46 / 79
カモノハシの刺青
しおりを挟む彼等には刻まれていたという。おぞましい魔獣の刺青が…。
「カモノハシの刺青」
―草爪の男娼―
その男娼は、「草爪(クサヅメ)の男娼」と呼ばれていた。
理由は、草食男子の草と小型の鉤爪を武器に「客」を取るからだった。
どこの店にも属さない彼は、制限という縛りからかけ離れた存在。
だから、他の男娼たちよりは自由で、その行いは、非道だった。
男は、か弱そうな外見で、獲物の男を巣の中まで誘い込むと、
その獲物の息の根を愛用の「鉤爪」で止め、
金品を奪い、
その残骸を野良たちの餌にした。
この男にとって、自分以外の人間は、ただの「餌」でしかない。
男は、血の滴る鉤爪の血を綺麗に布で拭き取ると、鉤爪をベッドの下へと隠し、次の客を狩り取る為に、いつもの狩り場へと向かった。
―カモノハシ対ハイエナ―
男の狩り場でもあるその水辺は、
闇夜で男と男が戯れ、全身を濡らして、互いの低い鳴き声を聞かせ合う場所。
この男の狙いは、その中でも、性の対象がいない「あぶれた男」だった。
だが、今夜は、そんな男がなかなか見つからなかった。
男が、狩りを諦めて帰ろうとすると、「あの男」が、あぶれた男を演じて近付いてきた。
それは、雄の色気をまとった黒いローブの男だった。
男は、その黒いローブの男の冷たい眼と、その卑猥な人差し指に、下半身を刺激された。
だが、「狩り取るのは自分の方だ」と首を左右に振り、いつものように誘った。
「ふたつの巣穴を埋め合わないか」と。
男は、黒いローブの男を 巣の中まで誘い込むと、黒いローブの男をベッドへと押し倒し、馬乗りになり、自分の衣服を床へと脱ぎ捨てた。
いつもならば、ここで餌となる男の息の根を止めるが、今夜は違った。
「やれるが、殺れない」
男は、黒いローブの男の「雄」に完敗した。
逆に押し倒され、その全てを晒した。
これでは愛用の鉤爪にも手が届かない。
この男のふたつの眼には、黒いローブの男の姿だけが映り込み、他にはもう何も見えなくなっていた。
黒いローブの男は、そんな男の恍惚の表情に、弓矢を構え、矢の先端を首もとに向けて言った。
「快楽の時間はもう終わりだ」と。
―縛られた餌―
気が付くと男は、ベッドの上で大の字で寝かされ、きつく縄で縛り付けられていた。
黒いローブの男は、ベッドの上で恐怖に怯える男に言った。
「ある家族を狩り取る為には、生きた餌が必要だ、
命令に従わなければここでお前を殺す」と。
男に選択の余地は無かった。
黒いローブの男は、男の拘束を解くと、男に「分厚い本」を手渡し、あるページだけを読み解くように伝えた。
そこには「カモノハシの刺青」と黒文字で書かれていた。
男は、分厚い本に書かれていた通りに、黒いローブの男と共に「ある客船」に乗り込んだ。
そして、黒いローブの男の隣に腰掛けて訊いた。
それは、あの分厚い本に書かれていた自分以外の登場人物についての事だった。
彼等はいったい…、
黒いローブの男は、次の「標的たち」について語り始めた。
「次の標的たちは、お前と同様で生き餌を好む、だが、お前と違って金には興味がない」
「彼等が求めるものは、逃げ惑う玩具」
「泣き叫ぶ血」
「ふたつに割れたカラダ」
「その獲物が手放した大切なモノ」だ。
黒いローブの男は、そんな彼等のページを閉じると、
次の狩りに備えて眠った。
黒いローブの男の閉じたそのページ、
そこには、
「シャムネコの刺青」
「チスイコウモリの刺青」
「ディンゴの刺青」
「コモドオオトカゲの刺青」と黒文字で書かれていた。
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
【完結】シリアルキラーの話です。基本、この国に入ってこない情報ですから、、、
つじんし
ミステリー
僕は因が見える。
因果関係や因果応報の因だ。
そう、因だけ...
この力から逃れるために日本に来たが、やはりこの国の警察に目をつけられて金のために...
いや、正直に言うとあの日本人の女に利用され、世界中のシリアルキラーを相手にすることになってしまった...
