かない。

《佐久間が…?佐久間が…葉山を…?葉山の事を…?!》

佐久間は物思いにふけるように目を閉じている。

こうしている今も葉山の事を考えているのだろうか…?その幸せそうな微笑みに「楽しげに笑う2人の姿」が重なる…。

《クソッ…!何なんだよ…!》

佐久間の隣で無邪気に笑う葉山の姿が浮かぶ…。

《何でだよ…?》

葉山と楽しそうに戯れる佐久間の姿が浮かぶ…。

《葉山は特別なのかよ…?》

仲睦まじい2人の間に割り込む隙間など無いのだろう。友達であれ恋人であれ、佐久間の隣に居るのは「葉山 弘人」だ。

《クソッ…!それが何だって言うんだ!俺には関係ない事だろ!》

ジリリと胸が焼け焦げる音がする。

《佐久間が誰を好きだろうが関係ない…!俺には関係ないんだ…!》

「関係ない」その言葉がグサリと胸に突き刺さる。

《クソッ!今更、何だっていうんだ!?最初から分かってた事だ!佐久間と俺は関係ないんだ!》

佐久間と俺は別々に生きている。何の繋がりも関わりも無い人間だ。たまたま同じ学校で、同じ学年で、同じ制服を着ているだけの事だ。俺が声をかけなければ、佐久間は気付く事さえ無かっただろう。俺がターゲットに選ばなければ、こうして向き合う事も無かっただろう。佐久間が俺の目に留まる男でなければ、一生無縁だったかもしれない。

小さな「キッカケ」が物事を動かし、それがまた「次へ」と繋がる。

人生とはまるで「ドミノ倒し」のようだ。無数に並べられたドミノが思わぬ方向へと倒れ込んで行くように…俺の人生も意図せぬ方向へと倒れ続けるドミノのようだった。その勢いは止まる事なく加速するばかりだった。何処かで止めなければならない。いつかは方向転換しなければならない。だが、その方法が分からない。

そしてまた、俺は間違った方向へと進んで行く。

《葉山が好きなら男でもイケるって事だろ!それなら、まだ俺にもチャンスがあるって事だ!》

諦めかけていた佐久間との関係に僅かな希望を見出す。小さな期待に胸が膨らむ。

《佐久間を手に入れれば一緒に居られる!簡単な事だろ!》

頭の中で囁く声がする。

そもそも、ノンケ同士の恋愛など考えられない事だ。そうなると、佐久間がゲイである可能性も出てくる。ただ、本人が気付いていないだけの事なのかもしれない。
俺自身でさえも、自分がゲイだと認めている訳ではないからだ。

《佐久間がゲイなら俺にも可能性がある!葉山の事は良く知らないが、あんな奴に俺が負けるはずがない!俺は男を虜に出来るんだからな!》

フツフツと湧き上がる妙な自信がある。暴走する思考が俺を駆り立てる。佐久間を振り向かせたい気持ちが強くなる。このまま相手にもされずに無残に終わりたくはなかった。

《佐久間は俺が貰う!》

それは「葉山 弘人」に向ける宣戦布告のようでもあった。


俺は佐久間の肩に寄り添うほどに身体を寄せる。

《一気に攻め落としてやる!》

「あの…、佐久間君…。俺…、佐久間君のこと…。その…、す、す…、好……き……。」

勢いに任せて攻めに転じたものの、実際には激しくどもってしまった。言い慣れない言葉に喉がひっくり返りそうになる。自分でも驚くほどにたどたどしくて弱々しい。

《ク…、クソッ!言いにくいな…!》

男を落とすにしても「好き」などと言う言葉は使った事がない。どれほど勢いづいていようとも、実際の俺はグダグダだ。

「え…?何…?」

佐久間が身を起こして聞き返してきた。

《うわっ?!やっぱり聞こえてない…!佐久間もボケっとしてんじゃないよ!》

顔がカーッと熱くなり頭に血が上る。心臓がドキドキして胸の中で騒ぎ立てる。

《よ、よし!もう一度だ!今度は耳の穴かっぽじって良く聞けよ!》

俺は大きく息を吸い込み、ゆっくりと言葉を発する。

「あの…。……だから、さ、佐久間君の事が……す、す…、好き。…って言ったの。」

途中で消え入りそうになりながらも、どうにか「好き」という言葉を口にする。今度は聞こえているはずだ。

《クッソ~!!何でこんなに言いにくいんだ?!》

異様な恥ずかしさに激しく戸惑う。やはり「言葉」とは恐ろしい。
好きでもない相手に「好き」だと言う抵抗感だろうか…?
いや、佐久間に対しては好感度があるだけにまんざらウソではないのだろう。だが、男が男に向かって「好き」などと口にする事自体が恥ずかしい。しかも、その言葉に異常に反応してしまう自分にも困惑する。たった「2文字」の言葉でも、その威力は大きいようだ。

「………え?!」

佐久間が驚いたように固まる。どうやら動揺しているらしい。その喉がゴクリと大きく動くのが見えた。息を飲み、全身に緊張が走るのが分かる。

俺もかなりテンパっているので状況を飲み込めない。ただ、全神経が佐久間に集中する。互いの間に緊迫した空気が満ちる。


「お前、今…何て言った?」

張り詰めた空気を破ったのは佐久間だった。ゆっくりと確認するような声は低くかすれている。その声のトーンも口調もガラリと変わり、佐久間の雰囲気が一変する。

《………!?》

俺は大きく息を飲む。佐久間の反応に胸を握り潰されたような気がした。込み上げてくる「何か」がある。

《もう、いくしかないだろ!》

再び、頭の中で声がする。既に考える余裕など無い。ただ、勢いに突き動かされる。


薄雲に隠れた月明かりに浮かび上がる佐久間の顔。驚きに見開かれた目が真っ直ぐに俺を捉えている。

俺は一気に詰め寄る。

「好き。ずっと好きだった。ずっと見てた。ずっと…、だけ…を…。」

勢いのままに口にした言葉は「偽り」だ。一気にまくし立てる声がかすれて喉が詰まる。胸の奥が苦しくなる。込み上げてくる「何か」に押し潰されて、最後は声にもならず口唇を噛みしめてギュッと目を閉じた。

《クソッ…!》

何をどうしたいのかも分からなくなる。

《俺は…お前をずっと見てきたんだ…!お前は気付かなくても俺は…ずっと…!》

形にならない「想い」がある。言葉に出来ない「感情」がある。だが、それが「何か」は分からない。

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