57 / 79
シロフクロウの刺青
しおりを挟む彼等には刻まれていたという。
おぞましい魔獣の刺青が…。
「シロフクロウの刺青」
氷像の母鳥
地吹雪が吹き荒れる、その町には、吹雪流れを恐れた女たちを隠すといわれる
「氷像の教会」が存在した。
夫と我が子を失った女たちは、そこで氷像となり、野蛮な男たちに、その身を穢されないよう、冷たい床へと正座し、胸を守り、祈りを捧げていた。
その光景は、残酷な芸術とも呼べるほどに、美しかった。
しばらくして、教会の扉が開かれた。
教会へ入ってきたのは、やはり、「黒いローブの男」だった。
黒いローブの男は、氷像たちを見下ろす「女神像」の足元で、「分厚い本」を開いた。
そこには、黒文字で、「シロフクロウの刺青」と書かれていた。
―生き残った女―
今回の標的はこの中にいた。
黒いローブの男は、幾つか存在する氷像の中から、銀髪の髪をした、美しい女の氷像を選び、「氷結牢」で、見てきたことを伝えた。
他の氷像は、その真実を知ったとしても動かなかったが、その女だけは違った。
人間のように深く悲しみ、その身を震わせ、白い頬に涙を伝わせた。
黒いローブの男は、その女に、分厚い本を差し出した。
そして、言った。
「氷結牢に囚われ、喰われたのは、夫らだけで」
「子どもは見ていない」と。
それは、「我が子」の生存をほのめかせる、この女にとっての、希望の言葉だった。
女は、黒いローブの男から、分厚い本を受け取ると、同じ悲しみを抱えた「ある女」の物語を読み解くように言われた。
女は、我が子に会いたい一心で、その物語を読み解いた。
そして、分厚い本を閉じ、呟いた。
「もう、奪われたくない」と。
―ワタシだけのかぞく―
悲しみから逃れ、我が子を捜し続けた女は、新しい人生を歩もうと考え、やがて、暖かい地で、「我が子」を見つけた。
女は、苦労して見つけた我が子を、誰にも奪われないように必死だった。
やがて、女は、「家」を見つけた。
家には「老夫婦」がふたり、幸せそうに暮らしていた。
…
羨ましかった。
女は、そこで、我が子と暮らした。
とてもわがままな我が子は、直ぐに自分の部屋から抜け出し、「みてはいけない部屋」をのぞいた。
だから、叱るつもりで、部屋に鍵をかけたが、窓の外へと泣き叫び、うるさかった。
だが、女は、我が子を愛していた。
―やがて、きづく日―
女が、食料でもある「うさぎ」を手にして、帰ってくると、部屋の中が荒らされていた。
女は、焦った。
「また、誘拐魔」が出たんだ、と。
女は、焦って辺りを見回した。
そして、誘拐魔が、この家から逃げられないようにと、玄関の扉にも、しっかりと鍵をかけた。
女が、鍵をかけると、家のどこからか、声が聞こえてきた。
【氷像の母鳥よ、己の幸福の為に、他人を悲しませて幸福か、
現実を見るがよい、
お前を見つめる眼は、あの愛しい我が子か、
きづくのだ、
そこにいる誘拐魔の存在に】
女は、絶叫をあげた。
やはり、誘拐魔が、「この中」にいた。
狙いは、「あの子」に違いない。
女は、うさぎを床に放置し、我が子のいる部屋へと急いだ。
そして、慌てた様子で鍵穴に鍵を挿し込み、我が子の名を叫びながら、扉を開いた。
我が子は、そこにいた。
無事だった。
ただ、化粧台の鏡が、割られていた。
誘拐魔の仕業に違いない。
女は、安堵の表情を浮かべて、我が子を抱きしめようとした。
だが、そこで終わりだった。
女は、自分の胸に突き刺さった、血のポタポタと垂れる、長い鏡の破片を見て、床へとゆっくりと膝をついた。
女は、力なく我が子に問い掛けた。
「なぜ…?」と。
やがて、「誘拐魔」は、死んだ。
女に、我が子と呼ばれ続けた子どもは、「我が子」ではなく、この女が誘拐した子どもだった。
他人の子どもを誘拐する事で、我が子を手にしようとした女、
その女の腕には、巣へと命を運ぶ「シロフクロウの刺青」が、羽を散らし刻まれているという…。
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
どぶさらいのロジック
ちみあくた
ミステリー
13年前の大地震で放射能に汚染されてしまった或る原子力発電所の第三建屋。
生物には致命的なその場所へ、犬型の多機能ロボットが迫っていく。
公的な大規模調査が行われる数日前、何故か、若きロボット工学の天才・三矢公平が招かれ、深夜の先行調査が行われたのだ。
現場に不慣れな三矢の為、原発古参の従業員・常田充が付き添う事となる。
世代も性格も大きく異なり、いがみ合いながら続く作業の果て、常田は公平が胸に秘める闇とロボットに託された計画を垣間見るのだが……
エブリスタ、小説家になろう、ノベルアップ+、にも投稿しております。
白い男1人、人間4人、ギタリスト5人
正君
ミステリー
20人くらいの男と女と人間が出てきます
女性向けってのに設定してるけど偏見無く読んでくれたら嬉しく思う。
小説家になろう、カクヨム、ギャレリアでも投稿しています。
【完結】シリアルキラーの話です。基本、この国に入ってこない情報ですから、、、
つじんし
ミステリー
僕は因が見える。
因果関係や因果応報の因だ。
そう、因だけ...
この力から逃れるために日本に来たが、やはりこの国の警察に目をつけられて金のために...
いや、正直に言うとあの日本人の女に利用され、世界中のシリアルキラーを相手にすることになってしまった...
140字小説〜ロスタイム〜
初瀬四季[ハツセシキ]
大衆娯楽
好評のうちに幕を閉じた750話の140字小説。
書籍化が待たれるもののいまだそれはなされず。
というわけで、書籍化目指して頑張ります。
『140字小説〜ロスタイム〜』
開幕‼︎
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる