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シロフクロウの刺青

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彼等には刻まれていたという。


おぞましい魔獣の刺青が…。


「シロフクロウの刺青」


氷像の母鳥


地吹雪が吹き荒れる、その町には、吹雪流れを恐れた女たちを隠すといわれる


「氷像の教会」が存在した。


夫と我が子を失った女たちは、そこで氷像となり、野蛮な男たちに、その身を穢されないよう、冷たい床へと正座し、胸を守り、祈りを捧げていた。


その光景は、残酷な芸術とも呼べるほどに、美しかった。


しばらくして、教会の扉が開かれた。


教会へ入ってきたのは、やはり、「黒いローブの男」だった。


黒いローブの男は、氷像たちを見下ろす「女神像」の足元で、「分厚い本」を開いた。


そこには、黒文字で、「シロフクロウの刺青」と書かれていた。



―生き残った女―


今回の標的はこの中にいた。


黒いローブの男は、幾つか存在する氷像の中から、銀髪の髪をした、美しい女の氷像を選び、「氷結牢」で、見てきたことを伝えた。


他の氷像は、その真実を知ったとしても動かなかったが、その女だけは違った。


人間のように深く悲しみ、その身を震わせ、白い頬に涙を伝わせた。


黒いローブの男は、その女に、分厚い本を差し出した。


そして、言った。


「氷結牢に囚われ、喰われたのは、夫らだけで」


「子どもは見ていない」と。


それは、「我が子」の生存をほのめかせる、この女にとっての、希望の言葉だった。


女は、黒いローブの男から、分厚い本を受け取ると、同じ悲しみを抱えた「ある女」の物語を読み解くように言われた。


女は、我が子に会いたい一心で、その物語を読み解いた。


そして、分厚い本を閉じ、呟いた。


「もう、奪われたくない」と。


―ワタシだけのかぞく―


悲しみから逃れ、我が子を捜し続けた女は、新しい人生を歩もうと考え、やがて、暖かい地で、「我が子」を見つけた。


女は、苦労して見つけた我が子を、誰にも奪われないように必死だった。


やがて、女は、「家」を見つけた。


家には「老夫婦」がふたり、幸せそうに暮らしていた。





羨ましかった。


女は、そこで、我が子と暮らした。


とてもわがままな我が子は、直ぐに自分の部屋から抜け出し、「みてはいけない部屋」をのぞいた。


だから、叱るつもりで、部屋に鍵をかけたが、窓の外へと泣き叫び、うるさかった。


だが、女は、我が子を愛していた。


―やがて、きづく日―


女が、食料でもある「うさぎ」を手にして、帰ってくると、部屋の中が荒らされていた。


女は、焦った。


「また、誘拐魔」が出たんだ、と。


女は、焦って辺りを見回した。


そして、誘拐魔が、この家から逃げられないようにと、玄関の扉にも、しっかりと鍵をかけた。


女が、鍵をかけると、家のどこからか、声が聞こえてきた。


【氷像の母鳥よ、己の幸福の為に、他人を悲しませて幸福か、


現実を見るがよい、


お前を見つめる眼は、あの愛しい我が子か、


きづくのだ、


そこにいる誘拐魔の存在に】


女は、絶叫をあげた。


やはり、誘拐魔が、「この中」にいた。


狙いは、「あの子」に違いない。


女は、うさぎを床に放置し、我が子のいる部屋へと急いだ。


そして、慌てた様子で鍵穴に鍵を挿し込み、我が子の名を叫びながら、扉を開いた。


我が子は、そこにいた。


無事だった。


ただ、化粧台の鏡が、割られていた。


誘拐魔の仕業に違いない。


女は、安堵の表情を浮かべて、我が子を抱きしめようとした。


だが、そこで終わりだった。


女は、自分の胸に突き刺さった、血のポタポタと垂れる、長い鏡の破片を見て、床へとゆっくりと膝をついた。


女は、力なく我が子に問い掛けた。


「なぜ…?」と。


やがて、「誘拐魔」は、死んだ。


女に、我が子と呼ばれ続けた子どもは、「我が子」ではなく、この女が誘拐した子どもだった。


他人の子どもを誘拐する事で、我が子を手にしようとした女、
 

その女の腕には、巣へと命を運ぶ「シロフクロウの刺青」が、羽を散らし刻まれているという…。
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