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ワタボウシパンシェの刺青

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彼等には刻まれていたという。


おぞましい魔獣の刺青が…。


「ワタボウシパンシェの刺青」


心優しい両親


―わたげのような―


それは、やがて老いて白くなる、


わたしにとっての大切なそんざい、


はなれたくない、


忘れたくないそんざい、


―出会い―


とある国に、「働き者の男」がいた。


男は、親が遺してくれた二階建ての工場で丈夫な紙を作り、真面目に働いていた。


だが、小さな世界で育って、世間知らず。


たまに行く小料理屋で広い世界の事を聞くだけ。


そこで働く「彼女」は色々と教えてくれた。


たまに知ったかぶりで間違えたことも言うが、正しい答えを知らない限り、この男にとってはそれが答え。


男は、小料理屋に通って、彼女との会話を楽しんだ。


ただ、恋をして、意地悪されて、嫌いになろうとしたら愛していた。


ふたりは夫婦になった。


―恵まれたものたち―


夫婦は、子宝に恵まれて両親になった。


一人目、女の子。


二人目、男の子。


だいぶ遅れて三人目が生まれた。


三人ともヘンテコで役立たず。


それでも我が子は天使だった。


父親は、家族の為に必死になって働いて、母親は汚れたものを洗濯した。


愛情を込めて、間違わずに育てた…つもりでいた。


だが、違った。


子どもたちは、親の苦労も知らずに、ワガママに生きて、たくさんの人を困らせていた。


一人目の長女は、その美貌を武器にして男や女を泣かせ、


二人目の次男は、潔癖症で女心さえも片付け、


三人目の三男は、臆病者で、家に閉じ籠ってばかりだった。


やがて、長女と次男が、両親の家を出ていった。 


両親には何もかえせていない。


三男を置いて出ていった。


両親は、頭を抱えた。


三人の将来を心配した。


「天使なのに」と羽を拾って歩いていた。


―自立しない三男―


晴れでも曇りの日が続いた。


嵐の日は耳をふさいだ。


長女と次男が泣いて帰ってくる度、厄介事も土足(どそく)で入ってきた。


両親は、三人の子どもたちを匿(かくま)った。


三人の子どもたちが傷付かないように、大きな子どもたちの世話をした。


時々、悪い子どもたちでも、その甘えた顔だけは、あの頃のままだと、愛しく思えた。


けれど、長女と次男はずっとはいてくれなかった。


退屈になったら、両親と三男を置いて、家を出て行った。


「寂しかった」


両親は、また心配でいた。


自立が出来ているのかと、悩んでいた。


母親はいつまでも出ていかない三男に、「あなたもそろそろ自立しないとね」と言っていた。


けれど、家からは出ていかずに、いろいろと試してから、部屋で「他人の不幸」を黙々と書き続けるだけだった。


両親は、置いてきぼりの三男を大切に育てた。


だが、時が経つと、三男も「他人の不幸」が切れたからと、外へ出ていった。


三男も帰って来ない日が続いた。


あの子も一緒だと思った。


それでも両親が老いてから家へ連れてきた「運命の人」には驚きを隠せなかった。


両親は、ほんの少しだけ笑った。


幸せが、しばらく続いた。


けれど、不幸が永遠には続かないように、幸せも永遠には続かなかった。


三男が、「今までの罪」に気付いて、また部屋に閉じ籠ると、物語の終わりを書き始めた。


終わるまで、出てこなかった。


誰かが家のドアを叩いた。


長女と次男が帰ってきたと思った。


だが、違った。


家の外へ出てみると「黒いローブの男」が「分厚い本」を抱えて立っていた。


―両親へ―


両親は、黒いローブの男から話を聞かされた。


三人の「愚か者」が、人を傷付けて生きている、


だから彼等は、狩り取られる標的になる、と。


その三人の特徴は、「悪女」「潔癖症」「臆病者」で、まだ罪から逃げ続けている、と。


両親は、その三人が誰なのか分かっていた。


だから二人並んで、床に頭をつけて、土下座した。


「誰かにとっては悪魔な子でも、わたしたちにとっては天使、


罰ならわたしたちが代わりに受けます」と。


黒いローブの男は、分厚い本を開いた。


そこには「ワタボウシパンシェの刺青」と黒文字で書かれていた。


黒いローブの男は、そこに書かれている文章を読み上げた。


【心優しい両親よ、甘さと、優しさは違う、


老いて白くなる前に、伝えるのだ、

 
いつかは離れることを】


黒いローブの男は、そう言い残して去っていった。


―たんぽぽのような―


時が過ぎて、急に会えなくなった三男の事を心配したのか、「運命の人」が、静かな家へ帰ってきた。


そこには、たくさんのタンポポが、強く咲いていたという。


白い愛情で我が子を包み込む両親、


その老いた右手と左手には「ワタボウシパンシェの刺青」が、薄く刻まれているという…。

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