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後悔と絶望
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何も言わず、何も聞かず、弘人はずっと俺を抱きしめてくれた。
「弘人…、何で…ここに…?」
「剛、大丈夫か?立てるか?」
弘人が俺の手を引いて歩き始める。
「なんか、恋人同士…だな。」
少し照れたように弘人が言う。
手を繋いで公園を歩く…普段は出来ない事だ。嬉しいはずのその言葉が俺の胸を抉る。弘人に告げねばならない俺の決意…。
誰も居ない夜の公園、一番奥のベンチに腰かける。お互いの顔も余り見えない真っ暗な場所。弘人は、敢えて人目につかない場所を選んだらしい。
俺は覚悟を決めねばならない。だが、自然と口が重くなる。
「剛、あいつが…相澤か?」
弘人が先に口を開いた。
「え…?!何で…知ってるんだ…?」
俺の胸がざわつく。
「やっぱりな…。名前は知らないけど、顔は知ってる。あいつは、いつもお前を見てたからな。」
「え…?」
「剛、お前は自分がモテるって自覚が無いからな~。それがお前らしくていいけど。男にまでモテるとはね~。俺、心配だぞ。」
弘人が軽く笑う。
「え…?何、それ…?」
「ほら、やっぱり分かってない。だから前にも言ったろ~。お前、色気ありすぎ。それに…、格好良すぎだろ!」
最後は褒め言葉らしい。弘人の声は少し照れくさそうだ。それを誤魔化すようにヘヘッと笑う。
「え、え…?…そうなのか…?」
俺の胸がキュンとなる。他の奴等はどうでも良いが、弘人に格好良いと言われたのが嬉しくてならない。顔がカアッと熱くなる。真っ暗闇で良かった。顔を見られたら恥ずかしい。
そういえば…以前、弘人に同じ事を言われた。一日たりとも忘れた事はない大切なあの日…。俺が弘人を受け入れた日だ。
離れ離れになる前に、どうしても身体を繋げたかった。攻めでも受けでも良いと思った。弘人の身体に刻みつけたかった…俺の想い…。俺の身体に刻みつけたかった…弘人の全て…。
いつも不安だった。弘人を失う事を恐れていた。俺の独りよがりだ…。
離れ離れになってしまったら、弘人の心が他に向いてしまうのではないかと不安で仕方がなかった。弘人はノーマルな男だ。勿論、俺もノーマルだが、弘人以外は考えられない。それ以外は考える気にもならない。それぐらい惚れている。
だが、弘人が俺と同じとは限らない。俺と離れてしまったら…他の誰かと恋をするかもしれないのだ。今はウブな弘人でも普通の男なら女にも目が行く。俺は男だ。女には勝てない。その不安と焦りが俺を突き動かしてしまった。弘人の心が決まるまで待てなかったのだ。それでも、弘人は俺を受け入れて応えてくれた。凄く幸せだった。2人で一緒に幸せを感じられた。
それが、こんな形で崩れ去ってしまうのか…。今となっては、何もかもが強い後悔でしかない。
《俺は…なんてバカなんだ…》
胸が苦しい。言葉が出ない。ただ、黙って俯向いていた。
「あいつ…相澤が駅に居ただろ?顔覚えてたから気になってな…。それに、帰り道でお前も変な事、言ってたし…。あの時、お前の話ちゃんと聞いてれば良かった。…ごめん、剛。」
「何で?…何で、お前が謝るんだ?悪いのは、俺だ。………弘人、ごめん…。」
俺は、弘人が気付いていた事さえ知らなかった。いつも奴が俺を見ていたという事さえもだ。俺自身に対する怒りと言いようのない悔しさに、握りしめた拳が震える。
「何か妙に気になって、引き返したら…お前があいつと歩いて行くのが見えたんだ。……で、後を着けて来た。」
最後の方は少し申し訳なさそうな小さな声だった。
《何て事だ…クソッ!》
自分の愚かさが嫌になる。弘人が後を追って来た事も知らず、そんな事さえ考えもしなかったのだ。弘人の気持ちを思うと…自分を絞め殺したくなる。
その挙げ句、奴にキスされてこのざまだ。
《弘人を好きだと言いながら、俺は何をやってるんだ!?》
押し潰されそうな胸の痛み、沸き上がる自分への怒り、ギリッと歯を噛み締める。心臓が激しく唸り、全身の血液が逆流する。
《誰でもない…俺が弘人を傷付けた。俺は、弘人の傍に居る資格なんてない!》
強烈な自己嫌悪。そして、喪失感…。怒りは消え去り…弘人に対する罪悪感だけが残る。
「弘人…。お前、どこまで知ってる…?」
「ああ、話の内容までは聞こえなかったけど…。ほぼ、全部かな…?さすがに気が引けたけどな。何やってんだ俺…って思った。…ハハハ。」
笑ってみせる弘人の声、少し歯切れが悪い言葉。弘人がショックを受けたのは確かだ。
俺は言葉を失う。全部見られていたのだ。奴とキスしていた事もだ。一方的とは言え、舌まで入れられるほど油断した俺に弁解の余地は無い。弁解するつもりもない。どちらにせよキスした事に変わりはないのだ。
「すまない…。弘人…。」
それだけ言うのが精一杯だった。強い絶望感と喪失感が俺を襲う。ガクリと肩を落とし頭を抱え込む。
《弘人に伝えなければならない…》
頭の中が鉛のように重く思考が働かない。それでも必死に言葉を探す。
もうこれで終わりなのだと思った…。
「弘人…、何で…ここに…?」
「剛、大丈夫か?立てるか?」
弘人が俺の手を引いて歩き始める。
「なんか、恋人同士…だな。」
少し照れたように弘人が言う。
手を繋いで公園を歩く…普段は出来ない事だ。嬉しいはずのその言葉が俺の胸を抉る。弘人に告げねばならない俺の決意…。
誰も居ない夜の公園、一番奥のベンチに腰かける。お互いの顔も余り見えない真っ暗な場所。弘人は、敢えて人目につかない場所を選んだらしい。
俺は覚悟を決めねばならない。だが、自然と口が重くなる。
「剛、あいつが…相澤か?」
弘人が先に口を開いた。
「え…?!何で…知ってるんだ…?」
俺の胸がざわつく。
「やっぱりな…。名前は知らないけど、顔は知ってる。あいつは、いつもお前を見てたからな。」
「え…?」
「剛、お前は自分がモテるって自覚が無いからな~。それがお前らしくていいけど。男にまでモテるとはね~。俺、心配だぞ。」
弘人が軽く笑う。
「え…?何、それ…?」
「ほら、やっぱり分かってない。だから前にも言ったろ~。お前、色気ありすぎ。それに…、格好良すぎだろ!」
最後は褒め言葉らしい。弘人の声は少し照れくさそうだ。それを誤魔化すようにヘヘッと笑う。
「え、え…?…そうなのか…?」
俺の胸がキュンとなる。他の奴等はどうでも良いが、弘人に格好良いと言われたのが嬉しくてならない。顔がカアッと熱くなる。真っ暗闇で良かった。顔を見られたら恥ずかしい。
そういえば…以前、弘人に同じ事を言われた。一日たりとも忘れた事はない大切なあの日…。俺が弘人を受け入れた日だ。
離れ離れになる前に、どうしても身体を繋げたかった。攻めでも受けでも良いと思った。弘人の身体に刻みつけたかった…俺の想い…。俺の身体に刻みつけたかった…弘人の全て…。
いつも不安だった。弘人を失う事を恐れていた。俺の独りよがりだ…。
離れ離れになってしまったら、弘人の心が他に向いてしまうのではないかと不安で仕方がなかった。弘人はノーマルな男だ。勿論、俺もノーマルだが、弘人以外は考えられない。それ以外は考える気にもならない。それぐらい惚れている。
だが、弘人が俺と同じとは限らない。俺と離れてしまったら…他の誰かと恋をするかもしれないのだ。今はウブな弘人でも普通の男なら女にも目が行く。俺は男だ。女には勝てない。その不安と焦りが俺を突き動かしてしまった。弘人の心が決まるまで待てなかったのだ。それでも、弘人は俺を受け入れて応えてくれた。凄く幸せだった。2人で一緒に幸せを感じられた。
それが、こんな形で崩れ去ってしまうのか…。今となっては、何もかもが強い後悔でしかない。
《俺は…なんてバカなんだ…》
胸が苦しい。言葉が出ない。ただ、黙って俯向いていた。
「あいつ…相澤が駅に居ただろ?顔覚えてたから気になってな…。それに、帰り道でお前も変な事、言ってたし…。あの時、お前の話ちゃんと聞いてれば良かった。…ごめん、剛。」
「何で?…何で、お前が謝るんだ?悪いのは、俺だ。………弘人、ごめん…。」
俺は、弘人が気付いていた事さえ知らなかった。いつも奴が俺を見ていたという事さえもだ。俺自身に対する怒りと言いようのない悔しさに、握りしめた拳が震える。
「何か妙に気になって、引き返したら…お前があいつと歩いて行くのが見えたんだ。……で、後を着けて来た。」
最後の方は少し申し訳なさそうな小さな声だった。
《何て事だ…クソッ!》
自分の愚かさが嫌になる。弘人が後を追って来た事も知らず、そんな事さえ考えもしなかったのだ。弘人の気持ちを思うと…自分を絞め殺したくなる。
その挙げ句、奴にキスされてこのざまだ。
《弘人を好きだと言いながら、俺は何をやってるんだ!?》
押し潰されそうな胸の痛み、沸き上がる自分への怒り、ギリッと歯を噛み締める。心臓が激しく唸り、全身の血液が逆流する。
《誰でもない…俺が弘人を傷付けた。俺は、弘人の傍に居る資格なんてない!》
強烈な自己嫌悪。そして、喪失感…。怒りは消え去り…弘人に対する罪悪感だけが残る。
「弘人…。お前、どこまで知ってる…?」
「ああ、話の内容までは聞こえなかったけど…。ほぼ、全部かな…?さすがに気が引けたけどな。何やってんだ俺…って思った。…ハハハ。」
笑ってみせる弘人の声、少し歯切れが悪い言葉。弘人がショックを受けたのは確かだ。
俺は言葉を失う。全部見られていたのだ。奴とキスしていた事もだ。一方的とは言え、舌まで入れられるほど油断した俺に弁解の余地は無い。弁解するつもりもない。どちらにせよキスした事に変わりはないのだ。
「すまない…。弘人…。」
それだけ言うのが精一杯だった。強い絶望感と喪失感が俺を襲う。ガクリと肩を落とし頭を抱え込む。
《弘人に伝えなければならない…》
頭の中が鉛のように重く思考が働かない。それでも必死に言葉を探す。
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