死者からのロミオメール
青の雀
ミステリー
公爵令嬢ロアンヌには、昔から将来を言い交した幼馴染の婚約者ロバートがいたが、半年前に事故でなくなってしまった。悲しみに暮れるロアンヌを慰め、励ましたのが、同い年で学園の同級生でもある王太子殿下のリチャード
彼にも幼馴染の婚約者クリスティーヌがいるにも関わらず、何かとロアンヌの世話を焼きたがる困りもの
クリスティーヌは、ロアンヌとリチャードの仲を誤解し、やがて軋轢が生じる
ロアンヌを貶めるような発言や行動を繰り返し、次第にリチャードの心は離れていく
クリスティーヌが嫉妬に狂えば、狂うほど、今までクリスティーヌに向けてきた感情をロアンヌに注いでしまう結果となる
ロアンヌは、そんな二人の様子に心を痛めていると、なぜか死んだはずの婚約者からロミオメールが届きだす
さらに玉の輿を狙う男爵家の庶子が転校してくるなど、波乱の学園生活が幕開けする
タイトルはすぐ思い浮かんだけど、書けるかどうか不安でしかない
ミステリーぽいタイトルだけど、自信がないので、恋愛で書きます
彼女が愛した彼は
朝飛
ミステリー
美しく妖艶な妻の朱海(あけみ)と幸せな結婚生活を送るはずだった真也(しんや)だが、ある時を堺に朱海が精神を病んでしまい、苦痛に満ちた結婚生活へと変わってしまった。
朱海が病んでしまった理由は何なのか。真相に迫ろうとする度に謎が深まり、、、。
舞姫【中編】
友秋
ミステリー
天涯孤独の少女は、夜の歓楽街で二人の男に拾われた。
三人の運命を変えた過去の事故と事件。
そこには、三人を繋ぐ思いもかけない縁(えにし)が隠れていた。
剣崎星児
29歳。故郷を大火の家族も何もかもを失い、夜の街で強く生きてきた。
兵藤保
28歳。星児の幼馴染。同じく、実姉以外の家族を失った。明晰な頭脳を持って星児の抱く野望と復讐の計画をサポートしてきた。
津田みちる
20歳。両親を事故で亡くし孤児となり、夜の街を彷徨っていた16歳の時、星児と保に拾われた。ストリップダンサーとしてのデビューを控える。
桑名麗子
保の姉。星児の彼女で、ストリップ劇場香蘭の元ダンサー。みちるの師匠。
亀岡
みちるの両親が亡くなった事故の事を調べている刑事。
津田(郡司)武
星児と保が追う謎多き男。
切り札にするつもりで拾った少女は、彼らにとっての急所となる。
大人になった少女の背中には、羽根が生える。
与り知らないところで生まれた禍根の渦に三人は巻き込まれていく。
彼らの行く手に待つものは。
支配するなにか
結城時朗
ミステリー
ある日突然、乖離性同一性障害を併発した女性・麻衣
麻衣の性格の他に、凶悪な男がいた(カイ)と名乗る別人格。
アイドルグループに所属している麻衣は、仕事を休み始める。
不思議に思ったマネージャーの村尾宏太は気になり
麻衣の家に尋ねるが・・・
麻衣:とあるアイドルグループの代表とも言える人物。
突然、別の人格が支配しようとしてくる。
病名「解離性同一性障害」 わかっている性格は、
凶悪な男のみ。
西野:元国民的アイドルグループのメンバー。
麻衣とは、プライベートでも親しい仲。
麻衣の別人格をたまたま目撃する
村尾宏太:麻衣のマネージャー
麻衣の別人格である、凶悪な男:カイに
殺されてしまう。
治療に行こうと麻衣を病院へ送る最中だった
西田〇〇:村尾宏太殺害事件の捜査に当たる捜一の刑事。
犯人は、麻衣という所まで突き止めるが
確定的なものに出会わなく、頭を抱えて
いる。
カイ :麻衣の中にいる別人格の人
性別は男。一連の事件も全てカイによる犯行。
堀:麻衣の所属するアイドルグループの人気メンバー。
麻衣の様子に怪しさを感じ、事件へと首を突っ込んでいく・・・
※刑事の西田〇〇は、読者のあなたが演じている気分で読んで頂ければ幸いです。
どうしても浮かばなければ、下記を参照してください。
物語の登場人物のイメージ的なのは
麻衣=白石麻衣さん
西野=西野七瀬さん
村尾宏太=石黒英雄さん
西田〇〇=安田顕さん
管理官=緋田康人さん(半沢直樹で机バンバン叩く人)
名前の後ろに来るアルファベットの意味は以下の通りです。
M=モノローグ (心の声など)
N=ナレーション
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/horror.png?id=d742d2f035dd0b8efefe)
カフェ・シュガーパインの事件簿
山いい奈
ミステリー
大阪長居の住宅街に佇むカフェ・シュガーパイン。
個性豊かな兄姉弟が営むこのカフェには穏やかな時間が流れる。
だが兄姉弟それぞれの持ち前の好奇心やちょっとした特殊能力が、巻き込まれる事件を解決に導くのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる