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マントヒヒの刺青
しおりを挟む彼等には刻まれていたという。
おぞましい魔獣の刺青が…。
落ちぶれた芸人たちから、
縄の犬使いと、愛犬マント
―犬使いと愛犬―
ある小さな町に、「犬使いの男」が訪れた。
男は屈んだ。
「ここなら大丈夫そうだね」
そう言って、男は、愛犬のカラダをなでた。
男の隣には、彼の愛犬がいた。
愛犬の名は、「マント」
ふたつの耳をピンと立てた美しい顔立ちの「メス犬」
その首には、男とお揃いの首輪が輝いていた。
―マントとの出逢い―
男は、マントと共に生きてきた。
出逢った時は、お互いに好きでもなかった。
どちらも言うとおりに動かないから、よく喧嘩もした。
マントは、この男の指を噛み、男は、縄でマントを叩いた。
それ以降、マントは、男には逆らわなかった。
上下関係が出来たのだ。
男は、しっぽを垂らして悲しそうにするマントを 可哀想に思った。
だから、次は、マントに噛まれても耐えた。
痛みに耐えて、マントを怯えさせないように、思いを込めて抱きしめた。
それを何度も繰り返した。
思いは伝わった。
そこから、ふたりの関係は変わった。
男は、マントを連れて旅に出た。
金なしで、行く宛もない旅。
それでもマントがいれば、どんな苦難も乗り越えられた。
マントに教えた遊びの数々が、旅の助けとなったのだ。
「輪くぐり」に、「狩り」そして他にも。
狩りだけでは、旅の資金が足りない時は、男は、マントとの遊びの数々を 人前で披露した。
すると、どうぶつ好きや、見せ物好きな者たちが、ふたりの近くへと集まってきた。
マントは、他の馬鹿犬とは違う。
常にお利口で、時に猛犬だ。
だが、時には失敗もした。
―赤い傷―
その時は、つい、マントを縄で叩いた。
「お前のせいで、大事な獲物が逃げたじゃないか」
男は、マントを置いてきぼりにして、脚を引きずり歩くそれを仕留めた。
「狩りはこうするんだ、いいかい、ここを噛んで息の根を止めるんだ、よく見てろ」
この時の、男の表情は恐ろしい。
まるで、赤い悪魔のよう。
それでも、男が情緒不安定で悲しんでいると、マントが近付いてきて、その寂しさをペロペロと舐めとってくれた。
男が、マントへありがとうと言うと、
マントは、甘い声で鳴いた。
男は、マントへ願った。
「ずっとそばにいてくれよ」と。
マントは、男の泣きそうな顔をペロペロとなめてくれた。
マントは、優しかった。
―芸人と犬―
男とマントは、人だかりの向こう側にいた。
男がマントに指示を出すと、いつも通りに色鮮やかな輪をくぐったり、跳び跳ねたりした。
観客の拍手に男は、喜んだ。
その笑顔は、素敵だ。
マントも、その男の、笑顔が好きだったのか、しっぽを振り、芸を披露した。
男は幸せだった。
マントも幸せだったのかもしれない。
だから、首輪をつけられていても、それをアクセサリーのように輝かせて、逃げなかった。
―発見―
男が、マントと共に、町中を散歩をしていると、突然マントが、グルゥゥと威嚇するように鳴いた。
マント?
マントが威嚇した方へ眼をやると、誰かが立っていた。
見ると、それは、「分厚い本」を抱えた「黒いローブの男」
黒いローブの男は、男へと向かって歩いてきた。
その眼は、氷のよう。
男は、その冷たい眼にみつめられた。
何かを見透かしたような眼。
男は、眼を合わせずに訊いた。
「あなたは…」
黒いローブの男は、分厚い本を差し出して言った。
「旅を続けたいのであれば、素直にこれを読み解け、
その殺し道具を使って抵抗しても無駄だ、
私が返り討ちにする」
男は、戸惑いながらも、黒いローブの男から「分厚い本」を受け取ると、何かが挟まれていたページを開いた。
そこには、「マントヒヒの刺青」と、黒文字で書かれていた…。
そして、バツ印の付けられた地図のようなものに、男は、触れた。
男は、無言で自分たちから遠ざかっていく黒いローブの男の背中を見ていた。
睨んで見ていた。
―次の目的地―
男は、マントへ訊いた。
さて、どこへ向かって歩こうか?
マントは、自分の後ろ脚を使って、器用に顔をかいていた。
とりあえず、ここに向かって歩いてみる?
男は、分厚い本にはさまれていた地図の、バツ印を指差していた。
あの本が言うには、ここが僕たちの向かう場所なんだって。
でも、ここはどこなのだろう?
遠いのかな?
まぁ、いいか。
それじゃあ、出発するよ、マント。
「いつも通りに、僕の指示で」
男の笑顔に、マントは、
「ワン」と鳴いた。
この時、バツ印の場所へと向かう男には、声が聞こえていた。
【殺人鬼の犬使いよ、
落ちぶれた芸人たちを匿う大きな家へと向かうのだ、
そこは人間嫌いのお前には、お似合いの場所だ、
お前が笑顔になれる、
だが、気をつけろ、
お前たちが歩いてきた道には、殺人鬼を恨むものが多くいる、
愛犬を奪われたくなければ、後戻りはせずに進むのだ、
その利口な殺し道具と共に】
男は、マントと共に歩き始めた。
その男の背中には、
メスを服従させる獰猛な獅子ザル
「マントヒヒの刺青」が、
威嚇するように刻まれているという…。
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